扉が開けば
「なあ聞いたことあるか?」
学校帰りの帰り道、歩く場所によっては夕日が邪魔なくらい眩しい時間帯。
この時間の商店街には道行く主婦らしき女性はエコバッグに食材などの数多の荷物を入れて小さな子供の手を握っており他にも自分たちと同じような学生が自転車に乗って車道を駆け抜ける。
「アーキファクトってドアを開けた瞬間に出てくることがあるらしいぜ。だから俺最近めっちゃドアの開けしめやってんだよ。勇也も今度一緒にドア開けしめやんね?」
2024年になってもあんなおっかないブツがドアを開けたら出てくるなんて都市伝説、いや陰謀論だとしても信じることができるか。こいつは高校一年にもなって何を言ってるんだ。
「あんなのがそんな簡単に出てきたらたまったもんじゃねえぞ。実際、アーキファクトなんてみんな似たような形じゃんか」
「いやいや。お前金垣晃さんの夜半知らねえの?あんなよく上飛んでる黒くてゴツい不格好なのじゃないんだよ。上見てみろ!アレとは違うんだよ!アレとは!」
空を指さしたので頭を上げると5機、確認できた。
青色が2機、黒色が3機。安定した体制で空を飛んでいる。
「ほー」
「あの戦いぶりはまさしく侍!!日本男児なら憧れないわけがない!!」
「たしかによく考えたらあの人と周りの人だけなんか違う気するもんな」
「そうなんだよ!!他にもマンティスやガバフガン、この海瀬弦が詳しくぴったりみっちりがっちりむっちりおしえて___」
「あ、勇也ー!」
むさ苦しい海瀬の長話が始まりそうなタイミングでその空気を壊すように可愛らしい女子の声に呼ばれた。
「あれ、梢香じゃん。どしたの?」
中月梢香。家族ぐるみの付き合いがあるので昔からの腐れ縁。
というかもはや家族。
人懐っこく明るくて黒髪のふんわりとしたボブ以上セミロング未満の髪型が特徴的なとてもかわいい女子だ。
「ちょっと女子会の帰り。ねね、今日は家来る?」
「ば!?」
「あー、そうだな。行くわ。姉ちゃんによろしく」
「うん!わかった!・・・っと呼んでるから戻るねー!」
「おーう。また後でなー」
「またあとでー」
手を振りながら元いた女子たちのへ駆け足で戻っていった梢香に手を振った。
すると何故か海瀬が鬼のような形相でこちらを睨んできている。おまけに震えている右手も添えて。
「おめえ今の同じクラスの中月だよなぁ!?あ”ぁ!?なんで入学1ヶ月ちょっとでそんな家行くだのなんだのな関係になってやがんだぁ”!?」
胸ぐらをつかまれツバが顔面にかかりながら怒鳴られた。
「落ち着けよ。幼馴染なんだ。」
「だとしてもなんでそんな距離感近えんだあ”ぁ”ん”?」
「んー・・・なんでだ?」
「だぁぁぁっぁぁボケカス死ね!!!!!」
悲しき怒りがそこらへんにちょっとだけ響いた
その晩
中月家にて長女が愛情と丹精を込めた本日の献立はカツカレーと野菜サラダ。
市販のルーとはいえ同じように作ってもきっとこんなに美味しくはできないだろう。
カツもそうだ。衣の厚さに揚げ加減、完璧に俺好みだ。さすがは俺の初恋の人といったところか。
我ながら誇らしいな。今月は仕事の当番だからこの食事の感想を伝えれないのがとても残念だ。
思えばあの時も礁愛姉ちゃんは・・・
「あ、ねえ今日一緒にいたのって海瀬くんだっけ?」
人が気持ちよく回想に入ろうとした所だったのに梢香がそれを邪魔した。
「あん。そーだよ」
「仲いいの?」
「まあね。席近いし。あいつめっちゃアーキファクト詳しいよ」
「はっ、海瀬ってあの坊主の暑苦しそうな子でしょ。うちのクラスからでもたまに聞くわよ」
悪態をつくように会話に入ってきたのは中月梢葉。梢香の双子の妹の三女。
明るい茶髪でくるくるのツインテール。梢香と違いツンケンしていて基本的に出てくる言葉は否定の言葉か貶す言葉だ。ちなみに学校は同じだけどクラスは違う。
