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【完結済】ぼっちプレイヤーなわたしが最強な訳がないじゃないですか  作者: YY
第1章

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第18話 初めての――

 エマージェンシークエストをクリアした夜宵たちは、コロシアムに帰って来た。

 周りにはほとんど人がおらず、まだクエスト中なのだろう。

 かなりの激戦だったが、結果だけ見れば3人は、相当な速さでクリアした。

 戦闘モードから平常運転に戻った夜宵は、大きく息を吐き出し、改めて2人に労いの言葉を送る。


「ジンさん、seiさん、お疲れ様でした」

「夜宵さんも、お疲れ様」

「お疲れ様でした。 いろいろと迷惑を掛けて、すみません……」

「き、気にしないで下さい、わたしは楽しかったですよ。 それより、ドロップアイテムを確認しましょう」

「……はい」

「そうだね」


 失敗を繰り返したと思ったseiは少し元気がなかったが、夜宵に微笑み掛けられて、多少なりとも立ち直ったようだ。

 ジンは余計なことを言わずに、サッサと夜宵の言葉に同意してウィンドウを開く。

 彼に続くように夜宵とseiも、成果を確認した。


「やっぱり、そう簡単に良い物は出ないね」

「あぁ。 そう言うゲームなのだから、当然と言えば当然だが」

「本当ですね。 わたしもこれと言って、目ぼしい物は……」


 そこで、夜宵の声が途切れる。

 いや、体全体が止まっているようだった。

 不思議に思ったジンとseiが思わず顔を見合わせると、ようやくして復活を遂げた夜宵が、震える口を開く。


「こ、これ……見て下さい……」

「ん? どれどれ」

「何かありましたか?」


 ウィンドウを指差す夜宵の背後から2人が覗き込むと、そこにはドロップアイテム一覧が載っており――


「おや……」

「『妖精王の加護』……。 Sランク胴防具ですね、おめでとうございます」

「あ……有難うございます、凄く嬉しいです」


 ジンは驚いたように声を落とし、seiは素直に祝福した。

 夜宵は半ば呆然としていたが、段々と喜びが勝って来たらしい。

 seiの言う通り、『妖精王の加護』はSランク胴防具であり、潜在能力は最大HPの30%以下のダメージを無効化する。

 かなりの耐久力を誇るが、1度効果が発動したらクールタイムが30秒あるので、連続攻撃には弱い。

 それでも、現時点では最強防具の一角なので、欲しいプレイヤーは山ほどいるだろう。

 夜宵も感激していたが、そこにジンが言い辛そうに声を発した。


「あの、夜宵さん」

「あ、はい、何でしょう?」

「その防具の説明欄、ちゃんと読んだ?」

「説明欄ですか? 特に変わったことは何も……」


 言いかけて、夜宵は気付いた。

 説明欄の隅に、『エルフ専用』と書かれていることに。

 天国から地獄に突き落とされた気分の夜宵は、どんよりとしたオーラを背負ったが、seiが優しく語り掛けた。


「元気を出して下さい。 確かに装備は出来ませんけど、売れば多額のアルムになりますし、トレード材料として置いておくことも出来ます。 決して無駄ではないですよ」

「……そうですよね。 きっと何かの役に立つとは思うので、大事に持っておきます。 有難うございます」

「いえ、礼を言われるほどのことでは……」


 夜宵の微笑を見たseiは、気恥ずかしそうに視線を逸らしたが、そちらにはニヤニヤしたジンがいた。

 急激に不愉快になったseiが文句を言おうとすると、その前にジンが意地悪そうに尋ねる。


「それで? 結局勝負の結果はどうなったの?」

「……! それは……」


 ジンの問に対して、seiは口ごもった。

 素直に負けを認めることはしたくないが、今回はいろいろミスをしたのも事実。

