戦いの終わり
「ごめん礁愛。いまなんて?」
「未確認アーキファクトを発見。各位攻撃用意・・・!」
その発言に普段は落ち着いている黒佳が動揺を隠せずに礁愛の肩を掴んだ。
「正気・・・?あんたがいつも話してる妹でしょ!?それにあの男の子だってあんたのこと知ってるんじゃないの!?」
「ほぉ」
「未確認アーキファクトの付近には校舎が破壊された痕跡があり、暴走状態だと考えられるわ。それを鎮めるのも私達アーカーの役目よ」
「礁愛姉ちゃん・・・なのか?俺だって勇也だよ!梢香が危ないんだ!今はアーキファクトの中で治療されてるらしいんだけどちゃんとした所で治さないと!」
嘘はついていない、その言葉は本心だ。
それでも礁愛の判断が覆ることはない。
「あなた達がやらないなら私一人でやる」
「姉ちゃん、なんでだよ!」
痛い、心が痛む。あの子の悲痛な思いが伝わってくる。
何が嫌われてでもいい、だ。
全然覚悟が足りないではないか。
裏切った。あの子の期待と心を私は裏切った。
ああ、帰ったら荷物まとめて寮に移ろう。
いっそのこと他の支所にでも移転希望でも出そうかな。
「行くわよマンティス・・・マンティス?」
自らのアーキファクトに語りかけるが返答が帰ってこない。
普段なら上から目線の生意気な返事をするのに今回は返答がない。
『ごめんなさいねぇ礁愛。あんたの頼みでもそれは聞けないの』
握っていた鎌がからんと音を立てて地面に落とされた。
それどころか他の武装にもロックがかかっている。
「マンティス・・・裏切りと見てもいいのかしら?」
『いいえ礁愛。聞いてあげてもいいけど、そしたら確実にこの世界は喰われるわよ』
「っ・・・!」
状況が何度もわからなくなる。
お姉ちゃんが俺を襲おうとしたけど自分のアーキファクト、
あのカマキリが拒否したってことだろうか。
『久しぶりねぇブラックロード。お姫様もご一緒ってことはそろそろ時期ってことかしら』
『お久しぶりです、姉上。アーキファクトになっても鼻につく喋り方ですね』
『あらぁ、あなたは人でなくても可愛くないわ。ねぇ、お・ひ・め・さ・ま』
『お久しぶりです二鎌【マンティス】様、それに一刀【夜半】様』
『おお!そうだそうだ!我らが姫さんとウチの馬鹿弟子じゃねぇか!無事に起きれたか!』
「なんだい夜半知り合いかいな?」
『おうよ晃。こいつは_____』
理解が及ばない上になぜかアーキファクト同士が同窓会のような始めた。
「頼むから説明してくれよ・・・一体何がどうなってんだよ・・・」
「そうね。君の言う通りだわ」
蜂のアーカーがこちらに近づくと纏っていたアーキファクトが発行する粒子になって消え、生身の人間が現れた。
長く黒い髪でモデルかと思うほどのスタイルを持つ大人びた女性だった。
「でもまずはあの子が最優先。医療班は手配してあるからまずはここで何があったかを聞かせてくれないかしら?」
あの子と言って視線を向けたのはホワイトウィッシュの方、梢香の事だ。
「私は綾川黒佳。礁愛とは高校の頃からの付き合いでね。今は大学生とアーカーを兼任してるの。ここだとそろそろ人が覗きにくる頃だろうからどこか落ち着いて話せる場所はある?」
その後、梢香は運動場に着陸したヘリコプターにホワイトウィッシュ共々載せられ礁愛姉ちゃんと一緒にHASTの本部に向かった。
俺はと言うと黒佳っていう人と夜半を操る金垣晃という人の2人と学校の職員室横の応接室にて事情聴取を受けた。
開口一番に黒佳さんから言われたのはあなた達は悪くない。この事は罪に問われる事はないしそもそも罪なんてないよ、と。
その言葉でまず一安心。
そして次に何が起こったのかを事細かく丁寧に話す。
突然害悪種が現れて暴れた事、逃げ回っているうちにドアを開けたら黒いアーキファクトのブラックロードがあった事、そして手に触れると気がついたらそれを纏っていた事、倒したと思ったらまた別の害悪種が来て今度は梢香がホワイトウィッシュとしてアーカーになっていた事を。
「以上…です」
「そう…ありがとう。怖い思いさせてごめんなさいね」
「がぁっかっか!やるねぇ少年よう!」
「はぁ…金垣さん」
爽快な笑いをあげる金垣を横目に黒佳はため息をついた。
