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21話 村に居たのは


俺は初日の馬車でぐっすり寝て、その日の宿でも着くなり寝て、やっと回復した。

前日は薔薇とカインで交代で御者をしたと聞き、俺も交代を申し出る。


「御者、出来るんですか?」

薔薇が驚きの表情と共に言う。

「薔薇はさあ、俺の事をだいぶ見くびってるよね。剣術以外なら一通りできるよ。」

「お見それいたしました。」

「カインは俺の隣ね。カインと並ぶなんて嫌だけど、薔薇とカインが2人きりなんてもっと嫌だから。」

「元よりそのつもりだ。」

「どうだか。」

どうだか。


という訳で、3人で交代しながら馬車を進める。

天気も全く問題なく、順調に旅は進む。2日目も滞りなく済み、馬車旅3日目の昼過ぎ、この辺りまで来ると、街道は森の中を馬車1台通れるだけの道になっていて、1つの村や町を抜けた後は人家もない。

ここを抜ければ後は目的の村、という所で倒木が街道を塞いでいた。


遠目からも確認できる大きな木が、きれいに道に横たわっている。

馬車を止めて、3人で確認する。


「困りましたね。」

「迂回路はあるのか?」

「かなり大回りになります。ここから回ると4日かかりますね。」

「、、、、何とかするか。」

カインはそう言うと、すらりと剣を抜いて、木に打ち込んだ。鈍い音がして少し木が削れるが、刀身は全く入っていかない。

倒れた木は、まだたっぷりと水分を含んでいて簡単に剣で切れるものでは無さそうだ。

瑞々しく、若い大木。枯れて倒れたものではない。

俺は木の根本をちらり、と見る。

人為的に倒されたような跡がある。

カインもちらりと根本を見ている。

2人で少し迷う。

何だか不審な倒木だから、薔薇を連れてこの先に行くのはあんまりしたくない。かと言って、ここから後戻りすると、前の村に日没までに着くのは無理だから、野営することになってしまう。不審な倒木の近くでの野営はもっと嫌だ。


うーむ、進め、かな。

カインと2人、無言で進むことに決める。


「アーノルド。」

カインが低く、俺を呼ぶ。

「分かってるよ、命令しないでよね。セレス、熱くなるから下がってて。」

俺は薔薇が下がったのを確認してから、ローブの裾から杖を出し、炎の魔法の呪文を詠唱した。


倒れた巨木を炎が包む。水分が多いから火が付ききるのに時間がかかる。

えー、もう、しんどいなあ。

そう思っていると、いつの間にか薔薇が隣まで来ていた。


「治癒魔法以外の魔法を見るのは初めてです。」

「惚れ直した?」

「まだ惚れていません。」

俺は、゛まだ゛に少し動揺した。

ドキッとして、炎が揺れる。いかん、魔法に集中しなくては。

「すごいですね。魔法塔に予算をつぎ込む気持ちが分かります。」

「予算?」

「薬師塔の10倍の予算がついてます。」

「へえ、そんなに。」

「あ、話しかけない方が良かったですか?」

「大丈夫。俺、けっこうすごい魔法使いだから。この炎も、これだけ大きいのをこんなに長時間燃やすなんてすごいからね。」

「私には、何もない所に突然火が付いただけで、十分すごいです。」


「アーノルド、もういいぞ。」

火の様子を見ていたカインが言う。

「だから、命令するなよ。」

俺はむっとしながら、魔法を解除した。炎はもう木にしっかり燃え移っているので、魔法を解除しても火は消えない。


周囲に延焼しないように気をつけて、小一時間燃やし、倒木は炭のようになった。

こうなると、剣で砕くのも容易になる。カインが木を崩して、道の脇にどけて再び馬車を進めた。


目的の村の一軒だけの宿に着いたのは夕方だった。1階が食堂と受付、2階が客室の典型的な宿だ。

「今日はもう日も落ちますし、カエルは明日、狩人に受け取りに行きましょう。」

薔薇はそう言って宿に入り、馴染みだという女将さんと近況を報告し合っている。


待つ間に何となく、俺は食堂を見回した。


ん?

隅の方に知ってる男を発見する。


んん?

男も俺を見て、カインを見る。

カインは不機嫌そうに顔をしかめる。


薔薇と女将の話が終わり、俺達は部屋へと案内された。薔薇と夕食の時間に食堂で会うことに決めて、俺とカインは部屋へと入った。


「カイン。」

「分かっている。とにかく話を聞くぞ。」

俺とカインは荷物を置くと、すぐに階下の食堂に向かった。

隅の方に居た男は、俺達をちゃんと待っていた。

「何してるの、ジャン。」

俺はその男の名前を呼んだ。


「それはこちらのセリフです。なぜここにアニーさんとカインさんが?」

フィッツロイ王太子殿下の直属の゛影゛と呼ばれている隠密集団の内の1人、ジャンは笑顔で聞き返してきた。


「俺は新婚旅行、カインはその護衛。」

「おい。」

カインが本気で怒ってくる。

こういう所、嫌だなあ。フィーなら一緒に合わせてくれるのに。

「冗談だよ。俺は、愛しい妻の出張に付いてきて、カインはいろいろあって本当に今回の護衛。」

説明的にはさっきとほとんど変わらない気もする。


「えっ、妻?ええっ、えええっ。結婚してましたっけ。えっ、しかもさっきの女性が妻?」

ジャンは目を白黒させて驚いた。

「えー、もう3ヶ月くらい前だよ。」

「そんなに前、、、、そうか、私これに掛かりきりだったからか。」

「これって?」

「あー、えーと、、。秘密です。」

「困っているなら協力するが?殿下の指示なんだろう?」

「あ、俺は協力するかは聞いてから決めるからね。」


ジャンは困っていたようだ。


「3ヶ月前、王都の神殿から禁忌の魔道具が盗まれたんです。それを追っていました。この村はその行き先の候補の1つで、でも本命ではありませんでした。」

「ありませんでした、か、ここだったの?」


「着いてから分かったんですけどね、この村への街道が人為的に塞がれていましたし。昨日の昼に馬でこちらに来たのですが、街道に倒木があった時点で怪しいと思い、応援は要請済みです。木をどけるのはけっこうかかりそうなので、迂回路でこちらに来る予定です。私は偵察と見張りで単身残っている状況です。」


