姫君と家族の団欒
良いのかどうか全くわからなかったので、適当に相槌を打っておく。
その間に母さんと恵が勝手に話を進めている。
「女子校生にしてはちょっと幼い気がするけど・・・」
「えー、このくらい普通だよ。お兄は素材がいいから何着ても似合うと思う」
どうもこの雑誌に載っている服を買う流れで勝手に話が進んでいるようだ。
恵が見ているページは明らかに小学校高学年向けのページのようだったので、釘を刺しておいた。
「こういう服は似合うのかもしれないけど、かなり抵抗がある。もう少し地味目なのがいいかなあ」
「絶対似合うから、大丈夫、ね?お母さんいいでしょう」
どうやら恵はこの雑誌に載っている服を何が何でも僕に着せたいようだった。
出資者である母さんを抱き込んで逃げ道を塞ぎに入っている。
僕は救いを求めるように母さんに視線を向ける。
「ハイハイ、他にも必要なものがあると思うから、後からにしましょう」
「中島たちと話したんだけど、制服どうなるのかなあ・・・」
「制服も作り直さなきゃいけないのねえ・・・・困ったわ」
作り直しと言うことは母さんも女子の制服になると思ってるようだ。
「「はぁー」」
2人して別々の思惑のため息を吐く。
それからしばらく恵に髪を結われたあと、部屋に戻った。
「そう言えば確認していないことがあった」
確認していないこととは「ネットでの情報収集」だ。
まずゲーミングPCを立ち上げて、Lost Relic Onlineを起動してみる。
ゲームは起動したが、ログインは何度やっても成功しなかった。
運営からのお知らせを確認してみると、当面サービスを見合わせるとのことだった。
「ま、当たり前かあ・・・」
ネットの掲示板や短文SNSで情報収集してみる。
短文SNSでは人族キャラクターの投稿が目立っていたが、中島たちが言っていたようにミトラとアルカニスタ、性別が変更になったキャラはかなり副作用が出たらしく、あまり書き込みは無かった。
「まあ、同じ人族の僕ですらもあの苦しさだったからなあ・・・・」
特に男から女はかなり多いと思うが、ミトラで性別が変わったらどうなってしまうのだろう。
僕は昼まで続いたあの苦しさを思い出して身震いした。
ネットの情報では、ステータス画面や装備品をどうやって出すのか研究している人がいた。
「ステータス」、「アイテムボックス」と大声で連呼して、ご近所トラブルになっている人がいた。
申し訳ないけど、その様子を想像すると少し笑ってしまった。
確かにステータスと装備品はどうなったのか確認したいところだ。
当然サーバーの攻略トップを走っていた僕らもレベルは上限の99、装備品はなかなか手に入らないレア品で固めている。
どっちか、もしくはどちらも無くなったのなら脱力ものだ。
現実の世界とは関係ないとはいえ、ゲームキャラクターに姿が変わったなら、特に多大な時間と手間をかけて金策して手に入れた装備品は諦めるわけにはいかない。
これは僕だけではなく、プレイヤー全員の共通した思いだろう。
暫く情報を集めているとドアをノックする音が聞こえる。
「お兄、いる?」
「入っていいよ」
いつもはノックしたら確認しないですぐに入ってくる恵がかなり気を使っている。
こういうことを考えると、自分は女になったんだなあと感じてしまう。
「髪の続きしたい」
どうやら、僕の髪をまだ弄り足りなかったようだ。
僕は大人しく、恵に髪を触らせる。
「お兄はどんな髪型が好き?」
「ソード〇ートオンラインのア〇ナみたいな髪型がいいかなあ」
僕は自分がよく見ていたアニメのヒロインの名前を言う。
SA〇はゲーマーのバイブルだろ。
あの髪型はハーフアップと言うらしい。
恵はゲーミングPCの画面に出したその髪型を見て早速僕の髪形を変えていく。
さっと出来るところは女の子だなあと思う。
「うん、いいね。ありがとう。暫くこの髪型にするよ」
「それでね・・・」
恵が珍しく遠慮しがちに上目づかいで言葉を濁す。
これは、何かをおねだりするときによくやる表情だ。
何が来るのか身構える
「今日、一緒にお風呂入らないかなーって」
僕はその言葉を聞いて思考が停止した。
