夫は資源ごみになるそうです
「………」
息を少し乱しながら、離してしまった首を見つめる。
好きだった人の顔は次第に薄く、青白くなっていく。
四肢をバラし、黒いポリ袋に詰め込む。
明日は燃えるゴミの日
このゴミも一緒に燃やしてもらおう……
そのまま私は眠った。
いつも通り、朝少し早く起きる。
夫は居なくなったのに……と落胆したが、気持ちを入れ替え朝のジョギングに出かけた。
夫がいれば出来なかったこと。
私は予定より三十分長く歩いた。
そして家に帰り、ゴミを出し、床についた血を落としていた。
「こんな朝から……」と思いながらも、それでも夫がいなくなった喜びの方が大きかった。
ピンポーン
不意にインターホンがなる。
ドアスコープを覗くと若い作業服を着た男が申し訳なさそうに立っていた。
血がついているのは幸いにもリビングだったので、大丈夫
「はーい…」
「すみません……私こういうものでして……」
と、丁寧に名刺を渡してくれた。
『○○県□□市△ゴミ収集職員』と書かれていた。
こんな職業にも名刺があるのだと少し驚いたが、それと同時にゴミを見られたのではと不安にかられた。
「どう言ったご要件で……」
少し震えた声で尋ねる。
「実はこちらの旦那様なんですが、燃えるゴミなどではなく、資源ごみ回収の日にお出しいただけたらなと思いまして……」
「は?」
い、意味がわからない
まずこの人にはゴミの中身を見られたということ
そして燃えるゴミではなく資源ごみで出して欲しいということ
まるで意味がわからない
しかし私の脳みそはあることを優先させた。
「どうか、警察にだけは言わないで……」
捕まりたくはない
せっかく手に入れた安息の日々
こんなところで失いたくは無い
だからどうか……
「あっ全然大丈夫ですよ」
「え?」
少し笑いながら男はそう言った。
ここはもう少し、
「じゃあ秘密にしておく代わりに体で償ってもらおうかな……」とか
「言わないであげるから、僕の言うこと聞いてくれるよね?」みたいなことを考えていたのだが、実際そうではなかった。
あっさりしすぎている、怖いほどに
続けて男は言った。
「元旦那様は燃えるゴミではなく、資源ごみに出され、別のもの生まれ変わるのです」
しっかり私に配慮してか、「元」旦那様と言っていた。
それより気になるのは再利用だ。
「例えば、何に生まれ変わるのですか?」
「それは人によって違いますね、例を挙げると、肥料だったり、彫刻、おかしいものだと黒魔術に使われたり、多岐多様ですね」
元旦那が彫刻に使われているのは少し見てみたい気もするが、そこは抑えておく。
「じゃ、じゃあ明後日にもう一度ゴミ出しすればいいのね」
「ありがとうございます、では私はこれで」
そう言って家の裏にある庭にゴミ袋六つ雑に置いた。
明後日でようやくお別れができる。
それでもあの男を信じていいのかと心の中では葛藤していた。
この二日の間にどこか山奥にでも埋めた方がいいのでは、そういう考えも出てきたが、あの男を少し信じてみることにした。
「資源ごみの回収に伺いました。」
インターホンを通して、男が言った。
「ポストの前に置いてあります」
そう言うと男はポリ袋を持ち、軽トラックの荷台に放り込んだ。
「それとひとつおうかがいしたいのですが……」
男が袋を全て乗せたあと、私に質問をしてきた。
「好きな物はなんでしょうか?」
「は?」
あまりにも脈略にない言葉に、うっかり素が出てしまい、慌てて口を抑える。
「なんでもいいのです。おにぎりであったり、ネックレスであったり、世界であったり、なんだって構いません。おひとつお答えいただいても……」
私は少し考えたあと「クマのぬいぐるみ」と答えた。
夫に捨てられたぬいぐるみ
今ならなんでもいいよね……
「ありがとうございます」
そう言うと、特に変わった様子もなく、そのまま軽トラは走り去って行った。
数日後
「お届けものでーす」
少し小さめのダンボールが届いた。
中を開けてみると1枚の紙とぬいぐるみが入っていた。
ぬいぐるみは薄い茶色でとても可愛らしい
が、少し嫌悪感を感じる。
紙にはこう書かれていた。
『資源ごみの回収のご協力ありがとうございました。』
『ご協力のお礼といたしまして、ぬいぐるみをプレゼントさせていただきます。』
『元旦那様は新たなものへと生まれ変わりました。またのご機会があれば、ぜひご利用くださいませ。』
「2回目なんてあるものか」
そう言うと、ぬいぐるみを自分の部屋に飾り、友達と久しぶりに出かける。
夫がいる時には出来なかったことだ。
これほど嬉しいことは無い。
「ただ……」
家のドアに手をかける。
何かがおかしい、私の勘が警鐘を鳴らしている。
玄関に置いてあった傘を手に取り、忍び足で家の中に入る。
家に入り、キッチンや風呂場の水回りを見る。
何も変わっていない。
「じゃあ……」
考えたくは無いが、残るは私の部屋のみ
部屋の前に立ち、勘がおかしいことを祈るだけである。
「……っ!」
勢いよくドアを開け、目の前に広がる光景に言葉を失う。
私の部屋にあったものが散乱し、空き巣にあったみたいになっている。
急いでネックレスや銀行の手帳などを探してみる。
「……ある…………全部ある」
不思議なことに、何も盗られていない。
「まさか」と思い振り返る。
ぬいぐるみと目が合った。
その瞬間、腹の底に重く冷たいなにかが落ちた。
夫に殴られた時と同じだ。
私はすぐにキッチンにある包丁を手に取り、ぬいぐるみに突き刺した。
何度も何度も何度も何度も何度も
夫にやったように
「お久しぶりですね」
「今回は袋は一つだけですね。なにか1つ好きなものを……あ、そうですか、何も必要ありませんか……」
「では私たちはこれで」
「もう二度と会うことはないでしょうね」