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24話 薔薇の地団駄

すいません、更新がゆっくりになっています。


「えーと、、、た、ただいま?」

冷え冷えとした空気の中、俺はなんとかそう言った。


薔薇はやっぱり怒っている。

俺だけじゃなくて、隣のカインもたじろいでいるのが分かる。

今こそ、いつもの空気を読まない偉そうな感じでぐいぐい行って、俺の変わりに怒られてほしいのに、行きやがらない。


「薔薇?」

「ただいまの前に言うべき事があるでしょう?」

冷ややかな声。


えー、何だろう?

言うべき事?


俺は困って、カインを見た。

「、、、、催眠の魔法のことじゃないか?」

カインが珍しく俺に助け船を出してくれる。

カインも薔薇が怒ってるのが怖いみたいだ。


「あー、勝手に魔法かけてごめんね?」


「違います!それも怒ってますが、違います!」

薔薇が声を大きくする。

こんなの、俺が呪いをかけてしまった夜以来だ。

「ええ?ごめんね。とにかくごめんね。ほら、カインも!」

「すまない。護衛対象を置いて行くなんて、騎士としてあるまじき」

「違います!」

薔薇が、だんっと地団駄を踏んだ。

わあっ。

こんな時なのに、すごく可愛いと思ってしまう自分が憎い。


「心配したんですよ!すごくです!」

薔薇が真っ赤になって怒る。


「話せない事情があったのでしょう、それは分かります。でも、それでも一緒に行く人が信頼に足りる人であるのか、とか、帰るはずの具体的な時間とか、帰らない時の対処法を伝えていくべきでしょう?昨日、朝起きてからどれだけ心配したと思ってるんですか?昨日、宿に来た4人の男に私が声をかけるのがどれだけ怖かったと思ってるんですか?」


薔薇の声が少し震えている。

怒ってる。

もちろん、少しは怒るかな、とは思っていたけど、心配してというよりは、勝手に行動した事を怒られるのかと思っていた。

正直、俺の事をこんなに心配するなんて考えてなかった。

俺、すごい魔法使いだし。

とても心配してくれたようで、申し訳なかった気持ちがみるみる湧いてくる。


もうちょっと、俺の実力を伝えて行けば良かった。

もちろん、俺だって万能ではないけれども、もう少し心配しなくて済んだかもしれない。


残していった置き手紙は、いちおう保険ではあった。

朝までに戻れなかった場合、つまり事がちょっとややこしかった場合、薔薇が心配するかなあ、もしかしたらするかなあ、と思って最低限の情報だけ書いたのだ。


そして、ジャンが手配した応援が村に着いた時に薔薇から行き先が伝わるといいな、という目論みも少しあった。


見事に目論み通りいって、応援の2人と合流した時は、「ナイス薔薇!」くらいの軽い乗りだったのだが、子供の時からフィーとカインと一緒にいろいろ巻き込まれてきた俺と違って、薔薇はご令嬢育ちだ。少し考えれば、得体の知れない男達に自分から声をかけるなんて怖かったに違いない。


いつも強い薔薇に慣れてしまって、冷たくて強い孤高のエメラルドとして扱ってしまった。

こんなに可愛い人なのに。



「、、、、、心配かけてごめん。」

俺はしょんぼり謝った。

「カイン卿もです!」

「すまなかった。」


俺達の謝罪に薔薇は、ふうとため息をついた。

「分かったのなら、もういいです。」

「ごめんね。」

「すまなかった。」


「もういいんです。」

「ごめんね、ごめんね。ほら、カインも。」

「すまなかった。」

「やめてください。」

「ごめ、」

「旦那様!」

薔薇はピシャリと俺を遮る。


「もう、大丈夫です。少し取り乱しました。すいません。」

そう言った薔薇の声はいつもの声色で、顔色も戻っていた。

「うん。」


「、、、、、寒いのですか?唇が真っ青ですが、えっ、びしょ濡れじゃないですか?」

薔薇はそこで初めて、俺とカインが全身ぐっしょり濡れている事に気付いた。

そういう事に気付かないくらい怒っていたようだ。


「雨の中、歩き通しだったからね。」

早朝のひんやりした空気の中はけっこう寒い。

カインですら寒そうだ。

ここに帰ってくるまでは気も張ってたし、ずっと歩いていたから持ちこたえていたけど、こうして帰ってきて立ち止まってると寒い。


「早く宿で着替えてください。お風呂にも、、、、こんな朝早くは無理か。あ。」

そこで薔薇は何かを思いついたようだ。

おもむろに、俺の前ですっと立って少し両手を広げた。


「?」

「親愛のハグなら許しましょう。温まると思います。」

「えっ?」

「ですから、親愛のハグです。宿まで少しありますし、朝からお風呂は準備してくれないでしょうから。燃えれば温かいでしょう?」


ええ?

さっきまであんなに怒ってたのに?

親愛のハグ?

切り替えが早い、早いよ、薔薇。

おまけに行動的だ。


俺は薔薇をまじまじと見た。

真剣な顔で見返してくる。


、、、、真剣に俺を見上げている様子がすごく可愛い。


わあ、無理。


ちょっと下心なしではハグ出来ないと思うけど、いいのかな?

でも、薔薇がいいって言ってるしいいかな?

あ、ダメだ、ドキドキする。



「カイン卿もお嫌でなければ、あ、貴方は燃えないんでしたね。」

そこで薔薇は、カインにも顔を向けてそう言った。


、、、、、は?

「はあ?何言ってるの、薔薇。そんな危険な事ダメだよ。」

「危険?」

「俺以外の男とハグなんて危険だよ!」

「ですから、親愛のハグです。そもそもカイン卿は燃えませんし。」

「あいつは、むっつりスケベだから燃えないだけだよ!」

「?。むっつりスケベでも燃えると思いますけど。」

「はあ、やめて。薔薇がむっつりスケベなんて単語言わないで。とにかくカインは俺の魔法で乾かすから。」

「ん?」

「あれ?えーと、、、、、んん?」


俺は俺の魔法で自分とカインを乾かした。




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― 新着の感想 ―
親愛のハグチャンスをサラッと手放すアーノルド様!笑 カインさん、今は燃えると思う♪
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