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38話 王子さまの恋


「すいませんアニーさん、こんな遅くから付き合っていただいて。」

向かいに座ったジャンは申し訳なさそうに言った。


今、俺は仕事終わりにジャンと飲みに来ている。

そろそろ帰ろうかな、という頃にコンコンと部屋の窓がノックされたのだ。因みに俺の魔法塔で与えられている部屋は5階にある。


そんな階層の窓をノックなんてきっとジャンだろうな、と思うとジャンだった。


「かえって目立たない?」

窓を開けてあげながらジャンに聞く。


「確かにそうですね。窓から行かなくては、と思ってしまうのはもう職業病ですね。」

あはは、と笑いながら王太子お抱え隠密集団のジャンは言った。


そうしてジャンが俺に相談したい事がある、という事で居酒屋にやって来ている。

もう既に遅い時間だったし、帰りはもっと遅くなるだろうから執事のバートンに俺の事は待たなくていい旨の連絡済みだ。

今日は俺の部屋の窓を少し開けといてもらって、猫の姿で帰るつもりにしている。



「構わないよ。ジャンにはお世話になってるし、相談って何?」

ジャンの奢りだ、という事で俺はしっかり麦酒をいただきながら聞いた。


「相談というか、調査というか、独白というか、心情の吐露というかなんですけどね。」


「うん。」

「まず、アニーさんとマリアンヌさんのご関係を確認したいんですが。」


うん?


「マリアンヌさんって誰?そしてご関係って何?俺、セレス一筋だよ?そういう誤解を生みそうな発言は止めてくれる?」


「すいません、もちろんアニーさんが奥様に一途なのは知ってます。だからこれは否定の確認なんです。」

ジャンがちょっと慌てる。


「そう?じゃあ、なんの関係もないよ。マリアンヌなんて女、知らないからね。」


「え?そんな事は、、、、あの、奥様の専属侍女のマリアンヌさんですよ?」

ジャンの言葉に俺は薔薇の専属侍女を思い浮かべる、、、、。


「あ、マリーさん?えっ、マリーさんってマリアンヌって言うの?うわ、知らなかった。何だマリーさんなら知ってるよ、セレスの侍女だよ。うん?マリーさんと俺とのご関係?何それ。」


「私も何それ、とは思ってます。殿下が気にしてるんです。マリアンヌさんは主人なのにアニーさんをアーノルドと呼び捨てにしているし猫の事も知ってました。アニーさんはアニーさんで、使用人なのにマリアンヌさんの事は゛さん゛付けで呼んでますよね。それにこの間、魔法塔にお使いで来たマリアンヌさんと一緒に食堂でお昼を食べてましたよね。」


ジャンの言葉に俺は目を瞬いた。


「ジャンは俺とマリーさんを尾けていたの?」


「アニーさんと、というよりはマリアンヌさんを尾けてました。」


「なんで?マリーさん何かしたの?」

俺はつい先日、薔薇の兄のフランシスからマリーさんがカインを呪ったりしないように気をつけてくれ、と言われた事を思い出した。

でも、マリーさんがバレて足が付くような事をするとも思えない。


「何もしてないです。殿下が個人的に気になってるみたいです。」


ごほっ

びっくりして麦酒が気管に入った。


「ごほっ、げほっ、けほっ、え?フィーが?」


「はい。」

ジャンが神妙な顔でうなずく。


「フィーが?マリーさんを?」

「はい。」

「、、、、えーと、それは、゛影゛にスカウトしたいとかで?」


「確かにスカウトしたい人材ではあります、私の尾行も時々気付かれててヒヤヒヤものでした。でもスカウトじゃないと思うんです。家柄や年令、現在の身分の他にも、恋人の有無や友人関係、親しい異性や好きな人がいるかを知りたいって殿下は仰ってました。加えてアニーさんがマリアンヌさんと大分親密そうなので気にされてます。」


「わお。」

「そうなんです、わお、です。」


「えー、それってさ、それってあれだよね。あのー、゛恋゛だよね。」

「やっぱりそう思います?」

「違うの?」

「いや、私もそうだろうな、とは思ったんです。でも殿下はあまりにいつも通り朗らかに調べてって言うので実感がなくて、、、、今まで隠密の仕事ばかりだったのでもしかしたら自分の感覚が変なのかな、とか思うと確信が持てなかったんです。」


「好きな食べ物とか、好きな宝石とかも調べてる?」

「調べてます。」

「マジか。それはもう恋でいいね。えー、フィーがマリーさんをかあ、、、、意外だ、いや意外でもないか。いっその事そっちに行くのか、みたいなとこはあるね。」


フィーは産まれた時から王子様だ。幼い時から周りに居た令嬢達は妃候補の選りすぐりのレディ達だったはずだ。そしてそんな、おしとやかで完璧な淑女の婚約者達に二度、裏切られている。

振り切ってマリーさんに興味が湧くのは分かる気がする。


「でも、恋する男の浮わついた感じとか幸せそうな感じは一切ないんですよ。」


「へー、フィーらしいなあ。でも、マリーさんかあ、手強いと思うな。というよりも無理かなあ、マリーさんは今の所、フランシス殿しか眼中にないよ。それも男としてではないしね。」


「存じています。フランシス殿には随分前からご執心ですね。というよりもマリアンヌさんは奥様にご執心ですよね。フランシス殿に言い寄っているのはセレスティーヌ嬢の義姉になれるからですよね。」


「うん。あ、俺と仲がいいのはセレスが俺の事好きだからだよ。マリーさんが言うにはセレスの為に俺の事をよく知っておくんだって。」


「アニーさんも、マリアンヌさんとは積極的に仲良くしてますよね。」

「マリーさんは、セレスの事何でも知ってるからね。勉強になるよ。」


「なるほど、、、目的はどちらも奥様なんですね。分かりました、上手く報告しておきます。」

「え、報告するの?」

「気にされてましたので。これからは少しマリアンヌさんとの距離感に気を付けていただけると私は嬉しいです。」


「え、なにそれ?」

「気にされてましたので。」


「ええ、てか俺に直接言えばよくない?」

「腹の中を最後までお見せにならない方です。」

「ちょっと待って。ねえジャン、今日のこれ、俺聞いていいやつだった?」


「そこはグレーなので念のために聞かなかった事にしておいてください。あと、ついでにマリアンヌさんの好きな食べ物と宝石を教えてください、全然分からないんです。」


「ええ、俺にもマリーさんの好みは不明だよ。」


俺はこの後、ジャンと2人でマリーさんの好きなもの(セレス関係を除く)についてうんうん唸りながら話し合った。


話し合いながらフィーがマリーさんを好き?かどうかについてはこのまま疑問形にしておこうと俺は思った。俺が盛り上がってもしょうがないし、フィーは現在王太子だし、相手はマリーさんだ、まとまる気配はない。

でもフィーの嫉妬は怖そうだからマリーさんとの距離感は気を付けよう。

そう、それは気を付けよう。








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