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17話 旅行?


「事情は分かりました。」

本当はちょっと全然意味というか、アーノルドの心情や発想は分からないが、とりあえず私はそう言った。


アーノルドが言うには今日の晩餐でキノコが続いているのはわざとで、この後にはジュレの中にもキノコが閉じ込められているらしい、何でも私の苦手な食材を出して、私が動揺している間に私を説得したい案件があるとの事。

もはや、アーノルドが私がキノコを苦手な事を知っているのを不思議には思っていない自分がいて、そんな自分に少し驚いている。


「それにしても、苦手と知ってて出すなんて、、、、普通、好いた相手には優しくするのではないですか?」

「薔薇には優しくする隙がないもん。もちろん、そこも逆に可愛いけど、俺の薔薇。」

「はあ。」

何それ、と思う。何それ。


「それに、好きだから意地悪するっていうのもあるよ。」

「それは、完全に子どもでしょう。」

私は呆れながら、最後のキノコソテーを食べ終えた。


「ジュレは薔薇の分は俺が食べるから。」

「ありがとうございます。ですが、キノコは味よりも食感が苦手なので、ソテーでなければそんなに苦じゃないんです。食べれますよ。」

「ううん、俺がもらうから。」

「はあ、分かりました。」



「それで、旦那様は私に何を了解させたかったんですか?」

無事に夕食が終わり、食後のお茶を飲みながら私は聞いた。

「、、、、旅行。」

「旅行?」

「うん。俺、結婚休暇をまだとってないから、まとまった休みが取れるんだ。だから、薔薇さえ良ければ旅行に行きたいな、と。」

アーノルドは少し俯いて上目遣いでそう言う。

その様子に昼間にやって来た猫の゛だんなさま゛を思い出す。


猫の薄紫色の瞳を最初は叔父のようだと思ったが、膝の上からこちらをじっと見てきた時はアーノルドの目だと思ったのだった。叔父はあんな目つきはしない。上目遣いで哀願してくる様子は完全にアーノルドのもので、私は思わず微笑んでしまった。

そしてついつい、猫に゛だんなさま゛と名付けてしまった。

本人を前にそれを思い出して少しばつが悪くなる。


「旅行、、、。」

私は真面目に考えてみた。


アーノルドが、こんな幼稚な嫌がらせみたいな事までして行きたい旅行、、、。

正直、旅行に一緒に行くのは構わない。想像しても嫌じゃない。

でも、アーノルドが行きたいのは、いわゆる新婚旅行というやつなのだろう。

それは、全然行きたくはない。

そもそも、休みが取れない。


結婚して2ヶ月、アーノルドは私を大切にしてくれていると感じる。最初から使用人に特殊な結婚だと伝えてくれていたからやりやすかったし、私の為に用意してあった部屋は居心地が良かった。図書室にも私の為の本棚を用意してくれていた。