「繰り返し聞くけど君に怪我はない?」
「ええ、死にそうなところでアーキファクト使えたもんですから怪我はないですよ」
「傷は男の勲章ってな!」
「古いですからそういうの」
「あの、俺たちはこの後どうなるんですか」
少し後ろめたそうに黒佳が言う。
「一度HASTの本部で梢香ちゃん共々検査を受けてもらうわ。その後にあなた達がアーカーとして戦えるのかもテストするつもり」
「テスト…ですか」
「そうよ。あなた達が今後アーカーになるかどうかは置いといてHASTとしてアーキファクトのデータが欲しいの」
「うちの夜半はあの2機のこと知りあいらしいけどなぁ」
「…アーキファクトってなんなんですか。今の所、害悪種より得体の知れない物だと思ってるんですけど」
疲労が回ったのか顔が下を向き始め少しずつ声量が落ちてきた。
「ここでは話せないの。迎えが来てるからHASTで話すわ」
「やれやれ。この歳だと座ってるだけでも体にくるぜ。そら、お前さんもいくぞ」
黒佳が立ち上がるとそれに釣られて金垣も立ち上がり軽くストレッチをし、目線をこちらにやって話しかけた。
「わかりました。でもその前に…これどうやって人に戻るんです?」
不思議そうな顔で2人はこちらを見る。
なぜなら、俺はまだブラックロードを纏ったままなのだ。
知らない人が見たら変質者にすら見える。
『失礼しましたイサヤ。失念していました』
纏っていた装甲が体から離れ始めると右横にあの時、手を差し伸べてくれた黒のアーキファクトが現れた。
現れたと言うより装甲の1つ1つが組み立てられた?
「うわ!あの時のあれ!」
『これが私の本体です。感覚的にはこの本体の私が1パーツずつあなたに装着されていたとお考えください』
「すぐ理解できるか!」
時は同じくして梢香が乗せられた医療用ヘリコプターの中にはなかなか奇妙な事になっていた。
パイロットは当然、操縦席についており治療を行う救急員は後部に、そして付き添いの礁愛は腰をかけている。
中央のストレッチャーの上には純白のアーキファクト、ホワイトウィッシュが仰向けに横たわっていたのだ。
「…なんであなたが寝てるの?」
理解ができずに礁愛は尋ねた。
それにホワイトウィッシュはこう返す。
『梢香さんは現在気を失っており、その状態で私が戻れば倒れてしまいます。あ、すみません。そこちょっと横に移動してもらっても…はい、ありがとうございます』
右腕を救急員に向けてその場所を少しズレてもらう。
『では私は元に戻ります』
ホワイトウィッシュが白く発光する。
装甲のパーツが一つ一つ救急員の横に移動すると数秒でストレッチャーには梢香が、救急員の横にはホワイトウィッシュが座った。
「え…?」
「………」
しかし、不思議な事に生身になった梢香には制服が傷つき破れているだけであり、まるで怪我なんてついていなかったかのような眠り姫のように綺麗な身体だった。
「怪我が無いようですが…」
事前に状況を聞いていた救急員も少し困惑した。
「まさか…あなたが完治させたの?」
礁愛はホワイトウィッシュに尋ねるも帰ってきたのは首を横に振る動作。
『確かに私には装着したアーカーを癒す機能が備わっています…しかしそれはあくまでも応急処置程度のもの…完治はありえません!』
「でも嬉しい事に梢香は完全に治ってるわ…検査は必要だけど」
『礁愛さんにとっては残酷な事かもしれませんが…考えられるとしたら』
ホワイトウィッシュは一度下を向いた。
次に何かを決意したかのように礁愛に話す。
『私と梢香さんの相性が良過ぎるのかも知れません。』
唾を飲んだ。
ただアーカーになるだけなら良かった。
本人や親族が拒否をすればただの学生に戻ることができるのだから。
けれど、しかし、だって、でも、と否定の言葉を出したい。
礁愛だって様々なアーカーを見てきてわかっている。
アーキファクトとの相性が良いという事はそれだけその性能を引き出せる人材という事。
つまりHASTにとっては喉から手が出る程欲しいアーカーなのだ。
「検査を受けないと…まだわからない…」
その言葉は一つの残された希望に縋るような声だった。
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