いつか夢見たプロローグ
この小説は「TS転生したから野球で無双する」の続編ですが前作を全く知らなくても問題の出ないように書いています。ただ前作の登場キャラが引き続き登場するので、前作を読んでいるとキャラが把握しやすいと思います。
中学3年生のある夏の日、私は運命の出会いをした。野球をしていれば必ず知っているほどの、野球をしていなくても知っているほどの、野球の有名人。甲子園春夏連覇を果たした湘東学園の核となる人物であり、時の人である実松奏音。彼女と湘東学園のグラウンドで30分ほどのキャッチボールを行った後、私は彼女から予備のグローブを貰った。
とても嬉しかったし、絶対にここに入ってレギュラーになって、甲子園へ行く。この日に誓った想いは、これからの私の原動力でもあり、同時に……呪いでもあった。
2人の出会いから月日は流れ、藁谷は高校に進学する。進学先は、湘東学園だった。
「真由美ー!今日が入寮日じゃないの!?早く起きないと遅刻するんじゃない?」
「あー?お母さん今何時ー?」
「6時半よー」
「……入寮って、朝9時からだよね?やばっ!間に合わないじゃん!」
その入寮日当日、藁谷は盛大な寝坊をする。藁谷は慌てて荷物を纏め、電車で2時間弱かかる湘東学園まで移動した。
「今何時だと思ってるんですか!!」
「ヒィ!?」
「はあ。40分の遅刻。何か言い訳ありますか?もうあなた、高校生になるんですよ?」
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
湘東学園の野球寮に到着した藁谷は、寮監であり3軍の監督である萩原 沙絵に呆れられながら部屋の鍵を渡される。キーホルダーには104番と書かれており、104号室がこれからの部屋になることを藁谷は理解した。
「今年の入寮日の遅刻者は、あなたを含めて3人ね。良かったわね、最後の1人じゃなくて。
あら?」
「?」
「何でもないわよ。早く着替えてグラウンドへ向かいなさい」
「はい!」
萩原監督に急かされ、藁谷は慌てて寮監室から飛び出て部屋へと向かう。すると隣の部屋の入口で、1人の女子と出会い、声をかけられた。
「あなたも遅刻?」
「あなたもって、もしかして新入生?」
「うん。私の名前は坂上 美心。右投げ左打ちのキャッチャーだよ。さっき、凄い怒鳴り声じゃなかった?部屋まで聞こえてたよ」
「あはは……坂上さんも怒鳴られた?」
「それはもう……耳がキーンってするぐらい」
藁谷よりか身長は低く、見た感じでは筋肉質な身体付きではないが、それでも肩まわりや太腿はしっかりと鍛えられていることが分かる。坂上は藁谷と同じ遅刻者だが、既にユニフォームに着替えていた。
「私の名前は藁谷真由美。坂上さんは、キャッチャーなんだ。もしかしたらバッテリーを組めるかも」
「あれ?ということはピッチャー?」
「そうだよ。去年は県大会の2回戦で……コールド負けしました」
「あ、2回戦敗退ってところは一緒だね。私は」
坂上と藁谷が会話していると、急に坂上の動きが止まる。2人の間を通り過ぎるように、真っ白な少女が横切ったからだ。
「おー。おはよーなのです」
「えっと、おはよう?」
「シロは眠いのでもう一眠りしてくるのです。これから3年間、よろしくなのです」
「え?ちょっと待って!新入生だよね!?グラウンドに行かなくて良いの!?」
シロと名乗る小さな坂上より二回り以上小さな少女は、藁谷を無視して103号室へ入って行き、そのまま出て来ない。何という奴だと、会話してダラダラしている自分を棚に上げて思った藁谷は、あることに気付く。
「……あれ?さっきの子、怒鳴られてないよね?」
「藁谷さんは、知らないの?
あ、そろそろ私は行くね?藁谷さんも、急いだ方が良いと思うよ」
それはシロと名乗った少女が怒鳴られていないことであり、そこに少し疑問を持った藁谷だったが、時間に追われるように着替えているとそんな考えは頭から抜け落ちていた。
藁谷と坂上がグラウンドに到着すると、まず2軍監督である矢城監督が迎える。既に1年生は全員が整列しており、自己紹介をしている最中だった。
「神戸ガールズ出身の柳 洋子です。右投右打のピッチャーで、趣味は……漫画です。よろしくお願いします」
「同じく神戸ガールズ出身の金木 智明です。右投左打の外野手で、レフトが本職です。趣味は釣りかな?これから三年間、よろしくお願いします」
先頭にいる体格の良い2人を見て、坂上は驚く。柳と金木は昨年のガールズで2年振りの優勝をした名門神戸ガールズのエースとキャプテンだからだ。一方で2人を知らない藁谷は、気が抜けた間抜けな表情を晒しながら自己紹介を眺める。
「2人とも、後ろの列に交ざりなさい。あ、遅刻で怒られるのは入部していない時だけだから安心して良いですよ。入部したら、遅刻しても怒る人は誰もいませんから」
2軍監督の矢城が列に並ぶように言い、藁谷と坂上は後ろに並ぶ。他の人が自己紹介をしている間に、小声で坂上は藁谷に聞いた。
「ねえ、藁谷さんはあまり中学野球の有名人とか知らない感じ?」
「え、うん。全然知らないや。私が野球始めたの、中学3年生になってからだし」
「……中学陸上界で100メートルの新記録を出した白星 憲枝さんも?」
「あ、それは聞いたことあるかも。……え?もしかしてさっき見たのは」
「間違いなく、白星さんだよ。盗塁成功率100%、陸上界が土下座をしたのに野球の道を選んだ白星さん本人」
「……ほえー。凄い人が集まってるんだなぁ」
坂上は、中学野球で有名所の選手はある程度知っているのに対し、中学2年生まで大して野球に触れていなかった藁谷は無知だった。
「あ、藁谷じゃなくて真由美で良いよ。藁谷って苗字、あまり好きじゃないんだ」
「ん、私のことも美心で良いよ。よくみこっちゃんって呼ばれる」
自己紹介は続いて行き、ガールズ出身ではない人は出身中学とポジションを言っていく。最後に藁谷が自己紹介をして、1年生同士での自己紹介は終わる。
「東京出身の藁谷真由美です。右投げ右打ちのピッチャーで、アピールポイントはコントロールです!これから3年間、よろしくお願いします!」
高校野球の世界に足を踏み入れたことを実感し、これから頑張るぞと藁谷は思う。こうして藁谷の高校野球生活は始まり……。
そして、終わった。