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14話 笑うんだな


呪いのお披露目をして、カインとの最悪な初対面をした夜会から二週間後、件のカイン・オルランドと私は今、王宮内の騎士団の建物で顔を付き合わせている。


「こちらが、魔法塔と薬師塔とで開発した、回復水を貼り薬にしたものです。」

私は机を挟んで向かいに座っているカインの前に、手のひらサイズの白くて四角い物を置いた。


私はここに仕事で来ている。

薬師塔ではこの度開発した新しい貼り薬を騎士団で試しに使ってもらう事になった。騎士団へその旨をお願いをした結果、ではまず騎士団本部にて担当の者に話を通してくれ、という事でやって来ると出てきた担当者がカインだった。

若くして小隊長らしく、若いから何かとこういう雑用のようなものを押し付けられているようだ。


こないだの夜会で、淑女としてはかなり失礼な態度をとってしまった気まずさはあるが、お互い様だったし、今は仕事なのだから私は淡々と自己紹介をして、本題に入ろうとしている。

カインはというと、意外にも少しばつが悪そうな様子だが、気にせず続ける。


「簡単にどのようなものかご説明してもよろしいですか?」

「あ、ああ、頼む、頼みます。」


「まず、この青いラインが入っているのが外側のガーゼです。ここにまず不浸透性のベースを塗っています。この白い部分ですね。その上に魔法塔で治癒魔法をかけた回復水を乗せてます。今回は魔法塔に協力してもらって少し粘度の高い回復水を作ってもらいました。」

魔法塔ではこの粘度の高い回復水を作るのが大変だったらしいが、魔法は専門外なので、詳しい苦労は知らない。


「回復水の上に不浸透性のベースとは違う、細かな孔がたくさん空いたベースを乗せて内側のガーゼを重ねています。この少し青みがかった部分が細かな孔が空いてるベースです。薄さは全部で7ミリほど。細かな孔から回復水が少しずつ出てきて傷の治りをよくします。回復水を飲んだ時ほどの効果はありませんが、持続性があり、少ない量で最大限の効果が得られます。嵩張らず割れ物でもないので持ち運びは格段に楽です。また安価です。」


「回復水は高価で、任務時に持っていける量も限られているから、確かに使用は重傷者に限定されているな、いや、されています。」


「無理に敬語を使っていただかなくて結構ですよ。私のこれは癖ですのでお気遣いなく。全ての任務に治癒魔法士を連れていくのも無理ですし、汎用性はあると思います。」


「あ、ああ。」


「まずは100枚、無償でお渡しします。使ってみて具合が良いようならその後は買い取りです。また、改善点等あればお伝えください。善処します。使っていただけるでしょうか?」


「使用については、上層部に話があった時点で問題ない、となっている。回復水の持ち運びは気を使うからこれならとても楽だ。あとはどれくらいの効果があるかだな。」


「表層部分の怪我なら一晩で綺麗に治ります。傷が骨までとなるとまだサンプルが取れていません。骨折は1日1枚貼って1週間かかりました。」


「ふむ、なかなかいいな。」

「個人差はあると思います。」

「今、100枚を受け取るのか?」

「カイン卿さえよろしければ、ここにお持ちしています。」

私が名前を呼んだ時、カインは肩をびくっとさせた。

ばつの悪そうな様子といい、怖がられているのだろうか。前の夜会では至極冷静に対応したはずなのだが、ひょっとすると顔がすごく恐かったかな、と心配になる。

私はあの時、かなり腹を立てていたのだ。


「では、もらっておこう。」

カインは立ち上がると、私から貼り薬100枚を受け取った。


「あの、あとこれはお願いなのですが。」

「何だ?」

「もし良ければ、腰痛や古傷の痛みにも使っていただいて、効果を教えていただきたいんです。」

「分かった。」

「ありがとうございます。では、1週間後に一度状況を聞きに参ります。今日はこれで失礼します。」

私はそう言うと、立ち上がって部屋を出ようとした。


「あ、えーと、ノース子爵夫人。」

カインが私を呼び止めた。

「、、、、セレスティーヌで構いません。こちらでは私は薬師塔で働く、いち薬師に過ぎません。」


「、、、では、セレスティーヌ嬢。」

「はい。」


「、、、、その、、、こないだは失礼した。」

カインはもごもごとそう言った。


「大丈夫です。もう気にしておりません。では。」

「いや、待ってくれ!貴女と部屋で2人きりで扉を閉めたのは本当に申し訳なかったと思っている。変な噂も立ってしまい、本当にすまない。」


「ああ。」

あの夜会の後、カインとアーノルドで私を巡って決闘がなされた、と物々しい噂が流れたのだ。夜会の会場に係りの男が慌ててアーノルドを呼びに来たのを見た人々が早とちりしたらしい。

オルランド家が躍起になって噂を正したのだが、今度はカインが私の手をとっても燃えなかった事に焦点があてられて、社交界の薔薇でも落ちない男がいるのか、とそっちはそっちで騒がれたのである。

確かにどちらの噂も私としては余計なお世話だし、いい迷惑だった。


「また、貴女の手をいきなり握ったのは言語道断だとも言われた。」

「お父上にですか?」

「いや、、、家族に、、、。」

「ご家族の方に。」

「その、、、妹に、、、。」

カインは顔を赤くしてそう言った。


そういえば、オルランド家には社交界デビューをしたばかりの娘がいた。

カインと同じで、黒髪に黒い瞳の愛らしい少女だったように思う。可憐な様子だったが兄には厳しいようだ。


「妹は貴女にとても憧れていて、貴女の許しを得るまでは口をきかない、と言われている。」


「、、、ふっ。」

カインの弱った様子と、その言葉に私は思わず吹き出してしまった。

口をきかない、なんて完全に子供のやり口だ。それを真面目にする妹も妹だが、付き合う兄も兄だ。想像するとおかしい。


「ふふっ。ああ、ごめんなさい。つい笑ってしまいました。そういう事なら、貴方を許しますカイン卿。私も淑女の礼は尽くしませんでしたし、お互い様です。」

笑いを堪えきれないまま、私がそう言うと、カインはぽかんとした顔で私を見ていた。


「、、、笑うんだな」

ぽつりと何か言ったようだが、よく聞こえない。でも聞き返すほどのことでもないだろう。


「ではもう許しましたし、これで失礼します。」

私はそう言うと開いたままの扉から部屋を出た。




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シースコーンなの?まぁ微笑ましいのかな?
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