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33話 潔いんだった

最後、32話の時のアーノルド視点です。

***


壁の隙間から生還して4日。ここの所、薔薇の様子がおかしい。

何だか、顔が強ばってる事が多いし、俺と目が合わない。

おまけに何かとすぐ、言葉につまって、どもる事が多い。


何よりも、目が合わない。とにかく合わない、もう全然合わない。


最初は、また心配をかけたから怒ってるのかと思った。

でも、俺の薔薇はねちねちじめじめと1人で怒ったりしないタイプだ。何か思う事がある時はすっぱりきっぱり伝えるのが俺の薔薇だ。


おかしい。


すごくおかしい。

悩み事?隠し事?

隠し事な気がする。


何となく、目が合わないのはそんな気がする。


そして、俺の髪の毛を結わえてくれたり、と妙に優しかったりする。


隠してるのは、何か後ろめたいことなのだろうか。

絶対に、誕生日のサプライズとかじゃないと思う。そもそも俺の誕生日、まだまだだし。


、、、、きっと薔薇は俺の誕生日なんか知らないし。




もやもやしながら更に数日後、俺はその日、少し帰りが遅くなった。

暗い中を薬師塔の前を通った時、まだ灯りが点いているのに気付く。珍しいな、と思い、もしかしたらまだ薔薇がいるかな?と思った。


まだ居るなら一緒に帰ろう。

帰り道で最近様子が変な事について、聞いてみよう。


俺は薬師塔へ向かった。


開発室の大部屋には、薔薇と塔の長官であり薔薇の叔父であるシメオンだけが残っていた。


2人きりだ。

俺はむっとした。


薔薇は奥の作業台でこちらに背を向けて何やら一心不乱に作業していて、シメオンは中央の机で資料を読んでいるので、距離は離れているがそれでも2人きりだ。



「おや、アーノルド君。珍しいね。セレスのお迎えかな?」

シメオンは俺がやって来た時から気付いていたくせに、たっぷり間をとってから、顔をあげて聞いてくる。


「そうです。」

俺はむすっと答えた。


「セレス、アーノルド君だよ。セレス。」

シメオンが薔薇に向かって呼び掛けるが、薔薇はびくともしない。

作業に没頭しているようだ。


「おーい、セレス。」

シメオンは立ち上がって薔薇の近くへと行った。


「セレス、セーレース。」

そう呼び掛けつつ、シメオンは俺を見ながら薔薇の肩に手を置いた。


シメオンの手は燃えなかった。


「セレス。」

シメオンは俺に向かって不敵に微笑みながら、自分のもののように薔薇の名前を呼んだ。


「、、、、、。」

俺はシメオンを睨んだ。


睨みながら、狼狽えるもんかと思う。

挑発されているだけだ。

乗ってやるもんか。


薔薇がずっとこの叔父に好意を寄せてる事くらい、前から知っている。

俺が薔薇に惚れる前から、叔父と姪にしては仲が良すぎるという噂はごく一部であったし、惚れてからは嫌になるほど、薔薇がシメオンに向ける笑顔が他と全然違う事に気が付いた。


いつだったかも仕事の合間の雑談で、シメオンは俺に向かって、「セレスの初恋は私だよ。」と得意気に言っていた。


これも、あの時と同じ挑発だ。

自分の優位を俺に見せつけて、楽しんでるだけだ。こんな陰険な嫌な奴、どうして薔薇は好きなんだ。



薔薇が帰り支度をしてやって来る。


せっかくの薔薇との帰り道なのに、ずっとシメオンの不敵な笑みがちらついて全然楽しめない。


「、、、何か、お疲れですか?」

薔薇が聞いてくる。

薔薇も俺が不機嫌な事に気付いてるみたいなのに、どうしようもなくイライラしてしまう。


くそ、知ってたことだろう?

知ってたことだ。

イライラを納めたいけど、上手くいかない。


結局俺は、夕食の席でも不機嫌なままだった。

薔薇もバートンもサマスもマリーさんも、俺の様子を何か変だな、という風に見てくる。


自分でもこんなに不機嫌が続くなんて珍しいな

、とは思う。

目の前で、シメオンが薔薇に触っても燃えないのを見せつけられて、薔薇の意中の相手がシメオンだとはっきりと解らせられて、かなり妬いているようだ。


はあ、もう、今日はさっさと寝よう。寝たらさすがに落ち着くと思う。


俺は自室に戻るとすぐに風呂に入ったが、そのままでは眠れなさそうなので、神経を落ち着かせるために少し果実酒も飲んだ。


いつもなら、こういう夜の時間は、隣室の薔薇の気配を感じながら切なくも幸福な時間なのだが、今日はいちいちシメオンの笑顔が出てきて全く幸福じゃない。


「、、、、はあ。」

何だよ、あの笑い方。


くいっと果実酒を飲む。


大人げなくないか?

確かもう40の手前だよな?


くいっ。


あんな風に薔薇に想われてることを、俺に見せつけるなんて。


くいっ。


、、、、、。


そこで俺の頭の中に、はたと、1つとても嫌な考えがよぎった。


、、、、、もしかして呪いを解いたのか?


