喪失
白く輝く眩しい光線と黒く淀む濁った光線が空中を飛び交う。
その光線をくぐり抜け梢香は梢葉に接近する。
「ホワイトウィッシュ!」
『はい!』
翼から羽を数十本分離させ、羽を束ねて重ねると蛇腹剣として右手に握る。
梢葉も合わせて自身の魔力から三叉の槍を作り出して両手に握る。
「えええぇい!」
「はぁっ!」
蛇腹剣と槍がぶつかり合うが蛇腹剣は形を変えて槍に纏わりついたので釣り上げるように引張り武器を奪う。
『今です!』
「【半月】!」
ホワイトウィッシュの背の翼が月明かりのように優しく輝く。
「【半壊】」
梢葉の背の翼が妖艶に煌めく。
そしてお互いは対極の光線を放ちぶつかり合う。
「上はド派手にヤってるねェ。デ、まだヤル?」
ミューは見下すは地べたに這いつくばる勇也。
頬に傷をつけたことは評価に値するがまだまだ正面切って戦うのは早かった。
「ぐっ、かはぁっ!」
おまけに生身の傷がかなり負担になっているようだし、今日はここまでにしとくかな
「オ、立った」
残り僅かな力を振り絞り立ち上がる。
足元はおぼつかず、視線も定まらない。
「・・・【八剱】」
『いけません!今の状態ではただただ危険にさらされるだけです!』
もはや返事をする気はない。
この発言も頭の隅っこにあったから自然と出ただけだ。
『身体コントロールの切り替えができない・・・まさかもうここまで・・・!』
全ての装甲、武装をパージしてインナースーツを晒す。
だがその右手には装甲と武装が集まり一本の巨大な剣が形成された。
その巨大な剣を引きずりミューに一歩ずつ近づく。
「キミのソノ根気に免じて、一回だけ攻撃食らってアゲル。ハイ、ドーゾ」
腕を広げて余裕の表情のミューに八剱を振るおうと構える。
だが黒く巨大な剣が純白の光を纏うとミューの顔から笑みが消えた。
「ヤッバ、ちょっと後悔カモ?」
「・・・あ、あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
普段よりいい加減に、大振りに、剣を扱うというよりは棒きれを振るように八剱をミューの右肩から左脇腹めがけて切断を試みる。
「きひゃ!きひゃひゃ・・・?」
右肩に刃を付けた途端にすべての力が抜けて八剱を落として前に倒れた。
「ちぇ、つまんナイの」
ここからミューは倒れた勇也がいる下を見ることなく興味深そうに空中の戦いに意識を移す。
様子は・・・
「姫様押されてるジャン」
戦況は飛び道具の押し付け合いから近距離の白兵戦に移っていた。
両手を組み合いホワイトウィッシュの高度は下がり続け梢葉が優位に見える。
「ねえまだ本気出さないの?あんた言ったよね、姉妹喧嘩だって!」
「そうだけどっ!」
「手ぇ抜いたほうが負けるんだよ!なのになんで!」
「わからない!あたしがここで梢葉を止めないとだめなのに・・・」
「だったら大人しく負けてよ!あの時負けてあげたんだから!今度はあんたが負けて私が勝つ番でしょ!!」
「なに言って__きゃぁ!」
「ぜぇあぁ!」
地面に押し付けて梢香の翼を土で汚す。
仰向けに倒れている梢香の上に跨がり両手で首を握る。
「あんたがあの時負けてれば、今、首を絞められているのは私のはずだった!あの時、あんたじゃなくて、一緒にいるからねって言ったのが私だったら・・・!」
「ぐっ・・・かっ・・・」
「もういいじゃん・・・変わってよ・・・私だって・・・」
『梢香!しっかりしてください!』
「・・・ごめ、んね」
「っ!」
梢香から出た謝罪の言葉に息を呑み、手を緩めてしまった。
