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42話 デート

アーノルド視点です。

俺は本日の抜き打ち監視の呪いの店に、マリーさんとフィーがいるのを見つけた。


呪いの道具を扱う店は、魔法塔の定期監視の対象だ。

ほんの悪戯や可愛らしいおまじない程度の道具やプロの魔法使いしか使えない本格的な道具は問題ないが、たまに禍々しい効果があって安易に使えてしまうような道具が紛れている事があるからだ。


そして本日の店はその中でもかなり要注意な店だ。本来なら魔法塔副長官の俺は店の監視なんかは行かないが、ここは数年前に監視に行った新入りが全身紫色になって帰ってきて、その解呪に1週間かかった曰く付きの店なのだ。


商品の品揃えはかなり際どく、店主の婆さんは魔法塔を目の敵にしている。

だから副長官たる俺が来る。


そんな店にマリーさんとフィー。

今日はもう監視、諦めようかな。

まだ店の外なのにさっきから店主の婆さんも、射殺せんとばかりに俺を睨んでるし。


監視、諦めよう。

でも、マリーさんとフィーは気になるから声はかけよう。



「マリーさん、何してるの?フィーも。2人で来たの?」

店に入って2人に声をかける。

心なしか婆さんの視線が和らぐ。


「アニーこそ、仕事?」

フィーがぱっと嬉しそうにする。何だかご機嫌だ。

「うん、俺は仕事というか仕事の帰りというか、そんな感じだね。」


「本日はフィーに付き合ってもらってのデートです。セレス様よりこのお店には呪いに詳しい方と行くようにと言われていますので。」


「デート?デートだったの?」

俺はマリーさんの説明に面食らう。


「はい。市場の屋台の食べ歩きをして、公園でガチョウに餌もやりました。店への付き添いをお願いしたのはこちらですので、不肖マリーがデートコースを考えてリードさせていただきました。」


デート、、、、食べ歩きにガチョウに餌。

それでフィーがご機嫌なんだな、と納得する。食べ歩きもガチョウもした事なかったんだろうなあ。楽しかった事だろう。


「あー、なるほど。なるほど?まあいいか。ところでマリーさんはなぜこの店に?」


「カイン・オルランドを呪う為です。いろいろリサーチした結果、こちらが一番いかがわしかったのでここなら、と。」


さすがマリーさんだ。ちゃんと怪しい店をピンポイントで嗅ぎ分けている。


「良い嗅覚だね。確かにここが一番いかがわしいよ。何か見つかった?」


「これくらいでしょうか。一週間しゃっくりが止まらなくなる呪いの飴。」

マリーさんは、抹茶色の飴玉がびっしりと入った瓶を指差した。


「うわあ。」


「地味に辛いと思います。一週間というのもセレス様がお部屋に閉じ籠っていた日数と同じですし、ちょうど良いです。」


「でも、マリーさん、それどうやってカインに食べさせるの?」


「色仕掛けでしょうか?顔は覚えたので大丈夫です。」

マリーさんはすごく真面目な顔で言った。俺は慌てた。


「いや、それは止めよう。ね、止めよう。カインに色仕掛けはそもそもしないで。危険だから、カインが。」

そんな事は絶対に止めて欲しい。フィーの顔が怖い。ちょっと薄い笑顔が浮かんでるけど冷気を感じる。これは、あれだ、不機嫌な時のやつだ。


「危険?体つきは良い方です。ご満足いただけるかと。」


「わあ、こんな外でそんな事言わないよ。」

でも心なしかフィーの冷気は少し弱まった。マリーさんの発言に動揺してるみたいだ。

それにちょっとほっとしてるとマリーさんが爆弾をぶち込んできた。


「これくらいで恥ずかしがらないでください。アーノルドなんて、こないだ全裸だったじゃないですか。」


「わあ!」

わあ!わあ!わあ!


