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AH-64E Apache Guardian

混迷を続ける中央アジアの国、アフガニスタンに駐留するアメリカ陸軍所属の『AH-64E アパッチ・ガーディアン』攻撃ヘリ部隊が直面する熾烈な戦闘を圧倒的なリアリティで描くミリタリーアクション!

アフガニスタン・パルワン州


 同地に駐留するアメリカ陸軍の車列を突然の衝撃が襲った。乾いた荒野を突っ切って伸びる幹線道路に沿って毎日行われる昼間の巡回パトロールの任務中、8両からなる車列の先頭を走っていた『M1278』汎用車両が路上に仕掛けられていたIED(即席爆発装置)の攻撃を受けたのだ。

 勿論、先頭を走っていた車両にはIED対策として赤外線や電波を妨害して遠隔操作による起爆を阻止する装置が車体前部に搭載されていたのだが、阻止できなかったという事は有線による起爆の可能性が高い。

 しかし、ある程度の威力のIEDまでなら直撃を受けても耐えられる構造をしていたので車内の4人は無事だったのだが爆発の衝撃までは消せず、各々が身体をぶつけた際の痛みに顔をしかめて唸ったり、悪態を吐いたりしていた。


「曹長、状況は!?」

「IEDが爆発しましたが全員無事です、中尉」


 当然、後続する車両に乗っていた小隊指揮官の中尉も攻撃を受けた事は分かったので、被弾した車両の車長でもある曹長に車載無線を通じて確認を取ると、彼は痛みの残る身体で車内を素早く見回して答える。

 もっとも、2020年代に入っても治安が一向に改善しない同国では、こうした攻撃を駐留外国軍が受ける事自体は珍しくなく、移動ルート上にIEDを仕掛けられるのにも慣れていた。

 だから、今回も車列を停止させて一応は周囲を警戒しながら攻撃を受けた車両の状態を確認し、その結果によって今後の方針を決めるつもりだった。

 ところが、車列の最後尾に位置する『M1277A1』MRAP(耐地雷/伏撃防護)ATV(全地形対応車)の車内から周囲を警戒していた兵士の警告をきっかけに状況が一変する。


「RPG!」


 車列が停止した場所は、ちょうど進行方向に対して左手側が緩やかな斜面で道路よりも5mほど高くなっている区間で、その頂上付近に『RPG-7』携帯対戦車擲弾発射器を持った武装勢力の戦闘員らしき2人が姿を見せたからだ。

 さらに、この時点で弾頭とロケットモーターを結合した状態で発射器に装填し、弾頭先端部の保護キャップを外して安全ピンも引き抜いてあったので2人の戦闘員は『RPG-7』携帯対戦車擲弾発射器を立った姿勢で構え、発射時に発生するバックブラストなど考えずにトリガーを引こうとする。

 当然、アメリカ軍側も即座に反応して『M1277A1』M(MRAP)-ATVのルーフトップに据え付けられたRWS(遠隔操作式銃架)の『M153CROWSⅡ』を担当する兵士が車内のコンソールにあるジョイスティックを操作し、RWSに搭載された『M2A1』HMG(重機関銃)の銃口を向かって左側の戦闘員のいる辺りに向けた。

 そして、慣れた様子でモニター越しに照準を素早く対象に合わせると、右手の人差し指で弾くようにトリガーを引いて射撃を開始した。

 それに合わせて『M2A1』HMGの銃口からは特徴的な発射音と共に初速800m/s以上かつ635発/分の発射速度で12.7mm×99NATO弾が発射され、立て続けに標的の周囲に着弾して土埃を巻き上げる。

 だが、すぐに微修正されて標的である戦闘員に連続して着弾し、ライフル弾を遥かに凌ぐ運動エネルギーでもって体組織を抉って大腿骨を砕いたり、内臓を引き裂いたりして殺した。

 その結果、『RPG-7』携帯対戦車擲弾の弾頭は発射直前に足を撃たれた射手が大きくバランスを崩した事もあり、車列を飛び越えるような弾道を描いて明後日の方角へ消えていった。

 しかし、その間にもう1人の戦闘員の発射した『RPG-7』の弾頭が『M1277A1』M-ATVの車体の左フロント部分に命中したが、現地改修によって車体に取り付けられていた格子状のスラット・アーマーの隙間に挟まって信管が作動せずに不発となる。

 この直後に戦闘員の方は反撃を受け、12.7mm×99NATO弾の連射によって文字通り右腕を引きちぎられた上で頭も砕かれ、血と一緒に頭蓋骨や脳の断片を撒き散らしながら絶命した。


「後方から複数の敵車両が接近中!」


 再びの警告に車内にいた全員の緊張が高まる。そして、車列の退路を遮断するようにピックアップ型の2両のテクニカル(市販車を現地改造した即席の戦闘車両)が斜めになって車列最後尾から20mほど後方の道路上に停車し、射手が荷台に搭載した『DShK38』HMGを撃ち始めた。

 さらに、続いて到着した荷台が剥き出しの薄汚れた中型トラックからは15人以上の戦闘員が降車し、重機関銃による援護射撃の下でコピー品を含む様々な『AKM』アサルトライフルを各自の判断で撃ちながらアメリカ軍の車列へ突撃してくる。