「そうだよ。めっちゃおもろいぞあいつ。梢葉も喋ってみれば?暑苦しいけど」
「え、そうなの?」
その癖やたらピュア。
「いいなぁ。高校って楽しそう・・・」
ぼそっと言葉を漏らしたのは中月家四女、末っ子の中月聖奈。
梢香に似た黒髪のボブ。ただかなり変わっているのがインナーカラーとして髪の内側が明るめの桃色。
これは染めているとかではなく地毛らしい。末っ子なのでかなり甘え上手でやや人見知りがあるが素直なとてもとてもかわいい。俺自身も結構いろいろ甘やかした記憶がある。
「聖奈も来年の受験頑張れよ」
「そうよ。こんなバカが受かるんだから今の成績キープしながらちゃんと勉強すれば問題ないわ」
「そうだぞ。俺でもやれたからいけるいける」
「そうだね・・・勇也お兄ちゃんでも行けたんだもんね!」
あぁ、平和だ。大事な人たちと食卓を囲むだけでこんなに食事が美味しくなる。
話し、笑い、また話す。それの繰り返し。
暖かいな。落ち着く。ずっといたい。
『い・・・さや・・・』
『逃げろ・・・』
起きた。すぐさま。
過去の光景が不意に現れる。脳裏に刻まれた燃え盛る旅館。その中で必死に自分を逃がすために火に焼かれた両親。自分の根底にある忌々しい記憶。旅行に行きたいだなんてわがままを言わなかったら今もこの家には3人、もしかしたら4人で暮らしていて中月家みたいに笑っていたかもしれない。
涙を流した。感覚でわかる。
これを見るたびにそこからあとは眠れなくなるが、時計を見ると午前3時34分と表示されていた。
「なんだ結構寝れたな」
せっかく早く起きれたんなら中月家にお礼として持っていくお菓子でも作ろう。
「3時間あればクッキーは作れるな」
台所に立ち棚から小麦粉etcを取る。たまに、こうやって一日が始まることもある。
我ながら力作のクッキーができた。
梢香と梢葉には登校中に渡したし聖奈と礁愛姉ちゃんの分は中月家に置いてきたしちょっと余った分は海瀬と他の友だちにあげたし満足満足。
あとは1限目の授業をテキトーに聞き流そう。しっかしやけにいい声だよなぁあの先生。
威圧感の裏にある優しさが感じれる頼れる大人って感じの声。担任も兼任してるから高頻度で聞けるし。あ、外の木にスズメが。かわいいなぁ。癒やされるなぁ。今日は唐揚げでも食べようかなぁ
「知っての通り現在、この日本という国の何割かは侵食地となっている。九州と四国の一部は完全に害悪種のテリトリーにな」
窓の方に向いていた目線が不覚にも手元のタブレットに向いた。
「害悪種と侵食地は一体のもの。害悪種は侵食地から生まれる。あるいは発生する。あの生命すべてを奪わんとするおぞましい化け物がだ」
害悪種、キメラのように多様な生物の特徴を入り混ぜた毒々しい色をした命を奪うもの。積極的に人間や動物などの生物に襲いかかり喰らうとても恐ろしい生物のようなもの。
「18年前に長崎で突如発生した大規模侵食地の発生、そして害悪種による侵食活動。そこから4年で九州は奴らの手に堕ちた。これを第一次大規模侵食という。そして侵食地の発生条件は未だ明確な理由は判明はしていない。次のページへ」
タブレットをスワイプして次のページに移る。今度は対策兵器『アーキファクト』、それを研究開発するHASTの説明と四国の一部がなぜ害悪種の手に堕ちたかだ。
「一次侵食発生から半年後に投入された対害悪種用人体装着型機動装甲、通称『アーキファクト』。人間が装備し汎用性と利便性を兼ね備えたここ数世紀の中でも最高の開発と呼ばれるシロモノだ。これがなかったら1年もかからずに九州は堕ちていたと言われるほど強力な兵器だ。最近はメディアの露出も増えてきて目にすることも多いだろう」
昨日の海瀬との帰り道で見たな。空を飛んでいたあの黒と青の機械の装甲を纏ったアレを。
