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,見習い魔女とセクハラ箒

カルラは見習い魔女だ。

彼女は魔力薄く、知恵働き鈍く。魔法の技量が低かった。

街の警邏魔女部隊を志望していたが、皆それを無理だと笑う。


警邏塔の受付の上には大魔王を倒した箒が飾ってあった。

名をゲルグリンという豪箒だ。

幾多の魔女が豪箒に跨がり使役しようとしたが、かの箒は起動の兆しすら無い。


カルラが警邏塔へ赴くと、轟音と共に塔が崩れ落ちる。

瓦礫に潰されていく警邏隊の魔女たち。

外には腐臭を纏いし巨大なドラゴンゾンビがいた。


呆然としたカルラの目の前に、ゲルグリンが落ちてきた。

その豪箒を手に取るカルラ。


『俺の名はゲルグリン、三度の飯より魔女の尻の感触が好きな箒さっ!! 俺に跨がれっ!! そして股間から魔力を流しやがれっ!! あの腐ったデカブツから街を救ってやんぜっ!!』


これは伝説の衝角式突撃箒と、後に伝説の再来と呼ばれる見習い魔女との最初の冒険の物語。

 わたしは胸を張ってですね、警邏魔女塔に第一歩を踏み込んだのでした。

 昨日、必死になって書いた願書を持って木の床を歩き、魔女塔三階の総合窓口へと向かいますよ。


 さすがは中央街の治安を守る警邏魔女塔です、どこもかしこもピカピカで、お金掛かってんなって感じでありますね。


 見上げると受付の上に大きな箒が飾ってありましたのです。

 でっかいなあっ。


「それは始まりの魔女ターフィーの豪箒ごうそうよ、初めて見た?」


 なんだか親切そうで美人の受付の人が声を掛けてきましたよ。

 ほー、あれがターフィーの箒のゲルグリンですか、初めて見ました。


「警邏本部にようこそ、入隊試験の出願ですか?」

「はいっ! 南三丁目のカルラですっ、カルラ・エンドバーンでありますっ! 魔女学校は第三ミッドタウン高校ですっ! よろしくご指導ご鞭撻くださいませっ!!」

「ふふ、そんなにかしこまらなくても大丈夫ですよ、カルラさん。私は本日の受付担当のレナータ・バジノヴァー警部です」


 レナータ警部はピシリと敬礼をしてくれました。

 うわあ、紺色の制服も格好良いですねえ。


 レナータ警部は、私が出した願書の封筒を開いて見始めた。

 そして、彼女の顔がだんだんと曇り始めるのです。


「な、なんですか? どうして困ってるんすか?」

「あー、そのー、内申の成績が悪いわね……」

「だ、大丈夫ですっ! 熱意だけは誰にも負けませんっ!!」

「熱意ですか……。あのー、魔術実習とか、魔術知識がその、落第ぎりぎりですよね」

「自分、頭が悪いんでっ!!」


 それだけは自信を持って言える。

 わたしは頭が悪い、高校の先生には、史上希に見る頭の悪さだ、と良く怒られたものです。

 卒業できたのはひとえに先生方の温情ではないかと疑っています。


「け、警邏魔女って、一応、この都市のエリートなので、人気がありましてね、合格率が三十五%ぐらいなんですよ。受験にもお金が掛かりますので、もう一度進路を考えた方が良いかと」

