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8話 主寝室は恐ろしいくらい静かになる

私がアーノルドとの結婚を承諾してから1ヶ月後、私とアーノルドは神殿で誓約を行い夫婦となった。


そして私はそのまま、アーノルドと子爵家へと入った。


馬車が着いたのは、思っていたよりずっとこじんまりとした屋敷だった。庭園もあり、馬車止めもあり、体裁は十分に貴族の屋敷だが、実家のトトウ家に比べると半分もない。


「狭くて驚いた?」

アーノルドが聞いてくる。どうやら結婚したし、私相手に敬語をやめるようだ。


「いえ、そんなことはありません。」

私は敬語を貫き通すことにする。

「両親と弟とは領地で暮らしているんだ。ここは俺が爵位をもらった時に陛下から賜った家。一人だし、小さめにしてくれって頼んだらこうなった。思ってた小さめよりはずっと大きかったけど。どうぞ、あ、マリーさんも。」


アーノルドは私の手をとって馬車から降ろすと、続いて降りるマリーの事も気遣った。

マリーは私付きの侍女として付いてきてくれている。


扉を開けると、使用人達が一同で出迎えてくれた。

「お帰りなさいませ、旦那様、奥様。」

「ただいま、今日から俺の妻となるセレスティーヌだ。何一つ不自由のないように頼むよ。」


アーノルドが私を皆に紹介すると、侍女達は私を見て目を丸くしてから、小声でひそひそと話し出した。


「本当に本当だったんだわ。」「ね、旦那様の妄想だと思ってたのにね。」「でも、どんな手を使ったのかしら、あんなお綺麗な方。」「無理矢理結婚に持ち込んだのは本当かしら?」「あんな優雅な方を無理矢理なんてどうかしてるわ。」「国王陛下の命令を使ったらしいわよ。」「サイテー。」「それにしても素敵な方よね。」「社交界でも有名な方なんですって。」「あの髪の艶、何を使ってらっしゃるのかしら。」


主人の前なのに、結構ざわざわする。


「全部聞こえてるぞ!いちおう同意の上での結婚なんだから、そんな非難するような目で俺を見るなよ。ちょっと、軽蔑するような目付きは本当にやめて。」

アーノルドが注意するけれども、侍女達は白い目で自分達の主人を見るのをやめない。


どうやらアーノルドは侍女達になめられまくっているようだ。でもなんだか暖かい雰囲気も感じられる。屋敷の主人というより、これは手のかかる坊っちゃんの扱いだ。

私は思わず、くすりと笑ってしまった。


「今日からノース子爵の妻となった、セレスティーヌです。皆さん、よろしくお願いしますね。」

微笑みながらそう挨拶すると、侍女達はぴたりと黙って

「「「はい。奥様。」」」

と返事をしてくれた。良い子達のようだ。


使用人達の中から、執事と思われる年配の男性が進み出てくる。

「初めまして、奥様、執事のバートンと申します。」

「よろしく、バートン。」

「早速、お部屋へご案内しようと思うのですが、」

そこでバートンはちらりとアーノルドを見た。

「あー、俺も一緒に行こう。」


まだ非難がましい目をアーノルドに向けている侍女達を残して、バートンとアーノルドで私とマリーを部屋へと案内してくれる。


そうして私が案内されたのは、キングサイズのベッドが鎮座した広い部屋だった。


「何ですか、これは。」

私は冷たい声でそう言った。


アーノルドの腕を掴むと部屋の隅まで連れて行き、小声で怒った。

「明らかに夫婦の寝室じゃないですか。形だけの結婚でしょう?何考えてるんですか。」

「ええ、ダメなの?」

「ダメに決まっています!」

「ところで、なぜこんな隅で小声で怒ってるの?」

「使用人達に普通の結婚ではないとばれるでしょう?」

「ああ、それなら大丈夫だよ。バートン!」

「はい。」

バートンが足早に私とアーノルドに近付く。


「奥様の事情はお聞きしております。」

「私の事情?」

「はい、旦那様の一方的な片想いで王命によりやむなくご結婚されたと聞いております。もちろん、奥様の同意なしに旦那様は指一本、奥様に触れないとお約束しましたことも聞いております。」