今日のシメオンの笑みは、すごく意味深だった。

俺には、もう薔薇の初恋が自分だと言ってきていたのに、意味深に俺に笑ってきた。

あの笑顔は呪いを解いたことを、暗に示していたんだろうか。


でも、薔薇が叔父とキスするとは思えない。

それを薔薇が善しとするとは思えない。


それでも俺は、薔薇とシメオンが寄り添って顔を近付ける所を想像してしまうのを止められなかった。


だめだ。


むくむくとどす黒い嫉妬の気持ちが湧きあがってくる。


だめだ。


俺は立ち上がると、まず奥の薔薇の部屋と直接繋がっている扉に向かおうとして、それは自制がきかなくなりそうなので止めた。


廊下に出て、きちんと外から薔薇の部屋を訪ねた。

これなら、かっとなる事はないだろう、と思ったのだ。



でも、手を取っても燃えないことに簡単に理性は吹き飛んで、薔薇を壁に押し込めると詰問していた。


裏切られたと思った。

薔薇が呪いを解いたタイミングも最悪だった。

俺が寝込んでいる時になんて、最悪だ。

ひどい。

俺の気持ちを知ってるくせに、ひどい。


すごく傷付いたけど、同時に狂おしいほどに薔薇が好きだ。

その気持ちのままに薔薇をきつく抱き締めると、抵抗されなかった。


俺を受け入れるのは、罪悪感からなのだろうか、何とも言えない情けない気持ちになる。

そこからは弱々しく薔薇を責めた。


そうして、

「ごめんなさい、勝手に唇を奪ってしまって。」

薔薇が言った。


ん?

変なワードに俺は少しびっくりする。

勝手に奪う?

あのシメオンから?

無理そうだけど?

寝てる間に、って仕事中に寝るかな?

そもそもあの大部屋では、他の人もいるし無理じゃない?


ここで、俺は薔薇のキスの相手がシメオンではない可能性に気付く。


「確かにお願いするべきでした。本当にごめんなさい。好きなんだと気付いて、動転したまま、とりあえず呪いを解いておこう、と行動に移してしまいました。」


そして薔薇のその言葉に確信する。

薔薇の相手がシメオンではないと。



「気付いて動転って、前から好きだろ?、、、、、あれ?薔薇は、、、、誰からキスを奪ったの?」


俺は、もう混乱と緊張と、期待と失望と、予感に予想に、その他諸々の感情でぐちゃぐちゃになった頭でやっとそう聞いた。



薔薇が答えるまでの間が、すごく長く感じられる。



「え?旦那様から。」


その返答に俺は完全に固まった。

















、、、、、、、、、、、、、、え?



「え?俺、薔薇とキスしたの?」

思わず、自分で自分の唇を触る。

え?ここに薔薇の唇が?


実感が湧かなさすぎて、ふわふわする。

ふつふつと嬉しさの予兆が込み上げてくるが、まだ全然嬉しいと感じる余裕はない。


「、、、、ちょっと待って、薔薇は、俺の事が好きなの?」

確かめずにはいられなくて、そう聞いた。


「はい。」

「、、、、嘘。」

顔が熱くなるのが分かる。

今度こそ、嬉しい予感が込み上げる。

だから、続いての薔薇からの言葉に俺は唖然とした。


「すいません、旦那様はもう私を好きではないのに、タイミングが悪かったですね。」


、、、、、、は?


「ですから、貴方は私の事を前のように好きではな、」


そんなセリフ、それ以上聞きたくなかった。

すぐに薔薇の口をキスで塞いだ。


「ん、、。」

こんなもんで済ますか、と思う。

手で薔薇の顔を固定して、キスを重ねた。何度も甘く唇を重ねる。



「好きだよ、愛してる、セレス。」

そう告げると薔薇は、真っ赤な顔で目を瞬いた。


「俺がもう君を好きじゃないなんて、馬鹿なの?どうしてそうなるの。」


薔薇の瞳が潤む。

真っ赤になって、潤んだ瞳で見上げる薔薇はすごい破壊力で可愛い。


全身の血が熱くなる。


「最近は、前ほど鬱陶しくなかったので。」

おまけに薔薇の声が甘い。


ああ、愛しい。

可愛い、愛しい人。


「鬱陶しいなんて、ひどいな。」

そう言いながら、薔薇の頬を撫でる。

ちょっと理性が限界な気がする。


「もう一度、キスしてもいい?」

俺が聞くと薔薇はこくんと頷いた。

あ、やばい。可愛い。


俺は薔薇の頬を包んで、キスをした。触れるだけのキスから、深いキスに移行する。


途中一度、唇を離すと薔薇が少し困ったような、でもとろんとした顔をしていた。

これは、やばいな。


また深いキスをする。

理性が飛びそうだ。このまま薔薇の全てを手に入れたいと思う。


薔薇の耳にもキスして、首すじにも唇をあてる。

薔薇が少し身を固くしたのが分かった。


これ以上はだめだ。


「、、、はああ、、、。」

俺は大きく息を吐くと、顔をあげた。


ここで止めておくべきだと思う。

このまま薔薇の肌に触れてしまったら、途中でやめる自信はない。


俺と薔薇はついさっき、気持ちを確認しあった所なのだ。すでに夫婦であるとはいえ、このまま性急に事を急ぐべきではないと思う。

まずは、ゆっくり気持ちの擦り合わせを、、、


そう考えながら、薔薇を見つめた。


すると薔薇は顔を真っ赤にして、潤んだ瞳で俺を真っ直ぐ見ながらこう言った。


「こういう経験はないので、優しくしてください。」



、、、、、、、、そうだった。


俺の薔薇はすごく、潔いんだった。


俺は思わず笑みをこぼしながら、薔薇を優しく抱き締めた。






完結までお読みいただき、ありがとうございました!


とにかく強いヒロインを書きたくて、書きたい風に書きたいシーンだけのんびり書きました。

ヒーローが全くかっこよくなくて申し訳ないです。

ブクマや評価、いただけるととても嬉しいです。

ありがとうございました。


追記

感想にいいねに誤字報告、もちろんブクマに評価もありがとうございます。反応があるのは本当に励みになります。

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― 新着の感想 ―
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