「侵食地には人体に有害性のあるガスが害悪種発生の副産物として放出される。幸い短時間で消滅するため基本は侵食地からは出てこない。アーキファクトはそのガスを無効化する機能があるため戦闘用の他にも被災地支援に特化したものも開発されている。そこにも映っているだろう」
黒いアーキファクトは基本は戦闘用、青色は支援用。他にも救助に特化した赤と白の機体に特定の個人のためだけのワンオフの機体も存在するようだ。
「HASTは長くなるから一度飛ばそう。第二次大規模侵食は四国、8年前だから君たちも知っているだろう。後手の対応になってしまったものの前回の九州の経験からかなり被害を抑えつつ立ち回ることができた・・・おっとここまでか」
教師が話している途中で鐘がなり休み時間に入ったことを知らせる。
「次はたしか体育だったな。チャイムまでには体育館にいるように・・・っと。女子の更衣室が壁の改修があってな。体育館横の空き教室を今日は使ってくれ。じゃ」
終業の号令もなしにタブレットを脇に抱えて教師は部屋の外から出ていった。それと同時に生徒も立ち上がる。女子は着替えが入った鞄を持って、男子は学ランを脱ぎだす。
「あ、ねえねぇ勇也」
俺もと脱ぎかけたタイミングで梢香が話しかけてきた。
「ん?どした?」
「あのね、今日からお姉ちゃん夜帰ってくるんだって。一緒にご飯どう?」
「まじか!礁愛姉ちゃん帰って来んの!行くよ行く行く!」
「そういうと思ってたよ。お姉ちゃんに連絡しとくね」
軽く梢香がはにかむと女子友達から遠くから声をかけられていた
「梢香ー。先行くからねー」
「うんー。すぐ行くよーー・・・じゃあ、また後で」
嬉しそうにカバンを持って教室から出ていく梢香。
すると両肩に恐ろしく強い力がかかる。
「イィサァヤァァ・・・」
「おいおいおいおい抜け駆けはよくないじゃんねこのくそボケが」
右肩を掴んで呪いかと思うほどドスが効いた声は海瀬、左肩の飄々とした声確の裏に妬みが混ざっているこの声は木村直人だ。
「直人ぉ聞いてくれよぉ。こいつ昨日帰ってる時に中月と親密に話してたんだぜぇ」
「ほぉんそら許せんなぁ。俺がバイトでクソ客にバーガー作ってる時にお前は女子とイチャつきかゴラァ?」
「我らリア充絶対アンチの、RZAの掟を忘れたかおぉん?」
「勝手に入れんなってそれに・・・」
あたしが一緒にいるからね
あの時、病室で握ってくれた手と言葉を俺は一生忘れることができないだろう
あの時、俺は救われた。その言葉に、優しさ、哀れみ、ありとあらゆるの思いが詰まった言葉に
あの時、決めたんだ。俺の人生は梢香の幸せのために使おうって
だから俺は守り続けるんだって
「・・・梢香とは家族みたいなもんだし」
「お前みたいなやつはそう言うんだよ!」
「そうだそうだ!俺等の悲しみ辛み怒りを思い知れ!」
「あばばばばばば!」
両肩を激しく揺らされるついでに脳みそもシェイクされる。
こうやって友達とふざけている時も楽しいものだ。
このまま青春を謳歌できれば、これからもきっと明るく楽しく過ごせる。
そうすれば苦しくてつらいあの記憶も___________________
轟音が響いた。
建物が崩れるような、爆発をしたような。とにかく、破壊という行為が起こったであろう轟音だ。
「・・・梢香!!!」
最悪なことに気付く。梢香が出ていった方向と轟音の方向は同じだ。
そして次に誰かが叫んだ。
「は、は、害悪種だぁぁぁぁぁ!!」
その叫びにクラス全員が動揺する。それもそうだ。さっきの授業で害悪種は侵食地からしか発生しないと教わった。いや、教わらなくても当然のように知っている一般知識だ。この場に害悪種が出たということは誰にも気付かれず害悪種が襲来したかここが侵食地になったかの2択だ。
「害悪種・・・?なんでこんなとこに・・・勇也、直人、逃げよう!」
勇也には海瀬の声は聞こえていなかった。そこから突き放されたかの様に身体が動いていた。
梢香!!!
