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第2話 : 草原の悪魔 ~出発~

小さき王(レグルス)をよろしくお願いします!」


「何かお困りごとは無いでしょうか?」


「討伐や採掘の依頼はございませんでしょうか?」


結団式を経て、最高位のギルドランク煌級(グリッター)を目指すという新たな目標を得た小さき王(レグルス)の若きマスター、ハイム・エイヴァスは依頼獲得の為に近隣住民への宣伝に回っていた。

しかし、その声を聞き入れる住民の数は多くない。


「あの小さき王(レグルス)かい?」


小さき王(レグルス)ねぇ……」


先代ギルドマスターは多額の借金だけでなく、立て続く依頼未達成による悪評をも残していた。

しかし、理由はそれだけではない。


「あたしらは、巨人の左足(リゲル)に頼んでいるんだよ」


「同じ達成報酬を払うんなら、巨人の左足(リゲル)を選ぶさ」


小さき王(レグルス)の周辺には、耀級(イルミナ)のギルド『巨人の左足(リゲル)』があるのだ。

構成員数80人。年間獲得G.Pは8,500。

ギルド専門誌 [月刊ギルド]による非公式の集計によれば国内でのギルドランキングは24位であり、圏外の小さき王(レグルス)とは比べ物にならないほどの実績を積んでいる。


輝級のギルドとしては少数ながらも、討伐や素材採掘など難易度が高く達成報酬やG.Pの高い依頼を確実にこなす事でその地位を築いた。


「報酬とG.Pの良い依頼を取るのは難しそうですね……」


ハイム少年に同行して宣伝の協力をしていたレミクが言う。


「そうですね……

外に出て宣伝をしたのは初めてなんですが、ここまで小さき王(レグルス)の評判が悪いとは正直思っていませんでした。予想外です」


「先代が色々と無茶をしていましたからね……」


「……」


「レミクさん、一旦ギルドに戻りましょう。

今の僕達のやるべき事が分かりました」


「やるべき事?ですか……」


何かを思い立ったハイム少年はレミクを連れ、ゼノとボットが待つギルドへと足早に戻った。


「おう、ハイム!

宣伝の効果はあったかい?」


「いいえ、さっぱりでした」


「だよね……

うちの評判良くないし」


ボットが自虐的に反応する。


「しかしだな、

いくら俺たちがやる気を出そうと、依頼が来なきゃどうしようも無いぞ?」


「その通りです。

しかし、近隣の方々の反応を見る限り、このままでは幾ら待っても依頼が来ない事を確信しました」


「実際ここ数ヶ月は依頼がないからな。

それで……どうするんだ?」


「ギルドに食堂を開こうと思います」


「……」


「食堂?!」


一瞬の静寂の後、ハイム少年の言葉を聞いた全員が一斉に聞き返した。


「はい、食堂です。

今の小さき王(レグルス)に足りていないのは、近隣の方々との接点だと思います。

幸いスペースは十分にありますし、キッカケづくりには最適ではないでしょうか」


「まあ、良い案だとは思うがよ……

仮に食堂を開いたとしてだ、金を払ってまで食事に来る奴がいると思うか?」


「そ、そうだよ!そもそも、今あるのは場所くらいなもんで、食材もなければ料理を作る人も居ないっていうのに、どうやって食堂を開くのさ」


「そうですよ、マスター。ゼノさんとボットくんが言うように、簡単な事ではないと思います。

地道に宣伝を続けていった方が良いのではないでしょうか」


ハイム少年の意見に、ギルドメンバーの全員が抵抗を示した。

しかし、ハイム少年も簡単には折れない。


「とっておきの食材を調達して、腕の良い料理人の方を雇用するつもりです」


「食材は自分達で調達もできるだろうが、腕の良い料理人を雇うような金があんのか?」


「お金は、ありません。

なので、お客さんが入って繁盛するまでは無給で働いて頂く事になるかと思います……」


「当てでもあんのか?」


「いえ、料理人の方に関しては見当も付かなかったので、ゼノさんにお聞きしようと思っていたんですが……」


「俺に?」


そう言ってゼノは暫く黙り込んだ。


「……1人だけ、心当たりはある。

年寄りの頑固爺さんで、相当な変わりもんなんだが……」


「本当ですか!?

