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純白のブラックロード  作者: たや
プロローグ
2/51

Black Lord

「な、なぁ勇也大丈夫かなぁ?」


多少震えた声で海瀬がつぶやく。突然、友達が走り出して化け物の股座抜けて行ったらだれしもそう思うだろう。


「わかんねえよ…けどあいつは中学の頃から猿みたいな運動能力でパルクールみたいなことしてたからな。逃げ回ってくれればいいが…」


木村は慎重な動きで教室から顔を少しだけ出した。友達の安全を確認するためだ。先程は吠えたのか鳴き声が聞こえたのちに建物が壊れた音が聞こえたからかなり慎重に。


「な、なんだあれ……!」


木村の目に映ったのは()()に襲い掛かろうとしたであろう害悪種。


そして、それと取っ組み合っている()()()()()()()()()だった。


『loading……loading……半径1km以内の地形、生体反応の確認完了。各種武装、腕部装着手甲剣【ブレイド】、自律思考稼働剣【アイ・ソード】、足部装着脱着型短剣【リッパー】、頭部高出力サーベル【エイペックスフォース】、【八剱】正常動作確認。手掌装着魔力圧縮装置【ブライト】、スラスター、ストッパー稼働開始』


あったかいような…安心するような…心強いような…

今だったら何でもできそうな気がする。次に自分が何をするか分かる。

初めてアーキファクトを纏ったのに何ができるか分かる。


Black Lord(ブラックロード)スタンバイ』

「うぅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


腰部と太ももに少し力が入る。高い音を響かせると組み合っている害悪種を一直線に押し出す。

少し床から浮きながら大体40m先の向かいの壁に自分ごと害悪種を壁に当てつける。


「ぐ、ぐ、ぐぎぎぎぎぎ・・・っとぉ!?」


壁にめり込ませて攻撃をしようと考えていたが加減がうまくいかずに壁を貫通して外に出てしまった。

ちなみに、ここの教室は4階だ。生身だったらほぼ死ぬ。

でもこのままこいつを下に落とせば___


「ギギリリリガガギ!!」


暴れ出したと思ったら落下速度が遅くなった感覚を感じた。

よく見えないが害悪種から翼が見えたので多分、今生えたのだろう。


(そんなのありかよッ!)


おまけに力も強くなってきている。先程より確実に。

このままでは振りほどかれる。


「死ぬ気で・・・食らいつくしか・・・うわ、ぐ・・・わぁ!」


必死に掴もうとするも不規則な力の流れとこういった状況の経験の無さが足を引っ張った。

このままでは地面に顔から激突する。

そんなことは知らずに害悪種はこちらを振りほどいた後、運動場の方向へふらふらと不安定に飛んでいく。


どうすんのどうなんのどうすりゃいいんだこの状況


『心配ありません、私にお任せを。』


音声が聞こえると身体が勝手に動き始めた。

感覚的には動くというより、押される、引かれるなどの()()()()()感覚だ。


「なに!?なに!?」


体勢が変わり、背中を地面に向けられ顔は空を見た。


『あなたは一人で戦っているのではありません。私も共に戦っているのです』


下半身の裏側全域に振動を感じると徐々に落下速度が落ちていく、やがて空中でピタリと停止した。


「すっげぇ・・・」

『あなたの思考は私と共有しています。動きを考えるだけで多少の誤差はあれどあなた思い通りに動けるよう私がサポート致します。まずは直立のイメージをしてください。この体制は負担が大きいでしょう?』

