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3話 形だけの結婚 (2)


翌日の14時きっかりにアーノルドはやって来た。

今朝、訪問があることを父に告げると、意外な招待客に驚いていたが、魔道具について説明するとすぐに納得した。

父は、オルランド家との縁談の話以降、完全に塞ぎこんでいた私の気晴らしができて喜んでもいるようだった。


「セレスの客なら私は挨拶の必要はないかな?今日は一日屋敷にはいるのだが。」

「不要でしょう。噂通り変わった方のようですし。」

私がそう言うと父はあっさり引き下がった。



執事よりアーノルドの訪問が伝えられ、応接室へと向かう。

「お待たせいたしました。ノース子爵。」

部屋に入り、会釈して顔をあげて驚いた。


え?だれ?

私は最初、窓際に立つすらりとした貴族然とした青年が誰か分からなかった。

アーノルドの侍従だろうか?

でも、部屋にはその青年しかおらず他には誰もいない。

青年が振り返り、その薄紫色の目を見てやっとアーノルドだと分かった。


アーノルドは今日はきちんとした身なりでやって来ていた。

黒い質の良さそうなシャツにグレーのズボンとベスト。ズボンとベストの縁取りと靴は白ですっきりとまとまっている。

アッシュグレイの髪の毛は本日は艶やかに輝き、柔らかく明るい緑色の絹のリボンでまとめられていた。


野暮ったいローブの印象から一変して、爽やかな青年がそこにいた。


「全然待っていませんよ。、、どうかされましたか?」

あまりに様子が違うので、思わずじろじろと見てしまったようだ。アーノルドが不思議そうに私を見る。


「すいません、あまりに印象が違いましたので、失礼しました。」

私は非礼を詫びて、座るよう促した。

どうも、昨夜からこの男には調子を狂わされてばかりだ。しっかりしなくては。


「ああ、薔薇に会えると思うと嬉しくて、苦手な身なりにも気を遣いました。」

にこやかにそう言いながらアーノルドはソファに腰かける。


「薔薇、とは、私のことですか?」

そうなんだろうな、とは思いつつも念のため確認する。


「もちろん、社交界の薔薇。」

「はあ。」

どうリアクションしていいか分からない。

もういいや、流そう。


「それで、昨日伺った魔道具は?」

何もかもをすっ飛ばして本題に入る。

時候の挨拶も、気をほぐすための世間話もこの男になら不要だろう。


「すいません、それがですね、大きすぎて持ってこれなかったんですよ。」

アーノルドはとても申し訳なさそうにそう言った。


「、、、揶揄かったのですか?」

「まさか!違います!そもそも貴女のためだけにがんばって開発したんですっ、、、、通常の馬車に載らないのを昨夜は失念していました。申し訳ない。」


アーノルドは本当に慌てて、申し訳なく思っているようだ。すごくしょんぼりしているのが分かる。

貴女のためだけに、の部分が何だか少し引っ掛かったが、私はそこもスルーすることにする。


「そうですが、それなのにわざわざお越しいただきありがとうございます。お茶だけでも飲んでいかれますか?」

「ありがとう、いただきます。それに俺としては魔道具より、こっちが本題なんですけど、、、。」

「こっちとは?」

きょとんとして尋ねると、アーノルドは少し身を乗り出して小声で言った。


「オルランドからの縁談の打開策です。このまま人払いせずに話してもいいですか?」

言いながらちらりと後ろに控えているマリーを見る。

「ああ。」

そちらの話の方は、正直全く期待してもいなかったし、どちらかと言うと初対面の男にそんな提案をされたのは気味が悪いくらいだったので忘れようとして、忘れていた。


「後ろの者は、私付きの侍女のマリーです。気遣いは不要です。」

私の言葉にマリーが肩をぴくりとさせる。

きっと何か面白い話が聞けそうだ、と期待しているのが分かる。そういう性格だ。

さっき、アーノルドが私を薔薇と呼んだ時も、かなり前のめりになっている気配がした。面白かったようだ。

でも口は固いし、賢いし、仕事も早い。何なら時々、顔以外は負けてる気もする。


「では、まず貴女が困っている事の主な原因についてなんですけど、いいですか?」

「いいですよ。」

何だか気味が悪いし、さっさとしゃべってもらって、さっさと帰ってもらおう。


「薔薇がオルランドとの縁談を断りたいのは、他に恋人がいるとか、オルランド家の嫡男が嫌いとか、そもそも男性が苦手とか、結婚そのものへの疑問がある、とかではないですよね?仕事が続けられなくなる可能性が高いから断りたいんですよね?」


その通りなのでびっくりした。

まさか、昨日初めて言葉を交わした男が私の結婚を避ける理由を言ってくるなんて。

貴族の女性が働くことを良しとしてない社交の場では、私は仕事への情熱を隠すまではしていなくても、強くは印象づけていなかったはずなのに。


「多くの貴族は貴女の仕事への情熱を過小評価していますし、結婚した婦人が外で働く事に、特に高位の貴族ほど否定的です。公爵家に嫁げば薬師塔で働きつづけることはまず無理でしょう。パトロン的なことならできますけど。」


「その通りです。夫になるかもしれないカイン・オルランドが仮にとても物分かりの良い方であったとしても、公爵家の嫁が働きに出る事は不可能でしょう。そもそも会った事もない私への求婚をする時点で、カイン・オルランドが良識ある方とは思えません。」


「後半部分は賛成できないなあ。貴女はたとえ会ったことなくても、愛を捧げるのになんの不足もない女性ですよ。」

アーノルドはさらりとそう言い、今まで私に対してこんなにストレートに口説いてきた男はいなかったので、恥ずかしくて目が泳いでしまった。

マリーが目を丸くしているのが分かる。


「あ、いいなあ、その表情。すごく好きなんです。」

「、、、、気持ち悪いので、やめてください。」

「失礼しました。それで断りたい理由が仕事を続けたいから、なら俺が解決できます。オルランドの縁談を蹴れますよ。」

「、、、、どうやって?」

「俺と結婚しましょう。」


「、、、、、え?嫌です。」

もちろん即お断りした。

マリーが吹き出したのが聞こえる。





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