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第8話 1年目の夏

藁谷は左投げに転向してから、細かなコントロールが出来なくなった。右投げでは出来ていたことが、出来ないもどかしさというのをずっと抱えながら2軍で投げ続け、一定の成果は上げるものの、1軍への昇格チャンスはずっと訪れなかった。


最初の頃はどんどんと上がっていた球速も、早くも頭打ちが来て125キロの壁を超せない。体力や筋力は受験勉強を回避出来たお蔭で1周目よりもあるが、それを上手く活かせない。何より練習試合で、思っていた以上に打ち込まれる。


3軍に落ちることは無かったが、上がり目もまた無かった。そして1軍に呼ばれることはないまま、藁谷の最初の夏が始まる。やはり1年生でレギュラーを勝ち取ったのは、白星だけだった。


夏の県大会では湘東学園の左の3年生エース島谷と右の3年生エース浜川の2人が交互に先発し、危なげなく勝ち上がる。打線の方も昨年の春夏連覇を経験した3年生が中核となり、大量得点を重ねる。


迎えた甲子園の舞台で、湘東学園は準優勝という結果に終わる。選抜でも準優勝、夏の甲子園でも準優勝だった藁谷の2つ上の世代は、決勝戦でそれぞれ別の高校に負けている。


この流れすらも変えようとした藁谷だったが、1軍に上がれない以上は介入のしようがない。決勝で戦う相手はデータ班が解析しており、藁谷の持っているあやふやな知識なんて邪魔にしかならないという理由もあった。


秋になり、3年生が辞めた後になってようやく藁谷は1軍に昇格した。2年生世代に左投げがいなかったためであり、暫定的な昇格であることは誰の目にも明らかだった。どんなに筋トレをしても、フォームを見直しても、全然球速が伸びない藁谷の前に、背番号1番を付けた番匠が立ち塞がる。


「ようこそ一軍へ……って、お前かよ。監督がボケちまったかぁ?」


最高球速139キロ。2年生ながらこの球速のブレ球を投げる番匠は間違いなく化け物級であり、秋の大会は番匠1人でも勝てるレベルだった。2回戦の後、肩の筋肉を傷めるまでは。


彼女と同室であることを活かし、今回は肩のマッサージの提案をした藁谷だが「勝手に俺の身体を触るな」と殴られかけていた。寸止めとは言え、額に大きな握り拳が高速で迫ったことに、生命の危機を感じた藁谷は何も言えなくなり、それ以降は同室なのにも関わらず仲は険悪になっている。


そして今回も、初戦である2回戦で登板していた番匠は肩を痛めた。藁谷はストレッチをしてください、肩を酷使しないで下さいと懇願していたのにも関わらず、番匠の怪我を止められなかったことに負い目を感じる。その後、4回戦で強豪である横浜高校とぶつかり、戦力不足で湘東学園は敗退。


甲子園への連続出場記録は、5期で止まる。責任を感じた番匠がすすり泣く声を、同室である藁谷はずっと聞いていた。


季節は巡って冬。何とか1軍にしがみついて参加出来た冬合宿で、藁谷は念願だった奏音との再会を果たす。それと同時に、2年目の冬合宿には来てくれない彼女達に、教えを乞う最後のチャンスだと思い直す。


「4回戦で横浜高校に当たるのは不運よねえ……」


北海道フライヤーズ ドラフト1位指名 伊藤(いとう)真凡(まなみ) 

1軍成績:107試合459打席416打数129安打 打率.310 本塁打0 四球36 OPS.710

2軍成績:11試合87打席81打数33安打 打率.407 本塁打0 四球4 OPS.956


「あの、私が居て良いんでしょうか?人に教えるというのはやったことないのですが……」


名古屋ドレイクス ドラフト1位指名 江渕(えぶち)智賀(ちか)

1軍成績:144試合580打席525打数141安打 打率.269 本塁打16 四球42 OPS.727


「大丈夫大丈夫。勝負するだけでも経験になるって」


福岡ファルコンズ ドラフト1位指名 西野(にしの)優紀(ゆき)

1軍成績:12試合78.2回 奪三振71 与四死球11 自責点19 5勝5敗 防御率2.17

2軍成績:2試合6回 奪三振8 与四死球1 自責点1 0勝0敗 防御率1.50


「はあ……今年だけにしてよ。どちらにせよ、毎年は来られないし」


京神ジャガーズ ドラフト1位指名 梅村(うめむら)詩野(しの)

1軍成績:71試合233打席210打数47安打 打率.223 本塁打2 四球15 OPS.599

2軍成績:36試合121打席109打数23安打 打率.211 本塁打1 四球7 OPS.560


奏音が連れて来た、奏音の同級生であり、湘東学園の春夏連覇を支えたレギュラー陣。この4人は全員がドラフト1位で指名され、今年のプロ野球から1軍で活躍をしていた。今回の冬合宿では、奏音も含めれば5人のプロ野球選手から色々と教えてもらうことが出来る。間違いなく、今冬はどの高校にも負けない、最高の環境での練習だろう。


早速藁谷は、変化球が得意な西野にカーブとスライダー、スクリューを見てもらう。1軍に入れた最大の恩恵であり、この機会を逃さずに様々な変化球を試すが、結局大きな成長をしたのはカーブの変化量だけだった。


しかし藁谷は練習中に、西野からあるものを手に入れる。それは今後の藁谷を左右するものだと、この時の藁谷は一切思ってなかった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] マッサージを提案しただけで殴られかけるとは、有り体に言ってただの凶人なのでは。 カノンは人を野球能力のみで見ていたふしがあるけど、こんなのが部員に居て大丈夫なのかと。部員が派手な暴力事…
[一言] 大器晩成型だった優紀ちゃんに教えて貰えたのは大きいですね。球速も同じくらいですし。 流石に優紀ちゃんほど変化球を覚えられるとは思えませんが、今後を左右するほどの何かを得ることが出来たというの…
[一言] 展開が速い感じするけどもしかして逆行を繰り返すのかな? それくらいしないと両投げエースになって甲子園優勝させるまでとなると厳しい感じするし。
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