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【完結済】ぼっちプレイヤーなわたしが最強な訳がないじゃないですか  作者: YY
第2章

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第10話 ネーヴェ山脈

 ネーヴェ山脈は広く緩やかな山道が特徴で、大人数でも苦もなく歩けるが、その代わりにモンスターに遭遇する確率も高い。

 天候が変わり易く、吹雪のときは移動速度が30%落ちる上に、安全エリアに行かなければ、次第にHPが減少して戦闘不能になる。

 更に言うと、高所から落ちたら1発で戦闘不能になるので、注意が必要だ。

 山道の両端には、ところどころ地面から水晶が突き出ており、幻想的な雰囲気である。

 ダンジョンに入ったことでスイッチが入り、立ち直った夜宵だが、今は別の意味で大変な状況だった。

 具体的には――


「夜宵さんって、凄く強いですよね!」

「い、いえ、わたしはそれほどでもないです」

「またまた、謙遜しないで下さいよ! どうやったら、そんなに強くなれるんですか!?」

「えぇと……て、敵の動きを良く見て、どう対処するか素早く判断する……とかでしょうか」

「ふむふむ! あ、どんな服が好きとかありますか!?」

「い、いろいろありますけど、可愛い感じの服が好きです」

「可愛い服、良いですよね! わたしも大好きです! そうだ! 彼氏はいますか!?」

「え……!? い、いません……!」


 と言ったように、プラムから質問攻めに遭っていた。

 完全に圧倒されており、出来ればやめて欲しいが、元気いっぱいな彼女を憎くは思えない。

 そんな2人を後ろから眺めていたアンジェリカは、苦笑を浮かべて口を開く。


「すっかり懐いたようですわね」

「そうですね。 よほど気に入ったのでしょう」


 楽しそうなアンジェリカに対して、ネーレは呆れ果てた様子だ。

 しかしアンジェリカは、ネーレがジンに話し掛けたいと思いつつ、中々踏ん切りが付かないことを知っている。

 そのことにも苦笑したアンジェリカは、助け船を出すことにした。


「ジンさん、よろしければセイジの戦い方について、アドバイスを頂けませんか?」

「ん? セイジのことなら、俺よりキミの方が詳しいだろう?」

「それもそうですわね。 でしたらネーレさんに、フェンサーの戦い方を教えてあげてもらえませんか?」

「……ッ! ぜ、是非お願いします!」

「……まぁ、少しくらいなら良いけど」

「有難うございます!」


 落ち着いた印象のネーレが、思い切り頭を下げて懇願する。

 それを受けたジンは、アンジェリカの思惑に乗るのを癪に思いつつ、了承することにした。

 尚、ここに至るまでに自己紹介は済ませている。

 その過程で、ネーレがフェンサーでプラムはエンハンサーだと言うことが、明らかになった。

 背後のスノウから、厳しい眼差しが注がれているのを無視して、ジンは淡々と解説する。


「フェンサーは癖がなく、使い易いクラスだと言うのが、一般的な評価だと言うのは知ってる?」

「は、はい。 だからこそ、初心者のわたしは選びました」

「その判断は間違ってないけど、強くなりたいならそれだけじゃ足りない」

「と言いますと?」

「確かにフェンサーは初心者でも扱い易いけど、それはある程度までの話だ。 本当に使いこなそうと思うなら、他のクラスと同等に難しいよ」

「そうなんですか……。 たとえば、どう言ったところに注意すれば良いんでしょう?」

「まず、自分がソロとパーティどちらを重視するか、考えた方が良い。 それによって、スキル構成も変わって来るからね」

「それで言えば……わたしはパーティですね。 基本的には、ギルドメンバーと一緒にクエストに行くことが多いので」

「だったら、味方を守るタイプのスキルを優先すると良いかもね。 フェンサーはどちらかと言うとパーティ戦の適正が高いから、ちょうど良いんじゃないかな」

「なるほど、勉強になります。 やっぱり、ジンさんは凄いですね」

「別に大したことは言ってないよ」

「そんなことありません! ディピクトに上げてる動画も全部凄いですし、まさにNAO最強だと思います! 特にフォレスト・ドラゴン単独撃破の動画がお気に入り……で……」