そういえば、先ほど侍女達も゛無理矢理結婚した゛と言っていたな、と私は思った。


「ね、俺の薔薇がうちで少しでも過ごしやすいようにちゃんと皆には言ってあるんだ。だから大丈夫。」

「薔薇に変な修飾をつけないでください。」

「、、、薔薇。」

「心の中でもダメです。」


「俺の愛しい薔薇なのに。」

「やめてください。使用人にも周知済みなら、尚更なぜ夫婦の寝室なんですか。」

「いやあ、もしかしたらすんなり行くかなあ、と思ったんだけど無理かあ。わあ、睨まないで、じゃあ、主寝室は俺1人で使うから、薔薇は隣の部屋を使って。」

「用意してあるなら、最初からそっちを案内してください。ん?」


私はそこでこの部屋の奥にある不自然な扉に気が付いた。

「、、、、もしかして隣の部屋とはあの扉で繋がっていますか?」

「あー、はい。」

アーノルドが小さく肯定して、私はため息をついた。

「隣も嫌です。」

「そんな!誓って何もしないよ、夜這いにも行かない。さすがに結婚したてで隣の部屋でもないなんて俺は嫌だ!」

「信用できないんです。」


「どうして?こんなに愛しいのに。邪な想いはもちろんあるけど真剣に愛してるんだ、薔薇の嫌がることなんてしないよ。」


アーノルドは悲しそうな顔をして、必死に訴えてくる。

これは一度きちんと伝えなくてはと思い、私はアーノルドをまっすぐ見てこう言った。


「私はまだ貴方を全然知りません。なので信用は出来ません。私に想いを寄せてる、というのも正直よく理解できないんです。」


「、、、、、分かった。」

アーノルドは静かにそう言うと、ポケットからおもむろに杖を出した。

白く華奢な杖だ。


「なにを、、、。」

私は身をすくめた。魔法使いの杖は騎士で言うところの剣だ。戦闘体制ということで、アーノルドは今、私に向かって剣を抜いている事になる。


「大丈夫。危害は加えない。」

優しいがちょっと危ない光も放っている薄紫色の目でアーノルドは言ってから、何かの術式を書いて発動させた。


次の瞬間、パアアッと杖から紫の光が放たれると、光は空中で魔方陣になり私へと向かってきた。

あっという間に魔方陣が私の中へ入ってくる。

「きゃあっ。」

私は悲鳴をあげた。マリーが駆け寄ってきて、私の肩を掴むと自分の背後に匿ってくれた。


「?」

特に痛みや変わった所はない。

「セレス様っ、大丈夫ですか?」

マリーがアーノルドを睨みながら言う。

「旦那様。」

ものすごく低い声でバートンも怒っている。


「セレス様!」

「大丈夫よ、マリー。痛いとか苦しいとかはなにもないわ。私に何をしたんですか?」

「貴女に呪いをかけた。」

「ええっ?」

「心配しなくても別に害がある呪いじゃない。」

「呪いに害のないものなんてあるんですか?」

マリーがくってかかる。


「貴女の意中の者ではない、貴女への好意を持つ異性が貴女に触れると触れた部分が燃える、という呪いだ。」


「、、、、。」

ちょっとすぐには理解ができなくて、私は黙った。

「見れば分かる。失礼。」

アーノルドがさっと私の手を取ると、途端にその手を炎が包んだ。

「きゃあっ。」

びっくりしてアーノルドを振り払うと、炎が消える。

私は自分の手を見て、火傷も何もないことを確認した。

アーノルドの手も異常はなさそうだ。

「灯り用の火魔法の一種だから、実際には燃えないんだ、大丈夫。これで俺が薔薇に好意を持ってる事が分かるし、これなら不用意に君に触れられないだろう?」


アーノルドは邪気のない笑顔でそんなことを言うが、もう訳が分からない。

え?触られると燃える?

私に好意?


「すぐに解いてください。」

「解く?」

「この変な呪い、今すぐ解いてください。」

「それは、ムリだよ。」

「なぜ?」

「今回は、呪いをかける時に解呪方法も一緒に組み込んだんだ。」

「その方法って何?」

「薔薇が本当に好きな人とキスをすれば解けるよ。」

「はあ?」

何そのメルヘンな呪いの解き方!

「俺の事を好きになってくれたらいいなあ、と思って。」

その言葉に私の理性の糸が切れた。


「本当に!何考えてるんですかっ!!そして、何してくれてるんですかっっ!!!」

こんなに大声で怒ったのは、どれくらいぶりだろうと言うくらいの大きな声で、私は怒った。

きっと顔は真っ赤で、少し泣いていたと思う。


「、、え?ばら?」


「もうやだ!!バカ!!嫌い!!知らない!!」

拳を握りしめて子供のように地団駄を踏んで私はそう言うと、マリーから荷物をひったくって奥の扉を開けて隣の部屋へ行き、荒々しく扉を閉めた。

バンッッーー


そのままベッドに突っ伏した。

隣の主寝室は恐ろしいくらい静かだった。




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