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抹殺らいふっ!ー世界は2人を認めないー  作者: 犬丸
SEASON.1―少年期編・1―
8/12

北闇は2人を認めない・6

【会議室】 


 双子の父親・白雪セメルは上層部に家族全員の休暇を揃えるよう申請をだした。理由を尋ねてみると、セメルはこう言った。



「息子達が入隊を果たした今、アレの扱いを学ばせようかと」



 その中には、ヒロトとナオトの班を率いる隊長の姿がある。つまり、決定権はこの2人にあるわけだ。双方考える間もなく首を縦に振ったのは、巨獣とされる生き物の出現があったからだろう。


 他の者達は、大いなる期待の眼差しをセメルに向けていた。訓練校からの報告書に目を通していたからだ。ヒロトとナオトは優秀な成績を残して卒業している。


 興奮を抑えきれず一人が尋ねた。



「お前の父親から受け継がれたその力、確かに息子たちにも受け継がれているのか?」

「はい。アレの発現はこちらから引き出さなければなりませんが、身体能力が物語っています。二人とも、すでに性質を内に秘めているでしょう」

「混血者と同等の力……。あれは神から人への褒美だ。可能性があるのならば、一刻も早く〝言霊〟を開花させろ」

「許可を頂き、ありがとうございます」



❖❖❖



 白雪家の居間に珍しく全員が揃っている。父さんから「大切な話がある」と言われたのは数分前のことで、俺とヒロトは真剣な面立ちで父さんへ向いていた。



「今から話すことはとても大事なことだから、ちゃんと聞いて欲しい」



 頷いたのを確認すると、父さんは、序盤からとんでもない話しをし始めた。

 


「巨獣の出現がなければ、きっと未だに父さんは黙っていたと思う。実は、ヒロトは1歳の時に誘拐された事がある。その時、父さんとお爺ちゃんは任務で国外に出向いていて、代わって救出に向かったのは母さんだ」



 突然の衝撃的な発言に、ヒロトはテーブルの上に乗っかる勢いで前を向いて、声を大きくした。



「ちょっ、こいつは!?」

「ナオトは3歳まで本部で育ったからね。タモン様や闇影隊も近くにいるから身に危険が及ぶ事はなかった。でも、あいつはまたやって来た。2人が8歳の頃だ。国内に侵入する前に阻止されたが、二度あることは三度ある」



 その三度目がフードの男の出現なのではないか。そこで父さんはしばらく沈黙した。その間に、俺は幼い頃の記憶を思い起こしていた。


 ご存じの通り、俺たち兄弟は呪われた双子だって噂されている。原因は、母さんや爺ちゃんが消えたからではない。これは後づけであって、本当の理由は俺が生誕したことにある。


 驚くなかれ。出産時、母さんのお腹の中にはヒロトしかいなかった。それなのに、ヒロトの後に続いて俺が誕生した。噂によると、病んだ母さんは国を出て行き、爺ちゃんも後を追うようにして出て行ったらしい。


 そりゃ病むに決まっている。


 まあ、それはさておき。


 本部で育ったことは薄らと覚えている。迎えに来てくれた父さんが涙目だったことも、家に帰ると、爺ちゃんの後ろに隠れながら様子を伺うヒロトがいたことも、なんとなく。


 だけど、そこに母さんの姿はなかった。それどころか、写真や衣類といった、母さんを知る全ての手掛かりが家には存在していなかった。唯一知っているのは、爺ちゃんが教えてくれた髪色のことだけだ。


 あれは確か、双子なのにどうして髪色が違うのかを聞いたときだった。爺ちゃんは言った。「ヒロトの髪は、お母さんの遺伝だ」、と。


 それくらい俺は母親を知らない。しかし、それもこの瞬間までだ。父さんの口から母さんの話が聞けたことによって、ついに真実を知れる日がきた。



「母さんは、俺のせいで家を出たんじゃねえの?」

「そんなわけないだろう」

「じゃあ、なんで消えたんだよ」

「それは父さんにもわからない。母さんはヒロトを正門に置いたまま戻っては来なかった。だけど、置いた姿を見た人はいない。あれだけ監視がいて、門番もいるのに、母さんは煙のように消えてしまった」



 北闇の居住区に入るには、まず巨大な門、〝正門〟を通過しなければならない。門は正門と裏門があり、居住区を囲うようにして四本一組の巨木で壁を築いている。三種の侵入を防ぐための大切な防壁だ。


 巨木の上は人が歩けるよう通路がある。そこに立っているのは大勢の監視員達だ。これにより360度を警戒し見渡せるわけだが、なぜだか母さんの姿を見た者は誰一人としていなかったそうだ。


 父さんは軟らかい目色でそう説明した。しかし、声は頼りなく震えているように感じた。まるで、渦巻きの中に心を浸しているかのようだ。


 俺はというと、ずっと胸の奥でしこりのように固まっていた罪悪感が消えていくのを感じていた。ヒロトから母さんを奪ったのが自分ではないとわかったからだ。


 父さんは「次は身体能力について話そうか」と、母さんの話を終わらせた。俺としてはもっと聞きたかったのだが、話しが逸れてしまうので口を閉ざす。



「2人はまだ無意識に能力を使っているから気づいていないかもしれないけど、自己暗示をかけることができるんだ。もっと速く、もっと遠くへ。そう強く思えば思うほど足は軽くなる。この力は混血者にもある。だけど、父さんは人間だ。混血者よりも体への負担は大きく、燃えたように熱くなった体のせいで死にかけた事もある」



