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【完結済】ぼっちプレイヤーなわたしが最強な訳がないじゃないですか  作者: YY
第3章

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プロローグ 寝惚け娘

 皐月の退院前日、実家の掃除を行う日曜日。

 そして――夜宵とseiの決戦当日。

 穏やかな朝日が満ちる室内に、目覚まし時計の電子音が鳴り響く。

 いつもは鳴る前に止められるので、地味に珍しい。

 その音に反応した部屋の主は、のろのろとした動作で布団を引き剥がし、ゆっくりとベッドの上で身を起こした。

 ボケっとしており、どこからどう見ても寝惚けている。

 長い前髪が顔に掛かっているが、それでも尚、美貌は損なわれていない。

 最近NAOで頭角を現し始めたサムライ、夜宵こと天霧弥生。

 クエスト中の夜宵とは似ても似つかないものの、どちらも彼女の一面である。

 時計の秒針が1回転するほどの間、ベッドの上で微動だにしなかった弥生だが、ようやくしてゆっくりと床に足を付けた。

 そして覚束ない足取りで洗面所に向かい、冷たい水で顔を洗う。

 多少はマシになったようだが、未だにぼんやりとしていた。

 普段から朝が苦手ではあるものの、今日は輪を掛けて酷い。

 どうやら、昨夜遅くまでゲームをしていた影響が出ているようだ。

 それでも、なんとか動き出した弥生は、パジャマに手を掛けて着替えを始める。

 そのとき――コンコンと、扉がノックされた。

 寝惚け眼のまま視線を巡らせると、外から声が聞こえて来た。


「おはようございます、天霧さん。 起きていますか?」


 NAO最強と名高いジンであり、隣人でもある、神崎暁。

 彼の声を聞いた弥生はフラフラしながら玄関に赴き、扉を開いた――開いてしまった。


「おはようございます、神崎さん……。 ……どうかしましたか……?」


 覇気はないながらも、辛うじて淀みなく言葉を紡いだ弥生だが、暁から返事はなかった。

 それどころか、思い切り顔を背けて赤面している。

 どうしたのかと思った弥生が不思議そうにしていると、極寒の冷気を感じさせる声が突き刺さった。


「天霧さん」

「あ、一ノ瀬さん……。 おはようございます……」

「おはようございます。 ところで、その格好はどう言うつもりですか?」

「その格好……?」


 凄腕のガンマンであるスノウの正体、一ノ瀬白雪。

 落ち着きながらも、激情が込められた視線に貫かれた弥生は、自身の姿を視界に収める。

 やけに肌色が多く、ピンク色の小さな布を身に付けていた。

 この布は下着で、リボンが付いたお気に入りの可愛らしいデザインである――などと言う情報が、彼女の脳に届いた瞬間――


「……? ……!? ……!?!?!? し、失礼しました……!」


 グラデーションで混乱した弥生は、凄まじい勢いで扉を閉めた。

 扉の外では暁が盛大に嘆息し、白雪がジト目になっていたのだが、それどころではない。

 下着姿を見られて――厳密に言うと見せ付けて――涙目になり、蹲って震えている。

 しかし、完全に自業自得だと反省した弥生は、鋼の精神で立ち直り、急いで服を着た。

 そして、顔が赤くなっているのを自覚しながら深呼吸を繰り返し、意を決して扉を開ける。


「ほ、本当にすみませんでした……」

「いえ、お気になさらず」


 開口一番、謝罪した弥生に対して暁は、敢えて何でもないように言い返した。

 実際は彼にとっても衝撃的な出来事だったのだが、辛うじて表面に出すことは堪えている。

 白雪は文句が言いたくて仕方ないと思いつつ、暁の心意気に免じて黙っていた。

 そうして3人が協力して(?)、先ほどの1件を全力で忘我の彼方へ吹き飛ばすと、気を取り直した暁が口を開く。


「白雪が朝ご飯を作ってくれたんですけど、良ければ一緒にどうですか?」

「え、良いんですか……?」

「はい、勿論です。 白雪にも、そのつもりで用意してもらいましたから」


 そこで弥生が白雪に目を転じると、彼女は澄まし顔をキープしていた。

 だが、否定をしなかったと言うことは、暁の言った通りなのだろう。

 そう結論付けた弥生は、申し訳ないと思いつつも、受け入れることにした。


「でしたら……ご馳走になります」

「良かった。 では、俺の部屋で食べましょう。 白雪、よろしく頼むよ」

「かしこまりました、暁様」


 暁の部屋に招かれた弥生はテーブルに着き、ワクワクしながら待っていた。

