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姫君と初期クエスト

その日、帰宅すると、珍しく父さんから話があった。

「なあ・・・。裕樹、じゃなくて、ユイ。」


「なあに、父さん。」


「お前さ、ダンジョンの中に入って地上にアイテム持ってきたんだって?」


「よく知ってるね。誰かに聞いたの?」


母さんが眉を顰める。

「ちょっと裕樹、どういうこと?」


「ごめんね母さん。後で必ず話すから。」


「母さん、ごめんな。ちょっと今は裕樹と話させてくれ。」


「まあ、さる筋としか言えないのだが。それでなあ。どうもその話、大手の商社にかっさらわれそうなんだよ。何とかお前の拾ってきたドロップ品を融通してもらえないか?」


「分かった。一つずつしか渡せないけど、それでよければ。」


「助かるよ。」


「一応、内閣ダンジョン調査準備室の乾さんと言う人と今交渉中なんだ。その人に無断で勝手な事をするとまずいから、連絡をいれさせてもらうけど、いい?」


「分かった。」


その場で乾さんのメールアドレスに父さんにドロップ品のHPポーションと毒消しポーションを融通したとメールをした。

もちろん、父さんの会社と役職と氏名、連絡先も添えた。


するとすぐに僕のスマホに連絡がかかってきた。


「ちょっと、ユイさん?勝手なことをされると困るわ。」


「僕の携帯をなんで知ってるんですか?」


「申し訳ないけど、勝手に調べさせてもらったわ。方法は秘密ね。それで、ドロップ品の件なんだけど。」


「まず勝手なことをして申し訳ありませんでした。でも僕と父さんは親子ですし、今は父さんに養ってもらっています。今日着ていた女子の制服も父さんの稼いだお金で買ってもらったものです。体操服と水着もです。[本来は必要が無かったもの]ですけどね。ただでさえ余計な負担をかけているのですから、父さんに頼まれたら断れませんよ。」