 急激にテンションを上げたネーレを、流石のジンも驚いて見つめる。

 そのことに気付いたネーレは、徐々に声を小さくして、最終的に俯いてしまった。

 気まずい沈黙が落ちるかに思われたが、アンジェリカがクスクス笑って声を発する。


「相変わらず、ネーレさんはジンさんのことが好きなんですね」

「ア、アンジェリカさん!?」

「あ、でも、勘違いしないで下さいね? 彼女は異性として貴方を見ているのではなく、単純にプレイヤーとして尊敬しているのです。 ねぇ、ネーレさん?」

「うぅ……」


 自身の気持ちを暴露されたネーレは顔を赤くしながら、否定することはなかった。

 対するジンは何と言ったものか悩んだが、苦笑を浮かべて告げる。


「また動画を上げることもあるだろうから、楽しみにしてくれて良いよ」

「……! は、はい、楽しみにしています!」


 破顔したネーレをアンジェリカは優し気な笑みで見やり、ジンも悪い気はしていない。

 ただし、背後のスノウの反応は気になった。

 ところが、ジンが肩越しにスノウの様子を窺うと、何故か誇らしそうにしている。

 恐らくだが、ネーレが恋愛感情を持っているのではなく、純粋に尊敬していることに満足しているらしい。

 スノウの心情を察したジンが内心で苦笑していると、アンジェリカから問が投げられた。


「ところでジンさん、夜宵さんもスノウさん非常に可愛いですけど、どちらが本命なんですか?」


 面白がっていることを隠そうともせず、デリケートなことを聞くアンジェリカ。

 それを聞いた夜宵は前を向いたままビクッとし、スノウは一瞬だけ片眉を跳ね上げる。

 ネーレも興味津々と言った様子で、プラムは瞳を輝かせて振り向いていた。

 だが、当のジンは全く臆した様子もなく、平然と答える。


「夜宵さんはパートナーだし、スノウは仮にもメイドだからね。 2人とも大事な存在だよ」


 大事な存在だと言われた夜宵とスノウは、僅かに頬を朱に染めたが、彼の答えはアンジェリカが求めたものではない。

 だからこそ、彼女は更に言葉を続けようとしたが、その前にジンが口を開く。

 貼り付けたような笑みを湛えながら。


「皆は、読唇術って知ってるかな?」

「相手の唇の動きを読んで、会話の内容を把握する技術ですね」

「大体そう言うことだよ、スノウ。 実は俺、読唇術が使えるんだ」

「凄いですね、ジンさん。 そんなことも出来るんですか」

「やろうと思えば、夜宵さんにも出来そうだけどね」


 いきなり読唇術の話を始めたジンを不思議に思いつつ、取り敢えず聞いている女性陣。

 しかし、本題はこれからだ。


「アンジェリカ、Gunちゃんとの試合は惜しかったね」

「え? えぇ、まぁ、そうですわね」

「それにしても、2人は仲が悪いと思ってたけど、そうでもないのかな」

「……何の話ですか?」

「ほら、試合後に話してただろう? アンジェリカって、意外と……」


 そこまで聞いたアンジェリカは、凄まじい勢いでジンの手を取り、全速力でその場から離れた。

 夜宵たちが唖然としていたが、今のアンジェリカにそれを気にする余裕はない。

 必死な形相でジンを見ると、心底楽しそうに笑っている。

 彼が確信犯だと悟ったアンジェリカは、慌てて詰め寄った。


「も、もしかして、見えてたの!?」

「おや、今も取り繕えてないけど、大丈夫かな?」

「今もってことは、やっぱり見えてたんじゃない! あぁ、もう、最悪よ!」

「いや、最初は驚いたよ。 まさかあのアンジェリカが、あんな乱暴な言葉を……」

「あー! お願いだから、言わないで! あたしのイメージが壊れちゃう!」

「そんな大声出したら、皆に聞こえちゃうよ?」

「だって……!」


 尚も楽しそうなジンと、涙目なアンジェリカ。

 ひとしきり彼女をイジメて溜飲が下りたジンは、表情を改めて言い放つ。


「心配しなくても、言いふらすつもりはないよ。 そもそも証拠はないし」

「ほ、本当に……?」

「うん。 信じてくれなくても良いけど」

「良かった……」

「ただし」


 ジンの言葉に安堵したアンジェリカだが、まだ続きがあると知って、ビクリと身震いした。

 そんな彼女を見やったジンは、あくまでもにこやかに釘を刺す。


「場合によっては気が変わるかもしれないから、そのことは覚えておくように」

「……肝に銘じておくわ」

「それで良い。 ほら、そろそろ戻らないと怪しまれるよ?」

「そ……そうですわね」


 なんとか調子を取り戻したアンジェリカは、ジンとともに4人の元に帰った。

 3人は困惑した様子で、スノウは瞳を鋭くさせていたが、アンジェリカは全てを無視して言い放つ。


「お待たせしました。 先に進みましょう」

「えっと、それは良いんですけど……」

「大丈夫ですか……?」

「何がですか? ほら、のんびりし過ぎたら、他のプレイヤーが来てしまいますわ」


 心配そうなプラムとネーレをスルーして、前を歩くアンジェリカ。

 2人は思わず顔を見合わせたが、大人しくあとを付いて行く。

 夜宵も戸惑った様子でジンに視線を向けたが、微笑むだけで何も言わない。

 このことには触れてはいけないと判断した夜宵は、意識の外に追い出して、クエストに集中する。

 すると、それを見計らったかのように、山頂の方から多数のモンスターが飛んで来た。

 それを見た6人はそれまでの空気を一変させ、即座に戦闘態勢に入る。

 冷気を纏った鳥型のモンスター、アイス・バードが8体。

 そして、青く硬い鱗を持つモンスター、ブリザード・ワイバーンが1体。

 アイス・バードは討伐推奨レベル40なので、プラムとネーレでも太刀打ち出来るが、ブリザード・ワイバーンは討伐推奨レベル45の大型モンスターの為、少々荷が重い。

 そこまで考えたジンとアンジェリカは、アイコンタクトを取って指示を出す。


「夜宵さん、スノウ、俺たちでブリザード・ワイバーンを仕留めるよ」

「わかりました」

「かしこまりました、ジン様」

「プラムさん、ネーレさん、2人はアイス・バードを頼みますわ。 わたくしは、もしものときの為に備えておきます」

「りょーかいです!」

「全力を尽くします」


 力強く返事したプラムとネーレを見て夜宵は、レベリング中とは言え流石はトップクラスのギルドメンバーだと感心した。

 しかし、すぐに頭を切り替えて、自分の戦いに専念する。

 そうして6人は、一斉に駆け出した。

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