 そんな彼女を暁が微笑ましく思っていると、白雪が人数分の朝食を運んで来る。

 メニューはトマトのベーコン巻き、スクランブルエッグ、コーンスープ、サラダ、ヨーグルト。

 暁たちにとっては大した献立ではないが、弥生にとっては豪華なラインナップ。

 目を輝かせている弥生に苦笑した暁は、率先して声を発する。


「じゃあ、食べましょうか。 頂きます」

「い、頂きます」

「頂きます」


 見た目にも美味しそうだった朝食だが、当然と言うべきか味も絶品で、弥生は感動している。

 その気持ちを白雪に伝えても、彼女の反応は冷たかったものの、ほんの微かに頬を朱に染めていた。

 暁は白雪の機嫌が良くなっていることを察し、こっそりと微笑んでいる。

 暫くして食事を終えた3人が、食後のコーヒーを楽しみながら、何ともなしにテレビを――これもいつの間にか設置されていた――観ていると、花見に関する特集が流れて来た。

 それを見た弥生はあることを思い付き、少し躊躇いながら言葉を紡ぐ。


「あの……い、一ノ瀬さんは、お花は好きですか?」

「別に、好きでも嫌いでもありません」

「そ、そうですか……。 今度、皆でお花見に行こうって話があるんですけど……良ければ、一緒にどうですか……?」

「……皆と言うのは?」

「えぇと……わたしと、わたしの知り合い2人と、神崎さんです」

「でしたら、参加させて頂きます」

「ほ、本当ですか? 有難うございます。 詳しい日程はまだ決まってないので、決まったら連絡しますね」

「わかりました」


 白雪の了承を得た弥生は、ホッと胸を撫で下ろした。

 彼女が参加するのは暁がいるからだと知っているが、それでも一緒に行けるのは嬉しい。

 梅子と武尊には事後承諾になってしまうが、なんとかなるだろう。

 2人のやり取りを聞いていた暁は、満足そうにしていた。

 まだまだ仲良しとは言えないものの、着実に関係は進んでいると言える。

 その後はこれと言って会話はなく、頃合いを見計らって弥生は切り上げることにした。


「それでは、そろそろ戻って準備して来ます。 ご馳走様でした」

「わかりました。 俺たちも用意しようか、白雪」

「はい、暁様」


 断りを入れた弥生は一礼し、部屋に帰る。

 そして、実家に持って行く皐月の荷物を纏め、他の準備にも取り掛かった。

 8時前には全てを完了させた弥生は、最終確認まで済ませたが、やはりファッションだけはどうしようもない。

 黒のトレーナーに、いつものデニムパンツ。

 今日は掃除が目的なので構わないとは言え、もう少し改善したいところである。

 1つ溜息をついた弥生は、頭を切り替えて部屋を出た。

 すると、既に暁と白雪が待っていたのだが、弥生は驚きを禁じ得ない。

 暁はグレーのパーカーに黒のジョガーパンツで、オシャレさと動き易さを兼ね備えている。

 いつもながら魅力的で見惚れそうだが、弥生が驚いたのは白雪の方だった。


「……何か?」


 弥生がジッと見ていることに気付いた白雪は、冷たい目を向ける。

 普段のメイド服――ではなく、スーツを完璧に着こなしており、どこぞの社長秘書のようだ。

 キャリーバッグを持っているのが気になるものの、非常に似合っている。

 そのことに弥生は驚愕していたのだが、慌てて声を発した。


「い、いいえ、何でもありません」

「まさかとは思いますが、街中をメイド服で歩くとでも思っていたのですか?」

「そ……そんなこと、ないですよ……?」

「まったく……。 そんな目立つ真似をする訳がないでしょう。 外出するときは、いつも着替えています」

「で、ですよね。 あはは……」


 完全に図星を指されて、引きつった笑みを浮かべる弥生に、鋭い眼差しを注ぐ白雪。

 誤魔化し切れないと思った弥生は、諦めて謝罪しようとしたが、その前に暁が口を挟んだ。


「天霧さん、そろそろ出発しませんか? 白雪も、行こう」

「あ……そ、そうですね」

「……かしこまりました」


 暁に救われた弥生は内心で安堵の息をつき、白雪は不服そうにしながらも従う。

 そうしてアパートを出たところで、弥生が2人に説明を始めた。


「お母さん……母の実家には電車に乗って行くので、まずはバスで最寄り駅に向かいます」

「なるほど、了解です」


 弥生の言葉に暁は返事したが、白雪は無視を決め込んでいる。

 機嫌を損ねてしまったかと弥生は落ち込みながら、バス停への道を歩み始めた。

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