その隙を逃さず梢葉の両肩を突き飛ばして無理やり退かせる。
「けほっ、はぁぁ・・・」
「今更謝んないでよ・・・もっと早く言ってくれてれば・・・こんな事に!」
「帰ろうよ、梢葉。勇也くんだって許してくれるよ・・・」
害悪種となった梢葉の目に当たる部分から液体がこぼれ落ちる。
「無理よ、だって酷い事したんだから」
「無理じゃないよ、これからは三人でいろんなことしようよ」
一歩、また一歩と歩んで梢葉を抱きしめる。
「梢香・・・ごめん」
「ううん、しょう__」
腹部を襲う謎の痛覚。
そして梢葉はあたしを突き飛ばした。
お腹を見てみると小さな槍みたいな物があたしに刺さってた。
「もう我慢できないの・・・三人じゃない、私が勇也を独り占めしたいの」
「なん・・・で」
刺された腹部をかばうように横に倒れた。
「それにもう後戻りできないの。人じゃなくなっちゃったし、こんな事してもうみんなに顔を見せられない」
「きひゃ!じゃあ行こっか」
「ええ。でも待って、勇也だけは連れて行くわ」
倒れている勇也を仰向けにして頭を自分の膝に乗せる。
この愛しい顔を、この距離で見て、触れるまですごく遠かったな。
でもこれからはずっと、ずーっと一緒に。
「私が一緒にいるからね」
気を失っている勇也の唇に自分の唇を重ねて、頭を撫でると優しく抱きかかえようとした。
待って、行かないで!
言葉はもう出ない、意識も朦朧としている。
だけど次の瞬間、事態が急変した。
「おい待てやお二方」
少し年を重ねた男の声が聞こえると斬撃が梢葉に向かってきたので勇也を置いて回避した。
「片方は見ねぇ顔だな。新手の害悪種か?」
右手に持つは一刀。
アーキファクトを纏っていると思えないほどの軽装の男。
「うっハァ。マァジ?」
HASTの中でも最強との呼び声も高い位持ちが一人。
一刀【夜半】のアーカー、金垣晃その人だ。
「ブラックロードの知らせで来てみりゃ、なんじゃこれ。てめえらうちの若造に何しやがった?」
『夜半!来てくれたのですね』
『おうよ姫様。バカ弟子の尻拭いは師匠の仕事だかんな!ま、そのバカ弟子は完全に伸びてるみたいだがな』
『勇也さんと梢香の容体はかなりよくありません!今は撤退を優先に行動します!』
「わかったぜ。俺ぁこいつらを押さえれば良いんだな?」
『お一人で大丈夫でしょうか?』
「おうさ!じきに他の奴らも来らぁ!」
「まーずイね梢葉ちゃん。ニゲヨ!」
「・・・そんなに強いの?」
「ワタシが万全の状態で尚且つ誰モ邪魔しナイ条件でようやく5割ってトコかナ。前にマンティスたちと戦った傷感知してないシ」
「ふーん。じゃあ逃げましょう」
背中をさらしてその場から去ろうとするが瞬時に視界に現れたのはさっきの刀を持った男だった。
「逃がすわきゃないだろ」
抜刀の瞬間を見たがミューは対策済みで煙幕を張った。
金垣はそれすらも読んでいたようだが迷いなく刀を抜いてミューのいた場所を斬る。
斬撃で煙を晴らすとミュー達はすでに消えていた。
梢葉が気を失う前に見た最後の光景は倒れている勇也と立っている金垣、そして切り落とされたミューの腕だった。
「逃げ切れた・・・のかしら」
梢葉が目を開けると不思議な感覚の場所だった。
薄暗い部屋で机や椅子も寒くも熱くも立ってる感覚も何も無い。
「まァねェ。腕一本で済んだら安い方カナ」
そう言うミューを見ると右肘から先が無くなっていた。
「まっタク、とんでもないアーキファクトだヨ」
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次回『空いてしまった穴』