「何を言うのですかっ!! レナータ警部!! 勝負はやってみないと解らないじゃないですかっ!!」

「いや、書類審査で落とされますよ……、うわ、箒飛行の点数も低いですね」

「うちは貧乏なので、安い箒しか買えませんでしたっ!!」

「そ、そうなの?」


 レナータ警部は気圧されたように一歩引いた。


「小学生用の箒を高校一年まで使ってましたっ!! 見かねたお友達がカンパしてくれて最低線の箒を買えましたっ!!」

「いいお友達はいたのね……」

「はいっ!! 高校での親友達は今でも宝だと思ってますっ!!」

「でも、それで飛行技術が身につかなかったのね」


 私は魔女ターフィーの豪箒を見上げた。


「私だって、ゲルグリンみたいな箒があれば上達したはずです」


 レナータ警部はころころと笑った。


「あの箒は始まりの魔女ターフィーが死んだ後から二百年、いままで誰にも起動出来てないのよ」

「そうなんですかっ? もったいない!」

「高名な魔女が何人も何人も跨がったのだけれど、ぴくりとも動かなかったのよ。よほど相性にうるさい箒みたいね」

「わたしも跨がりたいですっ!」

「重要文化財なので、そういうサービスはありません」

「残念ですっ」


 レナータ警部は額に手を当て天井を見上げた。


「カルラさん、別に警邏魔女になるだけが人生ではありませんよ」

「わたしにとっては人生なのですっ」


 彼女はわたしの横に移動して、両開きの窓を開いた。

 警邏魔女塔の二階からは、中央街が一望できます。

 街の上に何人もの魔女が飛んでいますね。


「始まりの魔女が女性の体内に魔力を見つけ、女の仕事が魔術をもって戦い、空を行く事になってから二百五十年になります」

「そうっすねっ」

「人には適正という物があるわ、カルラさんには他にきっと向いている仕事があると思うわ」

「進路指導の先生にもそう言われたです」


 レナータ警部は私の願書を見返した。


「運動はすごく得意なのね」

「はい、体を使う事は得意す」

「うわ、魔力量だけ凄くない? 私だってこんなに無いわよ」

「はい、箒がボロかったんで、案山子の訓練ばっかやってたんす」

「ほ、本当に? あのしんどい訓練ばっかり?」

「他にやること無かったですから」


 案山子の訓練というのは、魔女の基本訓練の一つで、箒を持って片足でずっと立って瞑想するというものです。

 わたしは飛行が苦手なんで、何かあると案山子の訓練をやらされてましたね。

 一日中やってると、足が棒のようになるんですよ。

 効果としては魔力量が増えて、精神力が付くらしいです。

 確かに魔力量だけは馬鹿みたいに増えましたね。


「軍隊。カルラさん、あなた軍隊向きよ、この都市を他の国から守る軍隊、今は割と平和だから暇だけど、立派なお仕事よ」

「わたしは警邏魔女になりたいんです」


 なんでレナータ警部はこんな嫌な事ばかり言うのだろう。

 試験に合格させてと言ってるのではないのだ、国民の権利なんだから、受験ぐらいさせてくれても良いじゃ無いか。

 試験を受ける価値も無いほど、わたしは駄目なのだろうか。

 いや、学科も飛行も駄目駄目なのは知ってますが。


 あ、いかんす、目に涙がにじんで視界がぼやぼやになってきた。


「あ、あっ、泣かないで、意地悪をするつもりじゃないのよ、でも、適正という物があるから」

「わだじは、けいらまじょになりだいんです」

「どうして、そんな……」

「こどものごろ、お金持ちのお友達と遊んでいたら、巻き添えでヤクザに誘拐ざれた事があって」

「あら」

「ぞのどき助けてぐれた警邏魔女の人ががっごよくて。だから、だからわだじはっ」


 あー、涙がぼろんぼろんと落ちてきた。

 駄目だなあ、わたしは駄目だなあ。

 レナータ警部にも迷惑が掛かっちゃうなあ。

 ひーん。


「わあ、もうそんなに時間が経っていたのねえ。すごく大きくなったのねえ。あなたとお友達を助けたの、新人の頃の私よ」

「えええっ!! そんなことがっ!!」

「なつかしいわあ、こんなに頑張れるまで、警邏魔女を好きになってくれてありがとうね」


 わあっと、胸がジンジン痺れた。

 あの時の警邏魔女さんがレナータ警部だったなんて。

 これだけでも願書を出しに来て良かった。


「あの時はありがとうございました」


 わたしは頭を下げた。


「いいのよ、私も昔を思い出して嬉しくなっちゃったわ」


 レナータ警部はそう言うとふんわり笑った。


「とりあえず、カルラさんの気持ちは解ったから願書は受け付けるわね」

「ありがとうございますっ!」


 これで何とか試験は受けられるっ。

 受かるかどうかは天のみぞ知るだっ!

