完章 黒の追憶
ある世界に、ルーカラ王国というとてもとても栄えた国がありました。
その王国には位持ちというとても強力な10人のツワモノがいました。刀を使う者、拳を使う者、槍を使う者、剣を使う者、魔法を使う者、翼を使う者、それぞれでした。
例えば、一閃の刀で全ての敵を真っ二つに両断するような者。
例えば、両手の二つの鎌を距離問わずに敵を切り裂く蟷螂の様な者。
例えば、八本の剣を巧みに使い圧倒的な強さを誇った黒い騎士の様な者。
例えば、十本の翼が背中に宿し溢れ落ちた白き羽を自在に操る天使の様な者。
他の六人も負けず劣らず各々が素晴らしい力を持っていた。
ある者は王国のために日々戦地に赴き、
ある者は王国の発展のために新たな兵力を作り、
ある者は王国を守るために守護神となり国に仕えた。
戦地に赴きと言っても友好国が魔獣に襲われているので応援に行くだけだ。
新たな兵力を作りと言っても人が戦わずに済む様に自立型魔導兵器を開発するだけだ。
守護神となり国に仕えたと言っても普段は内政でいっぱいいっぱいだ。
ある時、聡明な位持ちが魔獣についてとある事に気が付きました。
それは生き物ではなく何者かの手足の様な物だと。
王国や友好国で調べた結果、この世界の中には大きなナニカがいると。
そして魔獣はソレの使い魔の様な物でしかなかったと。
魔獣は日に日に凶暴性を上げ、生き物という生き物を食べようと昼夜問わず活動をしました。あまりにも被害が大きいのでそのナニカを倒そうとあらゆる国のツワモノが集まりました。
蜂の様に毒と針を操る者、
雷の速さと衝撃を扱う者、
百発万中の弓を射る者、
戦場で会えば死を覚悟する程のツワモノです。
しかしそのナニカはそれ以上に強く世界が一つ食べられてしまいました。
ですが聡明な位持ちはすでに負ける事を見越しており、この世界に存在する全ての人々をナニカの中でも活動できる様な魔法を開発、そして使用しました。
特に、ツワモノは次にナニカが飛来した世界の助けとなる様に人の姿を捨て、己の強さの根源を次の世界の人が扱える力としてナニカの中で眠りに付きました。
再び自らの力が必要とされるまで。
扉が開く音がした。ついでに倒れる様な音も。
「え・・・生きてる・・・というか・・・ここどこだ?」
少年、声からして15歳から20歳前後といったところか。
「アーキ・・・ファクトか?」
どうやらこの世界では我々の様なツワモノの力はアーキファクトと呼ばれているらしい。
一歩、一歩と彼が近づいてくる気がする。
そして目を開いて黒の主と呼ばれた自分の力を欲する者の顔を見る。
『___あなたをお待ちしていました』
年齢に関してはおおよそ正解だろう。
黒髪の短髪、妙にツンと尖っている。
体格はこの世界では普通なのだろうか?
ルーカラ騎士団にいたら揶揄われるくらい細く心物ない。
その目には並々ならぬ決意と覚悟があった。
この少年が戦闘を行えるのかはわからない。
だがその目をする人物を知っている。
守るべき者のために命を燃やさんとする危険人物の目だ。
少しだけ微笑んでしまった気がする。
多分口はないのに。
そして言う。
『私の名前はブラックロード。前世界ではルーカラ王国の騎士として国に仕えていました。この出会いより、あなたの振るう剣としてお仕えします』
八本の剣を扱う黒い剣士は姿を変え、再びその剣を振うのだった。