「急に言われてもできるかぁ!」


空中で仰向けに止まっているこの状況、何も知らない人が見たらまるでサーカスのように見えるだろう。困惑だらけの頭を少し落ち着かせる。

単純に、シンプルに、空中で普通に立っている自分をイメージ。

そうすると体が再び勝手に動かされ始める。


「できた!」

『そうです、次は飛行して先ほどの害悪種を追いましょう。あなたの()()()()の方へ向かっています』

「っ!」


それを聞くと、反射反応でアニメや漫画でよく見る空中移動の方法がイメージができた。

すこしでもイメージできるとこのアーキファクトは自動でそれをやってくれる。

勇也はその事を理解はしていなかったが感覚で掴み、速くはないが空中を動き始めた。


『なるほど。この世界にはその様な芸術作品があるのですね。今の様な方法でイメージするのがよいと思います』

「梢香は無事なんだよな!?」

『現状、先ほどの害悪種以外の敵対生物は確認されていません。しかし建物が多少崩れており、この動き方から見ると怪我を負っていると考えられます』


視界の右上に航空図のようなものと3種類の図形が突如表示された。

おそらくレーダーとかそういうものだと思う。

バツ印にはBlack Lord、三角印にはHazard、丸印には何も書いてないが一般人や無害な生体反応だと思う。

そして梢香は一個だけの点滅丸印だ。


「なぁ、害悪種は梢香を追ってるのか?」

『この動きから察するにおそらくそう思われます』

「なんで!?」

『わかりません、マーキングされたわけでもないのに何故・・・』

「くそっ、そもそもなんでこんなとこに害悪種が・・・!」

『イサヤ、まずい状況になりました。中月梢香さんの反応が停止し、害悪種が追いつきました』


再度、レーダーに注視すると梢香の反応の先に害悪種の反応があった。

おそらく、梢香を追い越した後に壁を破壊して校内に再び侵入したと考えられる。


「頼む・・・間に合ってくれっ・・・」




どうしてこんなことになったのだろう。


授業終わりに()()()()と少し話をして廊下に出た。

先ほど呼びかけてくれた友達の未来(みらい)が少し先にいたので追いかけようとした時、

背後からとてつもない音が聞こえたと同時に校舎の壁が破壊された。


破壊され飛び散った壁の破片が足に当たってしまい倒れてしまった。


壁を使って立ち上がって顔を後ろを向くと毒々しく悍ましいキメラのようなモノ。害悪種がこちらをみていた。


「梢香!!」


未来が廊下の曲がり角から未来が走り出そうとした。


「ダメぇ!逃げて!」


とっさに出た言葉だった。しかしその言葉の音に反応したのか害悪種は一歩、こちらに踏み出した。


「は、は、害悪種(ハザード)だぁぁぁぁぁ!!」


不幸中の幸いか害悪種の向こうにいた男子生徒がかなり大きな声で叫ぶと害悪種はその男子生徒の方に向いた。


でも、その方向には勇也(大切な人)がいる。


いかないと あたしが守らないと


もう二度と あの子を怖い目にあわせたり悲しませたくない


だってあの時誓ったんだから


あの時、病室で見たあの子の涙をあたしは一生忘れることができないだろう

あの時、あたしは救いたかった。その涙を、悲しみ、失ったもの、ありとあらゆる思いが詰まった涙を

あの時、決めたんだから。あたしの人生は勇也の幸せのために使おうって

だからあたしは守り続けるんだって


足をその方向に向ける。だけど未来が駆け付けて肩を持たれた。


「何考えてんの!?」

「いかないと・・・あたしが守らなきゃ・・・」

「ばか!死んだら元も子もないって」


半ば強制的にその場から連れ出された、階段を下るのにかなり苦戦していたがなにも考えられなかった。

後から聞いたけど、その間あたしは叫び続けていたらしい。勇也を何回も

でも一瞬だけ不思議な感覚があった。脳に直接、何かが響くような、身体が何かを感じ取ったようななにかを。


「勇也・・・?」

「なに?どうしたの?」


あれから何分経ったかはわからない。けど何度も轟音があったからまだ害悪種は退治されていないだろう。かろうじて動けてはいるけどどこが安全かなんてわからない。それに勇也が心配だ。

担いでくれていた未来がその場で崩れてしまい、一緒に座り込んだ。

体力的に限界が来たのだろう。


「大丈夫、未来?あたしにせいで・・・」

「ほんとだよ。あとで服おごらせちゃうからね」


この場でも冗談が言えるなんて未来はかなり肝が据わっている。


「でもなんでこんな所に害悪種が・・・」

「・・・!?梢香危ない!」


咄嗟に頭を隠した。

一瞬、窓にさっきの害悪種が見えた。それを未来は見て反応したのだろう。

顔を上げると前方に壁を破壊して入ってきたであろう害悪種。

しかし、なぜか翼が生えており、ところどころ傷を負っているかのようだった。


とりあえず未来とともにまた逃げなければ思い、未来を起こそうとすると反応がなかった。


「未来・・・?未来!!」


体を揺するも反応はなく、梢香の手にはべっとりとした生暖かい感触があった。


()だった。


破損して飛んできた壁の破片に当たった際に出血したのだろう。そして当たり所が悪く気を失ってしまった。


「嘘でしょ・・・なんで・・・」


害悪種が一歩づつ、その力強く重そうな足で近づいてくる。


どうしてこんなことになったのだろう。


嘆かずにはいられなかった。自分のせいで友人を危険にさらし、自分たちがなぜ襲われないといけなかったのか。


「ごめんね未来、せめてあなただけでも無事にいてね」


未来の体を床に寝かせる。そして立ち上がる。せめて彼女が無事でいられるように、犠牲が自分だけで済むように、こちらも一歩づつ害悪種に近づく。


せめてもの抵抗で壁の破片をもって不格好に走り出す。叫び声をあげ破片で殴り掛かるも左前脚に急に生えた鋭い爪で切り裂かれる。制服を貫通して肉をえぐられ、教室側の廊下にたたきつけられた後、床に倒れこむ。


