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13話 言いつけ口は好きではないが

やっと、冒頭の夜会です。


私とアーノルドが結婚して1ヶ月後、私達は結婚して初めての夜会に参加した。



その夜会には、1ヶ月前に電撃的に結婚したノース子爵夫妻が揃って参加する、ということで列席者は皆、夫妻に注目していた。


そんな中、子爵夫人の手をとった子爵が炎に包まれ人々は畏れおののいた。夜会の主催者は慌てて騎士団へ報せを送った。



「きゃあっ。」

「火がっっ。」

私に触れたアーノルドの手が炎に包まれ、辺りは騒然とした。


「あっ、大丈夫ですよー。灯り用の火魔法で使うような炎なので、長時間は良くないですが、短時間ならちょっと熱いなーくらいで火傷もしません。ね。」

アーノルドが軽く説明して私の手を離すと、炎が消える。アーノルドの手も私の手も何も異常はない。


「ほら、大丈夫でしょう。私の愛しい薔薇とは、王命と俺の片想いで無理矢理結婚してもらったんです。だからこの呪いは自分を戒めるために妻にかけました。」

朗らかにそう説明するアーノルドの横で、私はキリキリと胃が痛かった。


帰りたい。

今すぐ帰りたいが、そういう訳にもいかない。


アーノルドの説明が終わると、私達はというか私はたくさんの紳士とマダム達に囲まれた。

彼らはわざと私からアーノルドを遠ざけると、口々に私を心配してくれた。


「セレスティーヌ嬢、結婚の話を聞いて心配していたんですよ。大丈夫ですか?」

「呪いだなんてどういうことなんだ?」

「貴女の手は、本当に大丈夫なんですの?」

「今すぐ離縁をした方がいいのでは?」

「裁判所になら知り合いがいる。こんな事になっていて、手続きならすぐできるよう手配しますよ。」


彼らの必死な様子に私は胸が少し熱くなった。

仕事のための社交であったとはいえ、駆けつけてくれたのは、素直に尊敬できる知識も品位もあり優しい紳士とマダムだ。


私は言葉を尽くして、夫は優しい人である事、先走ってこんな呪いをかけてしまったが私を思う故である事、夫は今、呪いを解く方法を探してくれている事、結婚生活は呪い以外は順調である事を説明した。

