姫君と証人喚問
この日から数日後、僕らは証人喚問に応じるために国会にいた。
僕らは呼ばれ、発言席に僕が立つ。
「それでは、パーティー[にゃんにゃん遊撃隊]リーダー、鈴木ユイさんにお話を伺います。まずは自己紹介からお願いします。
「はい。S県立O高校1年 鈴木裕樹です。今は通名で鈴木ユイと名乗っています。」
この日、初めて僕の姿が全国に晒された。
服装は学校の制服で、ブレザーに下はスカート、靴も指定のローファーだった。
薄紫のつややかな髪とターコイズブルーの瞳、少し短めのスカートからスラリと伸びた足、全体的にスレンダーな体付きだが、胸と腰回りはしっかりと自己主張していた。
顔には母さんにうっすらとナチュラルメイクをしてもらっていた。
受け答えする涼し気な声に国会の議場がシンと静まる。
僕はこの時、緊張していたため、自分の姿が客観的にどんなふうに見えていたかを考える余裕はなかった。
質問役の女性議員が、魂を抜かれたように見入っている。
やがてはっと気が付いて質問を続ける。
「裕樹くん?元は男性だったのですか?」
「はい、LRO転生事件でこの体になりました。」
「失礼ですが、今は・・・その・・・完全に女性ですか?」
「はい。」
僕がそう答えると乾さんが官僚の席から補足する。
「失礼します。内閣ダンジョン調査準備室の乾遥です。鈴木ユイさん以下6名は未成年のため、必要性を感じた場合、私が補足させていただきます。ユイさんはLRO転生事件の際にLRO転生者として登録を行い、病院で精密な検査を受け、生物学的に完全に人間の女性であることが確認されています。性転換手術などを受けた痕跡もありませんし、月経も正常に来ていることが確認されています。その際に発行された医師の診断書もありますが、確認しますか?」
おおっと小さく議場がざわめいた。
「いえ、結構です。では裕樹くん?ユイさんとお呼びしたほうが良いですか?」
「ユイでお願いします。」
「ではユイさん。あなたの・・・オンラインゲーム?Lost Relic Onlineでのあなたの詳細を教えてください。」
「はい、種族は「古の王族」でクラスはウォープリンセスです。ゲーム内でのキャラ名はユイ・フォン・フロイツハイムです。」
「王族・・・?あなたはどこかの王族の血を引いているのですか?」
「いいえ、ゲームの設定上そうなっているだけです。私はどこにでもいる普通の一般家庭の高校生です。」
「クラスと言うのは職業と言う意味らしいですが、あなたは職業としてプリンセス、王女をされているのですか?」
「いいえ。ゲーム内で言う「クラス」と言うのはモンスターと戦う時の役割を表しています。ウォープリンセスの主な役割は仲間の力を増幅、強化することによって戦闘を有利に進めることです。」
「あなたは極めて日本人離れした容貌をしていらっしゃいますが、日本国民ですか?」
「私は一度も外国に行った経験はありませんし、日本人の両親のもとに生まれて育った日本人です。少なくとも私はそう思っています。この外見はLRO転生事件によるものです。」
「内閣ダンジョン調査準備室の乾遥です。補足させていただきます。鈴木ユイさんはLRO転生事件の際に精密検査を受けられ、その際に記憶の確認を行い、転生前の鈴木裕樹君と同一人物であると、ご家族の方からも認定されています。外見もLROサーバーのデータベースに残っていた鈴木裕樹君が使用していたキャラクターのアバターと極めて酷似した容貌をしていることも確認されています。」
「あなたは、好んで女性のキャラクター、そのアバターと言うの?外見を使っていたのですか?」
なんだこのおばちゃん、随分と突っかかってくるな。
「いいえ。ウォープリンセスはゲーム内では極めて希少なクラス・・・能力を持っているため、友人や仲間たちに頼まれて作って育てていました。元々作っていたキャラクターは人族の男性です。」
「内閣ダンジョン調査準備室の乾遥です。補足させていただきます。ウォープリンセスはLROの日本サーバーにおいて、サービス停止直前に存在していたのは鈴木ユイさんが使用していた一体のみであることが確認されています。LROの国内プレイヤーはサービス停止直前で12万8549人登録されています。」
「では、あなたは自分から望んでその姿になったのではないと?」
「はい」
「鈴木裕樹くんの体に戻れるなら戻りたいですか?」
「はい。親からもらった体ですから。」
おお・・・と軽いどよめきが起こる。
質問者のおばちゃん議員に議場から男が小走りに走ってきて耳打ちする。
「関係ないことを質問するな」
とヤジが飛んだ。
なんだこのおばちゃんは、フェミニズムをこじらせているのか・・・?