「づぁ・・・・が・・・ぐぅ・・・」


肉体の痛みだけじゃなく、視界がゆがむ。害悪種がねじれて見える。呼吸も細くなってきた。



あぁ。聞いたことあるな。害悪種って毒とか変なガスもってるんだっけ・・・



害悪種が近づき右前足で倒れた体の左肩を抑える。



何も感じない・・・肩の骨折れたかな・・・死ぬのかな・・・



気色の悪い蛸足と口が顔を覗く。ぬるっとした粘液のようなものが垂れており、口周りのは牙も見える。



はざーどってにんげんたべるんだぁ。いやだなぁ


顔周りの触手の一本が梢香の右足にまとわりつき体を持ち上げる。

自らが空けた廊下の穴の近くに立ち梢香を校舎の外につるし上げるように出して、()()()()()


ここでしんじゃうのかなぁ・・・


空に投げられ、無抵抗に梢香は落ちていく。


いさや・・・ごめん


体全体で冷たい風を感じながら目を閉じた。


だけどそれは長く続かなかった。


「梢香ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


優しい声が聞こえた。優しく、暖かくて、頼もしくて、安心する声だった。

でも今の声には怒りと焦りが強く混じっていた。

体が受け止められる感覚があった。それだけは感じれた。

閉じたばかりの目を開く。想像とはかなり違う見た目だったけど確信があった。


「梢香!!しっかりしろ!梢香!!!」


かすれて弱まったか細い声でこう言った。普段の声からは想像もできないほど小さな声で。


「い、さや・・・やっ・・・ほー・・・」


その言葉を発すると再び目を閉じた。


「梢香・・・!」


かわいらしい顔には怪我や血、砂埃で汚れている。美人というよりかはかわいいよりだと周りから言われていたっけな。

発育がよく健康だった身体には出血と深い傷。中学時代は陸上部で県大会まで行ったあの優れた身体がだ。


『現状、気を失っているだけです。しかし最短で害悪種(アレ)を駆除し、応急処置をしなければ希望はありません』

「そうだな。じゃあまず・・・」


()()()()()()()()()()


