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大魔王さまの孫娘。  作者: 千珠
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1. プロローグ

時は遡ること、15年。

この世の中に、ちょっと変わった境遇の一人の少女が誕生した。

閻羅かの(えんら かの)。

それはそれは目のキリリとした、凛々しい顔立ちの子だった。そんなかのに、15年後、ハードな生活が待っていることなど、まだ誰も知るよしはない。


***************************************************************************************************


「……のーーー。……かーのーーー。……かーのーさーーん!!」


「・・・・・・」


頭上の時計は、午前4時過ぎ。

普段なら、あと1時間ちょっとは寝られる。

こんな時間に私のことをたたき起こそうなんてのは、世の中に一人しかいない。


「母さん・・・なに、こんな時間に・・・」


非常識な時間に私をたたき起こしてきたのは、私の母、閻羅れん。

自らを我が家の「大魔王」だと名乗る、非常に自由な人だ。

朝は早く起きることもあれば昼過ぎまで起きてこないこともあるし。

料理、洗濯、掃除など、家事全般の評価をするならオールF。

自由で奔放でワガママ。

そこいらの子どもよりよっぽど手がかかる。

そんな私の母の正体は、周りの誰も知らない。

友人やご近所さんも含め、誰にも言うつもりはないし、そもそもかなりファンタジーな話なんだけれどね。

そう、…()()()()()()()()()

私の母は、18年前に実の父親から地獄を追放された。

正真正銘、閻魔大王の娘なのだ。


母は、私の祖父、閻魔大王と祖母、奪衣婆の娘として生まれた。

ここ(地上)での年齢は37歳だが、実の年齢は私も知らない。

私の父についても、実は誰だかわからない。

母は絶対に教えてくれないし、挙句、「私は人間とは別格なの」と、精子不要説を持ち出す始末。

祖父母は母がいない時を狙って、玉鏡に表れて孫愛を炸裂させてくれるけど、如何せん母を勘当している手前、日頃大っぴらには接触できないみたい。

まぁ、それでも夏休みとかにはこっそり地獄に遊びに行ってたりする。

母がその事実を()()()()()()()()()()()()()



「・・・で、こんな時間に起こして何・・・?」


布団から顔を半分出してにらみつけるけど、母はまったく気にしない。

珍しく朝から化粧もばっちりで、首にはスカーフ巻いて、頭の上にはサングラスまで乗っている。

どうせ近隣の海までドライブでも行ってくる、というのだろうと思い、私は布団をかぶり直した。


……のだが。


次の瞬間、母はあっけらかんとこう言ってのけたのだ。


「うん、ママね、ちょっと1年ほど、NYに行ってくる!だからかのさん、あとのことはよろしくね!」

「は????」


一瞬にして目がさえた私は、布団から飛び起きた。

一体何なのか、訳が分からない。

NY?アメリカの?え、何しに?1年?私は?え??

頭の中はパニックである。

そんな私に「じゃぁね~」とひらひら手を振って出ていこうとする母のスカーフを、私は思わず引っ張った。

すると母は「ぐえっ」とつぶされたような声を出して涙目で振り向いた。


「やだ、かのさん、パパみたい~。ひどぉい!!」


パパというのは母のパパ、つまり閻魔大王のことだ。

閻魔大王をパパと呼ぶのは兄弟の中でも母だけ。

母には9人の兄弟がいる。

上から、

秦広(しんこう)大王、

初江(しょこう)大王、

宋帝(そうてい)大王、

五官(ごかん)大王、

変成(へんじょう)大王、

泰山(たいざん)大王、

平等(びょうどう)大王、

都市(とし)大王、

五道転輪(ごどうてんりん)大王。

母は末っ子である。

閻魔一族といえば……泣く子も黙る、っていうイメージ。

実際、怒るとかーなーり、怖いらしいのよ。

うちのおじいちゃん。

でも……母は違う。

自認してる通り、ある意味別格。

末っ子で甘やかされたのか何なのかは知らないけど、このように、自由に育ったようだ。


「あのさー・・・ちゃんと説明してくれませんかね?」


私が言うと、母は涙を拭きながらあっけらかんと言った。


「私、運命を感じたのよ!だって、日本って狭いじゃない?パパたちの影響か知らないけど、なぁ~んか考え方も古いし。私の頭も錆びちゃいそう。だからちょっとNYに行って刺激を受けてくるの!かのさんなら一人でも大丈夫でしょ?何かあったら、じいじとばあばを頼って~」


やっぱり私が地獄の祖父母と接触してたの知ってたんかいっ!!

と、そんなのはどうでもいい!

運命ってなんだ!!!


「ちょっと待てぇぇぇぇい!!!!」


私は母の肩を激しく揺すりながら叫んだ。

泣き真似を始めた母が、チラチラこちらを見ているが。

でもでも、そんなのはほんとにどうでもいい!!!


「運命って何だ!高校生の娘を1人置いてNYって本気か!!しかも旅行じゃなくて留学か??移住か???少なくとも頭は錆びてないけどぶっ飛んでる!!自覚しろっ!!ちゃんとした説明もなしにはいそうですか、ってなるかーーー!!」


私が早口で捲し立てると、

「えぇ〜…そんなのいる〜??」

と口を尖らせる。

いるだろう!!

もうなんか驚くとか怒りとかじゃなくて。

ただただ、衝撃をお伝えしたいですお母様!!!!


仕方ないわねぇ……と、母はめんどくさそうに口を開いた。

「あのねぇ、ママ、ずっと在宅でお仕事してたじゃない?」


いや、知らんけど!

ただグータラしてるだけかと思ってたわ。

そもそも何の仕事だ!


「でねぇ、ママの語学力が役にたつからって、現地の会社で1年間、世界中の人が集まる何とかっていう大きなプロジェクトの通訳を任されたの〜」


何じゃそら!

通訳の仕事でもしてたのか!

知らんがな!

そして語学力っても、どんな言語でもわかるっていう、ただの閻魔一族の特殊能力やないかい!

私も持ってるわ!!

イライラを抑えつつ、私は母に確認をとる。


「つまり、実は母さんは通訳の仕事を今まで在宅でしてて、今回、その語学力がどっかの企業の目に留まって、ぜひ現地でサポートしてくださいと。そういうことなのね?」

「ううん、ユーチューバー♡」

そっちかよ!!!


とにかく娘1人で置いてくのはどうなのか、そもそも事前に相談とかしろよ、今後の私の生活はどうなるのか……等々、言いたいこと聞きたいことは沢山あるけど。

私はもはや知っている。

母にここらへんの話をしても『ただの時間の無駄』だということを。

ようは、話しが通じないのだ。

だから、これ以上の説明を求めるのは諦めるに限る。


ふぅ…と大きなため息を一つついて、私は母に言った。


「わかった、じゃあこれだけ約束して。週に一度は安否確認の連絡して。いい?」


「はぁ〜ぃ♡」


って、普通は逆だろ!!

親が子に言うセリフだから、これ!!

母は「行ってきまぁす♡」と言いながら、笑顔で出ていった。


母の背中を見送ったあと、私はもう一度、大きなため息をついた。

どうしよう。

とりあえず二度寝したいところだけど、すっかり目が冴えてしまった。

仕方ない、ちょっと早いけど朝ごはんの用意でもするか。

私は着替えて、キッチンに向かった。

口元にニヤリと笑みをたたえながら……。

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