46話 デート裏(2)
相手の貴族が来たようなので、私はそっとガラスの扉から中を伺う。
あれは、、、フィー?
その姿を確認した途端、全身がびりっとするような殺気を感じた。
すぐに、バルコニーから屋根へと跳び移る。
見下ろすと、今まで私が居た場所に室内から飛び出してきた男が短剣を振り下ろしていた。
男も私を追ってすぐに屋根へと跳ぶ。
何だ?と思いながらも、太ももから短剣を抜いて構えると、屋根にやって来た男は私を見て驚いた。
殺気が少し和らぐ。
「マリアンヌさん?」
男が言う。
「?」
知らない男だ。何故私の名前を、と思った所で、男の気配がいつもフィーに張り付いている護衛のものだと気付く。
ついでに時々私を監視もしている奴だ。
「ジャン!」
そこに、バルコニーに護衛の騎士と共にフィーが出てきた。
屋根を見上げてフィーが固まる。
「、、、え?マリーさん?」
ぽかんとした後、フィーの顔がほんの少し強ばった。
「何してるの?」
強ばったまま、フィーが聞いてくる。
「行き掛かりで、そちらのウェンディさんの護衛兼侍女です」
私が答えると、フィーはもう一度、え?と言って、室内のウェンディ嬢を見る。
「そうです!私の知り合いです!怪しい方ではありません!」
必死な様子のウェンディの声が聞こえてくる。少し涙声だ。
可哀想に、顔合わせの相手が部屋に入ってくるなりその護衛がバルコニーの私へと斬りかかっていったのだから、びっくりしているのだろう。
「マリアンヌさん、、、普通、侍女はバルコニーに隠れてませんし、気配を完全に絶ったりしませんよ」
ジャンという名前らしい男が、呆れた様子で言う。
「人払いされて、ウェンディさんに何かあれば良くないので、隠れていました」
「だからって、完璧に気配を消さないでください、もうちょっと素人っぽく消してください。完全に玄人ですよそれ、そりゃ、やばいなってなりますよ。問答無用で攻撃しますよ」
ジャンは後半部分は明らかにフィーに向かって言っているようだ、ふむ、今回のウェンディの顔合わせの相手はフィーのようだし、確かに顔合わせ相手の令嬢の侍女に対していきなり斬りかかるなんて、護衛失格だろう。
申し訳なかったなと思う。
室内に戻り、ウェンディがこうなった成り行きを畏まってフィーに説明した。
「私が、貴女に無体を働く訳がないでしょう」
説明を聞いたフィーがため息とともにとても冷たい声で言う。
こういう声も出せるんだな、さすがは高位貴族だと感心していると、フィーがこっちを見て困ったように微笑んだ。
何だろう?困っている?
何か助け船を出した方がいいのだろうか。
という訳で、一緒に言い訳?をしてあげる。
「ウェンディさん、フィーはとても初心なんです。だから大丈夫ですよ」
私がそうフォローすると、フィーの護衛達がぎょっとして私を見て、ウェンディも目を丸くして驚く。
何だろう、変な事を言っただろうか。
「えっ?マリーさんは、でん」
そこで、フィーの大きな咳払いがウェンディの言葉をかき消す。
「レディ、このような場所ではその呼び方は控えてください」
「も、申し訳ございませんっ。えっと、マリーさんはこちらの紳士とお知り合いですの?そして初心とは?」
「はい。フィーとは少し知った仲です。太ももを出すだけで、顔も合わせれなくなるような純粋な方ですよ」
「えっ」
私のフォローにウェンディの顔が盛大に曇り、フィーの顔が真っ赤になる。
護衛達はますますぎょっとしていて、ジャンは頭を抱えている。
「マリーさんっ、違うよ、ああっ、ウェンディ嬢も!違いますよ、そういうんじゃないです、マリーさん、言い方!」
フィーがあわあわと少し怒ってくる。
言い方?
「太ももをしまわないと、話が出来ない方です?」
「違う!そもそも、足くらいなら平気だよ、すごいスリットで言い寄ってくる令嬢も居るんだからね!」
なるほど、、、、つまり、
「メイド服からの太ももに反応してしまう」
「ちがう!」
フィーがちょっと涙目だ。
ジャンに至っては、お腹をおさえてうずくまっている。
大丈夫だろうか?
「大丈夫ですか?」
ジャンにそう声をかけると、「ええ、大丈夫です。私はまだまだ修行が足りませんね」と、意味不明な答えが返ってきた。
とにもかくにも、このバタバタで、お茶会は中止となり、私は、絶対に送る、と言って譲らないフィーによって子爵家まで、やたらと乗り心地の良い馬車で送ってもらった。
デートの裏でのマリーの無双でした。
お読みいただきありがとうございました。
こちらでまた完結とさせていただきます。
ブクマや評価、いいね、いつも嬉しいです。ありがとうございます!
誤字脱字報告も本当に助かります。