『【アイ・ソード】自立モード起動』


ブラックロードが発すると腰部についていた2本の黒い筒アイ・ソードが勝手に外れた。

その筒から蛍光色の発光するビームの刃みたいなものが出現し、害悪種に向かいだした。


「まずはそこを・・・どけぇ!!!!」



放たれた二本のアイ・ソードはまるで人が握っているかのような挙動をする。

袈裟斬り、逆袈裟斬り、真向斬り、突き、様々な方法で斬りかかるが、

害悪種もそれを落とそうと右前脚を挙げて振りかぶる。

が、接触ぎりぎりのところで躱す。

脇腹に刃が当たり、そのまま斬られた。


「フグォン!!」


その後も圧倒的な速度でアイ・ソードは襲い掛かる。

知能があるのかわからないが一度、外に飛び出し逃走を図ろうとするが、

足を地面から離したタイミングで無感情な剣は両翼を切り落とす。


「ヌゥゥアォン!」


情けない吠え声を発して地面に叩き落とされる害悪種を横目に一度校舎の中に入る。


「梢香、ここでまっててくれ」


ほんの一瞬だけ、梢香だけを連れて病院に駆け込む考えがよぎる。

地面でうずくまっている害悪種を確認した。

でもあれを放っておくとさらなる被害者を出してしまう。

梢香を校舎内の廊下に降ろすとすぐ近くに同じクラスの女子も倒れていた。


「確か・・・青葉だっけ。ごめんな。すぐに戻るから」


ここで逃げることは簡単だ。だけどきっとそれをして梢香だけを助けても、

きっと梢香は許してくれないだろう。ヘタをしたらあたしが死ねばよかったなんて言いかねない。

だったら単純だ。速攻であれを倒してみんな助ける。これしかない。

二人を少し離れた場所に移して勇也は空に跳び出した。

落下しながらブラックロードは語りかける。


『害悪種との戦闘経験は?』

「んなもん、あるわけないじゃん」

『ではサポートいたします。【リッパー】着脱』


両つま先に装着されていた黒の短剣が両手に握られる。

刃渡は30センチくらいだろうか。

程なくして地面に着地する。特に衝撃とかは感じられなかった。同時に、アイ・ソードが腰に戻ってくる。


『あなたの記憶を勝手ながら拝見させていただきました。壮絶な過去をお持ちですね』

「勝手に見んなよ」

『失礼。格闘技を嗜んでるご様子で』

「じいちゃんの仕込みだよ」

『それは素晴らしい。ではこのリッパーが相性がいいと思われます』

「相性も何も包丁以外の刃物握ったことないって」

『大丈夫で__』

「サポートする、だろ。もうわかったって」

『承知いたしました』

「攻撃受けたら痛いよな?」

『ご安心を。私は丈夫です』

「返答になってないし…」

『おっと起き上がりましたね。こちらに向かってくる気ですよ』


あのでかい図体がこちらに走ってくる。今までよりも殺気じみたものを強く感じた。途中で跳躍をして高く飛びかかる。

かなり上を向かないと見えない角度だ。リッパーを逆手持ちで構えさせられる。相手の爪先が近づく。


「ここ」


顔面に接触する数センチ前に首を横に傾げる。

害悪種の攻撃は当たらず、リッパーを順手持ち構え直し胴体の裏側にリッパーを刺し込む。そうすると刃を動かさずとも自分の取った動きで後部まで斬り込みが入る。


第三者の視点から見ると勇也の上空を通過したら謎にもがき出した変な行動に映るだろう。


『お見事。よく慌てずに回避できましたね。それも動かずに』

「どーも。最初からかなり単調な動きだったからそりゃ慣れるよ」

『いいえ、それはあなたが変なだけです。常人はわかってても対応できません』

「おいおい、まるで俺が変わりもんみたいなこと言うなよ。記憶見たんだろ?じいちゃんに無理矢理格闘技やらされてたからだよ」

『それだけでは説明がつきま…いえ、後にしましょう』


再び害悪種は翼を生やす。おぼつかない足取りでさらに羽ばたこうとする。


「逃がすかよっ!」


手に持っていたリッパーを投げた。狙いはヤツ(害悪種)の翼だ。

しかし球技があまり得意じゃなかったのを忘れており外してしまった。


「やばっ」

『【ブレイド】』


左右から手首の位置くらいに収容されていた手甲剣【ブレイド】の銀色の両刃が姿を見せる。

リッパーよりは長く、アイ・ソードよりは短い刃渡りだ。

害悪種がその翼を羽ばたかせ地面から離れつつあるので走り出す。

その途中で地面を強く踏みしめ、力を溜める。

それを空に向けて開放。圧倒的な速度で害悪種に詰め寄る。

ブレイドを交差して構え、接近する。


「これで・・・終わりっ、だぁ!!」


そしてあの大きな図体を斬り裂き、貫いた。

着地すると後方でどぼん、と気持ちの良くない音が聞こえた。


「クォン・・・!」


害悪種が地面に堕ちた音、そして形が保てなくなったのか紫色の蒸気のようなものになって消えていった。


「・・・終わった?」

『害悪種生体反応完全に沈黙、害霧(がいむ)に変化し無効化に成功しました。お疲れ様です、“アーカー”イサヤ』

「なんだそのアーカーって」


ブレイドが収納されながらブラックロードに尋ねる。

そして急いで梢香のもとに駆けつけようと走り出す。


『我々、アーキファクトが選んだ人のことです』

「選んだ?お前が?俺を?」

『言ったでしょう、あなたをお待ちしていました、と』


その発言の意味が理解できなかった。

だってこっちはアーキファクトのことなんて考えることもなかったんだから。

それにこのブラックロード?とかいうのも今思い返せば理解不能なことを最初に言っていた。

ルーカラ王国?騎士?前世界?とても2024年の日本で聞ける言葉ではない。

でも一つだけ言葉が出た。


「なぁ、アーキファクトってなんなんだ?」

『はい、我々アーキファクトとは・・・』


ブラックロードが問いに答え語りだすとレーダーに新たな反応が発生したシステム音が聞こえる。


『お待ちをイサヤ、新たな害悪種反応です。それも2体』



誤字脱字指摘あったら直します。

指摘お待ちしてます。

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