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【完結済】ぼっちプレイヤーなわたしが最強な訳がないじゃないですか  作者: YY
第2章

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第19話 VSヘル・サイズ

 クリスタルを破壊すると同時に、大量にいたモンスターが虚空に溶けた。

 なんとか役目を果たしたことに安堵したScarletは、部屋を出て他のメンバーと合流する。

 全員特に問題なさそうで、再びホッとしたScarletだが、Gunちゃんに向かって謝罪した。


「すまねぇ、アニキ。 手間取っちまった」


 肩を落として意気消沈しているScarletを、Gunちゃんは無言で見やっていたが、おもむろに右手を持ち上げて――


「そうじゃねぇだろ」

「あだッ!?」


 容赦なくデコピンした。

 実際にダメージはないが、精神的にと言うか情緒的にと言うか、とにかくScarletは痛かったらしい。

 しかし、何が違うのかはわからず、額を手で押さえて困惑している。

 そんな彼の様子に溜息をついたGunちゃんは、言い聞かせるように言葉を紡ぐ。


「俺たちは何の為にパーティを組んでんだ? 共闘してんだ? 助け合う為じゃねぇのか?」

「それはそうだけどよ……」

「手分けしたのは、クリスタルを早く見付ける為だ。 破壊に手こずるのは当然なんだから、せめてもう1組と合流するまでは待つべきだろうが。 間に合ったから良かったものの、もう少しでクリーガァがやばかったんだぞ?」