 だからこそ彼は、どう話をまとめるか迷っていたのだが、苦笑を浮かべた夜宵が仲裁する。


「もう良いじゃないですか、そんなことは。 わたしは楽しかったですし、また一緒に遊びたいと思います。 ジンさんは違いますか?」

「まぁ……確かに、中々刺激的な戦いだったとは思うよ」

「ですよね。 seiさんはどうですか?」

「……僕としても、良い経験になったと思います」

「そう言ってもらえると嬉しいです。 じゃあこれからも、機会があれば遊びましょう」


 夜宵の提案に対して、ジンもseiも返事をしなかったが、ノーとも言わなかった。

 彼らが打ち解けるには、まだまだ時間が掛かるかもしれないと思いつつ、夜宵はそれが不可能だとは思わない。

 するとseiが大きく嘆息し、不機嫌そうな顔でジンに向き直る。

 その眼差しを真っ向から受け止めたジンは、黙って彼の言葉を待った。

 夜宵は少し不安になりながら、敢えて何も言わずにいる。

 すると、僅かに躊躇したseiが、重い口を開いた。


「ひとまず、夜宵さんのことは貴様に預ける。 だが、いずれは僕のパートナーになってもらうから、そのことを忘れるな」

「悪いけど、俺にその気はないよ。 夜宵さんが自分から言い出さない限り、誰にも渡さない」


 途轍もなく緊迫した空気を撒き散らす2人の近くで、夜宵はゆでだこのように赤くなっていた。

 彼らの発言自体が恥ずかしいのは当然として、それと同等以上の問題がある。


「おいおい! ジンとseiが女を取り合ってんぞ!」

「えぇ!? 何それどうなってんの!?」

「あの子ってあれだろ? ジンのパートナーって、記事になってたサムライ」

「え、じゃあ、seiが略奪しようとしてるってこと!?」

「マジかよ……。 あの2人を虜にするなんて、あの子はいったい何者なんだ……」

「大スクープだね! これは拡散しないと!」


 エマージェンシークエストを終えて帰還して来たプレイヤーたちに、好き勝手なことを言われた夜宵は、穴があったら入りたい気分だ。

 しかし、渦中の2人は微動だにせず、尚も睨み合っている。

 流石にこれ以上は耐えられないと思った夜宵は、割って入ろうとしたが、不意にseiが振り向いた。


「夜宵さん、良ければ僕とフレンドになってもらえませんか?」

「あれ? さっき彼女のことは、俺に任せるって言ってなかった?」

「それはそれ、これはこれだ。 まぁ、夜宵さんが断ると言うなら、仕方ないが……」

「えぇと……も、勿論大丈夫ですよ。 よろしくお願いします」

「良かった……。 こちらこそ、よろしくお願いします」


 夜宵の了承を得たseiは素早くウィンドウを操作して、フレンド申請を送る。

 それを見た夜宵はすぐに受け入れ、晴れて2人はフレンドとなった。

 ジンは不服そうだったが、彼女の交友関係にまで口出しする訳には行かない。

 フレンド欄を確認したseiは満足そうに頷き、別れの挨拶を口にする。


「それでは、今日はこの辺りで失礼します。 またの機会を楽しみにしています」

「はい、わたしも楽しみにしていますね。 お疲れ様です」


 ジンに目を向けることなく告げるseiに、夜宵は困ったものだと苦笑を浮かべた。

 そうして背を向けた彼は、ログアウトしようとして――


「セイヴァーは嫌いだが……貴様の強さがクラスに頼っていないことだけは、認めてやる」


 小声かつ早口だったが、夜宵とジンの耳には確かに届いた。

 その直後、姿を消したseiを見送った2人は顔を見合わせ、思わず小さく吹き出す。

 どこまでも素直じゃないが、夜宵は彼の気持ちが少なからず変わったことを感じて喜んだ。

 ジンは何とも言い難い複雑な顔ではあるものの、満更ではないらしい。

 周囲の人々は、どう言う結論になったのか興味津々のようだが、当たり前のように無視したジンが口を開いた。


