京都弁サイボーグお嬢様の実力
トレーニング用のウェアに着替えた四名はあらかじめ借りていた戦闘訓練室に入る。
ここは人型の害悪種に備えてアーカー同士の模擬戦を行ったり過去のデータを利用して仮想の害悪種を作って訓練を行うなど色々な設備がある。
「まずみんなの力見せてほしいんやけど…勇也くんからやろか」
今回は前者の使用理由なので特に設備は使わない。
「おっけー。胸借りる気で行くからな」
「あらまぁ、勇也くんはすけべな子やねぇ」
「もうええて!」
二人は距離を取りアーキリングを口元に運ぶ。
残った二名は邪魔にならないよう隅で見学だ。
「「アーキファクトレディ」」
『Black Lord stand-by』
『Wind stanb-by』
音声認証は成功。
その証に二人の間にアーキファクトのシルエットが現出し、主を待っている。
「行くぞブラックロード」
「ウィンちゃん、行こか」
意思確認も成功。
シルエットとアーカーは重なりアーキファクトを纏う。
「へぇー。黒くてかっこええなぁ」
「逆にそっちはそんなに装甲薄くて平気か?」
枯葉の色をしたそのアーキファクトはかなり軽快な身なりだ。
動きを制御されそうなパーツはどこにも見当たらず軽やかな身のこなしができるだろう。
「アーキファクトのサポートは無し、アーカーとしての強さを見せてくださいな」
「びびんなよ」
そして最も特徴的なのはあの弓だろう。
小さな子供ほどの背丈はある弓を片手で持っている。
和の弓というよりかはかなり最先端の尖ったデザインの洋弓で、正式名称は知らないがリムというのだろうか。
しなやかに曲線を描いている部位には明確に刃があり近距離戦闘も行えると感じさせる。
「いつでもえーよ。かまーん?」
やや棒読みな英語で挑発をする。
戦闘開始の合図はこちらで決めていいということか。
「じゃあ遠慮なく…っと!」
右足をサッカーボールを蹴るように激しく動く。
そうすることで足に装着されている小型短剣の【リッパー】をしおりに放たれる。
最近の訓練中に開発した勇也独自の技だ。
手に持って戦ったり投げるだけだったリッパーがほぼ予備動作無しでお手軽に牽制攻撃に使えるようになった。
だがしおりはそれに対応できた。
足からリッパーが離れた瞬間に弓を構え正確に狙いを定め、どこからか出てきた光の矢を番う。
弦を引くとその矢が放たれ二人の中間で衝突し軌道を逸らしリッパーはしおりの左頬を、矢は勇也の頭を貫く方向だが直前に首を傾げて右頬をかする。
気にせず勇也は正面から突っ切るつもりなのか愚直に進む。
当然、しおりは再び矢を番える。
「そらあかんよ」
「どうだろうな!」
放たれた矢を走りながら右腕の手甲剣の【ブレイド】で真っ二つに割る。
「ふっふーん!」
自慢げに笑うと割ったはずの矢が顔の目の前で爆発した。
「あかん言うたのに…」
しかし爆煙の中から出てきたのは速度を落とさないまま両腕のリッパーを展開してこちらに向かう黒のアーキファクトだった。
「痛かったって!」
あっという間に近距離戦の間合いに入った。
弓を扱うならこの距離は苦手なはずだ。
だが、それすらもしおりの想定通りであり弓を二つに分割した。
リムの曲線は(忘れていたが)刃になっており弓の持ち方から二刀の持ち方に変わったしおりは勇也の振ったブレイドと鍔迫り合いを起こした。
すかさずもう一本のブレイドを向けるがそれも鍔迫り合い状態になる。
「さすがに男の子に力で勝つのは無理やね…」
力負けを悟ったしおりは後方に高く飛び二刀を連結させ弓として扱う。
それを逃すまいと左足のリッパーも右と同じように蹴り上げ空に浮いているしおりに放つがそれに先ほどと同じように矢を番え放った。
状況は振り出しに戻ったように感じるが今回、しおりが放った矢は先ほどとは違う。
