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5話 形だけの結婚 (4)

マリーが戻るまでの間、私は父にどこまで話そうか考えた。

形だけの結婚で、仕事を続けるためだけのものであることは言うべきだろう。

父は私が仕事を続けたい気持ちをを尊重してくれているし、その方が安心するはずだ。

そこは真実を伝える事で問題ない。

問題は、、、。


「父の前では、私に対する気持ちを一切出さないで下さい。私は仕事のため、貴方は王命で変な相手をあてがわれないめに結婚するのだと伝えますので、合わせて下さい。出来ますか?」

私がそう言うと、アーノルドは薄紫色の目を優しく細めた。


「出来ますよ。」

優しく穏やかにそう断言したアーノルドは少し叔父に似ていた。

私は初めてこの人に好感のようなものを持った。


「さっきからの薔薇の様子が、素の貴女なんですね。」

優しい目のままアーノルドが言う。

そう言われると、確かに「俺と結婚しましょう。」発言以降は完全に何も取り繕わなかった気がする。

いや、今日の訪問の最初からアーノルドに対して一切遠慮はしてなかった気もする。


「貴方が変な事ばかり言うからでしょう。私はこういう女です。夜会での華やかな様子は営業用です。どうしますか?結婚をやめますか?」


「いいえ、貴女の決意が変わって逃げられない内に結婚してしまうつもりです。」

そう言ったアーノルドに対して私は、誰が逃げるか、と思う。

何か言い返そうかとも思ったが、マリーが戻って来たので、私とアーノルドは父の書斎へと向かった。



「この方と結婚する事にしました。」

私がそう言うと、さすがの父も目をまん丸にして言葉を失った。

こんな父の顔は初めてで、申し訳ないが吹き出しそうになってしまった。背後でマリーが俯いているのが分かる。


私はすぐさま、仕事を続けるため、オルランド公爵家からの縁談を断るための形ばかりの結婚である事と、アーノルド側の事情を説明した。


それらを聞くと、父は胡散臭そうにアーノルドを見た。

娘の正気は確かなようだが、この男は信用できない、という目だ。


「初めまして、トトウ侯爵。アーノルド・ノースといいます。貴殿の義弟君のシメオン薬師塔長官とは、この間、貼り薬の開発で大変お世話になりました。セレスティーヌ嬢についても、シメオン殿よりその仕事ぶりは常々聞き及んでいたところです。」

アーノルドはすらすらと開口一番にそう言った。


ここでいきなり叔父の名前が出てきて私はびっくりした。

叔父とアーノルドが顔見知りだったとは全く知らなかったのだ。でも、今開発中の貼り薬は確かに魔法塔との共同開発だ。魔法塔の副長官のアーノルドが叔父を知っていても不思議はない。


アーノルドはそれから、私への変な言動はおくびにも出さずに、自分の魔法や魔道具にかける情熱を語り、同じように薬に情熱を傾ける私は同志のような存在であり、今回のオルランド家との縁談のために薬師塔から私という人材が失われる事は、非常に胸が痛むと言った。


父の目つきが少し落ち着いたものになってきたのが分かる。


アーノルドは更に、自分は魔法の事にしか興味はなく、女性に対しては完全に奥手である事を強調してから、私との結婚は王命をはぐらかすために都合のよいものである事と、将来、もし私に意中の相手ができて、離婚が必要になった際は進んで離婚にも応じると言った。


最後の部分に私はぎょっとしたが、父はむしろ、そこに心を動かされたようだった。

父は、私が誰かと恋愛しての幸せな結婚をする事を願っていたのだろうか。そんな事は聞いたことなかったが。


「セレス。」

アーノルドとの話が終わると、父は私に向き直った。

「はい。お父様。」

「まず、私はこういう特異な結婚はどうかと思うし、決断も早すぎるように思う。こんな事をするくらいなら、私の腕の中でお前を一生庇護したい、というのが本音だ。だが、公爵家からの縁談が断れないのも事実で、お前はもう立派な大人だ。お前が確かな頭で決めたことなら私に異議はないよ。何よりお前の目が生き生きしているのは久しぶりだ。」

「ありがとうございます、お父様。」

「ノース子爵、今は、君達の結婚を承認しよう。」

「ありがとうございます。侯爵。」



渋々ではあったが父の承認をもらった翌日には、アーノルドはオルランド家からの縁談をきれいに蹴ってきた。

なんと、フィッツロイ王太子殿下が出てきて直々にオルランド公爵に話をつけたらしい。

私はもうすぐ夫となる人の、ものすごい人脈にただただ驚いて、今さらだがアーノルドの事を社交界の噂程度にしか知らない事に気付いた。

結婚を承諾したのは早すぎただろうか、とちらりと後悔するがもう後戻りはできない。

何より、オルランドからの婚約の打診の返事は1ヶ月の期限であったからどうせ時間はなかったのだ。


大丈夫、アーノルドは変な人だし、私への邪な想いもあるように感じるが、少なくとも悪い人ではない。きっと、たぶん、、、。

マリーへの態度も丁寧だった。

住むところが変わるだけだと思えばいいのだ。

結婚じゃなくて、引っ越しだ。

私は自分にそう言い聞かせた。


そして約束通り、1ヶ月後に私とアーノルドは神殿で結婚の誓いをした。



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