九条 盛仁
『夏の焦れ恋 野田 華子』のアナザーサイドです。
花を買うイケメン大学生・九条 盛仁の真実は……?
どうぞお楽しみください。
妹・夏葵が入院した。
と言っても深刻な病気ではない。
先々悪性になるかもしれないポリープを、夏休みを利用して取ってしまおう、というものだった。
「入院なんて滅多にできないからねー! 三食昼寝付き、満喫するぞー!」
そう笑っていたが、外向的で活発な夏葵にとってこの入院は楽しいものじゃないだろう。
終わりの決まっている入院だけど、その間を少しでも明るく過ごしてほしい。
そう思って病院に向かっている途中で花屋を見つけた。
そうだ、花だ。
夏葵は花が好きだから、病室に花束を持っていこう。
「すみません」
「はっはい!」
あれ? 夏葵と同じくらいの女の子だ。
他に店員さんの姿はないし、その若さでお店を任されてるのか。凄いなぁ。
あ、同じくらいの歳の女の子なら、夏葵が喜ぶ花束を作ってもらえるかも。
「女の子に贈る花束を作ってもらえますか?」
「……ワカリマシタ。ゴ予算ハ……?」
あれ? 急に声のトーンが下がった。
自信ないのかな?
「三千円くらいでお願いします」
「ドンナ感ジニシマショウ……」
うーん、お任せでと言いたいけど、余計緊張させちゃいそうだ。
イメージを伝えつつ、笑顔で緊張をほぐそう!
「落ち込んでる子が笑顔になるような明るい感じで」
「っ! か、かしこまりました!」
良かった。声に元気が戻った。
てきぱきと作業してくれる店員さん。
出来上がった花束を見て驚いた。
「すごい! これで三千円なんて! ありがとうございます!」
「い、いえ、喜んでもらえたなら良かったです!」
ヒマワリが中心の明るい花束。
これなら夏葵も喜ぶだろう。
渡してくれた店員さんの笑顔が、やけに眩しく見えた。
思った通り夏葵は大喜びで、花が萎れるタイミングで新しい花束をねだってきた。
その度にあの店に通う。
世間話から店員さんがお店の一人娘の野田華子さんという事を聞き出せた。
高校三年生で、将来お店を継ぐために手伝いをしているそうだ。
その歳で将来を見据えて行動してる強さ。
そして毎回『これだ!』と思う花束を作る腕前。
その鮮やかさと多彩さには何度も溜息がこぼれた。
「お兄ちゃん、花屋の店員さんとは最近どう? 話とかしてる?」
「べ、別に……。世間話とか……」
「っかー! お兄ちゃん、顔は良いのに度胸ないよねー。『いつものお礼です』って何か持ってくぐらいしないとー」
「だから別にそんなんじゃ……」
……でもお礼か。
それはいいかもしれない。
夏葵に教わったスイーツのお店。
華子さん、喜んでくれるといいな。
読了ありがとうございます。
夏葵ちゃんの押しが、兄には必要なようです。
華子を落ち込ませたままにしないように盛仁頑張れ超頑張れ。
夏葵は向日葵のイメージから作りました。
最初は「九条と言ったらネギだろう!」と音葵とか真剣に考えていた自分はどうかしていたと思います。
次話もよろしくお願いいたします。