顔がかあっと赤くなるのを感じる。
「ごめん・・・ちょっとまだそこまで割り切れないよ・・・」
「そう、いつか、大丈夫なったら、一緒に入ろ?」
「分かった」
「お兄、照れるのカワイイ」
恵が僕の部屋から出ていくとき振り返ってからニマっといたずらっぽく笑った。
この姿になってから恵には全く敵わない。
夕方になり父さんが帰ってくる。
父さんの会社でも姿が変わってしまった人たちが何人かいて、中には僕のように男から女に代わってしまった人もいたらしい。
写メを送ってもらったら頭に獣の耳が付いている人がいたらしいから、ミトラだったんだろう。
副作用ご愁傷様だ。
一緒に夕食を取りながら、父さんに尋ねる。
「会社の対応はどうなの?」
父さんの会社は従業員数が500人くらいの中堅の商社だったはずだ。
「うーん。今日の今日だから、会社の方でも対応は決めかねているそうだが、無理に出社させないように政府から要請が来ている」
母さんが父さんに明日、中島たちの親と一緒に学校に事情の説明と今後のことを相談しに行くという話を始めたので、ソファに座ってテレビを見る。
恵がついてきて、隣に座った。
ギュッと手を握ってくる。
元気そうに見えるが、恵なりに僕のことを心配してくれているのかもしれない。
安心させたくて手を少し握り返した。
報道番組では何人かのプレイヤーキャラにインタビューしていた。
「何か男の人ばっかりだね」
「ゲーム内での男女比率は7:3くらいだったけど、中の人にはほとんど女の人っていないんだ。だから中身が男で僕のように副作用で苦しんでいるのだと思う。」
「ええ、男の人ばっかなの?」
「そうだね。多分中の人の男女比率は9:1くらいじゃないかなあ」
LROはUltimateStation4版も開発中だったが、PC版がかなり先行して発売されていた。
ゴツくて高いゲーミングPCを持っているリアル女子なんてちょっと想像がつかない。
インタビューされたのはどれも人族の男だった。
全員かなりイケメンに変わっているのを見るのは複雑な気分だった。
自分も本来のキャラクターである黒騎士ガッシュになれたのか・・・と思うと胸に後悔が押し寄せる。
ガッシュはとある漫画の主人公に憧れて作ったキャラだ。
片目、片腕でありながら、巨大な剣を振り回し、義手には大砲が仕込まれている超人的にに強い剣士で、更新を毎回楽しみにしていた。
全身黒づくめの鎧を着ており、キャラメイクを頑張って、イメージはかなり近かったと思う。
もう少しであの超人的な強さを持ったキャラになれたかと思うと、かなり喪失感があった。
ゲーム中での黒騎士は盾職でありながら、死の旋風と言う中二臭い名前のスキルを使うとアタッカーにもなれるという便利なクラスだった。
死の旋風はHPが少なくなればなるほど攻撃力が爆発的に上がる文字通り死と紙一重のスキルで、非常に使いこなすのが難しかったが、手前みそながら、回りからの評価はかなり高かったと思う。
血の結印と言うこれまた中二臭い名前のスキルを使うと防御力を下げ、HPを消費して一発の攻撃力と命中率を上げる。
ヒーラーとも打ち合わせが必要だし、使いすぎるともちろん即死するので微妙なコントロールが必要だった。
死ぬか死なないかギリギリのところまでHPを減らして敵の攻撃を予測して回避動作を行う。
馴れるまでは緊張の連続だが、馴れると脳汁が出るほどの快感になる。
ゲームでは軟弱者は絶対に使わない超硬派なクラスとして通っている。
「恵と裕樹、早くお風呂入りなさいよ」
そう言う母さんの声で現実に引き戻される。
恵を見ると、期待するようにこっちをじっと見てくるが、首を横に振ると残念そうに一人でお風呂に行った。
恵が風呂から上がったら、僕も風呂に入った。
今日は1日いろいろあったので、全身をじっくり見る機会と言うのはなかった。
国産の某著名3D MMO RPGの男女比率は男性6.2:女性3.8です。
こちらは公開データを基にしていますのである程度正確だと思います。
ただし、調査に応じているのは母数の3割強ほどです。
今よりも前の時代はずっと男が多かった・・・とだけ言っておきますw。