34話 本日の議題
翌朝、です。
翌朝、目を覚ますと抱き込んで眠ったはずなのに薔薇は俺の腕の中にはいなくて、隣できちんと枕に頭を乗せて眠っていた。
むう、、、、いつの間に。
でも、俺の方を向いて眠っているし善しとする。
昨夜、薔薇はちゃんと髪と着衣を整えてから眠ったので、全然乱れた様子はない。
片ひじを付いて薔薇の寝顔を見る。
髪と同じ金色の長い睫毛。きりっと上がった眉。鼻筋はまっすぐにすっと通っている。肌は陶器のように白くてつるっとしている。
規則正しくしている寝息が愛しい。
思わず寝息を数えてしまう。
1、2、3、4、、、、、、
37、辺りで、これは不毛だなと気付いてやめる。
隣で眠る薔薇の寝顔を眺めてるなんて夢みたいだ。一生このままで居たいけど、起きた薔薇も見たい。起きて、そのエメラルドの瞳が俺をどんな風に見つめるのか知りたい。
いつもと同じ冷たい輝きかもしれないし、もしかしたら恥ずかしそうにするかもしれない。怒ったりはされないと思う、ちゃんと優しくしたし。
俺はそっと薔薇の頬に触れた。
薔薇が身動ぎをして、一度、ぼんやりと目を開ける。
「、、、、だんなさま?」
少し舌足らずにそう呼んでから薔薇はまたうとうとと眠りに落ちた。
ええ、なにこれ、かわいい。
今の舌足らずなやつ、すごいかわいかった。
キスしたい、うとうとしてる薔薇にキスしたい。
触れるだけのキスじゃなくて、半分覚醒している薔薇の口の中を柔らかく暴いて堪能したい。
いいかな?いいよね?
夫婦だしいいよね?
その少し開いた唇から入って歯を、
と、ここで薔薇の目がぱっちり開いた。
「わっ。」
俺は思わず身を引いてしまう。
「今、殺気のようなものを感じたのですが、何かしましたか?」
すっかりいつも口調で薔薇は言った。
「何もしてないよ。え?殺気?殺気って何?」
「殺気というか、、、、何でしょう、狙われていた感じです。」
「気のせいだよ、俺は薔薇の寝顔を見ていただけだよ。」
不思議な罪悪感を感じながらそう言うと、薔薇は俺の顔をじとっと睨んだ。
あれ?なになに?
俺、変な事言ってないよね。
「薔薇はやめてください。」
「え?」
「その、、、呼び方、、、、薔薇じゃなくて。」
薔薇がもじもじと俺から目をそらす。
俺はすぐに薔薇の言いたい事を理解する、理解すると同時にいろいろ一気に込み上げてくる。
はああああああっっ
本日の議題は俺の薔薇が可愛すぎる件について!!!
なにこれ、なにこれ、ナニコレ!
朝から、ベッドでもじもじするとか、なにこれ!反則だよね、卑怯だよね、俺の理性を奪いにきているとしか思えない。今日一日、この件についてずっと話したい!誰かと議論したい!いや、でも俺の薔薇のこの可愛さをたとえ言葉だけであっても誰にも伝えたくない。
ああ!俺がもう1人いれば、俺同士で熱く語り合って、議論できるのに。いや!でもたとえ俺であっても俺以外の俺に薔薇のこの可愛さは見せたくないし、伝えたくない。だめだめだめ、絶対だめ、俺以外の俺が薔薇を見るのは禁止だ。俺以外の俺は出禁だ。
「旦那様?」
悶える俺に薔薇が心配そうに声をかけてくる。
俺は何とか自分の中の混乱を押し込めると、その名を呼んだ。
「セレス。」
それを聞いて薔薇が嬉しそうにはにかむ。
ああ、もう、無理。
俺は薔薇を強く抱き締めた。
「セレス、おはよう。かわいい、大好きだ。俺のセレス。」
ぎゅうぎゅうしながらそう言うと、俺の胸元で薔薇はふふふと笑って、おはようございます、と言った。
ひとしきり、薔薇を抱き締めてから腕を放す。
薔薇は微笑みながら俺を見上げた。
「そろそろ起きましょう。マリーが起こしに来てしまいます。あれ?でも今は何時くらいでしょうか?」
薔薇は言いながら、外の明るさに気付いたようだ。既に辺りはいつもよりずっと明るい。
「大丈夫だよ、皆、こんな朝に起こしに来たりしないよ。」
「え?」
「昨日、俺がセレスの部屋に入って出てきてないもん。」
「、、、、あ。」
薔薇は少し顔を赤らめた。
「きっと、浴室にお湯を張ってくれてると思うよ。着替えも用意してくれてるだろうし、お湯につかる?体はちょっと怠いだろう?さっぱりするよ。」
「、、、、、、。」
「セレス、どうしたの?」
「旦那様は、こういった事に慣れてるんですね。」
薔薇の声が冷たくなった。
おや?
「、、、、いや、慣れてる?慣れてる訳じゃないけどね、ほら、25才の大人だしね。心得はあるよね?あれ?えっ、、、、、、もしかして、妬いてるの?」
俺は慌てながらも嬉しくて聞いてしまう。だめだ、顔がにやけるのを止められない。
「いいえ、慣れてるなと思っただけです。」
薔薇は俺の方を見ないでつんとそう言った。
ここで再び本日の議題だ。俺の薔薇が可愛すぎる件について。