ばぁんと強く引き戸のドアを開け左を向く。
窓側の壁に突撃したかのような大穴が空いていた。そしてたまたまそこに居合わせた休み時間に移動をしようとしたものや友人と話をしていた生徒たちが怪我をしていて倒れていたし唖然としていた生徒もいる。
その先に奴はいた。
害悪種だ。
四足歩行の毒々しい紫色の見た目。例えるならかなり成長した虎のような足、馬のような胴体、何より不気味なのは触手にも見えるタコの足と口が顔面にあるということだ。
だがこいつの先にいかないと梢香の無事が確認できない。
「っ・・・うおぉぉぉぉぉぉぉ!」
全力で走り出す。
それに反応したのか害悪種も吠えた。
不気味な金切り音のような音とどろっとした液体が落ちるような音が混ざった音だ。
害悪種との距離が近くなる、やつが右前足を上げて俺を潰そうとするのか引っ掻こうとするのかは分からない。
「わっとっ!」
その足を勢いよく下ろす前にスライディングをして股下を抜ける。
体制を整えて再び走り出すと、害悪種はこちらを向きアンバランスに走り始める。
おおよそ生物が走るフォームとは思えないフォームだ。
体育館への最短距離は連絡用廊下を抜けることだ。まずはそれだけを考えろ、他にも害悪種がいるかも知れない。くそっ!なんで俺等の教室が校舎の端っこで一番遠いんだよ!
速度的には俺のほうが勝ってる。このまま撒ければ・・・
「キュシュヲォォォン!!」
害悪種がまた吠えたと思ったら口の近くに光る球体があった。
「おいおいまさか・・・」
「フルゥォン!」
最悪な予想どおりのビームだった。あたったらきっとやばい、ひとたまりもない。
反射的に右側に跳び地面に仰向けになると一直線に光線が発射され向かいの壁に当たった。
光線はそのまま壁を貫通し丸い形に穴が出来てしまっている。
再び走り出す、連絡用通路はその壁の近くだしもうそこまで来てる。
ドアノブを握った 回った 押せた
「行ける!」
そう思った瞬間だった。害悪種が跳ねて壁に足を着け、さらに跳ねてこっちに驚異の速度で急襲する。
あ
ここで終わりだ
ごめん、梢香
ドアはそのまま押されているので身体がドアを開け、向こうに入った。
「うがっ、ぐうあぁ・・・」
足を踏み込むことを忘れていたので倒れ込んでしまった。
「え・・・生きてる・・・というか・・・ここどこだ?」
今いる空間には黒色しかなかった。
周りを見渡しても悪種も、生徒も、校舎すらも何もなかった。
けれど、起き上がると視線の先には何かがあった。
「アーキ・・・ファクトか?」
先の授業の資料で見た戦闘用アーキファクトに似ている人型の機械がそこには立っていた。
初めてアーキファクトをこんな近距離で見た。
大きさは人の身長より少し高く、幅はガタイのいい格闘選手のようだ。
感じるのは、まるで俺を待っていたと言っているかのようだ
一歩一歩、それに近づく。
『___あなたをお待ちしていました』
丁寧な口調でやや低い男性のような音声が聞こえ、人間でいう頭部に位置する場所の目の部分が緑に光った。
『私の名前はブラックロード。前世界ではルーカラ王国の騎士として国に仕えていました。この出会いより、あなたの振るう剣としてお仕えします』
ブラックロード?ルーカラ?王国?騎士?
よくわからない。理解ができない。今、俺に必要なのはそんな知識じゃない。
「なぁ」
『どうされましたか。十八勇也どの』
「お前を使えばアレ、倒せるか?」
その質問を待っていたのか機械とは思えない感情を感じる声でこう言った。
まるで任せろと言わんばかりだ。
『無論です。私の八剱ならばあの程度、負けるわけがありません』
発せられた言葉を信じる。手を差し伸べられた。その手に触れた。
瞬間、世界がホワイトアウトした。
誤字脱字指摘あったら直します。
指摘お待ちしてます。