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27話 友情、でしょうか


俺が猫の姿で、薔薇との蜜月を過ごしていた時だった。

「セレスティーヌ嬢?そいつは?」

そうカインの声がして、カインが薔薇の腕の中の俺を睨んでいた。


カインは俺の化身の術を知っているし、猫型の俺の事も知っているのだ。


「カイン卿、こんにちは。最近、仲良くなった猫さんです。大丈夫です、王宮の誰かの飼い猫のようですよ。」

薔薇がそう答えると、カインはすごく小さい声で、「、、、え?猫さん?」とつぶやいた。

薔薇には聞こえてないようだが、猫の俺は耳がいいのだ。俺には聞こえた。しかもカインの耳が赤い。

お前、まさか今、薔薇の゛猫さん゛呼びが可愛いとか思ってないよな?

まさか思ってないよな?

今度は俺からカインを思い切り睨む。


「あ、いや、不信に思ってるわけではないんだ。知ってる猫だ。」

そこでカインは前にバートンが俺に向けた、冷たい目をしてきた。

そして、つかつかと近付いて来ると、俺の首根っこを掴んだ。


「に゛っ」

俺は抗議の声をあげようとしたが、カインの目が、バラされたくなければ大人しくしていろ、と言っているので、大人しくする。


「預かって返しておこう。」

カインがそう言い、俺はむすっとしながら、カインの右腕におさまった。

ああ、薔薇の腕の中がいいよお。やだやだ、野郎の腕の中なんてやだよお。


「あら、その子はカイン卿にも慣れているのですね。うちの執事とも仲良しなんですよ。」

薔薇がにっこりしながら言う。


薔薇?俺、嫌がってるんだよ。

しかもカイン相手にそんな笑顔向けないで欲しい。猫が絡むと薔薇のガードがすごく弛くなる気がする。

後で、何とかして注意しないと。


「こいつは、貴女の屋敷にまで行っているのか?」

カインが少し語気を強める。

てか、俺の屋敷だからね。行くよね。

にぃー

俺はカインに抗議するが、全く通じない。フィーならもっと汲んでくれるのに。


「あ、はい。うちはこちらから徒歩10分ほどですから、そんなに遠くはないですよ。でも、そうですね、飼い主さんからしたら、王宮から出てる事が心配ですよね。」


「いや、貴女が気にする事ではない。気にしないでくれ。えーと、張り薬の試作品を届けにきたのでは?」

カインが言うと、薔薇はかごを差し出した。


「ええ、こちらです。少し面積の広いものを、との事でしたので大判サイズを作ってみました。厚みも少し薄くしています。どうぞ。」

「ありがとう。」


カインは礼を言って、右手が俺で塞がっているので、左手でぎこちなくかごを受け取り、ぎこちなかったのでその手が薔薇の手に触れた。


ボウッ

カインの左手を炎が包む。


「えっ」

薔薇が戸惑った様子で声をあげる。


カインは顔を真っ赤にしている。

俺はカインを白い目でみた。


「「…………」」

気まずい沈黙が、昼下がりの騎士団の入り口におりてくる。


最初に口を開いたのは薔薇だった。

「、、、、友情、でしょうか?」


薔薇の問いかけに、顔を赤くしたままカインが答える。

「、、、、おそらく。」


「貴方に、友人として認められているなんて、光栄です。」

「気を遣ってくれなくていい。」

「いえ、第一印象は最悪でしたが、今は真面目ないい方だと思っています。旦那様のご友人でもありますし。」


は? 友人?