「……悪かったよ」

「そこまでにしてくれないか、リーダー。 最終的にはわたしも同意しての決断だ、Scarletにだけ責任がある訳ではない。 すまなかった」

「クリーガァ……。 ったく、仕方ねぇな。 とにかく、夜宵ちゃんには礼を言っておけよ」

「な、なんで、あのサムライが出て来るんだよ?」

「なんでも何も、夜宵ちゃんがこの場所を突き止めてくれて、ジンたちにも連絡したんだよ。 そうじゃなきゃ、来るのはもっと遅くなってただろうぜ」

「あいつが……?」


 隅で小さくなって事の成り行きを見守っていた夜宵に、Scarletが驚きの目を向ける。

 急に矢面に立たされた彼女はビクッと肩を震わせたが、Scarletは構わず聞きたいことを聞いた。


「おい」

「は、はい」

「どうして、ここがわかった?」

「その……お城が揺れたときの、震源地を探りました。 正確な場所まではわかりませんでしたけど、おおよその位置は特定出来たので……」

「……マジかよ」


 夜宵が明かした事実を、Scarletは素直に信じられなかった。

 それでも、彼女が嘘を言っていないことはわかったので、信じられなくても受け入れるしかない。

 それゆえ、Gunちゃんの言う通り礼を言うべきだとは思ったのだが、やはり彼は素直じゃなかった。


「しょうがねぇから、今回だけは感謝してやる。 有難く思えよ」

「えぇと……有難うございます……?」


 腕を組んで、何故か居丈高に言い放つScarletに、夜宵は小首を傾げて返事する。

 2人のやり取りを見たジンは笑いを堪えており、スノウは頭痛を耐えるように溜息をついていた。

 だが、Gunちゃんはそれで済ませる訳には行かない。


「馬鹿かテメェは!?」

「痛ってぇ!? 何すんだよ、アニキ!」

「うるせぇ、もう黙ってろ! ホントすまねぇ、夜宵ちゃん! うちの馬鹿が迷惑掛けた!」

「い、いえ、大丈夫です。 そ、それより、そろそろ行きませんか? あまり時間を掛け過ぎるのも何ですし」

「……そうだな。 とにかくScarlet、次からはちゃんと応援を呼べよ?」

「わかったよ……」


 Gunちゃんはまだ何か言いたそうだったが、夜宵に免じて言葉を引っ込めた。

 なんとか場が落ち着いたことに胸を撫で下ろした夜宵は、ジンに向き直って尋ねる。


「ところで、上に続く階段と言うのは、どこに現れるんでしょう?」

「それなら大丈夫。 クリスタルと違って階段の場所は固定だから、迷わず案内出来るよ」

「それは助かります。 よろしくお願いしますね」

「あぁ、任せてくれ。 さて、行こうか」


 そうして態勢を整えた6人は、上の階に向かう。

 このとき、いつの間にか夜宵の近くに寄っていたクリーガァが、「助かった」とだけ告げていた。

 突然のことに夜宵は驚きつつ、クリーガァが決して悪い人物ではないことを察して、苦笑を浮かべる。

 2階に辿り着いたメンバーは同じ組に分かれ、その後は順調そのものだった。

 相変わらず強力な敵が多数出現したものの、彼らにとっては大した相手ではない。

 ちなみに、2階も3階もScarletたちがクリスタルを発見したのだが、指示通りに応援を呼んだ為、労することなく破壊に成功している。

 重ねて言うが、ここまでは順調に来れた。

 しかし、だからと言って浮かれている者は、1人たりともいない。

 何故なら、この先こそが本番であり、そこを突破しなければ、何の意味もないのだから。


「いよいよだな」


 屋上に続く螺旋階段を前にして、Gunちゃんが呟いた。

 実のところ、GunちゃんとScarlet、クリーガァの3人では、攻略出来るか怪しい難易度である。

 それゆえにジンたちの加勢は有難いのだが、だからと言って安心も出来ない。

 6人で挑むと言うことは、ボスのHPもそれに伴って高くなるからだ。

 だからこそ、Gunちゃんは緊張を強くしているのだが、ジンはむしろ楽しそうに言い放つ。


「これだけの人数でヘル・サイズとやるのは、初めてだ。 どんな戦いになるか、楽しみだね」

「……それもそうだな。 ここまで来たんだ、最後まで楽しもうぜ!」

「おうよ、アニキ!」

「わたしも、全力を尽くします」


 Gunちゃんの呼び掛けにScarletは猛り、夜宵は静かに闘志を昂らせる。

 スノウとクリーガァは無言だったが、準備万端のようだ。

 それを確認したジンが率先して階段に足を掛け、順に上って行く。

 間もなくして屋上に着いたが、巨大な城だけあって、足場はかなり広い。

 だが、柵などはないので、落ちたら恐らく戦闘不能になるだろう。

 空が近くなったからか、なんとなく更に不気味な雰囲気を感じた。