「ではユイさんはゲーム内ではゲームを有利に進めるために性別が違うキャラクターを敢えて使用するほど熱心に遊んでいたということでしょうか?」
なるほど、話はここに着地するのか。
「はい、そうです。オンラインゲームでは自分の好みだけではなく、仲間や友人の要望や都合によってゲームを有利に進めるために自分の好みを曲げることはあると思います。」
「それでは、ダンジョンが発生した時のことについて、お尋ねします。あなたはダンジョンへの侵入が禁止されているにも関わらず、許可を取らずに勝手に仲間たちとパーティー名[にゃんにゃん遊撃隊]を結成してダンジョンに侵入し、レベル上げをしたということでよいですか?」
「はい、仲間たちと一緒に相談してレベルを上げることにしました。」
「それはなぜですか?」
「ゲームと同一ならば、レベルが低いと極めて死にやすいからです。」
「なぜそう思ったのですか?ゲームと同じになるとは限らないのでは?」
「そうかもしれません。しかし、ゲームキャラに転生して、ゲームのようなシステムが実装され、ゲームのようなダンジョンが発生したならば、ゲームのような危険が身に降りかかってくるとは簡単に予想できるのではないでしょうか?これは私だけではなく、LROのプレイヤーに共通した考えだと思います。」
みんなの座っている席を横目で見ると、全員大きく頷いている。
「では、その際にレベルはいくつ迄上げましたか?」
「レベル7まで上げました。」
「レヘル7と言うのはどのくらいの強さですか?」
「現実の人間と比べてどのくらいの強さかと言う意味ならば解りません。しかし、ゲームでは最高Lvが99であり、Lv7はまだ殆ど駆け出しのレベルだと思います。」
「次の質問に移ります。クエストについてです。クエストの内容を教えてください。
「はい、クエスト名は[ゴブリンを倒せ。]です。
迷宮の地下1階でゴブリンが人間の世界に侵攻を企てている。
ゴブリンを100匹以上倒すと出てくる、ホブゴブリンファイターを倒せ。
報酬は特になし
クエストに失敗するとゴブリンの群れが地上に侵攻する。
ゴブリンたちは君たちの家族を優先的に狙ってくるので、出来るだけ倒した方がいいぞ。
クエストの期限:3日間
この説明はクエストが発行されたすべてのLRO転生者にログとして残っているはずですので転生者であれば一字一句同じことが言えるはずです。」
「内閣ダンジョン調査準備室の乾遥です。クエストの内容に関しては[にゃんにゃん遊撃隊]のメンバー全員からクエスト発行後私を通じてすぐに内閣ダンジョン調査準備室に報告を受けております。」
「ユイさんはクエストの内容に関してどう思われましたか?」
「危険だと思いました。家族の身に危険が降りかかる内容でしたので。一時は仲間と話し合い、警察や自衛隊のガードを無理やり突破してダンジョンに入るつもりでした。乾さんに相談してギリギリ思いとどまりました。」
「その後、自衛隊が地上に出てくるゴブリンを掃討することになりましたが、どう思いましたか?」
「乾さんから伺った話では、クエストにあった表現から地上に出てくるゴブリンが100匹と想定していたようですが、ゲームの場合、進行に必要なクエストを失敗すると信じられない位大きなペナルティを受ける可能性があります。プレイヤーが介入できずにいきなり大量のNPCが死んだり、一つの街や国が傾いたり、滅亡することすらもありますので、危険な対応だと思いました。ゲーム馴れしているプレイヤーなら誰でも似たようなことを感じるはずです。」
「そのことは事前に報告しましまたか?」
「はい、しかし、残念ながら対応は変えていただけませんでした。」
「ご協力ありがとう。十分です。」
僕の出番はここまでだった。
この後、僕の提案で現場から脱出するマイクロバスを用意したこと、全国の仲間たちに短文SNSを通じて呼びかけ、待機場所から脱出するための足を用意させ、多くのLRO転生者とその家族がゴブリンの脅威から逃れたことなどが乾さんから報告され、内閣への責任追及が続いた。
そして、総理は辞任、新しい総理大臣となった。




