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【完結済】ぼっちプレイヤーなわたしが最強な訳がないじゃないですか  作者: YY
第1章

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21/112

最終話 パートナー

 ファッションコンテストが幕を閉じ、1時間くらいが経った。

 すっかり日が落ちたシティ内はイルミネーションで彩られ、遠くから楽し気な声が聞こえて来る。

 イベントブースエリアから、遊園地エリアに移動した夜宵たちは、休憩スポットである広場のベンチに座っていた。

 夏ファッションに戻したジンは余裕綽々と言った感じで、のんびりと缶コーヒーを飲んでいる。

 他方、春ファッションの私服コーデに着替えた夜宵は、疲労困憊な様子で項垂れていた。

 彼女の出番が終わったあと、興奮した観客たちをなんとか宥めた運営は、投票タイムに移った。

 ちなみに、この投票相手にジンは含まれていない。

 彼の場合、ネームバリューだけで多くの票を持って行きかねないので、ゲスト扱いとなったのだ。

 そのことにジンは文句を言うことなく――と言うよりは、自分からそう提案したらしい。

 空気を読んだのか面倒を嫌ったのか微妙なところだが、夜宵はどちらの要素も含まれていると思っている。

 そして彼女はなんと、3位入賞を果たした。

 他の参加者が様々な工夫を凝らしていた中、夜宵はほとんど()での入賞。

 誰よりも本人が驚いていたが、入賞者インタビューを受けた彼女はろくに答えることが出来ず、周囲の笑いを誘った。

 とは言え、そのことで更にファンを増やしたのだから、最早何でもありだろう。

 しかし、そこまでなら夜宵も、これほど消耗することはなかった。

 問題はそのあとで、コンテストが閉会してから参加者や観客たちが、互いに交流し始めたのだ。

 当然と言うべきか夜宵もその対象に入っており、数多くのプレイヤーから、一緒に写真を撮って欲しいとせがまれた。

 人の頼みを中々断れない彼女は結局全員の願いを聞き入れ、ようやく先ほど解放されて、今に至る。

 尚、ジンと撮りたいプレイヤーも多数いたが、彼の()()()笑顔を見て撃沈していた。

 何はともあれ、そう言った事情で疲れ果てている彼女に、ジンは軽い口調で言葉を投げる。


「大丈夫?」

「……そう見えますか?」

「見えないね」

「だったら、聞かないで下さい……」

「嫌なら断れば良かったのに」

「嫌じゃないんです……。 ただ、疲れただけで……」

「本当に、お人好しだな。 取り敢えず、これでも飲んでちょっと落ち着きなよ」

「頂きます……」


 ジンが差し出した、水の入ったペットボトルを受け取った夜宵は、1口飲んで大きく息をついた。

 疲れた体の隅々まで染み渡って行き、癒されるのを感じる。

 弱々しくも、ようやく笑みを見せた夜宵を見て、ジンも密かに安堵した。

 そのまましばしの時が流れたが、唐突にジンが口を開く。


「こう言うのは、もうこりごり?」

「え……? あ、いえ、確かに疲れましたけど……機会があれば、また来たいと思います」

「それを聞いて、安心したよ。 次こそは、優勝を目指そうね」

「わ、わたしは別に、そう言うのは……」

「わかってるよ。 でも、いろいろとコーデを考えるのは、楽しそうじゃない?」

「そうですね……。 他の人を見ていると、凄いなとは思いました」

「だよね。 俺も、流石にああ言う分野では敵わないな」


 コンテストの余韻に浸る2人は、静かながら楽しそうだ。

 すると、あることを思い出したジンが、夜宵に尋ねる。


「そう言えば、入賞記念のアイテムをもらってたよね。 何だったの?」

「えぇと、『桜イヤリング』です」

「へぇ、思ったより良い物をもらえたんだ。 早速付けてみたら?」

「そ、そうですね」