再び矢とリッパーが衝突する直前に矢が分裂してリッパーを躱わすと矢は勇也に命中した。
「ぎゃっ!」
ついでにしおりは弓でリッパーをはたき落とした。
「動きが単純。全部直感で戦ってはりますわぁ」
煙が晴れると勇也が尻を空に突き出して倒れていた。
「は、はい…」
「でも反応速度はピカイチ、ほんまに前線向きやね。じゃ次亮くん」
「手合わせ頼む」
「はいな」
ブリッツを纏い戦闘体制に入る。
そこからは早かった。
銃で牽制する亮だったが中距離以上ではしおりには敵わず痺れを切らして【ライトニング】を使い距離を詰めるも事前に放っていた矢が背後から急襲した。
「躱わしたから油断したやろ?やけど距離を瞬時に詰めたのは正解。チーム戦ならサポートもあるやろし。梢香ちゃんやろかー?」
「よ、よろしく!」
ホワイトウィッシュを纏った梢香は空中に舞い、鋼翼の羽の中の四本を遠隔操縦し、その羽からレーザーを放つ。
しおりは床や壁を問わず走り出しその全てを回避をした。
しかし見えないように1羽だけ隠していた羽を背後からしおりに向かわせる。
「うん、その発想は最高や」
なんて褒めつつ壁を走っていたしおりは錐揉み回転をしながら一回だけ矢を射ると合計五羽の羽に全て命中させ、地に落とす。
「うっそぉ!」
「残念やけどこれがしおりちゃん強さなんよね」
回転を途中でぴたりと止まる。
弦を最大限まで引いたしおりが見えた。
「【ムーンピ…】」
翼の一本が発光を始めると同時に左頬を矢が掠った。
「いぇーいうちの勝ちー」
床に着地したしおりの第一声のその数秒後に梢香は床に降りた。
「いやいや想像以上も想像以上。みんな強いわぁ」
楽しそうにしおりが笑いながら言った。
3タテされたけどね。
「これが中学から戦い続けた力かぁ…強ぇ!」
勇也は大の字になり床に寝転び叫んだ。
「俺達と違って戦いに余裕があった。どうすればそうなれる?」
悔しがる勇也とは真反対に亮は直球に感じたことを聞く。
「うーん…こればっかは場数やしなぁ…」
「実践あるのみって感じか。ま、そうだよな」
「そやね。勇也くんは反応速度がかなりええから…相手次第やけどガンガン前に詰めた方がやりやすいやろ。亮くんは銃と剣で中近距離の広い範囲を攻撃できる上に判断力が機能しとるでサブリーダー的な感じで指揮とってもらおかな。そして梢香ちゃん!」
ピシッと梢香に指を向ける。
「アーキファクトの性能的には多分1番。それに加えて羽隠しての急襲とか咄嗟に次の攻撃手段を出したりしはったからまだ頭には余裕があると思うん。空中からの攻撃性能も高いから空から状況を確認してみんなに伝えつつその羽でレーザー飛ばしてチームのサポートしよ!あとはアーキファクトのサポート無しでも武装を使えるように練習あるのみ…よし!」
各々の長所を指摘し終えた後、数秒だけ考えた。
「大雑把に言うと…基本は勇也くんと亮くんが敵に密着する感じでうちと梢香ちゃんが都度、中遠距離から遠隔攻撃しよ。変に考えるよりうちらにはそれくらいシンプルな方がええやろ」
「俺はとりあえず見つけたらすぐやりにいけばいいの?」
「うーん!それでええよ!あとはテキトーにうちらもサポートするわ」
どうやら頭の悪い子の扱いは得意なようだ。
こういうバ…一直線な子には基本、言葉や文で叩き込んでもすぐ抜けるし実戦で感じてもらお。
「はーい今日の訓練しゅうりょー。しおりちゃんの歓迎会やりましょ?」
「自分で言うのか…」
アーキファクトの換装を解除した四名は観覧室を退出し更衣室に足を運んだ。
着替えを終えた勇也達は多少の雑談をしつつ駅前のファミリーレストランに入店。
「ほな、美少女しおりちゃんの加入を祝してーかんぱーい」
ドリンクバーで注いできた飲み物が入ったグラス同士で音を鳴らす。
