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第4話 : 草原の悪魔 ~討伐~

「ボット、気をつけろ!*陣式*を発動してくる!」


*陣式*とは単体での攻撃力の弱さを補う事を目的に、特定の条件下でのみ魔物(モンスター)が使用する事のできる干渉術式だ。


一角兎(ホーンラビット)” の場合、5体以上の群れを形成した時にその条件は満たされ、鋭く尖った角に蓄積させた雷を1つに集結させて放出する。

その攻撃の威力は第(よん)門に相当し、腕利きであろうとも直撃すれば一溜まりもない。


それを知っているボットも、ただ立ち尽くして攻撃を待っている事はしない。

【天与:雷ノ験】*展式・疾雷(しつらい)* によって可能となった高速移動を使い、集結した “一角兎” の群れの背後に回り込み、再び攻撃へと移る。


「【天与:雷ノ験】*纏式・紫電一閃しでんいっせん* 」


先ほどは躱されてしまった攻撃だが、今度は確実に一体を沈める。

しかし、”一角兎” はまだ11匹もいる。


当然、その状況を理解しているボットは、状況を打開する為に新たな構えをとった。

先ほどまで攻撃に使用していた短剣を鞘に収め、”一角兎” の群れに向けて右手を伸ばす。


「みんな、少し離れてくれ!」


ボットは早い口調で周囲に警戒を促す。


「まずい!ハイム、ちょっと雑に扱うぞ」


そう言い放ったゼノは再びハイム少年の襟を掴み、ボットから距離をとった。

レミクは既に十分な距離をとっている。


「あいつは第(よん)門を開いて期間が短い。

それもあって、範囲干渉の精度が未だ良くねぇんだ。しかし、この状況だと使わざるを得ないか……」


中~広範囲への干渉は、第肆門を開いてから初めて可能となる。

それ故、十分な修練を積んでいないうちは思うように制御することができず、自分自身を巻き込んでしまうことさえある。


ボットもそのリスクは重々承知しているが、躊躇している余裕はない。

レミクやギルドメンバーが十分に距離をとった事を確認すると、すかさず攻撃へと移った。


「【天与:雷ノ験】*展式・降雷こうらい* 」


瞬間、”一角兎” の頭上付近から、紫色の閃光と轟音を伴って無数の雷が降り注いだ。

その攻撃は周囲の草木を焼き払い土煙を巻き起こし、戦闘中のボットと”一角兎” の姿を覆い隠した。


「ボットさん!」


心配したハイム少年の声が草原に響き渡る。

ボットからの応答は聞こえてこない。


「ゼノさん、大丈夫でしょうか?」


「ああ、そんな柔な鍛え方はしていない」


暫くすると、徐々に土煙が収まり周囲の状況が鮮明になってくる。

ボット地面に膝をつき、左手を庇うように右手で抑えている。

どうやら、自身の攻撃によって左手を巻き込んでしまったようだ。

その表情は苦悶に満ちているが、目線は “一角兎” の方を強く見据えている。


一方の “一角兎” はボットの攻撃によってその数を半分ほど減らし、残りは5体程となっていた。


「腕だけで済めばマシな方か……

おい、ボット!まだ、いけそうか?」


「……どう見ても無理だろ!」


ボットの言う通りである。


「いや、まだ右手があるじゃないか」


「アホ親父!頭いかれてんのか?」


スパルタなのか、ゼノの感覚がおかしいのか……


しかし、そんな掛け合いも “一角兎” にとっては関係ない。

ボットからの攻撃が止み、衰弱している姿を見るやすぐに反撃の体勢へと入る。


「ゼノさん!*陣式* がきます!」


ボットの素早い連続攻撃によって機会を逸していた ”一角兎” の*展式* は既に発動の準備を終え、残りの5体の前方には大きな球状の雷が出現した。

そして、その攻撃はボットへ向けて放たれようとしていた。


「ゼノさん!ボットさんが危ないです!」


「分かってる……

まあ、初めてにしては上出来か」


そう言うとゼノは、素早く干渉術式を展開した。