 すると、辺りに漂っていた瘴気が濃くなり、6人から離れた場所に渦巻きながら集まる。

 その瞬間、一気に全員が戦闘態勢に入り、まずはクリーガァがスキルを発動した。

 彼の足元を中心に薄緑の魔法陣が広がり、淡い光が仲間たちを優しく包む。

 【ディフュージョン・リジェネ】。

 180秒間、範囲内の味方に【リジェネレイト】の効果を付与する。

 クールタイムは360秒と長く、劇的な効果は期待出来ないが、それでも長時間継続回復してくれるのは心強い。

 尚、既に【リジェネレイト】を習得しているジンには、2重で効果が発揮される。

 そうして、クリーガァからの援護を受けると同時に、集まった瘴気が1体のモンスターとなった。

 ボロボロのフーデットローブを身に纏った骸骨で、瞳は赤く光っている。

 宙に浮いており、両手で巨大な鎌を握っていた。

 まさに死神と言った出で立ちで、夜宵たちを真っ直ぐに見据えている。

 そのまま数秒は動かずにいたが、ゆっくりと大鎌を後ろに引き――


「散れッ!」


 Gunちゃんが叫んだ。

 夜宵とジンはその前に動き出しており、他の者たちもすぐさまその場を離れる。

 直後、振り抜かれた大鎌から斬撃が飛ばされ、寸前まで6人がいた空間を薙ぎ払った。

 それが開戦の合図となり、屋上で激しいバトルが繰り広げられる。

 射撃系のアーツを持つジンとGunちゃん、スノウは、大鎌に埋め込まれた宝石に照準を合わせ、武器破壊を狙った。

 ジンの【ホーリー・ブラスト】とスノウの【ディメンション・ファイア】、更に――


「喰らいやがれッ!」


 『ブラックリベリオン』から8条の光線が射出されて、宝石に命中する。

 【ホーミング・レイ】。

 スナイパーにとって、単体に対しては最も火力が出せるアーツ。

 射程はさほどないが、標的を追尾する性能を持つので、命中精度も高い。

 3人によって大鎌の耐久力が削られ、煩わしそうにしたヘル・サイズが、ジンに魔力弾を乱れ撃つ。

 1発1発がかなりの威力で、仮に全弾ヒットしようものなら、ジンであっても危険かもしれない。

 しかし彼は、そのような状況こそ楽しむプレイヤーだ。


「受けて立つよ」


 大量の魔力弾を前にして、ジンはガードする――ことなく、剣先を向ける。

 そして間髪入れずに【ホーリー・ブラスト】を繰り出すと、その全てを撃墜した。

 常人離れした所業を目の当たりにして、攻撃を続けながらGunちゃんは、楽しそうに声を発する。


「流石だな」

「どうってことないさ」

「そうかよ」


 あっけらかんと返されて、Gunちゃんは苦笑を漏らした。

 ジンたちが大鎌を狙っている間、夜宵たちも遊んでいた訳ではない。

 ヘル・サイズが魔力弾を放つ為に動きを止めた隙を見逃さず、一直線に肉薄する。

 夜宵は【絶影瞬駆】で斬り込み、Scarletは【バスター・ナックル】で突進。

 互いに一撃を加えることは出来たが、そこにヘル・サイズが反撃に出た。

 その場で回転しながら大鎌を振り回し、2人を斬り裂こうとする。

 ところが、寸前で察知していた夜宵は、ヘル・サイズの顔の高さに跳躍することで躱し、顔面にカウンターの【双刃疾風】を放った。

 他方、Scarletはガードで耐え忍び、お返しの【カイザー・コンボ】を決める。

 それでもヘル・サイズの攻撃力は高く、Scarletは無視出来ないダメージを受けた。

 忌々しく思ったScarletだが、彼には頼れる仲間がいる。


「任せろ」


 ポツリと呟いたクリーガァが、即座に【シンプル・ヒール】を発動し、ScarletのHPをほぼ最大まで回復した。

 援護を受けたScarletは一瞬だけクリーガァを見やり、小さく鼻を鳴らす。

 まったくもって不遜な態度だが、クリーガァにはそれが照れ隠しだとわかっていた。

 ある意味で微笑ましいやり取りだが、ヘル・サイズにとっては関係ない。

 大鎌を振り被り、未だ空中に体がある夜宵に向かって、思い切り振り下ろす。

 避けようのないタイミングで、夜宵が被弾すると確信したScarletは、大きく舌打ちした。

 そのとき――


「はぁッ……!」


 【絶影瞬駆】を()()()発動し、カウンターで斬り裂きつつ、ヘル・サイズの背後に回る。

 加えて、空中に留まりながら【双刃疾風】を2連続発動。

 サムライは地上戦専門だと思われがちだが、プレイヤーの工夫次第では、対空戦も可能なのだ。

 そのことを思い知らされたScarletは、驚きながらも【カイザー・コンボ】を叩き込む。

 怒涛の勢いでダメージを受けたヘル・サイズは、その場から逃げるようにワープした。

