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44話 主役達のデート

***


予定通り、私とアーノルドはソロモン書店に向かい、私は前々から屋敷の図書室に置いておきたいな、と思っていた゛薬草大辞典゛の新装版、5冊セットを購入した。

薬草大辞典は職場にもあるのだが、やっぱり家にあると思うと何だか落ち着く。


後は、動物の毒についての本や、辺境の珍しい薬草についてのレポートなんかをざっと見てみる。

アーノルドは、゛ロマンス小説に登場する毒物への考察について゛という一風変わった本を熱心に読んでいた。そして、その帯には「昔話の眠り薬から゛私の騎士様゛で登場したあの植物毒まで」という宣伝文句が書かれていて、私もちょっと気になる。

あれも買おうかな、、、、、買った場合は、私の騎士様全巻の横に添えておくのがいいかも。


小一時間ほど過ごして、購入した本を屋敷に送ってもらう手筈をして書店を後にする。


書店からハナビシまでは歩ける距離なので、私達はのんびり徒歩で向かい、アーノルドはするりと私の手を繋いだ。


「ところで、予約はしてますよね?」

歩きながら、ふと、不安になって確認すると、「もちろん」と答えが返ってくる。


「奥のサンルームの小部屋みたいな所だよ」

「よく取れましたね。サンルームは人気でかなりの上客じゃないと取れないでしょう?」

少し驚いて聞き返す。


「セレス、自分で言うのも何だけど、俺、魔法塔の副長官だよ。しかも王子殿下の友人で、実家は伯爵家、おまけに妻は社交界の薔薇だよ?まあまあ凄いんだよ。ハナビシの支配人は魔法使い好きだし、ちょっとの無理も通るよ」

えへん、という風にアーノルドが胸を張る。

私はその子供っぽい様子にちょっと笑ってしまった。


「すいません、見くびっておりました」

くすくす笑いながら言うと、繋いだ手をぎゅうっと強く握られた。

「はあ、、、、可愛い、、、幸せだ」

アーノルドが、わりと大きい声で呟く。

外での可愛いは恥ずかしいので、止めてほしいな、と思っている所で、私は背中へのごく弱い視線を感じた。


これは、、、、、

立ち止まって、後ろを振り返る。

街路樹の陰、ちらりと見覚えのあるワンピースの裾が見えた気がした。


「セレス?」

「旦那様、尾けられていますね、マリーに」

「えっ?マリーさん?」


私は真っ直ぐに街路樹へと向かう。

回り込むと、案の定、お仕着せから普段着に着替えて私達を尾行していたらしいマリーが居た。アーノルドがびっくりしている。


「ばれたか」

見つかったマリーは、悪びれもせずに言った。


「マリー、私と貴女の付き合いだもの、もはや視線の感覚と息遣いだけでマリーと分かるのよ」

呆れ顔で伝えると、マリーは「ちぇっ」とふて腐れる。


「マリー、見られてると思うと落ち着かないから尾行は止めて」

「はーい」

マリーが、ちらりと私とアーノルドの繋いだ手を見る。そして満足そうに頷く。


私は恥ずかしくなって、そっと手を離すが、アーノルドはすぐにするりと繋いできた。

マリーが再び満足そうに頷く。


「ふむふむ、完全にお邪魔みたいだし、じゃあ帰ろうかな」

ニヤニヤしながらマリーは言うと、くるりと踵を返した。

やれやれ。



「俺、結構、尾行には気付ける自信あるんだけど全然分からなかった、すごいな、マリーさん。そしてあれに気付くセレスも凄いね」

マリーの後ろ姿を見送りながら、アーノルドが感心している。


「護身術の師匠もマリーには感心してました、私は気配に気付いた訳ではなくて、もはや勘ですね」

「勘」

「ええ、私、勘は良い方です、加えて相手が慣れてるマリーだったので気付きました」



マリーの尾行というハプニングはあったけど、私達は恙無く、ハナビシに着き、池に張り出しているデザインになっていて水面で食事をしている気分になれるサンルームの小部屋で、ランチのコース料理をいただいた。


池が見えるせいだろう、ランチの間はアーノルドが水魔法のバリエーションについて詳しく語ってくれる。

こんな事は絶対に本人には言わないけど、魔法の話をしている夫は、カッコいい。

話のこしを折らないように、最低限の相槌を打ちながら、ブルーベリーソースのかかった鹿肉を食べる。

ハナビシの料理は、本日も変わらない美味しさだ。



ランチ後は、公園に寄り、マダムメープルのブティックへ顔を出す。


マダムメープルとは、私のデビュタントのドレスを作ってもらって以来の付き合いで、今日はドレスをオーダーする為というよりは、結婚の報告とアーノルドを紹介する為に顔を出した。

奥の作業場にてお茶を出してもらい、馴染みの針子さんも一緒になっておしゃべりに興じる。


もちろん、おしゃべりしながら、ドレスのカタログや、生地のサンプルなんかも、気軽にぱらぱらと見る。

そして、それらを一緒に見ながら、完璧に私の好みを把握している様子でいろいろ勧めてくるアーノルド。

私が過去に作ったドレスも全て把握していて、やっぱりちょっと気持ち悪い。


「旦那様」

「えっ、何、セレス怒ってる?」

「なぜ私のドレスを全て把握してるんですか?」


「、、、、、えーと、マリーさんと、セレスのクローゼットを検分して、、、でも、マリーさんの監督の下だよ!だからやましい事はしてないから」

「そういう事は、マリーとではなく、私として下さい」

私の言葉に、アーノルドは嬉しそうに頬を染めた。

「まさか、、、、セレス、嫉妬?」


「違います」

私は冷たく言い放った。





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