姫君と父親の苦悩
申し訳ありません。先頭部分に抜けがありました。
2023/1/7 19:59
抜けた部分を追加しました。
この話にはちょっと驚いた。私の動揺を見抜いて、常務が話を続ける。
「誤解しないように断っておくが、君が希望すればいつでも戻ってこれるし、これは左遷じゃない。むしろ栄転だよ。ダンジョンにはこれから無限の可能性が眠っていると我々も政府も考えている。ダンジョン産のアイテムは莫大な利益をもたらすだろう。君の娘さんが持ち帰ってくれたあのアイテムを少し分析しただけでも未知の技術が生まれる可能性があると報告されている。ぜひともダンジョンの調査は進めたい。しかし、我々にはノウハウがない。そこで、国会で貴重な証言をしてもらった君の娘さんに白羽の矢が立ったわけだ。」
「うちの子はまだ15才です。」
いやな予感が当たった。ゴブリン事件では私も相当肝を冷やしたが、ユイをあんな危険な怪物が跋扈するところへ調査にやるのは反対だ。
「解っているとも、危険なダンジョン内の調査を未成年に無理強いするつもりはない。しかし、あの子は、何でもLRO転生者の間ではカリスマになっているそうだね。加えて、あの美貌だ。ぜひともダンジョン庁と我々の新会社で共同で行う事業のキャンペーンガールになって欲しいのだよ。それともう1点、彼女のゲームを通しての知見を得たい。それも見越しての君の抜擢だ。」
「今返事しなければだめでしょうか。」
「君も自分の一存では決められないことだろう。家族と相談して決めてくれたまえ。しかし、例のゴブリン事件のような危険は我々も避けたいのだよ。今後ダンジョンにまつわる様々なリスクから社会やこの国を守るため、ぜひとも君の娘さんには力を貸して欲しい。綺麗ごとに聞こえるかもしれないが、あの事件では多くの命が失われた。同じ過ちを2度と繰り返さないために、君からも説得してほしい。」
「解りました。家族と相談した上で返事をしたいと思います。期限はいつまででしょうか?」
「なるべく早く・・・と言いたいところだが、1週間を目途にしてくれると助かる。こちらにもいろいろと予定があるのでね。」
「解りました。」
これは断れないな・・・そう感じた。恐らく、もうユイが参加することを前提に様々な話が進んでいるのだろう。
サラリーマンの無力を感じながら、トボトボと自分の席に戻る。
行きと同じはずの道のりは遠く感じた。
その日の夜。
僕は父さんに呼ばれた。
ダイニングにあるテーブルには父さんと母さんが並んで座っている。
母さんは俯いていて表情は見えない。
「まあ、座ってくれ。最近学校はどうだ?」
「ん、何か凄いことになっているよ。昨日は学校に行けなかったし。」
「そうか、国会の証人喚問で一躍時の人だからな。会社でも評判になってるよ。ユイはとても素晴らしい子だってな。父さんも鼻が高い。」
暫く沈黙が続く。
「ダンジョン関連で何か話があるんだよね?ポーションを上げたことと何か関係あるの?」
言いづらそうにしているので、僕がそう水を向けると、父さんは意を決したように話し始めた。
「それも関係あるんだ。実はな、今度、ダンジョン庁と言う新しいお役所が出来るんだ。そして、父さんの会社と同じ業界の会社が3社で共同出資して、ダンジョン関連の会社を立ち上げる。父さんはそこの役員にならないかと言われているんだ。」
「そうなんだ。じゃあ出世なの?」
「そうだな、会社からはそう言われている。」
「凄いね。おめでとう、父さん。」
「それでな、ユイにダンジョン庁と父さんたちの新しい会社が共同で行うキャンペーンガールにならないかと言われている。それともう一つ。ダンジョンに関するユイの知見を得たい・・・ダンジョンに関する様々なことを教えて欲しいと思ってるんだ。」
父さんは僕の顔色を見ながら、続ける。
「ああ、嫌ならいいんだ。断ってくれても構わない。」
そう言っているが母さんは下を向いたままだし、父さんの顔は真っ青だ。
とても断れるような話じゃないんだろうな。
「うん、いいよ。やる。」
「私は反対よ。この間も家族全員で死にそうになったのよ。全国で100人以上死んだのにそれでもまだダンジョンに関わろうなんて狂っているわ。ユイは・・・裕樹はまだ15才よ。こんな危険なことをさせるなんてどうかしてる。」
母さんが叫ぶ。俯いた顔を上げると目は真っ赤だった。