 だが、その数――4体。

 四方に分裂したヘル・サイズは、初撃と同じ飛ぶ斬撃を、同時に繰り出す。

 ストーリーではなかった挙動だが、夜宵は落ち着いて回避し、Scarletは体を掠めながらも、クリーンヒットは許さない。

 そうしてピンチを切り抜けた2人だが、どれが本物かはわからなかった。

 だからこそ、勘で走り出そうとしたのだが、その前に冷ややかな声が響く。


「雑な戦いをしないで」


 冷たく言い放ったスノウが、【ダンシング・シューター】で舞い踊るように銃弾をばら撒き、4体全てに撃ち込んだ。

 それによって3体が消滅し、本物だけが残される。

 更に、分身が消えたことによる影響か、ヘル・サイズが苦しそうに動きを止めた。

 そのような隙を逃す訳もなく、ジンとGunちゃんがそれぞれのアーツで、大鎌の耐久力を削る。

 しかし破壊することは叶わず、立ち直ったヘル・サイズが大鎌の石突部分で、屋上を叩いた。

 初めて見る挙動に、警戒を露にする夜宵とスノウ。

 瞬間、屋上に多数の魔法陣が描かれ、天に向かって赤黒い炎が立ち昇る。

 あまりにも夥しい数で、スノウとScarletが躱し切れずに被弾した。

 ダメージもかなりのものだが、燃焼の状態異常まで付与されている。

 悔しそうに歯を食い縛る2人に、後方に待機していたクリーガァが呼び掛けた。


「そのままでは無理だ、一旦下がれ」


 Scarletは反論しようとしたが、クリーガァの無言の圧力によって、口を縫い付けられる。

 スノウも不甲斐なく思っていたが、大人しく後退した。

 2人が自分の元に帰って来たことを確認したクリーガァは小さく頷き、すぐさまスキルを連続で発動させる。

 青白い魔法陣と薄緑の魔法陣が展開され、スノウたちを包み込んだ。

 薄緑の魔法陣は【ヒーリング・サークル】で、アンジェリカも使用していたもの。

 そして青白い魔法陣は、範囲内の味方の状態異常とデバフを解除する、【オール・キュア】と言うヒーラー専用スキルで、クールタイムは120秒。

 【ヒーリング・サークル】と同等に、ヒーラーらしいスキルだと言えるかもしれない。

 回復してもらったスノウは目礼したが、Scarletは全く感謝の意を示さず、1秒でも速く前線に復帰しようとしていた。

 それは彼が血気盛んだからと言うだけではなく、夜宵のみに前線の負担を強いる訳には行かないと考えている。

 だが、そんな彼の思いを嘲笑うかのように、ワープしたヘル・サイズが夜宵の目の前で、大鎌をメチャクチャに振り乱した。

 その速度は途轍もなく、Scarletは夜宵に逃げるように言おうとしたが、彼女は逃げない。

 何故なら、この攻撃は――ストーリーで経験済みだ。


「ふッ……!」


 最早斬撃の嵐と呼べる空間に身を置きながら、夜宵は可能な限り躱し、回避が間に合わないときは刀で弾き返す。

 あまりにも現実離れした光景に、Scarletは唖然としていた。

 無理もない反応だが、スノウは良しとしない。


「寝惚けていないで、行くわよ」

「だ、誰が寝惚けてるって!?」

「貴方以外に誰がいるの。 違うと言うなら、行動しなさい」

「こんのッ……! 言われなくても行くっつーの!」


 弾かれたように駆け出すScarlet。

 そんな彼を見送りながら、スノウは自身の心も落ち着けようとしていた。

 表面には出さなかったが、彼女もかなりの衝撃を受けていたらしい。

 すると遂に、夜宵が最後の一撃を弾き上げ、ヘル・サイズが大きな隙を作る。

 待ってましたとばかりに、ジンとGunちゃんが大鎌を攻撃したが、あと少しと言うところでヘル・サイズが立ち直り――


「逃がさん」


 クリーガァによる【フラッシュ・クラッシュ】が炸裂。

 僅かにヘル・サイズがよろけた瞬間、ジンとGunちゃん、スノウが同時にアーツを発動し、とうとう大鎌を破壊した。

 苦しそうに胸を押さえたヘル・サイズは地上に降下し、体の前に弱点部位であるコアを曝け出す。

 それを見たGunちゃんが、威力が低いはずの【シャープ・ショット】を3発連続で命中させると、コアを赤い光が覆い尽くした。

 【ウィークポイント・クリエイト】。

 【シャープ・ショット】を連続で3発当てた部位の防御力を、20秒間30%減少させるスナイパー専用スキルで、クールタイムは60秒。

 使いどころは難しいが、ボス戦においてはかなり重要な役割を持つ。

 何にせよ、準備は整った。

 最大のチャンスを前にして、6人全員が全力を発揮する。


「ないよりはマシだろう」


 やや自嘲気味ながら、杖を掲げたクリーガァ。

 するとコアを爆発が襲い、ダメージを与えた。