 当たって砕けろという言葉もあるじゃないか。

 他の進路は後で考えれば良いんだよ。


 ほっとしたら、ちょっと体がぐらっとした。

 疲れてたのかな?


 そして轟音が遅れてやってきて、揺れも再び襲ってきた。


「きゃっ! な、なに?」


 警邏魔女塔が揺れている?

 地震!?


 ガラガラと建物が崩れだした。

 巨大な石材が目の前で崩れ落ちてくる。

 悲鳴を上げて、上から警邏魔女さんたちが降ってきて、石に巻き込まれて砕けちるのが見えた。

 肉が腐るような悪臭。

 耳をつんざくような吠え声。


 瓦礫の隙間から巨大な首をもたげる何かが見えた。


「ドラゴンゾンビ!! どうして、こんな街中に!!」

「で、でかいっす!!」

「あぶないっ!」


 レナータ警部が私を突き飛ばした。

 上から大きな石材が降ってきたのが見えた。

 彼女の足に当たった後、石材は跳ねて塔の外に落ちていった。


「逃げなさいっ! カルラさんっ!! これは警邏本部塔を狙った魔術テロだわっ!!」


 壊れた塔の開口部が広くなって、見上げるような大きさのドラゴンゾンビの姿が現れた。

 赤茶色で所々の腐肉がこぼれ落ちている。

 ドラゴンゾンビは天を呪うように首を上げ咆吼を上げた。


 私はレナータ警部の体を引っ張り、塔の隅へと移動させた。

 片足が石材で砕けて骨が見えていた。

 血がだくだく出ていて、彼女は真っ青になり、震えている。


 とどろくようなサイレンが鳴りひびき、警邏魔女隊が箒に乗って飛んできた。

 攻撃手がマジックミサイルを発生させてドラゴンゾンビに撃ち込んだ。

 腐肉がはじけ飛ぶ。


 ドラゴンゾンビはくねるような動きをして大きく口を開けて腐敗ガスブレスを発射した。


「ガスプレス!! まずいわっ!!」

「どうしてですかっ?」

「ガスブレスは避けにくいのっ!」


 レナータ警部の言葉通り、警邏魔女たちはガスブレスに巻き込まれてバタバタと落ちていく。

 一人の魔女が悲鳴を上げて近くに落ちてきた。

 皮膚が溶け落ちていて獣のような吠え声で暴れ回り、塔から落ちていった。


 ぱん、と、私の頭に豪箒が落ちてきた。

 ゲルグリン!

 無意識に彼を握るといきなり大声が響き渡った。


『へいっ!! 俺の名はゲルグリン、三度の飯より魔女の尻の感触が好きな箒さっ!! 俺に跨がれっ!! そして股間から魔力を流しやがれっ!! あの腐ったデカブツから街を救ってやんぜっ!!』


 いきなりのセクハラ発言に箒を折ってやろうかと反射的に思ったっす。


「カルラさんっ!! あなただけでもそれで逃げてっ!!」

「ゲルグリン、ここからレナータ警部を連れて逃げ出したいっす、できますか」

『問題ねーよ、カルラちゃんっ! さあさあ、俺に跨がんなあっ!!』


 私は意を決してゲルグリンに跨がった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです! 男性が騎士団や冒険者を目指す感覚で、見習い魔女が警邏魔女という職種を目指すという設定が面白いなあと感じました。 ちょっと頭の悪そうなカルラが頑張る全年齢向けなお話なのね…
[一言] ばかわいいカルラに思わず目が釘付けになってしまいました。無謀とわかっていても諦めずに食いついている姿を見ていると、「がんばれー!」と思わず応援したくなります。才能だけではない、「好き」という…
[良い点] ちょっ……!!!! ゲルグリンの初っ端の言動に思わず吹き出してしまったっす!(いっけね、カルラちゃんの言葉遣いがうつっちまったっす!) めっちゃ面白いです。 カルラちゃんの健気なところが…
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