「ダンジョンの調査に関しては無理強いはしないと言っている。」
「今はそうかもしれない。でも、ここまで話が進んでいて、後から頼まれた時、断れるの?」
父さんは真っ青な顔になって俯いた。
「すまない。」
呻くようにそう言った。
「いいよ、母さん。僕はやる。ゴブリン事件の時もちゃんとクエストをクリアさえしていれば、そんなに危険はなかったんだ。父さんや母さん、恵まで危険な目には合わずに済んだと思う。」
「母さんは反対よ。まだ子供のうちからこんな危険なことに関わるなんて絶対に反対よ。」
そう言って母さんは手で顔を覆って号泣してしまった。
僕と父さんは何も言えなかった。
母さんが号泣してしまったことで話はうやむやになり、僕は居間から出る。
廊下には恵がいて、心配そうな顔でこちらを見ている。
僕は恵をそっと抱きしめた。
「お姉~」
恵は泣きながら僕に抱き着いた。
その背中をそっと撫でる。
次の日の朝。
朝食の席に家族全員が座ったが、誰も一言もしゃべらない。
父さんと母さんはあの後もかなり話し合ったようだった。
少しやつれているように見える。
「ユイ、あなたがやると言うならば、止めないけどこれだけは忘れないで。途中で嫌になったり怖くなったりしたら、父さんと母さんに言いなさい。何が何でも守ってあげるわ。父さんも同じ気持ちよ。」
「解った、ありがとう。母さん。」
「じゃあ、引き受けてくれるということでいいんだね。」
「はい。やります。」
こうして父さんは僕の返事を持って会社に出勤していった。
中島と飯田が2人で迎えに来てくれて、登校した。
母さんが心配そうに見送ってくれた。
「2人ともありがとう。」
「どういたしましてでござるよ。」
「どういたしまして。」
「しかし、満員電車は大変でござるな。一応拙者たちでできるだけガードするでござる。」
駅から降りて学校に着くと、今度は下駄箱から手紙があふれていた。
「一応昨日、あまりに目に余ったので、先生が全校に放送して一回捨てたんでござるがな。で、もう入れるなって言ってたでござるが・・・。」
「拙者が職員室に行って相談してくるでござるよ。姫はここにいてくだされ。飯田殿、姫は頼むでござるよ。」
中島が飯田に目で合図すると飯田は軽く手を挙げる。
暫くすると中島が先生を連れて戻ってきた。
「ああ、これな。悪いけど、鈴木、これ全部没収な。昨日、他の生徒に迷惑かけるなって禁止したんだけどなあ。」
「申し訳ありません。」
僕は先生に謝る。
「いや、お前が悪いわけではないし、出した人間の気持ちもわからないではないのだが、さすがに限度を超えてるからなあ。」
御子神先輩がこっちに手を振る。
「先生、うちの下駄箱も大変なことになっとるで。」
「そっちも全部没収な。」
「ふふーん、アカネ様の魅力の前にみんなメロメロや。」
と言って体に品を作る。
この状況を楽しんでいるようにも見えるスーパーポジティブシンキングには全く敵わない。
岩田先輩が後ろから
「まあ、中身はアレだけどな。」
と小さい声で突っ込んでいた。
その日は3人に告白されて、一人は女子だった。
もちろん全員ごめんなさいしたけど、女子は惜しいと思った。
先生に帰りに職員室に寄るように言われたので何かと思った。
御子神先輩も来ていて、先生から幾つか芸能事務所やモデル事務所からお誘いが来ていると言われた。
「おおー、ウチ、芸能人になってみたいかも。連絡先きいてみよっかなー。」
「僕は遠慮しておきます。連絡先は絶対に教えないでくださいね。」
「おお、じゃあ御子神は学校辞めるのな。」
「センセ、冗談やで。」
「こういうお誘いはウチの学校では御法度な。卒業してからやってくれ。」
「何の芸も持ってないのに芸能人になってもすぐに飽きられるだけでしょう・・・。」
僕はそうあきれながら言った。
「トークとか歌とかは今から鍛えればいいやん。ウチ、ボイストレーニング始めて見よっかなー。」
「とにかく、学生の本分は勉強だからな。ウチは芸能活動は認めてないからやるなら学校辞めてからやってくれ。鈴木はそういう気は全くないと言うことだな。」
「はい」
「センセ。ウチもガッコ辞める気無いで。」
「周りがこれだけ大騒ぎするとお前らも大変だと思うが、しっかり勉学に励んでくれ。俺たち教師も出来るだけのことはする。」
僕と御子神先輩は先生に礼を言ってから職員室を出た。