 【マジック・ブレイク】。

 ヒーラー唯一の、攻撃特化アーツ。

 当然と言うべきか威力はさほどないが、何もしないよりはよほど良い。

 そこに今度は、獰猛な気配を撒き散らしながら、Scarletが突っ込む。


「ヒーラーが出しゃばってんじゃねぇよッ!」


 【極限突破】を発動してすぐに【バスター・ナックル】で突撃し、間髪入れずに【カイザー・コンボ】に繋げた。

 最大瞬間火力はマスターが最強だと言われているが、Scarletも相当なダメージを叩き出している。

 だが、この程度では終わらない。


「騒々しい人ね……」


 跳躍と【スカイ・ジャンプ】でコアの上を取ったスノウが、天地が逆さになった体勢で、真下に向かって【ミーティア・ビート】を乱れ撃った。

 これによって近接クラスが戦う場所を確保し、その心遣いを無為にする夜宵ではない。


「やぁッ……!」


 Scarletとコアを挟むように位置取り、【双刃疾風】の連打で斬り刻む。

 鬼気迫る勢いに、体面にいるScarletは気圧されそうだったが、対抗するように手足を動かし続けた。

 まるで競い合っているかのような2人だが、割って入る者がいる。


「夜宵さん、Scarlet、離れてくれ」


 ジンの声に応えて、夜宵は即座に距離を開けた。

 一方のScarletは不満そうだったが、渋々言う通りにする。

 2人が範囲外に出たと判断したジンは、『グランシャリオ』をコアに突き刺し――


「最高記録だ、70%」


 HPの70%を代償にした、【ディヴァイン・バースト】。

 とんでもない威力を目撃し、Scarletは瞠目した。

 しかしながら、それでもヘル・サイズのHPゲージは30%以上残っている。

 そしてダウン時間が終わり、ヘル・サイズが再稼働しようとしたが――


「させるかよ!」


 叫喚を上げたGunちゃんが、『ブラックリベリオン』から青い弾丸をコアに放った。

 それを受けても、ヘル・サイズにダメージは入らなかったが、完全に動きを止めている。

 【オブストラクション】。

 弱点部位に当てることで、敵を10秒間停止させる弾丸を撃つスナイパー専用スキルで、クールタイムは120秒。

 たった10秒と思われるかもしれないが、弱点部位を追加で10秒攻撃出来るのは、かなり大きい。

 そのことがわかっている夜宵たちは、一気呵成に攻勢を掛ける。

 そうして、ヘル・サイズの残りHPが10%を切ったが、やはり楽には勝たせてくれないようだ。

 復活したヘル・サイズが両手を天に掲げると、屋上全域を覆うほどの魔法陣が描かれる。

 初見の大技が来ると確信した夜宵とスノウは、緊張しながらも冷静に備え――落雷。

 上空から赤黒い雷が、間断なく降り注いだ。

 着弾する度に小爆発が起こり、それも計算に入れて避けなければならない。

 ジンは【ホワイト・ウィング】で安全圏に退避しつつ、【ホーリー・ブラスト】を撃つ。

 スノウは【ダンシング・シューター】と【スタイリッシュ・ドッヂ】を駆使して、被弾を最小限に抑えながら、可能な限りダメージを与えた。

 対する夜宵に出来ることはなく、とにかく回避に専念する。

 Scarletも、なんとか踏ん張っていたものの――


「ぐぉッ!?」


 ランダムで降って来る雷が、運悪くほぼ同時に近くに落ちた。

 躱すどころかガードも間に合わなかったScarletは、小爆発に吹き飛ばされる。

 それでもHPゲージは残り、辛うじて生き延びたが――


「……ッ!?」


 屋上から投げ出され、嫌な浮遊感が全身に走る。

 どうすることも出来ず、戦闘不能は間違いないかに思われた、そのとき――夜宵に腕を引っ張られた。

 何が起こったかわからないまま、Scarletは屋上に引き戻され、入れ替わるように彼女が屋上から落下する。

 信じられない思いを抱いたScarletは、絶叫を上げそうになり――


「まったく、相変わらずお人好しだね」

「す、すみません……」


 飛翔したジンが助けに入り、夜宵を抱き上げた。

 恥ずかしさのあまり顔を赤くする夜宵と、落雷を避けながら睨み付けるスノウ。

 しかし、それどころではないと考え直した2人は、戦闘に意識を集中しようとしたが、ジンはニヤリと笑って言い放つ。


「終わりだよ」

「え?」


 ジンの真意がわからなかった夜宵は、尋ねようとしたが――


「そう言うことだッ!」


 いつの間にか【キープ・ステルス】で姿を消していたGunちゃんが、強力な砲撃を放つ。

 アンジェリカとの試合で見せた、彼のユニークアーツだ。

 名称は、【バリィ・エミッション】。