「さて、随分と寄り道しちゃったけど、改めて服を選ぼうか」

「あ……そ、そうでしたね。 じゃあ、どこかで休憩しながらにしましょう」

「近くに喫茶店があるから、そこでどうだい? 完全に人目を避けるのは難しいけど、小さな店だからまだマシじゃないかな」

「もう、いろいろ諦めたので、どこでも良いです……」


 ジンの提案に、夜宵はがっくりと肩を落として答えを返した。

 疲れ果てた様子の彼女に苦笑を見せたジンは、元気付けるように言葉を紡ぐ。


「俺も最初は煩わしかったけど、意外と慣れるものだよ。 面倒なのは今だけだから、頑張ろう」

「わたしは慣れたくないですけど……。 とにかく、行きましょうか」

「そうだね。 こっちだよ」


 開き直ったのか、鎧姿で歩き出したジンに対して、夜宵はドレス姿に着替えた。

 彼女とて、今更変装が無意味なことはわかっているが、気休め程度にはなる。

 付け加えるなら、衣装自体を気に入っているので、密かに着る機会を楽しみにしていた。

 コロシアムを出て少し歩き、大通りに面した喫茶店に入る。

 中には他のプレイヤーの姿もあったが、まだこちらに気付いてはいないらしい。

 今のうちだと思った夜宵は、出来るだけ目立たないように、奥の席に向かった。

 彼女の気持ちを察したジンも大人しく続き、向かい合って席に着く。

 すると、いわゆるメイド服を身に纏ったNPCが歩み寄り、注文を聞いて来た。

 金欠だった夜宵は、こう言った施設を利用したことがなく、物珍し気に眺めてしまう。

 しかし、流石に無作法だと思い直したらしく、慌てて視線を外してメニューに目を通すと、悩んだ末にハーブティーを注文した。

 他方、ジンは特に何の感慨もなさそうに、アイスコーヒーを頼んでいる。

 丁寧に一礼したNPCは立ち去り、厨房にオーダーを伝える――ことなく、瞬時にテーブルにハーブティーとアイスコーヒーが現れた。

 それと同時にウィンドウが開き、代金が支払われたことが書かれている。

 ゲームならではの便利なシステムなのだが、少しばかり情緒がないと夜宵は思った。

 回復アイテムなどは別として、仮想現実の世界で飲食すると言う初めての体験を前にして、夜宵は微かに緊張している。

 そんな彼女を見て薄く笑ったジンは、率先してアイスコーヒーに口を付けた。

 夜宵はその様子を固唾を飲んで見守っていたが、ジンは何の気負いもなく言い放つ。


「まぁまぁ美味しいね」

「そ、そうなんですね」

「夜宵さんも飲みなよ」

「は、はい、頂きます」


 尚も躊躇っていた夜宵だが、思い切ってハーブティーを口に含む。

 すると――


「美味しい……」

「それは良かった」

「何だか不思議な感覚ですけど、これは良いですね」

「気に入ったなら、今後もたまに来ようか。 他の町にも食事を出来るところはあって、メニューも違うんだよ」

「是非そうしましょう。 ゲームの楽しみが増えて、良かったです」


 嬉しそうにハーブティーを飲む夜宵を見て、ジンは微笑ましく思っている。

 上流階級の作法などは知らなさそうだが、ドレス姿だからか充分に様になっており、非常に魅力的だ。

 危うく見惚れそうになったジンは小さく咳払いして、本題を切り出す。


「じゃあ、そろそろ服を選ぼうか。 1セットは決まってるんだっけ?」

「あ、はい。 今日配信されたばかりの、『カシュクールワンピースA・水色』と『透かし編みカーディガンA・青』です。 凄く高かったので、買えるのはずっと先のことだと思っていました……」

「あぁ、あれか。 確かに人気アイテムだから、服の中では高い方だね。 ただ、今の方がまだ安く買えると思うよ」

「え、そうなんですか?」

「うん。 配信中のアイテムは課金すれば手に入る可能性があるけど、配信が終わったアイテムはユーザーショップで買うしかなくなるから、高騰し易いんだよ。 勿論、人気の高さにもよるけど」