どんな方でも構いません!是非紹介してください!」


「……まあ、分かったよ。今度話に行こう。

ハイム、お前も来てくれよ?俺1人では行きたくないからな……」


「ええ、勿論です!ゼノさん、ありがとうございます!」


ハイム少年からお礼を言われたゼノは、心なしか難しそうな顔をしているように見える。

その料理人との間に、因縁でもあるのだろうか。


「因みに、とっておきの食材っていうのは何なの?」


先のハイムの発言に興味を示したボットが質問する。


「"一角兎(ホーンラビット)" です」


「ええ?!あの獰猛な兎ですか?」


驚きの反応を示したのは、質問したボットではなくレミクだった。


「レミクさん、何をそんなに驚いてるの?

いくら獰猛とは言っても、所詮は兎でしょ?」


レミクの反応を不思議に思ったボットが返す。


「確かに兎ではあるんだけど……」


レミクが驚くのも無理はない。

なぜなら、依頼としての難易度が高いからだ。


オルド公国のギルド連合は、国内に生息する魔物(モンスター)を対象に依頼時の難度設定に関するガイドラインを各ギルドに提供しているが、それによれば "一角兎(ホーンラビット)" の単体討伐難度は[弐()]だ。

最高難度が[拾(じゅう)]である事を考えれば、そこまで困難とは思えないが、一角兎の厄介さは群れで居る時にこそ現れ、その難度は[肆(よん)]にまで上がる。


その可愛らしい見た目からギルドの初心者が迂闊にも手を出してしまい、これによって返り討ちに遭うケースが後を絶たない。

そういう事もあってか、一部のギルド関係者の間では、"一角兎" を”草原の悪魔”と呼ぶものさえいる。


「一筋縄ではいかないが、"一角兎" を提供できるとなれば、客は間違いなく来るだろうな」


「ゼノさんも、そう思われますか!では、早速出発しましょう!

目指せ、"一角兎" 狩りです!」


「おいおい、ハイムも行くつもりか?」


「ええ、勿論です!皆さんにだけを危険な目に遭わせる訳にはいきませんから」


そう言うハイム少年の目はキラキラと輝いている。


「ついてくるのは別に構わないが、お前さん戦えるのか?」


「いいえ、そっちの方はさっぱりです!

ですので、討伐はお三方にお願いします」


「……」


それを聞いたゼノは呆れた顔をしているが、少年の如く目を輝かせたハイム少年を止めようとはしなかった。


「でも、マスターまで行ってしまったらギルドの留守番は誰がするんですか?」


レミクよ、その通りだ。

ハイム少年は" 一角兎" と、その討伐の様子が見たいが為にギルドそっちのけである。


「大丈夫ですよ!どうせ誰も来ませんし!」


レミクの心配を一蹴するように、ハイム少年はあっけらかんと言い放った。


「ハッハッハ!

ハイムは真面目だと思いきや、意外と大胆な事をするじゃないか。

大物なんだか阿呆なんだが分からねぇが、俺はそう言うの好きだぞ」


ゼノが愉快に笑う。

ギルド最年長よ、それで良いのか……


「嬉しいんだか、悲しいんだか分かんないね……」


ボットよ、それは悲しい事だ。


「でも、この辺りに "一角兎(ホーンラビット)" の生息域はないですよね」


「北部に行く必要があるな。

移動まで含めると、少なく見積もっても3日ってとこか」


「本当に、3日間も空けていて大丈夫なんですか?」


「はい!全然問題ありません!」


「……」


「それでは、皆さん!

"一角兎" を討伐に行きましょう!」

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