「改めてみんなよろしゅうたのみます。今やったらうちになーんでも聞き放題。彼氏の有無やったりスリーサイズやったり色んなアレコレお教えしちゃいましょ?」
「はい!今朝のロケットパンチなに?」
「お、ええ質問やね勇也くん。さっきもさらっと言ったけどうち害悪種に片手と片足食われとん。で、うち関西の方のHASTのお偉いさんの娘やで実験と治療兼ねて身体を部分的に人工アーキファクトにしてん。生身でもある程度害悪種とはやりあえるよ。ほれ」
自身の身体を話し合えると右手で左手の肘から先の義手を外して勇也に手渡す。
それを受け取った勇也は興味深そうにさまざまな角度から眺める。
「うお…すっげぇ…触った感じも人と同じだ…」
「そんなにじっと見て触られると…うち恥ずかしー」
「ふーん。じゃ、返す」
明らかに感情がこもってないが満足したので返却すると義手がマグネットで引き寄せられるように簡単に装着され、義手を動かして動作確認をした。
「みんなは出身どこなん?」
「あたしと勇也くんは名古屋だよ」
「俺は岐阜だ」
「え、そうだったのお前」
「言ってなかったか?元々岐阜のHASTに行く予定だったが名古屋の方が治療設備は整ってるからな。今は寮に寝泊まりしてる」
「亮が寮に…ぷぷっ、ぶぇっ」
くだらないことを言っていると京谷は勇也の頭を叩く。
「へー。じゃあ結構バラバラなんや。ちなみうちどこやと思う?」
「京都」
「京都?」
「京都だろ」
「正解!よーわかったね」
いやそらそうでしょ。
もう三人は口に出さなかった。
「まあとにかく、よろしく頼むよ隊長さん」
「ん、ばっちしまかせとき」
「お待たせしましたぁ」
店員が料理を運んできた。
ただその料理の量がおそらく四人で平らげる量ではなくしおりは目を見開いた。
「お、きたきた。あ、俺ピザとチキンとシュリンプとギガポテトです」
「あたしもピザとドリアとハンバーグ」
「俺のサラダとチキンステーキはまだか?」
「ぎょ、ぎょうさん食べるんやね…」
「まだ来るよ。デザートも後で頼むし」
言った通りだった。
あの後もかなりの料理が運ばれて最後にはデザートまでしっかり完食。
そしてお会計は高校生四人とは思えないほど膨らんだ。
しおりが振り回したばかりの一日の最後はしおりが振り回されて終わった。
「ふー、よく食ったわー」
「あたし帰ったらご飯食べないと」
「まだ食べはるの!?」
「俺は美花のとこに寄ってから帰る。じゃあな」
「そや、うちそういえばまだ荷解き終わってないんやったぁ…忘れてた…」
「手伝おっか?せっかく男の子いるんだし」
「え!俺も行くの!?」
「助かるわぁ。じゃ案内するからついてきてな」
しおりの後をついていくとHASTや駅から少し離れていく。
「日羽は寮じゃないの?」
「しおりでええよ。うちは寮でも良かったんやけどお父様がどうしてもセキュリティにうるさかってん。だから別のちょっと離れたところにあるマンションに勝手に決めたん」
「へー…確かに女子一人じゃ親御さんは心配だろな…ん?なんか聞こえ…」
「きゃぁぁぁぁ!」
そんな会話をしながら道を歩いているとやや遠くから女性の叫び声が響いた。
それもかなり切羽詰まった迫真の叫び声だ。
「梢香達はここで待ってろ!俺は見てくる」
教材が入ったカバンを梢香に一方的に預けて声の方向に走り出す。
位置的には次の角を左、それでも見えないならあの路地裏だ。
「おや?おやおや?」
駆けつけた勇也が目の当たりにしたのは同い年くらいの毒々しい色の髪を持つショートカットの少女が顔に人の血を浴びながらおそらく人だった物の片腕を食べていた。
その少女の近くには成人女性が無惨に横たわっており、明確にこの少女が危害を加えたことは容易にわかる。
「な、なんだよこれ…」
「バレちゃったぁ…シリタくん怒るかナァ…きひゃっ!」
悪びれる様子もない。
確定した。
今、目の前のこの少女があの女性を殺して食べている。
