江川 真司
『夏の焦れ恋 井上 寧子』のアナザーサイドになります。
寧子に花火に誘われた真司の内心は……?
どうぞお楽しみください。
『……江川君、今週末の花火大会、……一緒に見に行かない?』
井上からの電話に、俺は焦りと後悔を押し隠して答える。
「あぁ、いいよ」
もっと早く動けば良かった。
前の遊園地も早川の誘いで実現した。
その時一緒に回ってから、井上の事が気になっていた。
だから今度は俺から誘おうと思っていたのに。
その矢先にあの電話。
誘ってもらえた嬉しさと、誘えなかった焦り。
動揺を抑えるので精一杯だった。
……やな感じに取られてないといいけど……。
「悪い、待たせた」
「う、ううん、今来たところだから……」
井上、浴衣だ!
めちゃくちゃ可愛い!
「そっか。じゃあ行くか」
「……うん……」
こ、こういう時褒めた方が良いのか!?
でも「可愛い」なんて言ったら絶対変な感じになる!
「花火の時間まで屋台回らない? 俺たこ焼き食べたくて」
「う、うん、いいね。私も食べたい」
祭の中で挽回しよう! そうしよう!
「いい場所取れたな」
「うん、そうだね」
「そろそろか。楽しみだな」
「うん」
屋台をいくつか巡って腹ごしらえをして、いよいよ花火。
人が多いから、何となく距離が近くなる。
……このいい匂い、井上の、かな……。
「お」
「あ」
花火が始まった!
大きな音に続いて綺麗な花火が空に広がる。
でも俺の意識は隣の井上の事で一杯だ……!
「……」
……井上さん、俺の事、見てる?
花火の事そっちのけで……。
まさか、井上さん、俺の事……?
……いや、そんなわけない!
兄貴がフラれた時に言ってた!
「真司……。心理学には『投影』ってのがあってな……。自分の好意を相手も同じように持つと勘違いするんだと……。つまり一人相撲だったんだよ、俺は……」
俺が井上さんを気になってるから、井上さんもそうだと思い込んでるだけだ!
だから……!
「……江川く」
「井上さん。綺麗だね」
「!」
また会う機会を作って、勘違いが本当になるようにすれば良い!
「去年一昨年と見れなかったから、一段と綺麗に感じるね」
「う、うん、そうだね」
こうやって素敵なものを共有していけば、だんだん仲良くなれるはずだ!
「来年もこの花火、一緒に見に来たいな」
「!」
クラスは一緒!
イベントもまだある!
卒業までに告白をして、来年は恋人として……!
「……そうだね! 来年もまた一緒に見ようね!」
「あぁ!」
花火に照らされた井上さんの笑顔は、とてもとても可愛く見えた。
本当に俺の事好きなんじゃ……。
いや、勘違いで焦ったら恥ずい!
ゆっくりじっくり、仲良くなろう……!
読了ありがとうございます。
七組の焦れ恋、いかがでしたでしょうか?
ほんのちょっとしたきっかけで結ばれそうな、でもきっかけがなければ進展しなさそうな、このもどかしい感じをお楽しみいただけましたら幸いです。