第2話 上級魔法使いの嘘
メルトは、考えていた。思考の端から端まで、全神経を使って。そう、彼女にとって、本当に大事な、人生の選択肢。
この選択肢を間違えれば、きっと後悔する。
でも、私は、今の私だけは、どうか。
彼女は、心のままに、この言葉を口にした。
「うん!嘘はつかない、絶対に約束するよ!」
私たちは、この国の王様に選抜されたパーティ。名前はファネスタ。
このパーティは本当にすごい。私がこのパーティに入っているという事実がもうすごい。
神に選ばれた存在、「ギフト」の持ち主で上級回復師のフィズ。
最強の軍事技術組織、「AP3」の最高傑作JD6054‐26。
すごく聞き上手で優しい僧侶のヨシツギ。
そして、世界最強の人類、格闘王の一番弟子で、実戦経験の豊富な勇者、アレン。
このメンバーがいたら、絶対に魔王も倒せる。魔王どころか、魔族まで全滅しちゃいそうなくらいの戦力。
アレンも同じ考えみたい。
「だね!私たちなら大丈夫だよ!」
私、上級魔法師メルトもそのパーティの一員。超すごいんだからね。
まず、魔法学院を首席で卒業したのよ。総生徒数300人くらいいる中で成績1位。そう、360人のうちの、1位ってこと!
それに、世界で10人しか使えない、秘められた上級魔法を使えるのよ!
ほら、すごいでしょ!
すごい、でしょ?
すごい…………よね?
うん。正直、すごくないよ。
魔法学院を首席で卒業した、なんて字面はいいけど、私たちの学院がどれだけ酷かったか。
誰一人、テストで点を取ろうと思っている子なんていなかった。それに、内容が本当に酷い。魔法印の基礎式なんて5歳の子でも出来る。そもそも、出席してる人の方が、圧倒的に少なかったわね。
世界で10人しか使えない魔法。
いや、世界で10人しか使わない、の間違いかしらね。
私の研究テーマは「納豆菌の繁殖と運用」だった。といっても、熱心に取り組んでいたかと聞かれれば、それは「No」ね。
だって、成績を競う仲間もいなかったし(そもそも作る気もなくなったし)、学院のみんな、本当にバカなことばっか。
昼間からお酒飲んだり、バイトばっかやっている子がほとんど。たまに本当にやべーやつとかが、即死魔法使ってたり、持っちゃダメな草持ってたり、法律でダメなやつとかやってるってわけ。
そんで、私はというと、まあ、できた方ではない。テストも知っている知識で満点が当たり前。それ以外の時間なんて、ほとんどがバイトか、ゲームしてるだけだった。
だって頑張りたくないし。そんで、まだ全然研究されていない「納豆菌の繁殖と運用」にしたってわけ。
最終的に、私は一人で、やってみせた。
自分の身体にかける「身体組織変更魔法」。
私の研究の成果が、これだ。
「いただきまーす。これはやっぱご飯と合わせなきゃね!」
真冬なのに半袖の服。その肘元に、茶色い豆。
そう、「納豆を肘裏から出す」魔法を会得した。
まあ、そもそも身体組織変更魔法そのものが結構最近出てきた魔法で、その対象として納豆を選んだだけ。
ただ納豆菌って、ちょっと特殊でめちゃくちゃ強い菌らしく、研究家からも敬遠されてるらしい。
そんなこんなで私は、楽して「世界で数人しかいない魔法を使える女」名声を手に入れたわけ。
お金もそれなりに貰った。
でも、満たされない。なんで、こんなにも満たされないのか。
ああ、そうか。
刺激が、欲しい。
「私たち、せっかくグループになったんだから、名前決めようよ!」
私は、純白のベッドに血を流した。
彼との出会いは、まさに運命。
唐突の国王からの召集。私は出会いを求めていた。そんな中で彼は一際輝いて見えたわ。
私は彼に求められたかった。そして、その希望は叶ったの。
でも、私たちの関係は、お互いの欲求の発散。例えパーティの仲間でもそれは言えない。
だからこそ、私は仮面をつける。こんな汚れた身体で、魔法を放つなんて、本当の私が許さない。
「じゃあ、アレン!決めて!リーダー、勇者様でしょ!」
アレン、あなたがパーティを引っ張っていってほしい。そうしたら、彼が考える事が少なくなる。もっと、私を求めてくれる。
「俺ら、嘘は無しで!」
ごめんね、アレン。あなたを愛する世界線もあったかもしれない。でも、私は一途なの。彼にしか、この身体は預けられない。
もしかしたら、嘘をつくしかないかも。
この選択肢を間違えれば、きっと後悔する。正直に、付き合っていると言い回れるように、彼に相談するとか。まだ選択肢はある。
でも、私は、今の私だけは、どうか。彼と結ばれた時に、全てをさらけ出して、幸せになりたい。
彼女は、心のままに、彼女の想う気持ちのままに、この言葉を口にした。
「うん!嘘はつかない、絶対に約束するよ!」
彼との関係を聞いちゃ、ダメだよ。約束破らなきゃいけなくなっちゃう。