 10秒間チャージすることで使用可能だが、発動後20秒間アーツとスキルを使えないデメリットがある。

 完全な死角から、クリーンヒットを受けたヘル・サイズは――


『オォォォォォォォォォォ……』


 怨嗟の声を上げながら、消滅する。

 その際の演出で光が天に昇り、暗雲を吹き散らした。

 あとには蒼空が広がり、辺りの瘴気も消え失せている。

 屋上にファンファーレが流れ、『Quest Clear』の文字が表示された。

 状況に置いて行かれていた夜宵は、ジンに抱かれたまま上空でポカンとしたが、ようやく意識が追い付いて口を開く。


「や、やりましたね」

「そうだね、お疲れ様」

「お、お疲れ様です。 その……そ、そろそろ、下ろしてもらえませんか?」

「ん? 俺はもう少し、このままでも良いけど?」

「か、からかわないで下さい。 も、戻りましょう」

「からかってないけど……しょうがないな」


 腕の中で小さくなっている夜宵に笑い掛けたジンは、屋上に着地した。

 そのことに安堵した夜宵は改めて礼を言ってから、自分の足で屋上に立ったが――


「……」


 無言で睨み付けて来る、スノウに出迎えられる。

 彼女も不可抗力だったことは理解しているが、納得出来るかは別問題。

 かなりの怒りを感じた夜宵は、反射的に頬を引きつらせた。

 どう言い訳したものか悩んだが、彼女が答えを出す前に事態は動く。


「おい!」

「え? は、はい」


 ガジェットなので表情はわからないが、複雑な感情が入り乱れたScarlet。

 夜宵は返事をしたが、彼から続きの言葉が出て来ない。

 そのことを夜宵は不思議に思ったが、意を決したかのようにScarletが声を発する。


「テメェ……なんで助けた?」

「なんでと言われましても……どうしてでしょう?」

「わたしに聞いてどうするのよ……」


 Scarletに問われた夜宵は、頭上に疑問符を浮かべながら、思わずスノウに助けを求めた。

 あまりの間抜けさに毒気を抜かれたスノウは、盛大に嘆息している。

 まるでコントのようだが、Scarletにとっては重要なことだ。


「おい、話を逸らしてんじゃねぇぞ! 理由を言え、理由を!」

「り、理由と言われましても……。 うぅん……敢えて言うなら、仲間だから……でしょうか?」

「仲間だと……?」

「は、はい。 一緒に戦ってる仲間なんですから、助けるのは当然だと思うんですけど……」


 困惑しながらも、自身の気持ちを伝える夜宵。

 それを聞いたGunちゃんは満足そうに頷き、ジンも微笑を浮かべている。

 しかし、Scarletは辛そうに俯き、絞り出すように言葉を紡いだ。


「……俺は、テメェのことを仲間だとは認めてなかった。 サムライなんか、足手纏いだとも言ったんだぞ?」

「そうですね。 でも、わたしにとっては仲間ですし、サムライを毛嫌いする人は多いですから、今更です」

「……悪かったよ」

「え?」

「これまでの態度とか発言とか、全部謝罪する。 ……すまねぇ」


 自身の非を認めたScarletは、深く頭を下げた。

 それを受けた夜宵はキョトンとしていたが、大慌てで言い募る。


「そ、そんな、謝らないで下さい。 わたしは気にしてませんから」

「そうは言ってもよ……」

「じ、じゃあ、こうしましょう。 また機会があれば、一緒に戦って下さい。 そうしてくれるなら、充分です」

「……本当に、そんなことで良いのか?」

「は、はい。 お願いします」

「……わかった。 そのときは、今度こそ仲間として戦わせてもらうぜ。 よろしくな、夜宵」

「良かった……。 こちらこそ、よろしくお願いしますね」


 そう言って手を差し出して来たScarletに、夜宵は優し気な笑みを浮かべながら応えた。

 彼女の笑みを見たScarletは、照れたようにそっぽを向いたが、夜宵は彼が自分の名前を初めて呼んでくれて、嬉しく思っている。

 Scarletの態度を面白がったGunちゃんは、内心でニヤニヤ笑っていた。

 それに比べてジンは、()()()()()機嫌を傾けている。

 こうして、「めでたしめでたし」と言った感じに落ち着いたのだが、肝心なことを忘れていた。


「そろそろ、ドロップアイテムを確認しないか?」

「おう、そうだな。 『リリース・オーブ』が落ちてくれてたら良いんだけどよ……」


 黙って状況を見守っていたクリーガァが、当然と言えば当然の提案をする。

 それを聞いたGunちゃんが追随し、誰からともなくアイテムを確認し始めた。

 暫く無言の時間が続いたが、やがてそれぞれが成果を述べる。


「こっちは駄目だね。 それなりに良いアイテムはあったけど」

