キャンペーンガール・プリンセス
モニターに薄紫色の特徴的な髪色の美少女が映っている。
その美少女は、婦人警官の礼服ような制服を着ている。
紺色を基調としているが肩や胸に金色の装飾がついていた。
「始まる、ダンジョン新時代。」
その美少女は涼しい声でそう言った。
「全国に発生したダンジョンには様々な物質やアイテムが眠っています。
私たちがこれを研究・利用することで大きく科学技術が発展するでしょう。」
「みんなで開こう、新しい世界への扉。」
「私たちの未来を豊かにする。ダンジョン庁。」
最後に美少女は敬礼して爽やかに笑い、ダンジョン庁のロゴマークが出て映像は終わった。
映像が終わると部屋の電気が明るくなる。
一斉に拍手が起こった。
部屋には10数人のスーツを着た出席者がおり、司会と説明役は20代後半の若手が務めていた。
「この映像の他2種類、合計3種類のCMが民報、MHK、ネットの動画サイトに7月後半から大量投下されます。」
参加者たちは口々にCMを絶賛する。
「素晴らしい出来栄えだね。」
「何より鈴木君のご息女のなんとも美しいこと。」
「LRO転生者の間でもカリスマになっているそうですよ。」
「そう言えば上川専務のご子息もLRO転生者でしたな。」
「ええ、ウチの息子など、ユイさんに夢中ですよ。毎日、会わせてくれとうるさくて。」
冗談とも付かない話に笑い声が漏れる。
「彼女はまさに我々に社会的な栄光と富を約束してくれる勝利の女神ですよ。」
そこはユイの父の勤めるM物産と、ライバル企業であるはずのM商事、I商事が共同で基金を拠出して設立した一般社団法人 日本ダンジョン協会の会議だった。
M物産、M商事、I商事がまさに社運をかけて挑む一大プロジェクトである。
しかし、参加者の間に悲壮感はない。
男が説明を続ける。
「予定では今年度中はあと5か月間このCMを投下したあと、さらにまた新しいバージョンのCMを3種類作って投下する予定です。」
「MHKでLRO転生者やダンジョン関連のTV番組を制作し、社会への認知を進めます。」
「また、広報用のポスター、チラシの他、グラビア写真集やカレンダー、学校の夏休みにはLRO転生者に向けたダンジョン探索者申請の説明会の全国キャラバンも予定しています。」
「我々の方も現在急ピッチで作業を進めています。皆様はきょう決定したことを本社に持ち帰ってご支援のほどよろしくお願いします。」
「反対する者はいないだろうがね。まあ、任せたまえ。なあ、鈴木君」
恐らくは幹事的な役割を担っているM商事の役員らしき恰幅の良い男性がユイの父に水を向ける。
「は、はあ。」
ユイの父が曖昧に返事をする。
場違い感が凄い。
「ま、ダンジョンに可能性があるとは言っても結果が出るのは早くて数年後だろう。
それまでダンジョンには輝かしい未来が眠っている場所になってもらわなくては困る。
一般大衆にわかりやすくアピールするにはやはり、ユイさんのような可憐な少女に先頭に立ってもらうのが一番手っ取り早い。
男も女も美しい女性には弱いからね。
それが年端も行かない年齢ならば、なおさらだろう。
しかもプリンセスときた。」
「この際、本物の王女かどうかなど関係ない。」
「我々にとってはまさに姫君ですよ。天が遣わした勝利を約束してくれる姫君です。」
「ま、我々のような煮ても焼いても食えないような海千山千のビジネスマンでもそう思うんだ。一般人なら猶の事。」
出席者から苦笑が漏れる。
「左様、間違いありませんな。」
会議は終始明るい雰囲気で終わった。
時は少し巻き戻って7月初旬・・・国会の証人喚問が終わってしばらくしてから。
ダンジョン協会はO市のダンジョンの近く、つまり僕らの学校の近くのビルを丸々貸切っている。
現在、近辺に用地を取得してダンジョン協会本部ビルを建設中だった。
このあたりは首都圏から少し離れているとは言っても地価はそれなりだ。
簡単には買えないはずだが、用地選定から土地の取得、ビルの建設準備まであっという間に進んだそうだ。
何が物凄い力が働いているのがよくわかる話だ。
乾さんはダンジョン庁準備室の発足に合わせて担当を外れた。
僕ら6人に直接挨拶に来た。
「今日は、退任の挨拶に来ました。
今まで本当にありがとう。
ダンジョン庁は経済産業省下の組織として来年度から創設されることになりましたが、既に準備室が立ち上がっています。
後任の担当がすぐに着任するはずよ。
何れ挨拶に来るでしょう。
色々あったけど、あなたたちには助けられたわ。
特にユイさん。ありがとう。
貴方の言葉には随分救われたわ。」
「いいえ、僕は何もしていませんよ。
こちらこそ、色々なワガママを聞いていただいて、ありがとうございました。
確かに厳しいお言葉も頂きましたが、一つ一つが勉強になりました。」
「「「ありがとうございました。」」」
僕らは全員で頭を下げる。
もちろん御子神先輩も。
「それじゃ、元気でね。」
そう言って乾さんは微笑んだ。
色々な重圧から解放された、そんな晴れやかな笑みだった。
乾視点
私は校舎を出て車に向かう。
(色々と厳しいことを言ったり脅しもしたけど、結局あの子は私のことを一度も責めなかった。
私が15才の時はどうだったかしら・・・いえ、言うまでもなくもっと子供だったわね。
プリンセス・ユイか。
今はまだ蕾だけど、半年後、あるいは1年後は、どうなっているかしら。)
私は神懸かり的なまでの美貌の少女の姿を思い浮かべながらフッと笑う。
「それはもう私には関係のないことね。」
そこだけは口に出して言った。
何れ、彼女はもっと多くの人に影響を与えることになる。
そう言う予感はあった。
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ダンジョン協会の事務所にはM商事を幹事としたダンジョン協会に出向してきた職員、新規に採用した形のプロパー職員と経済産業省ダンジョン庁準備室から出向している職員が常駐している。
今日はダンジョン庁のキャンペーン事業の担当者と顔合わせも含めて、今後のことを打ち合わせすることになっている。
その日、僕はダンジョン協会の仮事務所に呼ばれていた。
どうも、僕がキャンペーンガールになるダンジョン庁のPR事業に関係あるらしい。
ダンジョン庁の新しい担当者は、恐らくは20代のちょっとふんわりした感じの癒し系のなかなか顔立ちの整った女性だ。
乾さんとは正反対のタイプに見える。
僕は応接室に案内された。




