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第十一話 DランクからAランクまで上がるって無謀じゃないですか!?

「出来れば……Aランクまで……」


「Aランクって……イケるのお兄ちゃん?」


 兄の話を聞く限りAランクまで上がるハードルはかなり高いらしいではないか。恐らくBランクまで上がれれば御の字であり、現実的な目標になるのだと私は予想できた。


「……まあ、容易ではないだろうな。Bランクで冒険者人生を終えるパーティがほとんどで、運が悪ければCランクで頭打ちになるパーティもいる。Aランクに上がれるのは本当に一握りだ」


 セルカはシュンとした表情で俯く。

 現実は甘くないということだ。


「そうですよね……いえ、いいんです。私たちも簡単にAランクになれるとは思ってないですし……」


「いや、なれないとは言っていない」


「……え?」


「難しいと言っただけだ。Aランクになること自体は不可能じゃない。というか、俺の手にかかればそれほど難しくはない……ただし、一つだけ聞かせてくれ」


 あたかも自分がパーティランクの評価を左右しているかの如く、兄の言葉には自信が漂っていた。

 もちろん兄にそんな権限はないのだが、その眼差しからは彼のことを無性に信じたくなる「何か」があった。


「なぜセルカちゃんはAランクになりたいんだ?」


「そ、それは……」


 兄の咄嗟の質問にセルカは黙り込んでしまう。私はこのタイプの質問が極めて答えづらいことを知っている。


 ごくごく当たり前すぎて考えたこともないのだ。


 サラリーマンに「なぜ出世したいのか、なぜより高い地位を得たいのか」と聞くようなものだ。より多くの給料が欲しいなどと言った答えは出るかもしれないが、お金がもっと欲しいのであれば副業や転職すればいいだけかもしれない。


 「出世」することの特有性なんて、考えれば考えるほど良くわからなくなる。だからこそ、人々は考えないのだ。


「お兄ちゃん、そりゃパーティを結成したら、名をあげたいのは当たり前でしょ? そんなこと当たり前のことを聞いても……」


 私はセルカに助け舟を出す。

 これ以上質問で彼女を詰めても、無駄に困惑させてしまうだけだ。


「いや、ここは大事なところだ。お金や権力であれば別にAランクに拘らなくてもいい。商売でもすればいい。Aランクになることは手段でしかないんだ。その先に目的がなければAランクになる意味なんてない」


「それは、そうだけど……」


 兄の言っていることも理解できるのだが、それでもセルカに対する質問が答えづらいものであることには変わりがない。


「ビジネスもそうだ。当たり前だが、利益追求は企業の目的じゃない。達成したい理念や目的があるから利益が必要なんだ。もし行動したいのなら、目的をしっかり定めないとダメだ」


 しかも、理念とか目的とか、私からすれば正直胡散臭いとすら感じてしまう。

 学校でも教育理念的なものがあったりするが、生徒は対して内容を覚えていないし、それを行動指針にしているわけでもない。


 ランクをあげたいと思っているのであれば、ランクをあげる手伝いをすれば良いではないか。相談料も貰えるし。


「……どうなんだ、セルカちゃん?」


 それも兄は目的を重要視したいようだ。

 ここまで来ると頑固なので、セルカには申し訳ないが兄の問答に付き合ってもらうことにした。


「実は……Aランクになって受理したいクエストがあるんです」


「受理したいクエスト?」


 バストカップの件もそうだが、セルカは兄に面倒臭い質問を投げられることが多いようだ。実にツイてない。ご愁傷様である。


「私たちは全員モースと呼ばれる魔法使いの集落から来ました」


 セルカは兄の質問に答えるために、自分たちの生い立ちについて語り始めた。


「でもある日、ハーピーの大群が集落を訪れ、集落を襲いました。私たちと一部の住民は魔法使い同士の繋がりを使って、なんとかこの街に流れ着くことができましたが、逃げられなかった人々は集落と共に亡くなりました……私もそうですが、ここにいるパーティーメンバーは全員親がハーピーによって殺された、いわゆる孤児なのです」


「そ、そうなのね……」


 突然手榴弾のように投げ込まれた重い話に私は軽く引いていた。

 親戚が亡くなったばかりの友人にどう声をかけていいのかすら、よく分かってない私にとって、彼女の超ヘビー級の生い立ちにどうリアクションすればいいのか悩ましかった。


 なので、とりあえずいい感じに相槌することにした。


「最初は手っ取り早く生活費を稼ぐために冒険者になったんです。別に上に上がろうとも思ってませんでした……そしたら、最近Aランクの魔物討伐のクエスト依頼が来ていたんです」


「そのクエストっていうのは……もしかして?」


「……はい。私たちの集落を襲ったハーピーの討伐でした」


 因果は巡るとは言ったものだ。

 確かに人里を襲う魔物がいれば、野放しにしておくわけもない。損害を被った誰かが全力で魔物を始末したいと思うだろう。


「できれば私たちの手で、仇を討ちたいのです。そして、安心して集落を復興させたい。ただ、規定上Aランク以上にならなければそのクエストを受理することはできません……」


 Aランクに設定されているということは、この世の上位一割のパーティでしかこなせないと判断されたということだ。

 パーピーは前世でもよく名の知れた魔物だが、相当手強い相手に違いない。


「でも、このままではAランクになる前に、どこかのAランクのパーティにクエストが受理されてしまうでしょう……一生かかってもAランクになることは難しいのは知っています。だからこそ、短期間の間にAランクになることなんて不可能……他のパーティにお任せするしかないと最近は考えてます」


 セルカは悲しげに空を見上げる。


 心の底から自分でハーピー集団に手を下したいと考えているのだろう

 だが、それを果たす為にはDランクからAランクまで三つの階段を急ピッチに上がっていかなければならない。相当ハードルが高い所業であることには違いないのだ。その階段を上がるのに人々は人生をかけているし、まだベテランともいえない彼女たちがAランクを取れるともにわかに信じがたい。


「なるほど、セルカちゃんの目的はわかった」


 セルカの話を全て聴くと、兄は納得したように肯いた。

 兄はセルカに向かって笑顔を見せる。

 

「俺に任せておけ。――全て上手くいく」

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