「違うんだ、フィー、誤解だよ!寝ぼけて猫から戻っただけだよ!」


「そう?」

フィーの笑顔が黒い。笑顔なのにどす黒いオーラが出てる。

早く、早く話題を変えたい!


でもマリーさんは話題を変えてくれない。もっと大きい爆弾をぶちまかす。


「それに色仕掛けなら、フランシス様に夜這いもした経験もあるのでやり方も分かります。」


俺は今度はひゅっと息を飲んだ。

これはまずい。


俺は青い顔をして冷気の増したフィーを見てから、ごくりと唾を飲んでこう言った。


「うーん、マリーさん、俺は今ここで聞くよ。フランシス殿のために聞くよ。きっと大丈夫だという確信はあるよ、だから今の内にマリーさんの口からフランシス殿の潔白を聞いておきたいからね。、、、、、、、その夜這いどうなったの?」


「フランシス様にベッドでこんこんと諭されて返されました。」


「良かった!何もなかったんだね。」

良かった!

フィーの冷気もぐっと和らいだ。

さすがフランシス殿、薔薇の兄上なだけある。信じてた。


「はい、残念ながら。その後、セレス様にもの凄く怒られて、泣いて抗議されたのでそれ以来夜這いはしていません。」

「えっ、セレスが泣いたの?」

それは聞き捨てならない。


「はい。自分の事を大切にしろと叱られました。゛私の大切なマリーがそんな事をしないで゛と。」

そう言ったマリーさんは嬉しそうな恥ずかしそうな表情だった。ふふふと思い出し笑いまでしていて、ほんのり頬も赤い。

こういうマリーさんはとても珍しい。ちょっと可愛い。


ちらり、とフィーを確認してみる。


フィーは青い目を瞬いてマリーさんを見ていた。あんまり見てはいけないような気がして目を逸らす。



「マリーさん、なら色仕掛けも止めよう。セレスが悲しむよ。俺、言い付けるよ、セレスが後から悲しむのは嫌だからね。」

俺がちょっと真剣にそう言うとマリーさんは素直に「分かりました。」と言った。

ふむ、薔薇が絡むと素直だ。



「では色仕掛けではなく、時間をかけて友情を育んだ上で裏切るというのは、」


「マリーさん、そもそもカインはセレスティーヌ嬢と友人だと聞いてるよ。」

マリーさんの新しい案をフィーが遮った。どうやらマリーさんがカインに近付くのを阻止するつもりのようだ。


「、、、、、そうなのですか?あれ?フィーもカイン・オルランドと親しいのですか?」


「うん、まあ友人の1人ではあるよ。カインはセレスティーヌ嬢に友情を感じているようだし、もしセレスティーヌ嬢もカインを友人だと思ってるならカインを呪うのは止めといた方が良くない?」


「そうでしたか。、、、、ふむ、確かに高潔なセレス様であればたとえ泣かされた男であっても友人として扱う事はあり得ますね。前しか見ない方ですし。これは確認をしなければなりませんね。」


「うん。それがいいと思うな。」


「ありがとうございます。フィー。」


そうして俺達はすごく無難な「魔女ののど飴」という舐めてる間しゃがれ声になる変な飴を買って店を出る。



「ねえ、フィー。マリーさんの事、好きなの?」

俺はマリーさんと少し距離を取ってフィーに小声で聞いてみた。


「調査中かなあ。」

「そうかあ、調査中かあ。」

「アニーはマリーさんと仲がいいね。」

「そう?そうかな。マリーさんとはセレスが好き、という点が一致してるからさ、同士だよね。」


「そう?」

「そうだよ、それ以上でも以下でもないよね。」


言いながら、俺はマリーさんとの距離感について今まで以上に気を付けようと思った。








小ネタが終わったのでこちらで完結です。

お読みいただきありがとうございました。


ブクマ、評価、いいね、いつも本当に嬉しいです。ありがとうございます。

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