第8話 3人パーティ
部屋に戻った弥生は、片付けを終わらせてからNAOにログインした。
現実は夜だが、ゲーム内は真っ昼間。
すぐにフレンド欄を確認すると、既にジンがログインしていた。
それを確認した夜宵は、早速合流しようとしたが――
「集合場所を決めてませんでした……」
愕然と声を落とした夜宵は、どうしたものか悩んだが、問題はすぐに解決した。
ジンからのコンタクトが飛んで来た夜宵は、一瞬ビクッと肩を震わせながら、すぐに応答する。
「こ、こんばんは」
『こんばんは。 ごめん、落ち合う場所を決めてなかったね』
「いえ、わたしも聞き忘れてましたから。 それで、どこに行けば良いですか?」
『どこでも良いんだけど、落ち着いた場所の方が良いかもしれない。 だから、さっきの喫茶店とかどうかな?』
「わかりました、急いで行きます」
『ゆっくりで良いよ』
コンタクトを切った夜宵は足を踏み出そうとして、服装をどうするか迷う。
クエスト中ではないので好きな衣装にしようかと思ったが、初対面の人と会うのだから、正装(?)の方が良いと考え直した。
『キュートメイドドレス』を解除して武道袴に戻った夜宵は、改めて喫茶店に向かう。
ジンやseiがお忍びで使っていると言うだけあって、近付くにつれて周囲の音が消えて行った。
入口まで来た夜宵は、深呼吸してからドアを開く。
中には2人のプレイヤーがおり、1人は言うまでもなくジン。
先ほどと同じ席に座っていた彼は、夜宵を見た瞬間に笑顔で手を振った。
それに対して夜宵は微笑を浮かべながら、もう1人の人物に意識を向ける。
こちらに背を向けて座っている為、正確なことはわからないが、かなり小柄だ。
緊張しつつ夜宵は進み出て、少し悩んだ末にジンの隣に座って挨拶する。
「お、お待たせしました」
「全然待ってないよ。 ね?」
「はい、ジン様」
もう1人のプレイヤー、スノウと対面した夜宵は、いくつかの理由で驚いた。
1つは、非常に可愛らしいアバターだったこと。
幼い見た目にもかかわらず、落ち着いた雰囲気を感じる。
もう1つは、メイド服を着ていたこと。
今日はやけに縁があると思いつつ、口に出しては言わなかった。
更に、彼女が「ジン様」と発言したことにも、驚かされている。
一体どう言う関係なのかと、夜宵が困惑していた一方で、実はスノウも戸惑っていた。
それは何故かと言うと、夜宵の外見が弥生とそっくりだったからである。
こっそりと、意味ありげな視線をジンに送ったスノウだが、彼は素知らぬ顔をしていた。
そのことから、今は触れるべきではないと判断したスノウは、夜宵に目を転じて口を開く。
「ジン様にお仕えしている、メイドのスノウよ」
「ジンさんのメイド……?」
「えぇ」
敢えて言葉遣いを変えたスノウの宣言を受けた夜宵は、何とも言い難い表情でジンを見つめた。
暁と白雪のこともあり、主人とメイドと言う関係は、一般的なのかと疑ってすらいる。
夜宵の思考が、おかしな方向に転がろうとしていることを察したジンは、即座に用意していた言葉を発した。
「そう言うロールプレイみたいだよ。 スノウは、メイドを演じるのが好きなんだって」
「……そうなんですね。 でも、どうして相手がジンさんなんですか?」
夜宵にはロールプレイと言う感覚が理解出来なかったが、そう言う趣味もあるのだろうと納得した。
だが、自身が言った通り、どうして相手がジンなのかはわからない。
もっとも、その疑問はジンにとって、想定内のものだったが。
「彼女は、俺のリアフレなんだよ」
「リアフレ……つまり、現実の知り合いってことですか?」
「そうなるね。 要するに俺は、ロールプレイの相方を任されてるようなものかな」
「なるほどです……」
ジンの説明を聞いた夜宵は、様々なことが腑に落ちた。
特に、突然メンバーを増やしたことを疑問に思っていたが、そう言うことなら合点が行く。
リアルでの間柄が気になるものの、これに関して聞くのはタブー。
胸につっかえていたものが取れた気がした夜宵は、出来るだけフレンドリーに名乗り返した――のだが――
「挨拶が遅れてごめんなさい。 わたしは夜に宵闇の宵と書いて、夜宵と言います。 よろしくお願いします」
「……」
「えぇと……」
「……」
「あの……」
「……」
「わたし、何かしちゃいましたか……?」
「……」
無言で厳しい眼差しを突き刺して来るスノウを、夜宵はどうしたものか困り果てた。
思わず助けを求めるようにジンを振り仰ぐと、彼は溜息をつきながら一言だけ発する。
「スノウ」
「……申し訳ありません、ジン様。 よろしく、夜宵」
「は、はい、よろしくお願いします……」
「ただ、最初にはっきり言っておくけれど、わたしはジン様以外に礼を尽くすつもりはないから。 それだけは忘れないで」
「わ、わかりました……」
棘だらけなスノウに対して、夜宵は腰が引けている。
何が何だかわからずパニック寸前の夜宵と、澄まし顔のスノウ。
対照的な両者を前にジンは溜息を追加してから、話を進めることにした。
「さて、挨拶も済んだところで、何か行こうか」
「かしこまりました」
「は、はい……」
「どこか行きたいところとか、やりたいことはある?」
「ジン様と一緒なら何でも構いませんが、敢えて申し上げるなら、ダンジョンに行きたいです」
「わ、わたしもデイリークエストは終わってるので、どこかダンジョンに行きたいと思ってました」
「それなら、どこか適当なフィールドダンジョンにでも行ってみよう。 2人とも強いし、それなりに難易度が高い方が良いよね?」
「細かいことはお任せします」
「わたしも、場所は気にしません」
「良し、じゃあ行こう」
率先して席を立ったジンに遅れずスノウが立ち上がり、慌てて夜宵も続く。
ちなみに、彼らは何も注文していない訳だが、現実の店ではないので特に問題はない。
ジンをリーダーとして歪ながらパーティを組んだ3人は、ポータル端末に向かった。