 いそいそとウィンドウを操作した夜宵は、アクセサリー欄に『桜イヤリング』を設定した。

 瞬間、彼女の両耳に桜をモチーフにしたイヤリングが付けられたのだが、自分からは見えない。

 そこでジンに目線を向けた夜宵は、恐る恐る感想を聞く。


「ど、どうですか……?」

「うん、良く似合ってる。 主張し過ぎず、地味過ぎず、ちょうど良いバランスだね」

「そ、そうですか、有難うございます……」


 一切恥ずかしがることなく、賛辞を送って来るジンを直視出来ず、夜宵は顔を真っ赤にして俯いた。

 そんな彼女を見て、調子が戻って来たことを悟ったジンは、保留にしていた提案をすることに決める。


「夜宵さん、俺とも一緒に撮らない?」

「え? わたしは良いですけど……ジンさんは、写真が嫌いではないんですか?」

「別に嫌いじゃないよ。 ただ、あんな人数の相手は面倒だから、最初から断ってただけ」

「そ、そうでしたか……。 じゃあ、折角ですし撮りましょう。 場所はどうしますか?」

「そこに噴水があるから、それをバックにすれば良いんじゃない?」

「良いですね、そうしましょう」


 ベンチから立ち上がった2人は、広場中央に位置する噴水に向かった。

 周囲には他のプレイヤーもいるので、出来るだけ邪魔にならない場所を探す。

 そうして位置を確認した夜宵たちは、ポーズを決めて写真を撮り始めた。

 夜宵は控えめながら、コンテストでかなり慣れたようで、自然なポーズを取っている。

 ジンも無難なものを選びつつ、充分に彼の魅力を引き出していた。

 春ファッションと夏ファッションと言う組み合わせだが、意外と違和感は小さい。

 ジンは数枚撮ったらすぐに終わった一方、妥協を知らない夜宵は何度も撮り直して、ようやく満足の行くものが撮れた。

 ホクホク顔で夜宵が写真を眺めていると、ジンから思わぬ言葉が飛び出す。


「今の写真なんだけど、ディピクトに載せて良い?」


 ディピクトとは、SNSの1種だ。


「構いませんけど……ジンさん、ディピクトしてたんですね」

「まぁ、主に情報収集用としてね。 こうやって、写真を載せるのは初めてだよ。 夜宵さんは?」

「わたしはやってません。 何を目的に使えば良いのか、わからなかったので……」

「じゃあ、アカウント作りなよ。 使い方は教えるから。 夜宵さんの写真なら、きっと人気が出るよ」


 ジンは100%善意からそう言ったのだが、夜宵は困ったように眉を落とすと、ゆっくり首を横に振った。


「やめておきます」

「ん? どうして?」

「SNSって、誹謗中傷も多いって聞きますから。 もし批判的なコメントが来たら、わたしはきっと酷く落ち込みます」

「確かにそう言う奴はいるけど、そんなの無視すれば良いんだよ」

「ジンさんならそう出来るかもしれませんけど、わたしには無理です。 だから、ごめんなさい」


 自分の性格を良く知っている夜宵は、丁寧に頭を下げながら、はっきりと拒否の意を示した。

 それを感じたジンは、これ以上強く言う訳には行かないと思いつつ、まだ完全に諦めてはいない。


「じゃあ、情報収集の為にだけ使えば良いんじゃない? NAOの公式アカウントをフォローしておけば、最新情報が手に入るし、他にも便利なアカウントはいくつかあるから」

「……そうですね、それくらいなら良いかもしれません」

「良し、決まりだね。 じゃあ、早速アカウントを作ろう」

「え? ゲーム内から作れるんですか?」

「いや、見るだけならゲーム内からでも出来るけど、最初にアカウントを作るときは現実でやらないと駄目だね」

「ふむふむ、なるほどです」

「取り敢えず俺のアカウントを教えておくから、写真に撮っておいて、あとでフォローして欲しい。 そうしたらメッセージのやり取りが出来るから、使い方を教えるよ。 あ、先に注意しておくと、アカウントを作るときは、くれぐれも身バレしないように気を付けて」