「【天与:雷ノ験】*展式・雷槍らいそう* 」


ゼノの正面に展開された槍型の雷が、目にも留まらぬ速さで “一角兎” の展開した球状の雷へと向かっていき、瞬く間にそれを打ち消した。


当然、ゼノの攻撃はそれだけでは終わらない。


「【天与:雷ノ験】*展式・疾雷しつらい* 」


先ほどボットが見せたのと同様の高速移動を見せて “一角兎” との距離を詰め、片膝を付いた状態で右手を地面につける。


「【天与:雷ノ験】*展式・噴雷ふんらい* 」


すると次の瞬間、“一角兎” の足元周辺が紫色の光に包まれ、地面を揺らす程の轟音が鳴り響くと同時に地面から無数の雷が立ち昇った。あまりに強力なその攻撃は、周囲に衝撃波までも撒き散す。遠くでその様子を見ていたハイム少年やレミクですら、その衝撃の煽りを受けてしまう程だ。


「やり過ぎた……か」


その威力は凄まじいもので、“一角兎” が居た周辺には底が見えないほどの深い穴が出来てしまっていた。

更に、先ほどまで居たはずの5体の ”一角兎” は跡形もなくその姿を消した。


「やり過ぎですよ……」


その様子を見たレミクが言い放つ。


「凄いです!ゼノさん!

何ですか今の干渉術式は!!」


レミクとは対照的に、ハイム少年は目をキラキラと輝かせ、興奮を隠し切れない様子だ。


「あんまり無理をしないで下さい」


「何、これくらい問題ない」


レミクとゼノのやり取りは、何やら意味深長だ。

レミクは、何を心配しているのでだろう……


「ゼノさんもボットさんと同じで、【雷ノ験】の天与だったんですね!」


「しかも……【雷ノ験】に関しては、第(なな)門まで開いてますよね?」


「えっ!そんなところまで!

それに、【雷ノ験】に()()()()、と言う事は、複数持ち(プルーラル)ですか?」


「ま、一応な……」


「す、凄過ぎます……」


ギルドマスターと言う立場でありながら、ギルドメンバーの詳細を把握できていないのは致したかない事である。なにせ、マスター歴4ヶ月であり、ギルドメンバーの戦い振りを見るのは初めての経験なのだ。


「力加減が下手過ぎて、6体も無駄にしてるけどね」


「仕方ないですよ。ボットさんが危ない状況でしたし」


「それを言われると……」


「お身体は大丈夫ですか?」


「うーん……

左手が少し痛むかな。あと、体力はもう限界」


「でも、ボットさんの活躍のお陰で5体も確保する事ができました!

ありがとうございます!」


「ハイムよ、甘やかしちゃいけねぇ。

“一角兎” くらいでへばられちゃ困る」


「いえいえ、ボットさんは素晴らしい働きをしてくれました!

……ところで、ゼノさんはどうしてボットさん1人に戦わせたんですか?」


「そりゃ、こいつ1人で “一角兎” の討伐ができるようになる為さ。

討伐の度に俺らが付いて行ってちゃ効率が悪いだろ」


「なるほど!食堂を運営してからの事を考えてらしたんですね。

僕の考えが至りませんでした」


「あの、マスター……

ボット君の名誉の為にも言っておきますが、本来 “一角兎” の群れは単独で討伐するようなものではありませんからね」


「贅沢言うなよ、レミク。

このギルドには3人しか居ないんだぞ?」


「それも事実ではありますが……」


「頼もしい限りです!」


「……」


このマスター、意外とSかもしれません。


「とにかく…… ”一角兎” の討伐完了です!

皆さん、お疲れ様でした!」


「おう!ボット、良くやったぞ!」


「そうですね!ボットさん、皆さんお疲れ様でした!」


「……おっ、大きな声出そうすると痛みが……

お疲れ……」


ボットは左手の痛みに顔を歪ませながら、労をねぎらった。


「では、小さき王(レグルス)へ戻りましょう!」

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