「でもでもでもぉ?レディの食事をじーっと見てるなんて趣味悪すぎだヨォ?」
なんだこいつ、なんなんだこいつ。
理解が追いつかない、人が死んでるだけじゃなくてそれを喜んで食べてるようなイかれた殺人者じゃないか。
そんな殺人者が邪悪な笑みを見せながら一歩ずつ勇也に歩み寄る。
「勇也くん!」
「来るな!」
後を追いかけてきた梢香としおりの方向に首を向け静止を呼びかけるが、それが仇となった。
瞬時に勇也の懐に飛び込んだ殺人者は人差し指と親指を勇也の下顎に添え、自身の唇を勇也の唇に触れさせる。
だが接吻だけでは終わらず勇也の口内に舌を入れて舌同士を絡ませる。
「は…?」
梢香の漏れ出たその驚嘆の声は少し離れた勇也にも届いており、それを皮切りに勇也は殺人者の肩を突き放した。
「ぺっ!ぺっ!きったねぇ…!」
地面に唾液を吐き捨てる。
当然だ。
あんなイかれた事をするやつなら変な毒とか盛られても不思議じゃない。
「フフ、フフフ、マーキングかんりょぉ」
意味深な笑顔で呟き勇也の顔をジロジロと見た後に梢香の顔も見た。
「うわぁソックリなんダァ…」
「アーキファクトレディ!」
『Wind stanb-by』
「ウィンちゃんはやく!」
いち早く敵と認識したのはしおりだった。
今までで類を見ない速度での換装を終えるとすぐに弓を構え矢を放つ。
その矢は光速で殺人者の胸部を貫こうとしたが直前に右手で弾かれ、梢香としおりに詰め寄るために地面を踏み締める。
「アーキファクトレディ!ホワイトウィッシュきて!」
『White Wish stand-by』
梢香の換装が間に合い翼から四羽を殺人者に向かわせ、複数の角度からレーザーを放った。
だがそれも身体にかすらせず息つく間も無く梢香と目と鼻の距離に近づく。
『ミュー…!』
ホワイトウィッシュが声を漏らすと同時に梢香の身体の操作を奪い後方に飛翔する。
「ちぇっ、弱くなってるかと思ったのにそんなに変わってないジャン」
『あなたこそ。この世界でもその顔は変わっていないのですね。夜半から噂程度には聞いていましたがようやく見つけましたよ』
ホワイトウィッシュは月を背に十本の翼を円を描くように展開する。
『あなたがいるということはシリタもいるんでしょう?情報を聞き出さないのは惜しいですがあなたにはここで消滅していただきます』
全てや翼が発光を始める。
まるで月に照らされかのように。
「言っておくケド…さっき男の子にちょっと仕込んだかラァ…攻撃したら爆発させるヨ?」
「ホワイトウィッシュだめ!」
『くっ!』
「おーっとそこの子も。さっきの矢だけは許してあゲル」
矢を番て放とうとしていたしおりも攻撃を中止した。
「アーキファク…」
「あ、もちろんキミも」
アーキリングを構えて音声認証に差し掛かったタイミングで抑止される。
「そーそー。じゃワタシ帰るから」
影に溶けるように足から地面に吸われていく。
最後に首だけ出してはしゃぐように言葉を残した。
「ちなみにさっき言ったのはウソだヨー。あの子はワタシが食べるからせいぜい死なないでネ」
ホワイトウィッシュは忍ばせていた羽からレーザーを発射し攻撃を試みるが完全にあの殺人者は消えてしまっていた。
『逃したっ…!』
珍しく感情を抑えきれずにホワイトウィッシュにしてはやや強い口調だった。
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京谷亮だ。
どうやら俺が美花のところへ行っていた間にアクシデントが起こったようだな。
幸いあいつらが無事だったのが不幸中の幸いか。
しかしあの人間は一体なんなんだ…なに、知っているのかブリッツ?
次回「ブローク」
アーキファクトレディ
作者は京都の人間でないのでしおりの口調はエセ京都弁です。