 すると、車列最後尾の車両の1両前にいた別の『M1277A1』M-ATVが一気に後退してきて攻撃を受けている車両の左隣りで斜めになって急停車したかと思うと、ルーフトップ上のRWSに搭載された『M2A1』HMGでテクニカルに連射を浴びせていく。

 奇しくも重機関銃同士の撃ち合いになったのだが、装甲車両の車内から遠隔操作で射撃できるアメリカ軍と装甲の無い市販車の荷台で射手が身を晒して撃つ武装勢力とでは勝負にならず、早々にテクニカルの1両がスクラップ同然の状態になる。

 だが、犠牲を厭わない武装勢力はテクニカルが攻撃されている間に戦闘員を走って接近させ、爆発物を車体に直接取り付けて撃破しようとしてきた。


「敵を近づけさせるな!」

「イエス・サー!」


 しかし、接近しようと遮蔽物として使っていた車両の陰から飛び出した戦闘員は、斜めに停車したM-ATVの攻撃を受けていない側のドアから降りて射撃位置に就いていた4人のアメリカ兵が持つ『M150CP』ACOGを装着した『M4A1』カービンで狙い撃ちにされ、誰一人として5mも近付けずに射殺されてしまった。

 この僅かな余裕の間に襲撃当初から最後尾で戦闘を続けていた『M1277A1』M-ATVも後退しながら素早く車体の向きを変え、攻撃に晒されていない方のドアから4人の兵士を降ろして戦闘に参加させる。

 それでも武装勢力側の攻撃は執拗で車列後方にテクニカルを含む増援が次々に到着すると、その一部は幹線道路を外れて車列右側に広がる荒野へと進入し、派手に土埃を巻き上げながら側面に回り込もうとしてきた。

 そこで小隊指揮官の中尉は、側面を守るため直ちに車列の中から『M1278』汎用車両と『M1277A1』M-ATVを1両ずつ向かわせる。


「3号車と8号車! 敵を回り込ませるな!」


 こうして命令を受けた2両は敵と同様に荒野へ進入すると迎撃に最適な場所で停車し、双方の車両から降車した計7人の兵士と共に攻撃を開始した。

 結果、兵士が持つ『M4A1』カービン(ACOG装着)や『M249』LMG(軽機関銃)から発射された5.56mm×45NATO弾、『M1278』汎用車両のルーフトップ上にあるRWSに搭載された『M240H』GPMG(汎用機関銃)から発射された7.62mm×51NATO弾、同じく『M1277A1』M-ATVのRWSに搭載された『M2A1』HMGから発射された12.7mm×99NATO弾が敵へと降り注ぎ、次々に射殺していく。

 だが、今度は車列左側の緩やかな斜面の方から多数の戦闘員が姿を現し、『AKM』系列のアサルトライフルと『RPG-7』携帯対戦車擲弾発射器で猛攻を仕掛けてきた。

 これに対してアメリカ軍は残った4両の車両と、そこに搭乗する兵士達で応戦するが、斜面の反対側の様子が分からないため苦戦を強いられる。


「3rdPTよりHQ! 現在、敵と交戦中! 援護を頼む! 場所は――」

「6号車が被弾! 走行不能! 重傷1名!」

「後方でも2名が重傷!」


 そして、最初にIEDの攻撃を受けた車両に『RPG-7』の弾頭が着弾したのを皮切りに状況は急速に悪化し始めた。

 勿論、こうした事態に備えて待機しているQRF(緊急対応部隊)が中尉の要請に応じて同国最大のアメリカ軍拠点のバグラム空軍基地から出撃したが、車両部隊ゆえに到着まで15分は掛かる。

 そんな中、道路上を車体の前半分に鉄板を溶接した奇妙な外見の乗用車が車列の進行方向に当たる方角から接近していた。VBIED(自爆攻撃用車両)だ。

 だが、敵の猛攻に晒されているせいでアメリカ軍は接近に気付くのが遅れた。しかも、即席とは言え防弾仕様になっているため撃破には対戦車火器がいる。なので、もう間に合わないと判断した兵士の1人が大声で叫ぶ。


「逃げろ! 自爆攻撃だ!」


 しかし、迂闊に遮蔽物の陰から飛び出す訳にもいかないため自爆攻撃に巻き込まれる位置にいた兵士達が死を覚悟した矢先、VBIEDが大爆発を起こして燃えながら路外へと転がっていく。さらに、斜面の反対側でも複数の爆発が同時に起きて敵の猛攻が止んだ。

 その事実に今が戦闘中だという事も忘れて兵士達は唖然としたが、空気を叩くような轟音を響かせて上空に姿を現した2機の『AH-64E アパッチ・ガーディアン』攻撃ヘリを見て全てを理解する。

 2機の攻撃ヘリは速度を活かしてQRFの先鋒として飛来すると、スタブ・ウイングから1機が『AGM-114L ヘルファイアⅡ』対戦車ミサイルを発射してVBIEDを破壊し、もう1機が複数発の『ハイドラ70』70mmロケット弾を発射して敵集団を殲滅したのだ。

 その後、2機は低空・低速で前部胴体下面の『M230E1』30mmチェーンガンを撃ちながら敵を掃討していくが、裏切ったアフガニスタン正規軍地上部隊の一部が多数の対空火器と共に接近中だという事までは知らなかった。

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