 暗示をかけられるのは自分にのみで、他の人には全く効果がないと父さんは続け、さらに言葉を紡いだ。



「それと、父さんたちには言霊と呼ばれる能力がある。自己暗示で身体の一部にエネルギーを集めた後に必要となる、いわば呪文のようなものだ。発動させるには強い念が必要で、しかし、時に最悪な結果を招く事もある」



 そこで、ヒロトが父さんの話しに割って入った。



「ちょっと待てよ、親父。話しが大きすぎてすぐに理解するのは無理だ。それって今話さなきゃいけねぇことなのか?」

「もうお前たちは一般市民ではなく闇影隊の一員なんだ。2人には少しずつでいいから理解してもらわなきゃならない。それに、言霊は自己暗示よりも重要なことだ」



 いつもよりも低い声でいて、父さんが目を細くする。



「例えば、人の死をイメージしてはいけない。言霊は使い方を間違えると簡単に人を殺してしまう。相手に対して少しでも哀れみや同情といった感情があれば別だが、もし仮に本気で死んでほしいと願ったとき……。相手は悲惨な死を迎えることになる。これは、〝絶対〟だ」



 言い終えるのと同時に、それが簡単なことではないと思い知る。なにせ、噂のせいで幼い頃から憎しみばかりを抱いてきたのだ。殺意など簡単に抱くことができてしまうし、何よりも俺の手はすでに血で染まっている。言霊ってやつじゃなくても、身体能力や自己暗示とやらですでに実証済みだ。


 今までは自分が生きるためだと思って好き放題にやってきた。でも、父さんの言い方は力をコントロールしろって意味で説明している。



「それって難しいんじゃ……」

「どれだけ難しいことでも自由に使いこなせるようにならなきゃいけないんだ。仮に、ただのデコピンに言霊を与えるとしよう。指先にエネルギーを集中させて、技を発動させる。単純な動作だが、放たれた力の差を決めるのは感情だ。それに込められた念がどれほどかによって、相手が受けるダメージは大きく異なる」

「もしも、殺意があったら?」

「相手の頭は吹っ飛ぶ。そうならないために、父さんはこれから2人に言霊の使い方を教える」



 恐ろしい光景が頭に浮かび、盗み見ていた視線がヒロトに集中する。


 ヒロトは喧嘩っ早く、口も悪い。この年齢で不良だと認知されるほどだ。そんなヒロトが言霊を習得したらどうなるのだろうか。いや、考えるのはよそう……。


 余計な不安を抱く俺を他所に、ヒロトは疑問を口にした。



「そういえば、俺たちの能力は混血者に劣らない……って先生が言ってたけど、あれってどういう意味だったんだろうな。だってよ、あいつらは半獣化しない限り俺に勝てねぇわけじゃん?」



 確かにそうだ。彼らは、半獣化・半妖化しないかぎりは人だ。だからヒロトは首席で卒業できている。


 少しの間を置いて父さんが答える。どうやら、これこそが最も重要な点のようだ。



「さっきも言ったけど、白雪家と混血者は似た力を持っている。そして、先生が言ったのは、身体能力のことではなく言霊のことだ。混血者は己の特技を生かして、言霊で力を与える。これは父さんがやっている方法となんら変わりない。ただ、彼らは半獣化、あるいは半妖化しないと言霊を使うことができない」

「……つまり、俺たちも病気ってことなのか?」



 ヒロトの声は静かに居間へ吐き出された。出の悪い水道水のようにして答えが俺の喉を通ってくる。



「俺たちも、じゃない。正しくは、俺たちのほうが、だ……」



 理由はただ一つ、混血者ではないからだ。この現実に心が異様な感情に蝕まれた。輪郭のない黒い靄が広がり、次いでフードの男が頭に浮かぶ。


 力が欲しい――。



「父さん、俺、やるよ」



 自然と出てきた言葉だった。家族を除けば、訓練校に通い始めてから俺は一度だって誰かに負けたことはない。恵まれたこの能力のおかげで周囲は距離が置いてくれたからだ。たまに物好きがいたけど、初めて人を殺した〝あの日から〟なにも恐れなくなった。


 だけど、あのフードの男――。



「場合によっては大怪我をするぞ?」

「それでもいい。やらなきゃいけないんだ」



 久しぶりに敗北を味わった。そして現実を見た。このままだと俺はユズを失ってしまう気がするんだ。


 父さんの目を真っ直ぐに見た。その横で、「やってらんねえ……」とぼやきながら部屋を後にするヒロト。止めなかった。むしろ、これでいいと思った。



「ヒロトには後で話しておく。ナオト、これが最後の話しだ」



 しっかりと父さんに向いた。



「白雪家に生まれた子どもは、父さんを含めてこの薄紫色の瞳を持っている。とは言っても一家の歴史は浅く、お爺ちゃんと父さんと、お前たち2人の4人だけだ。父さんは任務で何度も国外に出向いているけど、同じ瞳の色をした人に出会ったことはない。おそらく、これは白雪家だけの体質だろう。その事で、父さんが小さい頃にお爺ちゃんからよく言われていた言葉がある」



 それは、〝薄紫色の瞳を持つ者は必ず命を狙われる〟とのことであった。これは母さんも知っていて、結婚したその時からよく聞かされていたらしい。


 実際にヒロトは誘拐された。数年前に奴はまた現れ、そして今回のフードの男。爺ちゃんの言葉は現実のものとなりつつある。

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