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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

鳴き者。

作者: すいがら。


声帯が発達しているのか、鳴き声と一言では片付けられない複雑な発音には、ある一定の規則が存在しているのではないか。


自発的に音を発することのできない私たち人類にとって、衝撃的な見解を述べた、言ってしまえば少し狂っている部類の同僚は興奮した様子で私に熱弁した。


そんなわけないだろう。


常識的に考えて、ファンタジーに憧れすぎな彼の妄想に冷めた思考を伝える。


音なんていうただの振動を、コミュニケーションの道具に使っているんじゃないか。

彼の発想には、稀になるほどと、思考を更新する瞬間があることは事実であり、今回の彼の思いつきに真っ向から否定できるほどの確かな原則を提示できるわけではない。


でも、そんな非効率的な伝達形式で伝えられることにどれほどの価値があるものか。

ただ音を出して、その音に意味を加えるだなんて。

…例えば、この彼への愛を、音なんていう、誰にでも真似できる振動を仲介にして届けることの頼りなさといったら。


「いたい、たすけて」


またも、目の前の生物は、瞳から透明に限りなく近い液体を流しながら音を発する。


ほら、さっきと近い振動を検知できた。


彼は興奮して私を見つめる。

言われてみれば似ているかも知れない。

けれど、全く同じではないことも事実で。


私は、また彼のいつもの悪い癖が発症したんだと、半分呆れながら実験を見守る。


「いたいよ、なんでこんなひどいことするの」


また、新しい音だ。


彼は愉しげに無意味だろう振動の記録を続ける。

不思議な音を発しながら、次第に弱っていく生物に私は少し同情した。


君の言うところの意味のある音が本当なら、きっとこれは苦しみを発しているんだろうね。


おそらく腕と思われる部位から赤に近い色をした液体を流しながら、瞳からは透明の液体を生み出す不思議な生き物を前に、私は想いを伝える。


すると彼は不思議そうに、なんでそんなことがわかるんだいと。


「おねがい、もうゆるして」


またも奇怪な振動を生み出す生き物を視界の端に映しながら、私は呆れながら思案する。


普通の生き物は身体を傷付けて間違っても嬉しいなんて気持ちは抱かないでしょう。


....ああ、考えてみればたしかに。


至極当たり前なところに気付かない彼だけど、誰も気付けないことに敏感なところに惚れている私はなんとも言えない気持ちを燻らせる。


じゃあ、君がこれの世話をしなよ。僕よりずっとこれにとってはいい選択だろう?


なぜか得意気に私に謎の生物の飼育を示唆してくる同僚に逃れられないだろう未来を悟った。


拒否したところで意味はないんでしょう?


当たり前さ。


意地の悪い視線をむけながら、同僚は興味の対象を他に移したのだろう。

不思議な音を発する生物には目をくれずに部屋を後にしていった。


「だれかたすけて」


一際小さな振動で、その身を抱えるように抱きしめて、その不思議な生物は虚空を眺めて静かに縮こまった。


面倒だから、私はこの生き物に火をつけた。


一際大きくて変な音を発しながら、消えた。

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