「あー、あの倒木ね。」

「あれ?そういえばお二人は?馬で来られたのですか?あのご婦人も?」

「馬車だ。」

「倒木は?」

「除去した。」

「えっ、どうやって?あれ、2人じゃ無理でしょうって、あー、そうか、アニーさんの魔法か!はあ、便利ですね。てか、ありがとうございます。迂回しなくて済みますね、すぐ報せないと。間に合うかな。」

「急ぐの?」

「魔道具がね、移動しそうなんですよ。」

「ところで、禁忌の魔道具って何の魔道具?」

「増幅の魔道具です。」

「うわ、盗まれるなんてバカじないの?何でも増やせちゃうよ。」


増幅の魔道具は、王国の秘宝で古代の産物だ。禁忌の魔道具の中でもトップオブトップ、最高峰の禁忌だ。

見た目は宝石箱のようで、中に入るものならいくらでも増やせるというえげつない作用を持っている。悪意であれ、善意であれ、その利用が生むのが争いである事は明らかな魔道具だ。

そのため存在自体も機密で、俺は魔法塔副長官という立場になって初めて存在を知った。


「中に入るものしか増やせませんよ。」

「あれ、けっこういろんな物が入るよ。」


「なあ!ちょっと待て、その話、俺が聞いて良かったか?」

そこでカインがカインにしては慌ててそう言い、俺とジャンははっとした。


「、、、、あ。」

「、、、、あ。」


「、、、、うーん、ダメでしたね。」

「ダメだったねえ、ごめーん。」

「ごめんで済むのか?」


「うーむ、でも、カインさんはオルランド公爵を継ぐ方ですしね、爵位を継げば、皇族所縁の公爵なら知らされる情報なので、それまで知らないことにしてもらえれば、、、、。」

「それに、ひょっとしたらフィーの義兄になるかもだろ。そろそろ次の候補探すだろうし。」


「、、、、妹にその気はない。」

「いやいや、こういうの、本人の意思関係ないからね。」

俺がそう言うと、カインにものすごく睨まれた。

何なんだ?自分とこは薔薇に婚約申し込んで、薔薇を泣かせておきながら。


「とりあえず、聞いちゃったんだし、全部聞こう。どこに盗まれたの?」

「盗んだのは、非合法の麻薬を作ってる組織です。」

「、、、、麻薬。」

「麻薬です。非合法の。」

それは、、、、もしたくさん作られれば、きっと薔薇は悲しむ。


「おまけに、その組織の本拠地は隣国です。」

「げっ、場合によっては国家間の揉め事になるじゃんか。え?じゃあ、これすごく大きい話だね。」


「そうなんですよ。そもそも、神殿から禁忌の魔道具盗まれてる時点で大きい話ですよ。かなり周到な計画です。盗んだ後のルートも複数用意されていて、追うのも大変だったんです。」


「何で、そんな大捕物にジャン1人なんだよ。」

「この村は囮のはずだったんですよ。だから私は、ここが囮だという確認だけで来たんです。ここが本命で1人で実はすごく困ってました。」


どうりであっさり、機密の任務を教えてくれた訳だ。俺とカインはフィー殿下と親しいし、そのせいでジャンも知ってはいるけど、影としての任務を教えるなんて、本来ならあり得ないことだ。


「それならもっと悲壮感だしてよー。それならきっと事情は聞かなかったのに。」

「えっ、ひどいですね。」

「だって、俺は新婚旅行中だからね。」


「それより、急ぐのだろう?」

禁忌の魔道具について知ってしまったショックから立ち直ったカインが聞いた。


「あ、はい、これでも慌てています。応援が来る前に魔道具が移動したら厄介なので。」

「今、その魔道具はどこにあるんだ?」

「この村から、少し山を登った樵用の小屋です。もちろんここは本拠地ではありません。追跡をくらます為の一時保管のようです。今日の昼くらいから出入りが激しくなっていて、そろそろ移動させるのかな、と思うんです。」

「その小屋には何人いる?」

「12人です。1人は魔法使いです。」

「魔法使いか、厄介だな。」

「ええ。」


「とりあえず、今夜行ってみるか。取り返せそうなら取り返せばいい。難しそうなら、行き先だけでも分かるようにしておくべきだ。」

「えー、ちょっと待って、俺協力するなんて言ってないよ。」

俺は抗議するが、カインは無視する。


「ありがとうございます。」

ジャンも無視だ。


「俺、協力するなんて、言ってないよ。」

「アニーさん、そんな事言わないでくださいよ。相手は魔法使いなんですよ、アニーさんいないと困ります。お願いします。」

ジャンが真剣な顔で頭を下げてくる。

む、そんな風にされると、なんか俺が悪者みたいじゃないか。

何より、麻薬組織に魔道具が渡って、麻薬が大量に出回れば、薔薇がきっと悲しむのだ。


「明け方までには戻ってこれる?」

「はい。無理はしません。3人で無理めなら、追跡魔法だけお願いします。」

「なら、協力するよ。」

俺とカインとジャンは夜に落ち合う事に決めて、一旦解散した。




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