「あー、俺もだ」

「チッ! 渋過ぎんだろ」

「そう言うゲームなのだから、仕方なかろう」


 ジン、Gunちゃん、Scarlet、クリーガァは、残念ながら入手出来なかったらしい。

 そうして、残りは夜宵とスノウになったのだが、やはり容易にドロップするアイテムではないようだ。


「ないですね……」

「わたしもよ」


 しょぼんと眉を落とす夜宵と、澄まし顔ながら無念そうなスノウ。

 しかしジンは、どことなく悪戯っぽく告げる。


「2人とも、プレゼントボックスを見てみなよ」

「プレゼントボックスですか?」

「ジン様……そう言うことですか」


 ジンの言葉に反応したスノウは、即座にウィンドウを開いた。

 それを見た夜宵も、何かに気付いて続く。

 プレゼントボックスとは、NAOにおけるアイテム獲得システムの1つだ。

 ここには運営からの配布アイテムや、何らかの条件を満たした際に、入手出来るアイテムが入っている。

 そして、今回の場合は――


「ありました……」

「有難うございます、ジン様」


 呆然と呟く夜宵と、丁寧に一礼するスノウ。

 2人のプレゼントボックスには、それぞれ『リリース・オーブ』が1つずつ入っていた。

 これは、今回のクエストの初回クリア報酬である。

 ジンは最初から知っていたのだが、敢えてここまで黙っていた。

 何はともあれ、目的を達成出来て安堵の息をついた夜宵に、Gunちゃんが少し意地悪に言い放つ。


「ま、2つ目以降は地獄だからな。 覚悟してる方が良いぜ」

「そ、そうですか……」


 何と言えば良いかわからず、夜宵は曖昧に答えた。

 これをもって此度の共闘は終わり、別れの時間がやって来る。


「じゃあ、今回はここまでだな。 楽しかったぜ」

「こちらこそ。 また機会があれば、よろしく頼むよ」


 Gunちゃんとジンが、力強く握手を交わす。

 2人は直接の面識はなかったが、今日で互いを身近に感じるようになった。

 夜宵が男の友情(?)を微笑ましく眺めていると、Scarletが微妙に恥ずかしそうに声を投げ掛ける。


「夜宵、またな」

「はい、Scarletさん。 お疲れ様でした」

「……次は、俺がテメェを守ってやるよ」

「有難うございます。 わたしも、Scarletさんの助けになれるように、頑張りますね」

「そう言うことじゃねぇんだが……まぁ、良いや」


 後頭部をガシガシかきながら、歩み去るScarlet。

 その背中を夜宵は小首を傾げて見つめていたが、ジンは微かに面白くなさそうで、そんな彼をGunちゃんは興味深そうに眺めていた。

 他方、スノウとクリーガァは――


「わたしたちも、握手しておくか?」

「結構よ」

「だろうな」


 と言う、極めてドライなやり取りをしている。

 挨拶が済むと、Gunちゃんたちは屋上に出現したポータル端末で姿を消し、夜宵たちもヒューマンタウンに戻った。

 夜宵は拠点に戻って来た安心感に包まれていたが、ジンは無感動に言い放つ。


「今日は、ここで解散にしようか」

「あ、はい。 2人とも、お付き合い有難うございました、お陰で潜在能力を解放出来ます」

「別に貴女の為じゃないわ。 わたしはジン様に、付き従ったまでのことよ」

「そう言われると思ってましたけど、やっぱりお礼は言わせて下さい。 有難うございました」

「……勝手にして」


 スノウに冷たくあしらわれても、夜宵は挫けない。

 そんな彼女から顔を背けたスノウは、やはり素っ気なく告げた。

 2人の関係はお世辞にも良いとは言い難いが、ジンは今後に期待出来ると思っている。

 胸中でこれからのことに思いを馳せたジンは、改めて解散の意を伝えた。


「それじゃあ、お疲れ様。 夜宵さんは、解放してからなんだろうけど」

「そうですね。 折角なので、このあと行って来ます」

「また装備を付け替えるのを忘れないように、気を付けなさい」

「う……思い出させないで下さい……。 で、では、お疲れ様でした」

「うん、またね」

「失礼するわ」


 そう言ってジンとスノウはログアウトし、夜宵だけが残された。

 すると彼女は踵を返し、鍛冶屋を目指す。

 しかし、何故か近くの端末にはアクセスせず、最も人が寄り付かない場所を選んだ。

 また下着姿になったときの予防線――ではない。

 『黒染の武道袴』を装備した夜宵は、『武神の葬衣』の潜在能力を解放し――


「……」


 無言で、()()1()()()アイテムを強化し始めた。

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