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39話 まずは服を着ましょう

俺は今、薔薇のガウンをまとっただけの際どい姿でとても怒っている薔薇の前にいる。





そもそもの失敗は昨夜だった。

ジャンと遅くまで飲んだ俺は、夜更けに猫の姿で屋敷に帰ってきた。

庭の木に登って俺の部屋のバルコニーに降り立つ。いつものルートだ。バルコニーの窓はバートンが少し開けてくれていてそこからするりと入ればいいだけだった。


でもここで俺は隣の薔薇の部屋から仄かな灯りが漏れているのに気付く。


あれ?まだ起きてるのかな?


隣のバルコニーに跳び移るのは簡単だ。すぐに薔薇の部屋のバルコニーに移って窓をカリカリしてみた。

にゃー、と小さくも鳴いてみる。


カリカリカリ

にゃー


カチャリと窓が開く。寝間着姿の薔薇の顔が覗いて俺を見て、あら、と嬉しそうに微笑んでいる。


ううむ、やっぱり猫が絡むと薔薇のガードがとてつもなく弛い。これは後で注意しないと。マリーさんにもしっかり伝えておかないと。


良からぬ輩が猫を使って薔薇を篭絡しに来たら、簡単に連れ去られるんじゃないか?


俺はちょっとフクザツな気分でむすっと薔薇を見上げていたのだが、まだ少し湯上がりの気配が残る寝間着の薔薇にかがんでにっこりされてそんなものはどうでも良くなる。


「゛だんなさま゛じゃない?どうしたの?お家に入れなかったの?」

薔薇は猫の俺の事を王宮の侍女あたりに飼われている猫だと思っているのだ。


にゃーん

と俺は鳴くと薔薇の膝にするりと乗った。

薄い寝間着ごしに薔薇の体温を感じる。至福だ。


寒かったの?と薔薇が言いながらぎゅっと抱き締めて撫でてくれる。はう、至福だ。



「お水飲む?」

窓をしっかり閉めてから薔薇がそう言って、浅い皿に水を入れてくれたのでいただく事にする。

ぴちゃぴちゃと美味しくいただいているのを薔薇はしゃがんでじーっと見てくる。

可愛い。

いろんな所に血が集まりそうで困る。

薔薇がまだ起きてるなら猫じゃなくて普通に帰ってくれば良かったな、と少し後悔したが、


「今日は泊まっていく?」

薔薇のその言葉にさっきの後悔は消し飛ぶ。


わあ、そんなの、夫婦だったから言われた事ない。何だかドキドキする。


泊まっていく!

にゃーん、と俺は勢いよく返事をした。


「ふふ、良かった。今日はうちの旦那様がいなくて寂しかったから。」


え!そうなの?寂しかったの?

にゃあ!にゃあ!


「内緒よ。そんな事言ったらきっといちいち寂しかったか確認されちゃうからね。」

薔薇が唇にしーっと人差し指をあてて悪戯っぽく笑う。


はう、可愛い。


俺はたまらずまた薔薇の懐にするりと入った。薔薇がまたぎゅっとしてくれる。


寝間着ごしの薔薇をすっかり堪能した頃、薔薇は俺を降ろすと、足の裏を濡れたタオルで拭いてくれた。

そしてベッドの足元に毛布を畳んでどうやら俺の寝床を作ってくれたようだが、俺はふんっと鼻を鳴らして後ろ足で砂をかける動作をすると、ひらりとベッドに飛び乗った。


「えっ、そこで寝るの?」

にゃ。

もちろんだ、夫なんだぞ。形だけの夫婦じゃなくて今や歴とした夫婦なんだ。何の不都合もない。


薔薇は少し迷ったけれど、まあいいか、とつぶやいた。

ううむ、やっぱり猫へのガードが弛いな。



「引っ掻いたりしないでね。」

結局、そう言う薔薇の胸元に俺は顔を埋めて至福の眠りに落ちたのだった。






そして翌朝、


「セレス様、朝ですよ。、、、、ん?」

俺は薔薇の腕の中でマリーさんの声を聞いて目覚めた、くるりと体を回すとこちらを見下ろすマリーさんと目が合う。


「、、、、、。」

マリーさんがじっと俺を見つめている。珍しくいろいろ迷っているようだ。


俺はきょとんとしてから、思い出す。

そうだ、俺、今、猫だ。


マリーさんは俺が猫に化身できる事は知っている。迷っているのは、何で俺がここに猫のままで居るのか、とか、このまま薔薇を起こしていいものか、とかそういう迷いだろう。


俺はすぐにベッドから出ると、ぱあっと人の姿に戻った。

「おはよう、マリーさん。昨日遅かったから猫で帰ってきてそのままこっちで寝ちゃったんだ。セレスが起きない内に戻るよ。」


俺が説明している間、マリーさんは冷静にじっと俺を見ていた。

そして、俺の説明が終わるとベッドの枕元にあった薔薇のガウンを取って俺に差し出す。


「まずは、服を着ましょう。」


わあ!

そうだった、猫から戻った時は裸なんだった。


「ごめん、ごめんなさい、ちょっと寝ぼけていたみたいで、ごめんね、マリーさん。」


俺はすぐにガウンを羽織る。


「そういう訳で、俺の部屋に戻るね。」

ガウンの紐を結びながら言うと、マリーさんは首を振った。


「いいえ、それは難しいと思います。私は一旦失礼するので落ち着いたら呼んでください。」


「え?」

戸惑う俺にマリーさんが、無言で顎をくいっとして俺の後ろを指し示す。


背後からひやりとした視線を感じて振り返ると薔薇がぱっちりと目を開けてこちらを見ていた。








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