言動は時々軽薄で呆れることはあるが、態度は一貫して優しい。呪いの事があるとはいえ、私には本当に指一本も触れてこない。

行ってあげてもいいかな、と思った。幸い当てはある。

これは恩返しのようなものだ。仕事を続けることが出来る恩返し。


「旅先の宿の部屋は別々ですか?」

「もちろんだよ。」

「それなら、行きたい所というか、行くべき所があるので一緒に行きますか?10日間くらいかかりますが。」

「ほんと?10日大丈夫!行く!どこ?」

アーノルドはすごく嬉しそうに即決する。


「では、北の海に海獣の血を取りにいくのと、南の森に毒ガエルの粘液を取りにいくとの、どちらがいいですか?」


「んん?」

「ですから、北の」

「あ、そこじゃなくて、えーと、あれ?旅行ってそういうものだっけ。俺が考えてるのと大分違うよーな。」

「旦那様の考えている旅行?」

もちろん分かってるけど、しれっと聞く。


「バカンス的な?観光的な?」

「これは薬の原料確保の為の出張旅行のお誘いです。」

「、、、、だよねー。それでは意味がないかな。」


「海獣の血は、骨がもろくなる病の、毒ガエルの粘液は心臓の機能不全の病の薬になります。どちらの病も治癒魔法では治せないものです。」


治癒魔法は人本来の治癒力や免疫力を高めるものだ、慢性の病気や機能そのものが不全となっている病気は治せない。

これらの病にかかっている人は少ないが、その人達にとってはとても必要な薬だ。


「あ、うん。そういう意味じゃなくてね、まあ、もう非日常なら何でもいいか。他の薬師の人も来るよね、何人で行くの?」

「そんな予算はありませんよ。私1人です。」

「そうなの!?」

アーノルドの顔が輝く。


「はい。いつもは叔父と一緒なのですが、今回は日程が合わなかったので1人です。あ、安全面は大丈夫ですよ、馬車ですし、街道しか進みません。海獣やカエルの捕獲は事前に狩人にお願いしてます。それに騎士団に護衛の騎士を1人派遣してもらいます。」


「はあ?」

今度はアーノルドの顔が盛大に曇る。


「何それ、薔薇は騎士と2人っきりで旅行に行こうとしてたの?」


「2人っきりという言い方は不穏ですね。そういう方面を心配されてるなら大丈夫です。護衛の騎士はもう何回もお願いしているベンジャミン卿で、年配の方です。私より大きい娘さんがいます。それにさすがに今回は、叔父も来れないし、マリーにお願いして付いてきてもらおうかとは思っていました。」


「え?そもそも今までは侯爵家令嬢が侍女も満足につけないで馬車旅してたの?」


「実家に頼めば供も付けれますが、薬師塔の仕事としての出張ですからそれはしません。平民出の方々がするように私もします。私だけ特別仕様にはできません。」


「ええ?じゃあその出張、去年は男2人と薔薇とで行ったの?10日間も?なんかすごく嫌だ。」

アーノルドの目つきが険しい。雰囲気も私に呪いをかけた時みたいになっていて危うい感じがする。


これは、嫉妬してるのだろうか?叔父と?ベンジャミン卿に?


「落ち着いてください、叔父とベンジャミン卿と、私です。何ならお父さんとお爺さんと旅行に行くようなものです。」


「は?全然違うよ、だって薔薇は、、、、、。」

アーノルドはそこでぐっと言葉を飲み込んだ。

そのまま剣呑な様子で黙り混む。


しょんぼりしているようにも見えて、ほっておけなくなる。何だかサマスの気持ちがよく分かる気がする。確かにこれは゛坊っちゃま゛だ。

私は向かいの席からアーノルドの隣に移動した。


「貴方が勘ぐるような事は起こり得ないメンバーです。私は見た目の通り、身持ちが固いですしね。今回、実は叔父が行けなくなって少し心細かったので、旦那様が来てくれると嬉しいです。わざわざ休みを取らせてしまうことになりますが。」


ん?嬉しい?

言ってしまってから私は疑問に思った。

私はアーノルドと一緒で嬉しいのだろうか?

でも、マリーに付いてきてもらおうと思うくらいには心細かったわけで、アーノルドが来てくれるなら、、、、嬉しいか、嬉しくないかだと、確かに嬉しい。


「本当?俺が一緒だと嬉しい?」

アーノルドは私を見つめながらそう聞いてきて、何だか、恥ずかしくなってしまう。


「はい、嬉しいです。」

恥ずかしさを堪えてそう言うと、アーノルドは顔を少し赤くして、困ったような顔をした。


そしてそっと手を私の顔の側に持ってきた。アメジストの瞳が強い光を帯びて私を見ていて、その目は完全に大人の男の目だった。

顔の側まで来た手は今にも私の頬に触れて、引き寄せようとしていた。

でもアーノルドは迷ってからぐっと拳を握ってその手を下ろした。


一瞬、キスされるかと思った。

心臓がいつもよりずっと早く脈を打っている。こういう甘い雰囲気は今まで経験した事がないのだ。


「どうしますか?行きますか?」

私はドキドキをごまかすように、結論を急いだ。




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