「は?いや、アーノルドは友人では。」

「そうですか?旅行中、御者台に2人でいる時なんかは、けっこう楽しそうでしたよ。」

「あいつが勝手にペラペラしゃべるだけで、、、いや、いい。こちらの試作品については、また使用感を聞き取って報告する。」

「はい、よろしくお願いします。あなたも、またね。」

薔薇は最後の部分で、猫の俺ににっこりした。




***


薔薇と別れてからカインは俺をつまんで、真っ直ぐにフィーの執務室へと向かった。


「フィー、暇か?暇なら邪魔する。」

執務室はフィーと侍従と護衛だけで、カインが入っていくと侍従と護衛は席を外す。


「カイン。君が約束もしないで来るなんて珍しいね。暇ではないけど、どうぞ。あれ、アニーも一緒なんだね。」

フィーは書類から顔をあげてにこやかにそう言ってくれる。

俺はにゃーと返事をした。


「場所とローブを借りるだけだ。気にするな。」

「えー、そこは気になるなあ。」



「それで、お前、何してんだ。」

執務室で俺は人型に戻り、借りたローブを羽織ってからカインに聞かれた。


「、、、、何って、猫なら薔薇に触っても燃えないから、妻とスキンシップしてただけだよ。」

「セレスティーヌ嬢は、あの猫がお前って知らないだろ。それをあんなにべたべたして、何考えてんだ。」

カインが俺を睨む。

フィーは今のやり取りで大体の事情を飲み込んだようで、それは良くなかったね、という顔で俺を見てくる。


ぐう。

人の気持ちも知らないで。


「でも、結婚してるんだぜ?こっちは夫婦なんだよ。それなのにキスも出来ないし、手もあんまり握れないんだよ?生殺しなんてもんじゃないよ?最近はいろいろ自重してるし、薔薇が足りないんだよ。いいじゃん、猫でゴロゴロするくらい。」

そうだよ、いいじゃん。猫なんだから。


「そもそも、その結婚だって、向こうの弱味に突け込んだものだろう。」

「はんっ、その弱みを作らせたのは誰だよ?」

俺がそう言うと、カインはぐっと黙った。


「アニー、カインは何も知らなかったんだよ。」

「ふん、薔薇はすごい落ち込んでたんだぞ、初対面の俺に話すくらいに。まあ、おかげで結婚に持ち込めたけど。」

「なら、アニー的には良かったじゃん。というか、あれ?カイン?セレスティーヌ嬢と仲良くなったの?」

フィーの指摘にカインの顔が赤くなる。


「あっ、そうだよ、さっきの何だよ。お前、薔薇に触れてキレイに燃えてたよな。俺の薔薇に横恋慕するなよ。」

「だから友人としてだ。セレスティーヌ嬢は素敵な女性だ、人としての好意を持つのは当然だろう。」


「なんか、僕の知らない所で急展開なんだけど。三角関係なの?」


「「ちがう!」」

フィーの言葉に俺とカインはそろって否定した。


「はあ、お前、まさか猫で彼女の寝室まで行ってたりしないよな?」

「行くわけないだろ。考えた事もなかったわ!、、、、、考えた事もなかったな、、、

いや、、、、さすがにそれは、、、ダ、ダメだろ。やっぱり、絶対、カインはむっつりスケベだよね。」


「お前、寝室まで行く気だろう。」

「なっ、行かないよ!大体、提案してきたのそっちじゃん。」

「提案はしてない!」

「むっつりスケベ!」

「お前なあ!」


「わあ、声が大きいよ!2人ともその辺で止めよう。ね、ここ僕の執務室ね。なんと王太子の執務室だからね。」

フィーが俺とカインの間に割って入る。


「ふん。」

「すまん、フィー。」


「いいよ。カイン。そして、アニー、ご婦人の部屋に行くのは止めとこうね。バレた時に困るのアニーだよ。それと、夫婦なんだし、アニーが真剣にセレスティーヌ嬢を好きなら化身の術の事は話しといた方がいいんじゃないかな、今なら傷も深くはないし。」


フィーがやんわりと尤もな事を言ってきた。


「、、、考えるよ。」

「うん、そうしよう。そうだ、今度遊びに行ってもいい?一度、君のセレスティーヌ嬢と話してみたかったんだ。」

「いいけど、惚れないでよ。」

「分かった。ただでさえ三角関係だもんね。」

「「ち・が・う」」


最終的に俺は、フィーとカインに、猫の姿で薔薇の寝室を訪ねていかない、という約束をした。

そこまでしなくても、さすがの俺でも薄い夜着だけの薔薇に抱っこされになんか行かないよ?

薄い夜着だけの薔薇に、、、。


、、、、、いや!行かないよ!


約束をしてから、俺はまた猫になって職場へと戻った。


その、戻っている道中の事だった。

俺は、ふと、いつもは通らない狭い壁と壁の隙間を通ってみたくなった。


後から思えば、止めておくべきだった。


でも、猫型の時って、ちょっと人型の時とは精神状態が違うというか、好奇心とか狭い場所への熱望みたいなものが強くて、結局俺は果敢にもその隙間へ身をねじ込んだ。


そして、


体が挟まって身動きが取れなくなった。


次の次の日のお昼前にフィーに発見してもらって救出されるまで、俺はまた薔薇に不安な一日半を過ごさせる事になってしまう。





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カインさん分かりやっす!
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