父さんが僕の言うことを聞いてウルっとしているがそれは後だ。


乾さんは何か考えているのか暫く沈黙していた。

「分かったわ、そうよね、あなたとても大人びているけど、まだ高校生ですものね。その点に関しては、少しこちらでも考えてみるわ。」


「ありがとうございます。」


話が終わると僕は父さんにHPポーションと、毒消しポーションを一本ずつ渡す。


「すまんな。」


「多分、国の方から何か言ってくると思うけど、その辺は会社で解決してね。」


「分かった。」


父さんとの話が終わって何か後ろから黒いオーラが立ち上っていると思ったら、母さんが物凄い形相で睨んでいた。

折角学校側と乾さんからうちには内緒にしてもらっていたが、事情を説明したら激怒された。

父さんがとりなしてくれて何とかその場は収まったが、母さんは納得していなかった。

前途多難だなあ。


一応、中島と飯田、御子神先輩と藤堂先輩、岩田先輩には事の顛末をライモで共有しておく。

とりあえずみんな、特に意見は無いようだった。

いや、話の展開が速すぎて何も言えないんだろうな。

僕自身もこれからどうなるのか想像もつかない。


そのあと、父さんが会社に連絡すると、現金輸送車みたいなごついワゴン車が一時間ほどでやってきた。

ボディビルダーのように鍛え上げられた警備の人がジュラルミンケースに入れて二本とも運んでいった。

え、それ最下級ポーションなんだけど、そんなに価値があるの?。


ゴタゴタが終わると、じっと話が終わるまで我慢して待っていた恵が待ちきれないという調子で話しかけてくる。


「お兄、話終わった?」


「終わったよ。恵おいで。」


話が終わるとソファに座っている僕の隣に恵がやってきて、抱き着いてくる。

今日学校であったことなんかを報告してくる。

中学校でもLRO転生事件の話でもちきりらしい。

恵はどうも僕がゲームキャラに転生したことを自慢したくて仕方ないらしいが、じっと我慢しているようだ。

恵をあやしながら、ダンジョンとその攻略がどうなるのか考えでいた。

まだ初期クエスト発行がどうなるのかも全くわからない状況では答えなど出せなかったが・・・。



次の日、学校で昼に全員が集まったとき、昨日のことを全員に謝罪する。



「俺たちは特に構わない。元々3年が対応すべき問題を誰かさんが1年の姫に丸投げしたわけだからな。」

岩田先輩が御子神先輩を睨むと、御子神先輩がわざとらしく口笛を吹く。

岩田先輩と藤堂先輩がその姿を見てため息を吐いた。


「拙者たちも構わないでござる。元々昨日のポーション類は姫に差し上げたものなので、どんな風に使おうと文句を言うつもりは無いでござる。」


「そうですか、ではこの問題は僕に一任してもらえるということでいいですね?」


「いいでござる。」

「いいにゃ。」

「「「いいですよ。」」」




2日後、遂に初期クエストが発行された。


クエスト:ゴブリンを倒せ。

迷宮の地下1階でゴブリンが人間の世界に侵攻を企てている。

地上に出てくる前にゴブリンを倒して数を減らそう。

クエストの達成条件:ダンジョンの低層にいるゴブリン種を100匹倒すとホブゴブリンファイターが出てくるので、それを撃破すること。

報酬:特になし

クエストに失敗するとゴブリンの群れが地上に侵攻する。

ゴブリンたちは君たちの家族を優先的に狙ってくるので、出来るだけ倒した方がいいぞ。

クエストの期限:3日間


僕らは保健室に集合して、養護教諭に報告する。

あまりに不穏なクエストの内容に僕は真っ青になった。

いや、僕だけではなく、他の5人も真っ青だった。


僕はすぐに乾さんに電話をした。


「何かしら、あまり気軽に連絡をされても困るのですけど。」


僕は乾さんにクエストの内容を説明した。


「僕はこのまま仲間たちと一緒にダンジョンに突入します。止めても無駄ですよ。全員同じ気持ちです。」


「落ち着いて、待ちなさい。クエストの期限は3日間なのでしょう。?民間人に犠牲が出る可能性があるならば、それを盾にして許可を貰ってあげるわ。いい?軽はずみな行動は慎んで頂戴。」


僕らはそこからジリジリする思いで時間を過ごした。

しかし、丸1日たっても乾さんから連絡が来なかった

全国のダンジョンでは転生したプレイヤー達とダンジョンをガードしている自衛隊や警官と「入れろ、駄目だ」で押し問答になった。

僕らを除いた全ての冒険者がレベル1のままだったので、強引に突破してクエストをクリアすることはできなかったのだ。


そして次の日、政府からの決定が通達された。

簡単に言うと、ダンジョンへの立ち入りは許可せずにクエストは失敗させると言うことだった。

クエスト失敗後に出てくるゴブリンへの対処はダンジョン前に自衛隊の部隊が展開して、出てくるゴブリンたちを処理することが決定した。

安全のためにダンジョンのある建物の周辺1ブロック分の市民は避難、そして、僕らの家族は守り易くするためと、周辺への被害を出来るだけ抑えるために学校に集められることになった。

僕は慌てて、乾さんに電話する

「乾です。申し訳ないけど、今、君と話している余裕はないわ。」


「乾さん、これは僕らの家族を見捨てて犠牲にすると言うことですか?」


「違うわ。自衛隊の部隊で君たちの家族を守り切れるとの判断よ。


ゴブリンの群れとは言っても小さな子供のような魔物なのよね?

クエストにも書いてある通り、子供サイズの魔物がいくら原始的な槍や剣で武装していても銃で処理できると言う判断ね。

クエストには100匹とあるから、その程度の数ならば余裕で守り切れると私も思う。」


僕はその話を聞いて目の前が真っ暗になった。


「言っておきますけど、出てくるゴブリンが100匹だけなんて保証はどこにもありませんよ。

クエストの失敗ペナルティは信じられない位重い可能性があります。

お願いしますから、当日は僕らの家族を乗せて逃げることの出来る車を用意してください。

ゲームの場合だと、クエストが失敗した瞬間にプレイヤーは一切関与できずに問答無用で多数の死人が出たりもっと破滅的な結果になることもあります。」


乾さんが僕の話を聞いて息をのむ。


「解った。明日は何とか君たちの家族が避難するO高校だけでもマイクロバスを用意させるわ。」


僕は政府の対応に慌てて、短文SNSで連絡を貰ったプレイヤーたちに連絡をした。


ユイ:「明日のクエストはわざと失敗させると言うことなので、現地から家族が逃げられるように車を用意したほうがいいです。出来るだけ多くの仲間たちに拡散してください。」


この情報は政府の対応にやきもきしていた多くの仲間たちの目に留まり物凄い勢いで拡散されていった。





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― 新着の感想 ―
[一言] 政府はプレイヤー交えずに作戦会議してんのか? すごく日本です
[一言] そりゃまぁ、ゲームキャラに変わったとはいえ中身は守るべき国民な訳で、軍隊より先にダンジョン突っ込ませた挙げ句に死なれたら大惨事ですよ。 手段を選んでられない状況にでもならない限りは許可出せる…
[良い点] すごい日本的でリアリティある。 ショボいうちに失敗させといたほうが危機感出るしね。 [気になる点] 外国とかどうしてるか気になるところ。
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