第1話 勇者の噓
「俺ら、嘘は無しで!」
君たちは、【嘘をつく】ことは良くないことだと思うだろうか。結論から言えば、俺は「No」、「嘘はつくべきだ」と思っている。
誰だって、皆に格好をつけたい。自分を良く見せたい。だけど、それはいつかバレる。嘘はバレるものだ。
だけど、この仲間たちといる期間、人生のほんのちょっとの時間だけは、俺はカッコイイ勇者でいたい。
「俺らなら、魔王を倒すなんて余裕だな!」
「だね!私たちなら大丈夫だよ!」
「そうですね。造作もないことです。」
「神の導きに従い、私たちの恵みに感謝しましょう。」
「親の同類が仰られたこと、守りぬくのみデス。」
5人の勇者パーティが魔王城へと向かう。そこは国の端も端っこであり、到着へはかなりの時間を要するだろう。
だが、俺たちなら問題ない。なぜ、こんなにも自信を持てるか。それは、勝てる算段があるからだ。
魔法学院を首席で卒業した上級魔法使い、神に愛され上級回復師となったヒーラー、自然と一体化し自然を操るという僧侶、世界最強と言われる軍事技術を導入したAIロボット。
王が直々に世界中から選抜し動員したメンバー。彼らがいれば、今の魔王を倒すのは簡単と言っても良い。
ただ、一点だけ。
ただ一つだけ不安な点がある。
「私たち、せっかくグループになったんだから、名前決めようよ!」
彼女は攻撃魔法使いのメルト。なんでも、魔法学院を首席で卒業した超エリート。その研究の成果は凄まじく、「世界で10人しか使えない」上級魔法を使えるとのこと。
その綺麗な赤髪が太陽を象徴するかのように、明るく、それでいて努力家。彼女の才能と力は本当に尊敬できる。
「確かに、グループとして動くなら統一感は欲しいですね。」
彼は僧侶のヨシツギ。国の東方出身であり、自然の力を操るらしい。なんでも、自然と一体化する、ことによって出来るんだとか。
そして、彼は本当に落ち着いている。物事をよく考えてる。俺自身、彼みたいな落ち着きをもって勇者をしたいものだ。
「私たちは神に選ばれた聖なる5人。であれば、互いの神に誓い、決め事を作りませんか?」
彼女はフィズ。神に愛される存在として選ばれる「ギフト」の持ち主であり、上級回復師として蘇生魔法も使えるらしい。
彼女のような信仰心は本当に見習える。神に愛されるなんて、よっぽど神を信じているんだろう。
「良いデスね。組織に決め事は必要デス。私の親も、家族での決め事は大事だぞと何度も言ってましタ。」
彼、というより、このロボットはJD6054‐26。長いのでJDって呼んでる。彼はこの国で最強の軍事技術組織、「AP3」の傑作だそう。
俺自身、こういうロボットはマジでアツい。
「じゃあ、アレン!決めて!リーダー、勇者様でしょ!」
メルトが俺に向かって大きな声で発した言葉は、皆の視線をこちらに集中させた。
そう、俺は勇者。王に選ばれた勇者なんだ。
まあ、唯一、不安点があるとすれば、
それはーーー
実践経験が無い。
14の時から10年間家に引きこもり。定職に就いたことも無いし、したいとも思わない。
特に頑張ったこともない。俺らの地方ではガクチカって言うらしいが、学院時代に頑張った事なんて本当に何もない。
まあ頑張った事で言えば、CoW(通称カウ)、“Control of World” というゲームくらい。
宇宙国家統一を目指す、精神没入魔法を使ったゲーム。その世界に入り込むことで、高い能力を得られることのできる魔法ゲームである。
ただ、実際に魔族はおろか、虫に対しても、魔法ももちろん、剣を振るったことも無い。
だが、それを周りに言う事は絶対にない。
「うーん、そうだな………魔王討伐まで一緒にいる仲間だし、隠し事はしたくないな。」
俺が隠し事をしている事も、隠したい。
俺は勇者。皆の期待を負う者。そんな者が弱いと知られれば、皆絶望し、俺を置いてどこか遠くへ行ってしまう気がする。
実践経験は今からする。それで、何とかなる。何とかするんだ。
だからこそ、この嘘は隠し続ける。
「ファネスタなんてどうだろう。俺の地方で“正直”って意味だ。お互いに正直に、真っ直ぐ付き合っていこう。」
俺は、「嘘はつくべきだ」と思う。
このちっぽけな俺の、才能を開花させるまでの間のほんの少しの間。
皆を心配させないレベルまで強くなったら。
その時には、正直に話せるように。
「あー、それで何だけど、ルールもそれに合わせようと思う。ルールは…」
ルールは、いたって単純。
この俺の嘘を隠すルール。
「俺ら、嘘は無しで!」