「はい、わかりました」

「じゃあ、ちょっと待ってね」


 そう言ってウィンドウを開いたジンは、連携させているディピクトの画面を表示させた。

 夜宵が興味深そうに見ていると、彼女の前にウィンドウを移動させる。

 アカウント名がしっかり写るように気を付けながら、写真を撮った夜宵は改めて画面を見つめた――が――


「随分とフォロワーさんが多いですね……」

「今のところ唯一のVRMMORPGで、プレイヤー数が凄いからかな。 俺は写真を載せたことはないけど、プレイ動画とかはたまに撮ってるし」

「ジンさんのプレイ動画なら、観たい人は多いでしょうね」


 ジンのアカウントである「ジン@NAO」のフォロワー数は、なんと1万人を超えていた。

 世間的に見れば飛び抜けている訳ではないかもしれないが、ゲームプレイヤーのアカウントとしては、かなり多い方だろう。

 夜宵はそのことに驚くと同時に、なんとなく納得もしていたが、彼がフォローしているアカウント数が極端に少ないことに気付いた。

 恐らく、本当に有用なアカウントのみを、フォローしているのだろう。

 そのことに少しばかり呆れながら、ジンらしいと思って苦笑した。

 そしてウィンドウをジンの方に戻そうと、彼に顔を向けたのだが――


「ジンさん……?」


 いつの間にか真剣な表情になっていたジンを見て、夜宵は戸惑いの声を漏らす。

 しかし、ジンはそれに答えず、躊躇いがちに言葉を紡いだ。


「夜宵さん、本当に俺がパートナーで良いの?」

「え……?」

「ずっと聞くべきか悩んでたけど……もしかしたら俺に気を遣っているだけで、本当はseiの方が良いのかなって」

「ジンさん……」

「もしそうなら、ちゃんと言って欲しい。 俺はキミを困らせてまで、自分のわがままを通す気はないんだ」


 先ほどまでの楽しそうな姿からは想像出来ない、緊張した様子のジンを前にして、夜宵はどう言ったものか迷った。

 だが、それでも、答えは決まっている。

 ジンに背を向けた夜宵は、そのままの体勢で告げた。


「わたし、今からちょっとダンジョンに行きたいんです」

「ダンジョン……?」

「コンテストは楽しかったですけど、やっぱり戦闘も好きなので」

「……それで?」


 夜宵の意図が理解出来ないジンは、怪訝そうに問い返した。

 それを聞いた夜宵は、クスッと小さく笑うと振り返り――


「パートナーとして、付き合ってくれますか?」


 優し気な笑みを浮かべて、尋ねる。

 その笑顔は可憐で美しく、ジンは思わず目を見開いた。

 そんな彼の反応を見て、これまで散々悪戯された夜宵は、僅かに溜飲が下がる思いである。

 多くは語らなかったが、彼女の思いを知ったジンはホッと息をつき、次いでニヤリとした笑みで答えた。


「どこへなりとも、お供しますよ。 お姫様」

「い、今はドレス姿じゃありません」

「じゃあドレスのときは、お姫様扱いして良いんだ?」

「そ、そう言う意味では……。 と、とにかく行きますよ」

「はいはい」


 一瞬にして逆転した2人は、並んで歩き出した。

 恥ずかしそうな夜宵と、喜びを隠し切れないジン。

 彼女たちの関係はまだ始まったばかりで、これからも様々な出来事が待ち受けているのだろう。

 それは楽しいことばかりではないのかもしれないが、悪いことばかりでもないはずだ。

 その後、夜宵たちは現実時間で日付けが変わる頃まで、ダンジョンに潜り続け――パートナーとして、時間を共有した。











 そこは、とあるマンションの1室。

 高級とまでは言わないが、それなりの収入がないと住めない程度には、しっかりとしている。

 夜であることに加えて照明を抑えている為、どことなくバーのような雰囲気があった。

 調度品は少ないが安物ではなく、拘っているように感じる。

 その中の1つであるソファに腰掛けた男性が、ロックグラスを片手にウイスキーを飲んでいた。

 いわゆるビジネスヘアーとスタイリッシュなメガネから、理知的で清潔感のある人物と言う印象を受ける。

 身長はそれなりに高そうだが、線は細く瘦せ型。

 アルコールが回っているのか少し顔が赤いものの、メガネの奥の瞳は鋭い。

 この男性の名前は、桐生誠志郎きりゅうせいしろう

 NAOにおいてジンに比肩し得るプレイヤー、seiのリアルでの姿だ。

 それと同時に彼は――NAOを運営する立場にもある。

 株式会社アヴニール所属のゲームデザイナーで、24歳と言う若さながら能力を買われ、プロジェクトに抜擢された。

 そして彼が、主に担当していたのは――


「夜宵さん……僕のサムライをあそこまで使いこなすとは……本当に素晴らしい人だ」


 誰にともなく呟いた誠志郎は、ウイスキーを口に含む。

 僕のサムライ。

 この言葉からわかるように、サムライと言うクラスをデザインしたのは、何を隠そう誠志郎だ。

 更に言うと、自身が使っているマスターも、彼のデザインである。

 それだけが仕事ではないが、誠志郎にとってクラスのデザインは、かなり思い入れがあった。

 しかし実際には、サムライを使っているプレイヤーはほとんどおらず、不遇クラスの烙印を押されている。

 マスターはそもそも、クラスチェンジするのが大変なこともあって、単純に数が少ない。

 そう言った状況を誠志郎は常々不満に思っており、その反発から最強クラスと謳われている、セイヴァーを目の敵にしていた。

 彼から見ればセイヴァーの強さは圧倒的な耐久力によるもので、誰が使っても強いと言う点では、ゲームとしての楽しさがないと思っている。

 ジンの強さは認めているが、セイヴァーと言うクラスのコンセプト自体は、今も嫌いなままだ。

 それに対してサムライやマスターは、プレイヤーの力量に大きく依存するものの、使いこなせれば間違いなく強い。

 だからこそ、使っていて楽しいのはこちらだろうと、誠志郎は考えている。

 それは彼のエゴかもしれないが、完全に否定することは出来ない。

 とは言え、大事なのはやはりプレイヤーの意見なので、誠志郎は悔しく思いつつも、批判を受け入れざるを得なかった。

 そんな彼の前に現れたのが、夜宵である。

 彼女は誠志郎が思い描いた通り――いや、それ以上にサムライの力を引き出していた。

 そのことに彼は感動し、夜宵の存在がサムライの置かれている状況を、変えてくれるかもしれないと期待している。

 当初はそう言った打算のみで彼女に近付いた誠志郎だが、実際に接したことで、別の感情も芽生えつつあった。

 夜宵との触れ合いを思い出した誠志郎は、アルコールとは別の理由で頬を赤らめ、誤魔化すようにウイスキーを飲み干す。

 そして、空になったグラスをテーブルに置くと――


「僕が彼女を、サムライの象徴として押し上げて見せる」


 強い光を瞳に宿して、宣言した。

 それに答える者はなく、夜が更けて行った。

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