第3話 上級回復師の嘘
神よ。どうか、どうか。私を救ってください。こんな私を、どうか、助けてください。
彼女は祈っていた。全身全霊で、そして弱々しく。
「私はこの身を大いなる神のために使います。神に導かれた皆様を守るのは当然のことです。」
この国の王に選抜されたパーティ、ファネスタ。そう、あたし、フィズたちのパーティの名前。
マジでカッコいいAIロボットJDくん。
なんか自然?「ねいちゃー」……なんとか?の使い手の僧侶のヨシツギくん。
魔法学院をいちばんで卒業した、世界で10人のひとしか使えない、上級魔法を使える魔法使いメルちゃん。
世界最強、らしい格闘王ってひとに、なんか、「俺より強い」って認められたらしい勇者、アレくん。
ほんと、みんな、なんか、すごい。
けどね。あたしだって、何もできないわけじゃないんだよ。
夜。あたり一面、満天の星空。
「すごーい……きれい……」
メルちゃん、都会出身なのかな?私はこの空の明かりを見続けて、正直飽きちゃってるんだよね。
「魔族地区。どんな地獄かと思っていましたが、今のところ良いところしかありませんね。」
ヨシツギくん、この辺来た事ないんだ。へー。
「星空にはリラックス効果がありマス。皆さんはできる限り沢山目にインプットしておくのが良いでショウ。」
さすがAIロボットのJDくん。本名は忘れたけど、なんでも知ってるんだね。ところで、「インプット」ってなに?
まあそんなこと聞けないんだけどね。聞く必要もないけど。
「星空は神の導き。星の導きによって私たちは生かされているのです。」
そう、星の導き。そんなちんけなものにあたしたちが動かされている。
馬鹿馬鹿しい。
そんなわけないじゃん。
神さまなんて、いないんだよ。
あたしは神を信じていない。というより、神はいない。あたしが欲しいのは神の加護じゃない。「ちから」だ。
あたしの家族は魔族に殺された。
この国では、魔族を殺してはいけない。そして、魔族も人間を殺してはいけない。そーゆー決まりになってる。
けど、ほんとに悪いやつって、そんな決まりも破ってくるんだよね。いわゆる犯罪者ってやつ。
お父さんも、お母さんも、お兄ちゃんも、妹も。
みーんな、魔族に殺された。
まだ5歳だったあたしは魔法も使えなかった。みんなを助けられなかった。震えて、泣きながら、家の棚に隠れて、神に祈るしかなかった。
「神さま、どうか、みんなを助けてください。私の全てを貴方に捧げます。どうか……」
でも来たのは悪い魔族だけ。
あたしを助けてくれる神はいなかった。
あたしは、独りだった。
魔族の襲撃のあと。あたしはバレずに生き残った。
あたしは絶望していた。
すぐに駆け付けた警察の人にあたしは保護された。そのあと蘇生班も来て、家族のようすを確認してたけど、蘇生は不可能。
あたしは孤児院に引き取られることになった。
そこでは、神を崇拝していて、神から授かりし特別な魔法を使い人を救う、ということを掲げている。
魔法。あたしは、ちからが欲しい。
どんな悪いやつが襲ってきたって。
絶対に、あたしは死なない。
あたしが、死ぬまで。
家族を殺したこの恨みは、絶対に忘れない。
「魔族って、悪いやつ多いんでしょ?正直ちょっと不安……」
メルトがヨシツギに近づく。
「大丈夫ですよ、私たちなら。本当にいざとなったら、フィズ殿に上級回復魔法を使っていただければ、問題なしです。」
ヨシツギは相当あたしのことをほめてくれてる。
もうあそこで寝ちゃってるアレンが言ってた、決まりごと。
それはあたしにとっては、守るのが不可能。
だって、もう、孤児院のお母さんとも、警察のひととも、ましてや神さまとも守れていない。
あたしは、あたししか信じない。
「私はこの身を大いなる神のために使います。神に導かれた皆様を守るのは当然のことです。」