「なるほどです……」

「そう言えば、夜宵さんの試合を待ってる間にガチャを回して当たったから、何だったらプレゼントして……」

「お断りします」

「……だと思ったよ。 じゃあ、せめて安く譲るよ」

「いえ、ジンさんから買うのはそうしたいんですけど、相場通りの値段でお願いします」

「遠慮しなくても、フレンド間で割引して売るなんて良くある話だよ」

「……本当ですか?」

「勿論。 だから、3割引で売らせてもらうね」

「……わかりました」


 いまいち信じ切れない夜宵だが、最終的には受け入れることにした。

 ちなみにジンの言ったことは、微妙に嘘が混ざっている。

 フレンド間で割引する文化があるのは本当だが、このゲームでは大抵1割引程度だ。

 だが、そのことを一切悟らせずにトレード申請したジンは、2つのアイテムを選択し、夜宵は3割引した金額のアルムを設定する。

 無事に取引を終えた夜宵は、すぐにアイテムを使おうとしたが、その前に他の服を購入することにした。


「有難うございました。 それでなんですけど、他の服もジンさんから買わせてもらえませんか?」

「俺から? 構わないけど、好きな服を調べて買った方が良くない? 俺が夜宵さん好みの服を持ってるか、わからないし」

「良いんです。 ジンさんが持っている中から、選ばせてもらえれば。 割引してもらえるなら、その方が助かりますから」

「……了解だよ」


 口では割引の為と言いながら、夜宵は少しでもジンに還元しようと考えていた。

 そのことに気付きながらもジンは言及せず、大人しく女性ヒューマン用の服をリストアップし、ウィンドウを夜宵の前に移動させる。

 ジンに軽く頭を下げた夜宵は、早速とばかりにリストを眺めたのだが――


「……ジンさん」

「ん? 何?」

「……いえ、何でもありません」

「……?」


 何かを言いかけてやめた夜宵を、ジンは首を傾げながら不思議そうに眺める。

 しかし、彼女にそれを気にする余裕はなく、戦慄とともにリストを凝視していた。

 そこに表示されているアイテム数は途方もなく、ジンが凄まじい課金勢だと言うことを、雄弁に物語っている。

 一体、今までいくら課金したのか気になった夜宵だが、流石に聞くのは失礼だと思い、寸前で言葉を飲み込んだ。

 ハーブティーを飲んで一息ついた夜宵は、気を取り直してリストをスクロールして行く。

 どれもこれも魅力的で、中々決めることが出来ない。

 今の所持金なら大量購入することも可能なのだが、元々が倹約家な彼女にそのような浪費は出来なかった。

 そうして、暫くリストとにらめっこをしていた夜宵は、ようやく答えを出す。


「き、決めました」

「お。 どれにする?」

「えぇと……こ、これとこれを、お願いします」


 夜宵が恥ずかしそうに顔を赤らめて指差したのは、メイド服と巫女服。

 メイド服は少し丈が短く、フリルがふんだんに散りばめられているので、給仕服と言うよりはドレス的な要素が強い。

 勿論、ヘッドドレスもセットだ。

 それに対して巫女服は、現実の巫女を忠実に再現している。

 タイプは違うが、どちらも夜宵に良く似合いそうだ。

 ジンもそう思っており、何の文句もないのだが、興味本位で問い掛けてみる。


「どうしてそれにしたの?」

「その……メ、メイド服はNPCさんが着てたのを見て、着てみたいなと思いまして。 巫女服は、昔から憧れがあったんですよね」

「なるほどね。 うん、良いと思うよ。 ただ、2着とも配信が終わってる服で人気もあるから、結構な値段だけど大丈夫?」

「は、はい。 その代わり、今回はこれで最後にします」

「オーケー。 じゃあ、トレード申請するね」

「お願いします」


 トレード画面で金額を入力したとき、夜宵は本当に良いのかと一瞬手を止めたが、葛藤を振り切って『合意』にタッチした。

 間違いなく受け取ったのを確認した彼女は、今度こそ全てのアイテムを使用する。

 そして、ウキウキしながら着替えようとしたのだが、その前にジンが制止の声を掛けた。


「待って、夜宵さん。 ここで着るのはやめよう」

「え……ど、どうしてですか?」

「折角お披露目するなら、もっと相応しい場所でしようよ」

「相応しい場所と言われましても……」

「大丈夫、心当たりがあるんだ。 取り敢えず、アミューズシティに行こう」


 アミューズシティ。

 娯楽に特化した都市で、カジノやライブ会場に多数のイベントブース、飲食店、更には遊園地などが集まっている。

 ユーザーイベントも頻繁に開催されており、そう言った企画に特化したギルドもあるくらいだ。

 もっとも、本当の意味で満喫するにはある程度の資金が必要なので、夜宵は近寄ったことすらない。

 そのような場所に連れて行かれることに、彼女はドキリとしたが、興味があるのもまた事実。


「わ、わかりましたけど、そこで何があるんですか?」

「それは、行ってからのお楽しみ」

「むぅ……仕方ないですね、行きましょう」


 表面上は不承不承と言った感じだが、足取り軽くポータル端末に向かう夜宵。

 そんな彼女の後ろに続きながら、ジンはほくそ笑んでいた。

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