エピローグ
その後。
セリカは国王と話し合いをし、イリスタリアを出る代わりに、当面の援助だけはしていくことになった。
ただし、無料では行わない。
セリカが用意する予定の魔石に対し、相応の恩賞金を払ってもらうことで落ち着いた。
妹の嫁入り支度を考えれば、少しでも稼いでおくに越したことはないので、セリカも快く引き受けたが、そのためにセリカはもう一週間ほど駐屯地に留まらなければならなかった。
当面必要な量の魔石をせっせと錬成するセリカに、リャマは最初敵意むき出しで絡んでいたが、最後の方にはなぜか媚びてくるようになっていた。
「ああっ、なんてすさまじい魔石の生成力……! どうかライネスに行かないで、ずっとここにいてくださいまし!」
「陛下とは、あくまで当面の分だけ、という約束ですから」
「待って、いなくならないで! あなたがいなくなったら、誰が魔石を用意するんですの!?」
「リャマ様が」
「いやああああ! 無理いいいいい!」
どうやらリャマは魔石の生成が苦手なようだ、とセリカが世間話のついでにレゼクに言うと、彼は「いや、たぶんそういうことじゃないんだけどね……」と苦笑していた。
一週間の間に、様々な動きがあった。
ハイスベルトは追放。といっても王族なので、僻地の責任者として送られることになった。
追放先が非常に寒く、厳しい土地だという話で、ハイスベルトはすでに終わった人という扱いを受けている。
哀れに感じたセリカがハイスベルトを訪ね、反省したのかと尋ねると、彼はまったく変わらない態度でセリカをせせら笑った。
「お前に慈悲を乞えって? そんなことをするくらいなら、向こうで凍死する方がマシだね」
ハイスベルトが案外いい目をしていたので、セリカは笑顔で送り出すことにした。これだけ負けん気が強い男に、同情するのは失礼と言うものだ。きっとそのうち自力で活路を見出すのだろうし、そうした方が本人にとっても喜ばしいはずだ。
アクアフィーナはハイスベルトとの婚約を破談にした。軍も去りたがっているが、そもそも精霊持ちは貴重であり、また、一人で生きるには危険すぎる存在なので、なかなか難しいらしい。
「うちにいらっしゃってはどうですか? ちょうど侍女が欲しかったところなんですよね。私なら何かあってもアクアフィーナ様をお守りできると思いますし」
セリカが何の気なく誘いをかけると、アクアフィーナは真っ赤になった。
「う……嬉しいお申し出ですけど、レゼク殿下は嫌がると思います……」
「あ……」
セリカとしても、レゼクの気持ちを無視して、勝手にアクアフィーナを連れてくることはできない。
アクアフィーナには、一年後、レゼクが落ち着いたらまた誘いをかけることにし、別れを告げた。
イリスタリアの軍は再編成され、リャマが繰り上がりで大聖女となった。
「どうなってるんですの、この国は!? 崩壊寸前ではございませんか!」
「滅亡しちゃったら、そのときはそのときだよ。またうちの国に戻ってくればいいんじゃない?」
とんでもないことを言うレゼクに、リャマは白い目を向けた。
「殿下っていい性格なさってますわよね」
「君たちに鍛えられたからね」
レゼクはそう言ってのけ、けろりとしていた。
ホリーはライネスに一緒についてくるというので、セリカも喜んだ。二番目の妹のように感じていた子だけに、嬉しい。
「またよろしくお願いします」
挨拶に来てくれたホリーに、セリカは満面の笑顔で応えた。
「本当のことを言うと、一人で新天地に行くのは少し寂しかったんです。ホリーが一緒だったら、ライネス軍でもうまくやっていけそう、かも?」
「私も、知らない女の人って怖いので、セリカ様の影に隠れていようと思います! こっちには百人力の大聖女様がいるんだぞーって思ったらもう無敵ですね!」
ホリーのような子が慕ってついてきてくれるのは、なんと幸せなことなのだろう。そっとセリカは嬉しさを噛み締めた。
***
ライネスへの道中、並んで馬を歩かせているレゼクが、簡単に国の概要を教えてくれた。
「うちは魔物の発生頻度が高い。おそらくイリスタリアの何倍、何十倍の規模だと思う」
「大きな国なのは感じます」
街道を行く人の数がすでにイリスタリアとは違う。
「軍人の数もおそらくイリスタリアの十倍以上はいると思う。交代で勤務できるから、イリスタリアみたいに戦いっぱなしってことはないのが救いかな」
「お役に立てればいいのですが」
「ぜひとも君の力が必要だよ。まあ、すぐに自分でも実感することになると思うけどね」
セリカは微笑みながらレゼクに「がんばります」と答えた。
レゼクはいい人だと実感するのはこういうときだ。ハイスベルトは、お世辞にだって絶対に「セリカが必要だ」なんて言わなかった。
現地でも、セリカを必要としてもらえればいい。
そう、願った。
これにて完結です。沢山の方のご閲覧、ブックマーク、ご感想ありがとうございました。
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