何より彼らの心配を取り除きたかったし、ここできちんと説明しなくては、変な噂がたつ畏れもある。


「友情や親愛の情を私に向けてくれている方でも燃えるようです。私の父と兄の手が炎に包まれた時は、少し感動致しました。」

私自身はあまりこの呪いを気に病んでない様子もアピールする。

実際、あんまり気には病んでない。


後から後からやって来る人々に、とにかく丁寧に説明をし、根気よく誤解のないように伝えた。

こんなにずっと喋り続けたのは初めてだ。


人だかりがやっとまばらになったのは、宴もたけなわの頃で、喋りすぎてぐったり疲れた私は会場の係りに休憩室に案内してもらった。


「私は部屋の外で控えておりますので、ご用があればお呼びください。」

係りの男がそう言って部屋から出ると、私は深くソファに腰かけた。


「ふう。」

疲れた、、、。

アーノルドが皆に呪いを説明している時点で、一生分の気疲れをしたし、その後の質問責めとそれへの受け答えにもどっと疲れた。


もう、今日はこのままここで休んで、アーノルドに迎えに来てもらって帰ろう。

ほんの少しの間、目を閉じて休息する。


私が喋りすぎて喉がカラカラなのに気付き、お茶を頼もうかと考えた時だった。



「今、中でノース子爵夫人がお休みです。立ち入りはご遠慮ください。」

「知っている。ぼや騒ぎの中心人物だろう?」

「それは解決しております。」

「俺が用があるんだ。」

「あの、」

扉の外で揉める話し声がしたと思うと、扉が勢いよく開けられ、男が1人入ってきた。

ソファに座る私を認めると扉を閉めて、こちらへやって来る。


入ってきたのは黒髪に黒い目の騎士だった。顔立ちは凛々しく威圧的だ。

長身で、がっしりとした体格で、青い騎士服がたくましい身体をぴったりと包み、若い女達が見れば惚れ惚れするであろう美丈夫だが、知らない男だった。


「どなたですか?」


「縁談を断られた相手を見ておこうと思ってな。」

男が低い声でそう言い、私ははっとした。


「カイン・オルランドだ。」

「、、、、セレスティーヌ・ノースです。」


「ふーん。」

カインはじろじろと私を見た。

とても不躾な視線だ。私はムカムカした。


「父のお眼鏡にかなった女はどんな女だろうとも思っていたんだが、なるほどな、こういう女を妻合わせようとしていたのだな。」


その言葉に、は?と思っていると、カインはつかつかと私に近付き、かがんでさっと私の手をとった。


手を引っ込めるひまもなく、左手を掴まれた。その動作は素早くて力強い。アーノルドとは全然違う。アーノルドのそっと絡め込むよう手つきとは全然違う。

そしてカインの手は炎には包まれなかった。


「、、、燃えないな。」

カインはぼそっとそれだけ言った。


一連の失礼な態度に、私は頭に血が上りそうになった。でも、ここで手を振り払ったり、声を震わせるものかと私は思った。


そんな小娘みたいなことするものか。

この男を絶対に優位になんかさせない。


「貴方が私に一片の好意も抱いていないからでしょう。好意がなければ燃えません。」

私はすっと手を取り戻す。それから静かにカインを見上げた。


「私も、顔も知らない女に婚約の申し出をするような非常識な男はどんな男かと思っていましたが、良識の欠片もない方ですね。」


「何だと?」


「気心の知れた間柄ではないのに、婦人と部屋で2人きりで扉を閉めるなんて騎士としてあるまじき行為です。また、不躾な視線もとても失礼でしたし、突然手に触れるなんて紳士のする事ではありませんでした。紳士ではない貴方には私も礼を返す必要はないでしょうから、これで失礼します。」


冷静にきっぱりとそれだけ言うと、私は立ち上がりさっさと部屋を出た。

カインはぽかんとした顔をしていた。こういった事を注意された事がないのだろうか。公爵家の嫡男なのに?あきれた男だ。

そんな男に淑女らしい振る舞いなんて不要だ。


カインを置き去りにして部屋を出て、足早に廊下を歩いていると、向こうからアーノルドと係りの男が慌ててやって来た。


どうやら、カインが強引に部屋に入ったので、係りの男はすぐにアーノルドに伝えにいったらしい。


「大丈夫?カインに何か言われた?」

「申し訳ございません、私がきっちりお止めできずに。」

アーノルドが心配そうに聞き、係りの男はとても恐縮している。


「貴方のせいではありません。あの男は公爵家嫡男で、高位の騎士なのでしょう?無理もありません。気にしないでください。夫を呼んで来てくれてありがとう。」

私はまず係りの男にそう言った。

それからアーノルドの腕を取り、

「旦那様、今日はもう疲れました。帰りましょう。」

と言った。


「馬車を呼んで参ります。」

係りの男がそれならば、とぱたぱたと走って行く。


「本当に大丈夫?あいつ、凄く嫌な奴だろう。何もされてない?」

アーノルドは私に腕を取られて、少し顔を崩してからそう言った。


あいつ、とはカインの事なのだろう。

「旦那様はあの男とお知り合いだったんですか?」


「カインと?いや、あいつは俺の友人のフィッツロイ殿下の友人ってだけだ。」


「それを、お知り合いというのでは?」


「は?言わないよ。あんな嫌な奴、昔から嫌いだったし、薔薇に婚約を申し込んだから今は大嫌いだ。」


嫌いだから知り合いではない、というのは違う気がしたが突っ込まないことにする。


カインは確かにすごく失礼で威圧的で感じが悪かった。


「旦那様。」

「なに?」


「二者択一の消去法ですが、結婚したのが貴方の方で良かったです。」


「、、、、えー、さすがにあんまり嬉しくない。カインは君に何をしたの?」


「いきなり手を掴んで、燃えないな、と言われました。」


こういう言いつけ口は好きではないが、今は言い付けてやる、と私は思った。それくらいさっきはカイン・オルランドに腹が立った。

アーノルドに言いつけても、何の仕返しにもならないだろうが。


「は?あいつ、薔薇の手を触ったの?どっちの手?」

「ええと、左手だったと。」

私がそう言うと、アーノルドはさっと私の左手を両手でとった。


ぼうっと、もちろんアーノルドの手が燃える。


「はあ、口付けもしておきたい。」

「それはやめましょう。さすがに唇は火傷します。」

「そうなると思う。」

アーノルドは名残惜しそうに私の左手を離した。


「え?ちょっと待って、しかもカインは燃えなかったの?」

「はい。カイン卿は私に好意はないようです。」

「なにそれ、薔薇に好意を抱かない男なんていないよ。」


「いますよ。」

「、、、でも、カインが薔薇に好意を持ってても気持ち悪いか、、、。うーん、じゃあ、良かったか、、、。」


アーノルドは勝手に納得し、私達は並んで夜会を後にした。




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護身用にいいかと思ってたけど、好意がない、敵意ある人燃えないのあぶない…?
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